ユマケン's take

ユマケン's take

デビュー作オンリー作家による政治・文化エッセイ。マスコミの盲点を突き、批判を中心にしながらも
世の再構築をインスパイアする健全なメディア空間を目指している。どなたも引用はご自由に、どうぞお立ち寄りを。

 デビュー作だけの小説家ながら、僕はここで国際政治中心のスケールの大きなエッセイに励んできた。気づけば10年余り、投稿数は250を超える。

 僕は書き手の地位に関わらず人に学びを与えたり、事の真相を突いたりする言葉があることを信じている。そしてネット上にはメディアから独立した個の立場でリアルかつ大胆な批判や意見を出す場も必要だ。

 だが、ここは金もうけのためにマスコミとの差別化自体を目的にしたSNS・ブログ文化に親しむ人が集まる場ではない。時間がある限り、僕はここで健全なもう一つのメディア空間を作り続けていたい


 

 スマホを見ただけなのに一人「えっ‼」と大声を上げて街の人ごみを少々ざわつかせた事があなたにはあるだろうか?それは11月6日の午後4時半、CNNの選挙速報を見てのこと。

 そのとき私はトランプが2024年の大統領選で、勝利ラインとなる選挙人270まで残りわずか5~6人に迫っていることを知った。

 そんなバカな、一体どうなってるんだ。CNNウェブでは、そんな私の疑問に答えるように7つの激戦州すべてでトランプが優勢に立つ図表が次々とポップアップされていった。



 私は死刑宣告を受ける前の被告人のような気分になった。

 

 死刑はほぼ確定。あとはいつ決まるかだ。それはとても長い時間だった。おそらく世界中の多くの人も、ほぼトラから確トラまでの5時間ほどの間に、現実から逃げ出したくなるような気分になっただろう。

 私は選挙前にここで、カマラ・ハリスが圧勝すると堂々と書いた。独り言のようなブログ記事には、こういう時に恥をかかず、からかいリプももらわなくて済むという大きな利点がある。

 一体、何が起こったのか…。数日がたち、私の予測を大きく狂わせた要因が見えてきた。

 

 

 

 

1:大統領選の争点から民主主義を排除したトランプの脅迫戦術

 

 私は前回の大統領選レビューでアメリカの有権者の最大イシューは民主主義の保護であるとして、最後にはカマラ・ハリスが選ばれると予測した。

 しかし実際はプーチンや習近平とほぼ同類の独裁者が選ばれることになった。日本のTV解説者や専門家の多くは、今回の大統領選では物価高が有権者の一番の関心ごとになったと口にした。私もその点は認める。

 

 しかしアメリカの有権者の多くが理想を捨ててまで、生活の改善を望んだとは思わない。彼らがトランプ時代において民主主義の保護を第一に求めていることは、2年前の中間選挙における民主党の想定外の勝利で大きく示された。

 ではなぜ今回、民主党は横暴な独裁者を前に完敗したのか。

 

 それは民主主義の保護という理想が最初から失われた選挙だったからだ。つまりハリスとトランプ、どちらが勝っても民主主義は危機的な状況に陥るということだ。


 2021年の1月6日、議会襲撃事件以来、トランプ信者はどんどん過激化した。トランプ自身は2024年の大統領選で負けた場合に敗北を認めるかどうかについて明確な答えを避けた。そうすることで信者に対して臨戦態勢を取らせ、他の有権者には自身に入れるように脅迫したのだ。

 ハリスが勝てば内戦、トランプが勝てば独裁体制の強化。どちらにしても民主主義は地に落ちる。むしろ短期的には、トランプを勝たせておけば信者たちはハッピーで、とりあえず内戦のリスクは消える。特に無党派層にはそう思ってトランプに投票した人は少なくないだろう。



 アメリカのような民主主義大国でも暴力で政治を覆そうとする動きが本格化すると、民主主義自体が選挙の争点から消し去られてしまう。私にはこの点が見えていなかった。

 

 

 

 

2:バイデン政権『倫理資本主義』の敗北

 ハリスとトランプのどちらが勝っても国内が危機的な状況になるため、民主主義の保護が選挙の争点から外れた。そこで本来は2番目だった物価高が有権者の最大の関心ごととして繰り上がったのだ。

 アメリカではこの4年間でも格差や貧困が解消されなかったため、トランプが有利な選挙土壌ができあがった。ただしその原因はバイデンの失政だけではせなく、トランプ指揮下の共和党の妨害によるものでもある。

 

バイデン最大の過ちはオバマと同じく

格差解消を主軸にした抜本的な経済改革を怠った事にある。

 

しかも2人とも大胆な改革案が通しやすい異常事態での

政権発足だったにも関わらず、できなかったのだ。

 

 

 バイデンはパンデミックの最中、中間層の復活と公平な経済成長を掲げて政権をスタートさせた。貧困層にも目を配り、『アメリカ救済政策』の下で1人1万ドルと言われる史上最大の給付金を支給し、失業手当の拡充を実現させた。

しかしそれらは一時的な救済策であり、BI(ベーシックインカム)のような格差解消への制度設計には至っていない。

 

 バイデンはマクロ経済を重視し、1兆ドル規模の『インフラ投資法案』などによりGDPや雇用を回復させた。つまり根本的には、公平さよりも成長を大きく優先した経済政策だった。

  一方で、共和党もその動きに同調する。バイデン政権が出した大企業や富裕層への大型増税や低所得者への支援をふくむ『ビルト・バック・ベター』法案は、民主党議員の造反もあり共和党議員による反対で否決された。この経緯について詳しくは、CNNウェブ


 続くウクライナ戦争で物価高に襲われ、さらにバイデン政権はウクライナ支持を貫くことで物価高をより悪化させる。インフレ抑制法で最小限に抑えたが、貧困や格差が拡大。バイデンは選挙戦から降りたが、副大統領のハリスが引き継ぐことで、政権の負の遺産は受け継がれた。

 こうしてトランプが経済政策を大きな強みにできる選挙土壌が作られたのだ。

 バイデン政権の経済失政は、近年、哲学者のマルクス・ガブリエルが提唱する『倫理資本主義』の敗北をも明示する。

 

成長神話にとりつかれた資本主義と国家の元では

いくら倫理を働かせても不公平は解消されないのだ。

 

 CNNはトランプが選ばれたのではなく、国民が民主党の経済政策にNOを突きつけた大統領選だったと分析している。まさにその通りだ。


 

 

 

3:トランプが呼び起こすビッグブラザーの悪夢

 

 トランプの栄華をもたらした最たる原因は、格差と貧困に対して最重要政策として取り組まなかったオバマとバイデンの大失政にある。

 

 

 2人は合わせて12年間もアメリカの大統領職を任され

両方とも大恐慌とパンデミックという

経済を大きく変えられる千載一遇のチャンス

に政権を発足させた。

 

それでも格差と貧困を長期的に生み出さない

経済の構造改革ができなかったのだ。

これがトランプの栄華の土壌となった。

 

 

 オバマにはその意思さえなく、バイデンは取り組もうとしたがマクロ経済の復興を優先したため十分にはできなかった。2人とも経済の成長神話にとりつかれた古いタイプの政治家だったというワケだ。

 

 2024年の大統領選での民主党の完敗はハリスのせいではない。ガラスの天井も予備選を勝ち抜いてないことも準備期間が短かったことも関係ない。オバマとバイデンの12年の貧困置き去り失敗にほとんどの原因があるのだ。

 

 

 選挙後、そのオバマはXに以下のような声明文を投稿した。全文はこちら
 

 民主主義の世界では、自分の考えがいつも通るわけではないという認識の下、平和的な権力移譲を認めなくてはならない。

 合衆国憲法の原則や民主主義の規範が守られる限り、(トランプ政権下でも)さまざまな問題は解決するだろう。深く対立する人にも誠実さと品位を持って接しよう。

 オバマは自身も認めるようハワイアンならではの楽観主義を備えている。

 声明文で示された、彼の寛容な道徳観は、最低限の敬意を他者に与えられる人に対してのみ当てはまる。トランプとその信者とその権力に群がる者たちは、欲望に突き動かされ自分の価値観を人に押し付けることに執着する。

 

 

 そこには敬意も共感もなく、ただ力による支配があるだけだ。

 戦争が必要悪になるのは、いつも世の権力構造の中心にこういう狂人がいるためだ。

 

 

トランプ政権下ではますます貧困と格差が広がるだろう。

 

 大胆な規制緩和により中小企業や低所得者が搾取されやすくなる一方、富裕層や大企業は大型減税の恩恵を受ける。2016年のトランプ第一次政権時のこうした経済政策は、イーロン・マスクの元でより強力に進められるはずだ。

 それでも多くのトランプ信者たちは自分たちの首を絞める大統領を選んだことに気づかない。何らかのフェイクニュースや陰謀論を信じて、自らの不遇をまたリベラル政治家のせいにするだろう。

 

トランプは司法に介入して合衆国憲法を無力化し

自身の暴走の歯止めをなくすことにも力を注ぐだろう。

 

 大統領になったことで彼は自身にかけられた数々の起訴を取り下げさせることに成功した。次に1月6日の連邦議会への襲撃犯たちに恩赦を与え釈放させるだろう。

 司法への越権行為はこうした大統領特権に留まらない。大統領選の結果を覆そうとしたときや自身への検察の捜査を妨害しようとしたときのように司法省や行政府に圧力をかけるだろう。そうやって民主主義の根幹を壊し、権威主義にどんどん近づいた末に、何が待っているのか。



最悪のケースでは、今、日本で公開されている映画

『シビル・ウォー』のような内戦が起こるだろう。

 

 

 カルト宗教化したトランプの共和党はずっと継承されてゆくことが考えられる。それは民主主義の元で克服できるものではない。もはや力で叩くしかないというのが現実だ。その民主的革命が失敗すれば、小説『1984』のビッグブラザー国家のような悪夢が待っているだろう。

 

 

 

 

4:資本=ネーション=国家という悪夢のサイクルを閉ざす脱成長

 

 哲学者・柄谷行人は『資本_ネーション_国家』という堂々巡りの世界観を提唱する。

 

 資本主義の暴走で格差が拡大し、人々の国家への怒りが頂点に達した時、独裁者がナショナリズムを掲げる。分断が戦争を呼び、国家が復活。そして戦後復興のためにまた資本主義が立ち上がるのだ。歴史はまた、この回路の終局を迎えようとしているのだろうか。

 

 

私はこうなった最大の転換点を

2009年にオバマ政権が行った

金融業界への大規模な救済策に見る。

 

 

 パンデミック時のバイデンと同じくオバマも大恐慌という国家的な異常事態の際に政権を発足させたにも関わらず、抜本的な経済改革を怠ったのだ。引いてはこれが格差拡大を招き、トランプというバケモノを生み出す最も大きな要因になった。

 

 回想録『約束の地』の中、オバマは金融業界への大規模救済について正しかったかどうかは分からないと自戒をこめて書いている。有能な経済評論家が、金融資本主義のシステムを抜本的に変革する千載一隅のチャンスだったと指摘したことについて、彼も半ばそれを認めている。



当時は大恐慌であるばかりか、民主党は大胆な政策が通しやすい大統領・上下両院の3つを抑えたトリプルブルーの絶頂期だった。


 回想録でオバマは、大胆な改革をすればリーマンショック後にアメリカにあふれた困窮者たちをさらに苦しめることになると書いている。金融業界を救済しなければ、多くのアメリカ国民が1930年代のような惨状に陥るのだ。

 オバマはそうした弁解の元、自らが改革者ではなく保守だと認めている。彼は短期的なスパンではアメリカ国民を窮地から救った。

 

 しかし長い目で見れば格差拡大をもたらす資本主義を復活させ、5年、10年後に困窮者を先送りして貧困を長期化させたのだ。

『約束の地』は紙の本でもKindleでも千ページを超える大著だが、格差是正については27章の中で1つもメインテーマにはなっていなく、まとまった考えも書かれていない。オバマもまた、経済成長神話を信じる、保守の1人だったのだ。

 

 

 

 

 私は経済の『脱成長』を支持する1人で、それが根本的には政治による制度改革でしか果たせないものだと考えている。しかしアメリカと世界は、大恐慌、パンデミックという改革のための千載一隅のチャンスをつぶしてしまった。

 次なるチャンスは戦争になるのだろうか。その先にまた資本が復活するのかどうかはまだ誰にも分からない。■

 


 

 

2024年のアメリカ大統領選挙が、アメリカの東部で約1時間後に投票日を迎える。日本ではマスコミも政治家たちも”ほぼトラ”で固まっている。最近では”確トラ”さえいるようだ。勝利を決める激戦州7州の世論調査でリードするトランプが、選挙戦を優位に進めている。

 

 

だが、私は”ほぼカマ”である。

 

 

 ほぼおカマのカミングアウトではなく、ほぼカマラ・ハリスという意味だ。勝率は9割で、勝利宣言は早ければ投票日の翌日深夜にできるだろうと予測している。

 多くの人は気づいていないが、トランプはすでにゾンビ化している。4年前の大統領選に続き2年前の中間選挙でも敗れ、すでに死んでいる。その間、共和党がトランプを祭るカルト宗教になってしまったため、ゾンビでも代表として立てざるを得なくなっただけだ。

 私が”ほぼカマ”だと主張する最大の理由は、アメリカが究極的には民主主義の保護を選択すると思うからだ。

 それは切なる願いでもある。しかし、トランプが共和党の先頭に立って旗を振りながら敗れた2年前の中間選挙でもそれは実証された。事前の世論調査に反し、彼らは生活苦より独裁を恐れ民主主義の保護に票を入れたのだ。今回もそれと同じ大筋を描くことが予想される。

 

 

 

 

1:カギは民主主義を守る『隠れカマラ』だ

 

  

 私はカマラ・ハリスが前回バイデンの得た選挙人を上回る310以上、つまり100以上の大差をつけてトランプに勝利すると見ている。ちなみに過半数以上の勝利ラインは270だ。

 投票日前の数週間の世論調査では、ハリスとトランプの全米支持率は1%以内の差で拮抗、直近の7つの激戦州では僅差で2つがハリス、5つがトランプという内訳だ。

 数字だけ見るとカマラが不利のようだが、この接戦状況を深読みすればトランプこそが劣勢だと分かる。

 

 2016年の大統領選におけるトランプ最大の勝因は、トランプ支持者であることを公言しない『隠れトランプ』が数多くいたことにある。

 事前の世論調査には表れないパーセンテージがトランプ票に加わり、ヒラリーと僅差の接戦だった数多くの重要州でトランプが次々と勝利を収めることになった。

 だが、今回は違う。この8年でトランプはアメリカ全土にすっかり根を張り、今や民主党派のリベラル層でもトランプ支持に変えたことを公言できるようになっている。

 

 つまり、今回の世論調査に見るトランプ支持率は上限である。おまけに今回、トランプ陣営は期日前投票を熱心に呼びかけているので、なお投票日における隠れトランプの積み増しが少なくなるだろう。



私は今回の大統領選では、逆に『隠れカマラ』票が勝負を決めると見ている。投票日にそれが加わることで、ペンシルベニアなど僅差の重要州の多くで、ハリスが勝利を収めるだろう。

 隠れカマラの一部は民主党派の中でもサンダース議員を支持するような真正リベラル、生粋の左派だ。彼らの多くは、ハリスもオバマやバイデンのように資本主義のアクセルを踏み続ける中道左派の一味だと知り、選挙戦に興味を示さない。

 しかし、投票日が近づくと、じょじょにトランプによる民主主義破壊のリスクを直視するようになる。そうしてギリギリのタイミングでマシな候補であるハリスにしぶしぶ入れるのだ。

 

 

 

 

2:接戦になるほど無党派層はハリスに向かう

 

 

 隠れカマラには、投票先を決めていない無党派層も数多くふくまれる。彼らの多くは選挙情勢が拮抗するほど、トランプではなくハリスに投票するようになる。



 それは彼らの多くが民主主義への忠誠を持ち、そして2016年のトランプ勝利が、低投票率にあることを知っているからだ。

 

 

 2016年は55%の低投票率だったが2020年には62%に上がり、バイデンが完勝することになった。この投票率UPをもたらしたのが、危機感を持った無党派層である。2016年はリベラル同様、彼らもトランプが勝つはずがないと思い込み、投票行動を起こさなかったのだ。

 

 

 2021年のJanuary 6 United States Capitol attack(アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件)が意味することは、無党派層の多くも分かっている。

 トランプが再選されれば、アメリカはロシアや中国のような権威主義国家になり、憲法も法律も書き換えられて独裁者の暴政への歯止めが失われる。

 

 そうなればアメリカは確実に2つの国に引き裂かれ、世界情勢も混沌とするだろう。

 

 無党派層の多くも、そういったリスクがアイマイにでも分かっている。さらに最終盤に来ても両候補が接戦になっている事で、彼らはますます投票に行こうとする。2016年の失敗を繰り返さない思いが出てくるのだ。

 

 私はむしろ一か月前のようにハリスがトランプを大きくリードしている状況にならなかったことを嬉しく思っている。仮にそうなっていれば、リベラルや無党派層など、消極的な民主党支持者の多くは、おそらくその重い腰を上げなかっただろう。

 

 

 

3:生活よりも守るべき民主主義

 

 今回の大統領選挙の最大イシューは、物価高と中絶だ。物価高ではトランプが優勢で、人工妊娠中絶ではハリスが優勢に立つ。今回の有権者の最優先事項が民主主義の保護だという観点に立てば、ここでもハリスが優位にある。


 ハリスが候補使命を受けてからトランプの猛追を許したのは、物価高による生活苦の責任を負う政府のNO2の地位にあるからだ。トランプに投票先を変えた民主党派の多くは、民主党に物価高の原因はないにしても、それを放置した責任は大いにあると考えている。

 有効な物価高対策を講じなかった民主党の失敗は明らかで、アメリカ国民の多くがハリスでは今後も物価高は続くと悲観するのも当然だ。経済政策の上で、トランプはかなり優位にある。


私は今どれほど物価高がアメリカ国民の多くを苦しめているのかを十分に理解している。それは許しがたいレベルだ。

 

だが、私はそれでも彼らにとって今回の大統領選の最重要イシューは人工妊娠中絶だと考える。それはそこにアメリカの根源的な価値観である民主主義が潜んでいるからだ。


 中絶問題の本質にあるのは個人主義と神秘主義の対立で、女性の体が自分のものか、神のものかという認識の違いがある。人権を軸に民主主義を広げたアメリカでは、個人主義による中絶容認が優勢になるのが当然の流れだ。

そのため宗教右派はこの本質で中絶論議することを避け、胎児も人間だという命の拡大解釈をして殺人に論点をずらしている。

 

 TBSの報道特集は大統領選前に彼らの取材を行っていて、そこで中絶クリニックの前にいた活動家の1人は訪れる患者に見せるために胎児の人形を持参していた。

 別の1人は、レイプによる妊娠でも中絶を禁じる事について、レイプの罪を胎児に負わせてはならないと主張し、レイプ犯と胎児を都合よく分離。さらに中絶した女性は精神病になる事が多いというエビデンスの不確かな持論で世の女性を脅迫していた。



中絶を巡る論争は、アメリカの根源的な価値観を試すテストである。自分の身体は自分のものだという認識は、人生を自分の手でコントロールするという個人・民主主義に深く繋がっている。

 

 トランプは最高裁判事の人選で中絶を違憲とすることに尽力し、中絶反対の宗教右派の声に何も言わない事でそれを容認している。彼はこの点でアメリカの根本的な価値観をふみにじっていて、それが結局は今回の選挙戦でも致命傷になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本で”ほぼトラ”や”確トラ”などの言葉が流行るのは、トランプの大統領再選がアメリカと世界の未来においていかに破滅的なものかを理解している人が少ないからだ。

 

 

 彼が再選されれば、人類の滅亡に向かうスピードは一気に加速するだろう。アメリカではそれをアイマイにでも理解する人が多く、彼らは投票日に目覚めるのである。

 

 アメリカは人権を軸にした民主主義国家としてナルシズムに染まる独裁者の誕生を阻止すべくギリギリのタイミングではあるが、正気を取り戻すだろう。

 

 思えば、先の日本の衆院総選挙でも、日本の多くの有権者は同様の判断をした。彼らの多くは物価高対策よりも裏金で腐敗した自民党への処罰を重視して投票した。根本的にそれは民主主義が日本に深く根付いていることを示している。

 

 その民主主義を与えてくれたアメリカの国政選挙で、独裁者復活の危機に直面しながら同じことが起こらないとは考えにくい。だからこそ、私は『ほぼカマ』なのである。■

 



 

  2024年・第50回『総選挙』は投票に表れた民意を裏切る結果になりそうだ。自公連立政権が過半数を割りながら、野党2党との連合で政権運営できる見通しが立ってきたからだ。

 一方で、少数政党による政策が通りやすくなるため、ようやく日本が国会論戦で回るより民主的な政治に近づいたと歓迎する風潮も出てきた。

 

 元維新代表の橋下徹などは、「神の見えざる手」が絶妙に議席を配分したとして今回の選挙結果をほめたたえている。

 だが、果たしてそうだろうか。

 多様な意見が政策に反映される国会とは、何より国民の政治への信頼がベースになっている。そして多様性を尊重しない独善的な多数派政党がいれば、国会論戦は停滞する。

 

 裏金に代表される数々の問題で腐敗した自民党を中心にした少数与党政権が、この真に開かれた国会を実現できるとはとても思えない。

 

 投票結果に表れた主な民意は、自民党への処罰であり下野への要求である。各種世論調査でも自公以外の政権運営を望む層が多数派だった。そして今回の総選挙における国民の一番の関心ごとは裏金問題だった。

 与党側と連合する野党2党は共に選挙時には裏金を徹底追求しながら、終わった後は政策本位を建前にして自民党の延命に手を貸している。これは国民への明らかな裏切りである。

 だが自民党がギリギリもちこたえられるのは長くても数か月のことだろう。そもそも自民党衰退の流れは40年以上前から始まっていて、今ようやく破局のときを迎えているのだ。

 

 

 

1:最低投票率でも自民党に勝てるという貴重な成功体験

 


 

 

 まずは先週の私自身の総選挙予測について書くと、”与野党が拮抗する結果”という根本的な点では当たったが、以下の大きな3点で外している。

 

・立憲民主党が第一党・中道左派連立による政権交代・60%以上の投票率

 

 一方で、国民・れいわの躍進、公明・維新の凋落といった点では予想議席数も伴って大体当たっている。まぁ70点の予測だったと言えるだろう。

 私の予測を狂わせた最大のファクターは、今回もノンポリ層の多さだった。つまり政治不信や無関心や有権者としての無力感に囚われた人たちの事。私は物価高による生活苦が投票率をアップさせると見ていたが、実際は53%台の戦後3番目に低い投票率だった。

 だがこれは普段、自民党に入れていた層が欠けた結果でもある。有権者の25%ほどの自民・岩盤支持層のうち10%ほどは投票放棄したことが考えられる。そのため56%だった前回総選挙から見ると45%ほどに落ちるという計算になる。


 だが今回53%だったので、普段投票に行かない有権者の8%が投票したという見方もできる。そう考えれば悪くもないが生活苦に裏金腐敗も重なっての選挙だけにもっと上がるべきだった。


 最近の日本のノンポリ層には政治的リテラシーが備わってきたように思える。政治がいかに自分の生活や人生に深くかかわっているのかを、具体的な政策に結びつけて充分に理解している人が多くなってきたのではないか。

 

 政治家なんて全員ダメ、政治には期待できないという従来の淡いニヒリストはノンポリの少数派になってきていると思える。彼らの多くは絶望のフリをしているだけで、実際は政治について知ろうとさえしていない。あるのは物知り顔でいたいという虚栄心だけだ。

 

 

 ではなぜ現代のノンポリ層の多くが選挙に行かないかと言えば、勝てないと勝手に思い込んで敵前逃亡しているからだ。

 

 実際この12年、自民党が国政選挙を圧倒的に支配してきた。しかし、それは後にも書くが強引な反則技によることで正当な結果ではない。そもそも投票率が60%を越えれば、今回のような野党乱立状態でも、自民一強に勝てるのだ。


 私が投票率を見誤ったのは、充分に勝てるという自信を持ったノンポリ層がまだ日本に浸透していないことがよく分かっていなかったからだ。



 ただ今回、最低ラインの投票率でも自民党に勝てるという成功体験を国民の中で広く共有することができた。

 

 

 そのため次の国政選挙では、勝てないと思い込んでいたノンポリ層を巻き込んで、投票率UPが期待できる。今後、減税や給付金など国民生活を助ける政策が国会で通るようになれば、政治と生活の結びつきが強まり、さらなる投票率UPにつながるだろう。

 

 

 

 

2:経済より自公撤退を望んだ民意への裏切り

 

 私の予測を狂わせた2つ目のファクターは、野党2党による民意への裏切りだ。

 

 総選挙後、国民民主党と日本維新の会は共に、政策本位の是々非々路線を貫き、与野党との連立を拒否。政策次第では、自民党への協力さえ打ち出した。

 この2党は元々そこがベースにある。しかし選挙前は共に自民党の裏金問題に対して世論をバックに猛烈な批判を浴びせてきた。国民側から見れば、これは自公政権に対する決別であり、少なくともこの問題が解消されるまでは野党側につくだろうという印象を与えるものだった。



それにも関わらず2党は選挙後も是々非々路線を継続し、国民民主党においては自公政権との部分連合まで容認した。それは自公政権を終わらせるため同党に投票した民意を大きく裏切るものだ。

 

 

 国民の玉木党首は首相指名投票では、党員に玉木と書かせる方針だが、実質的にそれは自民の石破へのサポートだ。両党共に有権者の多くは、第一に党の実績や経済政策を評価して投票したと主張する。

 

 

 だが今回の総選挙での国民の一番の関心ごとは経済ではなく、裏金問題だった。つまり、自公政権を終わらせたい反自民の受け皿になったことが、今回の両党の獲得議席の核心にある。

 

 私自身も小選挙区で国民民主党の候補に投票したが、それは立憲の候補が不在であり、かつ玉木が選挙前に裏金問題で石破自民を徹底的に糾弾していたからだ。


 玉木が公約に掲げた”手取りが多くなる政策”に期待して国民に投票した人も多いだろう。しかし投票後の世論調査では裏金が有権者の最大の関心ごとになった。

 

 国民民主党への投票者でも、自分の収入や生活よりも信頼できる政治の実現を重視した人が多くを占めたことが考えられる。

 

 国民・維新両党の自公政権への部分連合は政策を通す目的だったとしても、政治倫理を重視する崇高な民意を裏切るものである。

 

 

 

 

3:独裁をサポートする倫理なき政策政治

 

 

 そもそも国民・維新の掲げる『政策本位の政治』とは、基本的に民主的な政治体制の中でしか真価を発揮しない。一強独裁政党がいる中では、むしろその延命や復活に力を貸す危険な路線になるのだ。


 自民党のような独裁型の強権政党は政策ごとに歩み寄るものではなく、打倒すべきものである。
 

 明治維新以降、日本は立憲君主制から軍部に政権を乗っ取られて軍事独裁に。安全保障と天皇万歳を戦争の大義名分にして民意を得ながら、帝国主義に走ってアジアで侵略戦争を開始した。

 敗戦後は自民党が資本主義、つまり経済成長という甘い蜜を隠れみのにして軍事独裁の延命政権になった。それが55年体制である。形は変えながらそれは天皇制と共に存続。アメリカ共和党の敵対外交もあいまって日本の周辺国家が先鋭化し、そして今、新たな戦前に突入したのだ。


 今こういう歴史観を示すと、危険な左翼思想のレッテルを貼られたり、個人的な意見として切り捨てられたりすることが多い。とにかく排除されるのだ。

 

 しかし昭和の言論の世界では、こういった意見が極めて合理的な歴史解釈だった。

 歴史探偵とも呼ばれた半藤一利の名著『昭和史』では、多くの歴史的な事実や証言を元にした昭和政治への徹底的な糾弾がみごとに展開されている。

 

 政治的リベラルは基本的に合理主義に基づき多くの人が納得できる歴史観を示す。一方、保守派は何らかの思想・イデオロギーに囚われ、事実を捻じ曲げた歴史修正主義に走る。そして彼らは思想やエゴに偏った自身の汚点をリベラルに転嫁して、ごまかしている。

 

 

 自民党は本質的に帝国主義を軸にした隠れ軍事政党であり、隠れ自民党である国民民主党と日本維新の会は二重に隠蔽された軍事大国のサポーターと言える。

 

 

 実際、国民の玉木党首や維新の会を作った橋下徹は、共に外交的に戦争を軸にした強硬派であり、それは戦前の軍事政権とも重なる。



 両党が立憲民主党に近づかないのは政策の違いがあるからではない。力による支配を軸にした軍国主義と外交交渉を軸にした平和主義という国家観の根本的な違いがあるからだと考えらえる。

 

 両党共に政策本位と言いながら、本質的には帝国主義的イデオロギーに染まっている。これは経済成長のアメを国民に与えながら軍国化を続ける自民党の長い歴史とも重なる。



 一強独裁を相手にそのサポーターである少数政党が是々非々で国民受けする政策を通してゆけば、過激なポピュリズムが生まれる。

 

 それは民主体制の中で活発な議論がある状況とはまるで違う。国民も維新も倫理を無視して、政策本位を掲げながら自民党に協力していけば、多様な意見に開かれた国会からはどんどん遠ざかってゆくだけだ。

 

 

 

4:破局が迫る自民党、戦争が覆す劣勢

 

 戦後、数十年単位の長いスパンで見れば自民党は衰退し続けていて、今後もその大きな流れは変わらない。

 

総選挙での自民党過半数割れは40年以上前から何度も起きている。

 

 田中角栄のロッキード事件の余波から70~80年代には3度ありながら、いずれも僅差だったため連立で政権を維持。93年には自民党が過半数割れの上に野党連立政権の樹立を許し、55年体制以降、初めて野党に落ちた。



小泉・安倍の20年で自民党が復活したように見えるが、それも政教癒着と選挙不正と官邸圧力のたまもの。これらの反則技で強引に作った民意なきハリボテ政権に過ぎない。

 

 法的な優遇策や権力による庇護で宗教票を獲得し、さらに創価学会の公明党と組むことで過半数割れを阻止。政治資金規正法の抜け穴を通った裏金で莫大な選挙資金を作り国政選挙を支配。

 

 官僚人事を握って政権の腐敗を覆い隠し、教育からは政治、文化マスコミからは政権批判を排除して国民から政治リテラシーや投票意欲を奪う。

 40年前から衰退を始めた自民党は、こういった横暴な反則技で貪欲に政権にかじりついてきた。しかし、こういった手の内が明らかになった今ではそのカードは使えず、今回の総選挙での敗北にもつながった。


 自民党の直近の今後も極めて危うい。裏金問題が明白に解決しない限り支持率は上がらず、少数与党としての求心力も高まらないため政権運営もできないからだ。

 政策ごとに国民・維新と部分連合を組んでも、第一に裏金の決着がなければ結びつきは弱まる。核心には企業団体献金の廃止と第三者機関による裏金の徹底した再調査がある。しかし裏金で20年の繁栄を築いた自民党が、この点で大きく譲るはずがない。

 企業団体献金に賛成する国民の玉木は、ごまかしの政治資金改革を国会で通す可能性がある。しかし、もしそうすれば完全なる『自公国』連立政権になり、国民民主党への支持率は急落するだろう。

 

 そこで玉木はようやく野党の内閣不信任案には賛成し、石破内閣は退陣し立民中心の野党連合による野田内閣になる可能性が出てくる。

 

 または私が前回予想したよう近いう『やり直し選挙』になって自民党はさらに議席を減らす。いずれの場合も自民党はさらに追い込まれる。


そうなれば第三者委員会による政治腐敗の徹底的再調査が始まる。

 

裏金だけではなく安倍政権が遺した膨大な負の遺産、モリカケサクラ・統一教会などにも及ぶだろう。国民抜きで閣議決定された安倍安保などの違憲法案も国会を経て覆される可能性も出てくる。

 

 

 この大逆転の流れが本格化すれば自民党衰退のスピードは一気に加速するだろう。何にしても40年前から始まった自民党衰退はここにきてようやく破局を迎えている。

 

 

 ただし周辺国と日本との戦争がなければの話ではある。戦争が始まれば、すべては自民党に有利に働く。そのために自民党はこの長い衰退の間にいつでも戦争ができるように水面下でちゃくちゃくと準備をしてきた。

 

 来週、アメリカ大統領選でトランプが選ばれれば台湾有事の危機が高まり、日本の参戦も現実味を帯びてくる。とりあえずは、それだけは起こらないよう願いたい。■