いつの間にか平和憲法を失った日本の行方~岸田首相・暗殺未遂が示す政治と国民の暴挙の連鎖 | ユマケン's take

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  2023年4月15日、岸田首相への暗殺未遂事件が起こった。

 

 これは第一に、自民党による”民主主義への暴挙”が国民の間にも根付いてきたことを表している。


 衆院補選という選挙期間中の首相に対する暗殺未遂は、多くの国会議員も語るよう民主主義の根幹を揺るがす暴挙だ。しかし、先に暴挙を働いたのは自民党である。そしてそれは、暗殺とは対照的に目に見えない形で行われたのだ。

 去年12月、岸田首相は安保3文書により憲法9条を憲法改正も国会審議さえ経ずに、閣議決定だけで実質的に無効化した。

 

 戦後日本を形作った平和憲法を国民の見えない所で秘密裏に葬り去ったのだ。

 

 70年以上、国民と政治家が守り続けた日本国憲法の核心部を独裁的手法で消し去ることは、間違いなく一首相への暗殺未遂よりも民主主義の根幹を揺るがす暴挙である。

民主主義への暴挙を政治が続けていると国民にもその悪が根付く。

 

 犯人の動機がどうあれ、今回の事件と去年の安倍首相暗殺事件は、政治と国民の間で交わされた民主主義への暴挙という名の球を用いた絶望的なキャッチボールと言えるだろう。

 安倍長期政権が土台となり、国民に見えない形で日本は平和国家から軍事専制国家に落ちぶれようとしている。今後日本がどうなってゆくのか、アメリカの動向を交えながら考えたい。



 

1:いつの間にか消えた憲法9条





 日本の平和憲法は、岸田政権の元、2022年12月の安保3文書・国家安全保障戦略改定により実質的に葬られた。政府の違法行為を監視する内閣法制局の元長官・阪田雅裕はこの改定を受け

 

「憲法9条は死んだ」と断言した。

 しかもその決定はおそらくは自民党の幹部以外は誰も知らない場所で行われ、その作成メンバーが誰なのかも明らかにされていない。そんな分厚いベールの奥で、日本の核心部である平和憲法が葬られたのだ。

 これを専制と呼ばずして何と呼ぶのだろう。岸田を始め自民党の面々は憲法9条を犯していないと言うが、ただ表面的に条文として残っているだけで平和憲法の中身は完全に失われたのだ。

 最近の朝日新聞のインタビューで阪田雅裕は、憲法9条の2つの柱が失われたことに言及した。

 

 1つ目の柱・他国での武力行使の禁止は2015年の安倍安保法案で倒され、2つ目の柱・他国から攻撃されない限り応戦しないという専守防衛は、敵基地攻撃能力を認めた2022年の安保3文書で倒されることとなった。

 

 これは日本が軍事専制国家のレールを進みだしたことを意味する。

 

 憲法の核心部でさえ時の1政党の決定だけで消されるのだから政府を縛るルールはないのも同然。この先、軍事政権になり完全に戦前回帰することも可能で、国民全員がまた戦争に巻き込まれる事態にもなりうる。

 日本が軍事政権、そんなバカなと思う人は戦前の歴史を知らないだけだ。自民党はこの10年以上、国政選挙で国民から選ばれた党であり、民主国家のルールに則ってきたとの主張も空しい。歴史上最悪の政権と言えるナチスにしても、同様に民主国家の選挙で選ばれた政党だった。

何より選挙は民主主義の1プロセスに過ぎず、常に民主主義の核心にあるものは立憲主義である。

 

 政府与党が新たな法律を作る際は、憲法に従い、国民の目となる国会での審議を経なければならない。だが、安倍政権が土台を作って以来、自民党は閣議決定という名の専制的手法でずっと立法し続けてきたのだ。





2:ナチスの手口を使った安倍・岸田政権

 



 自民党の重鎮・麻生太郎はかつて「ナチスの手口に学べ」と言ったが、安倍・岸田の両政権はまさにナチスの手法で憲法9条を葬ったと言える。

 

 ヒトラー率いるナチスは既存のドイツ・ワイマール憲法を改憲せず、より簡単にできる悪質な新法を次々に出すことで憲法を葬り、ドイツで一党独裁体制を築いた。

 このナチスの手口はトロイの木馬と言える。憲法を守る姿勢を見せ「あなたの味方ですよ」と国民の中に入り込んだ後、ウイルスをまき散らして国の中身を壊してゆくというやり方だ。

 安倍・岸田両政権もまたトロイの木馬・ナチスの手口を使った。「平和憲法とは矛盾しない」と言ってその味方のふりをしながら内部に潜り込み、安倍安保法案や安保3文書といった悪質な新法・ウイルスを使って実質的に憲法9条を壊したのだ。



 安倍元首相は「戦後レジームからの脱却」と勇ましく言いながら、実質的には憲法9条に対して憲法改正という正攻法ではなく、ナチスの卑怯な手口を使ったのだ。


 これは憲法改正には国民投票が必要であり、そのための民意が得られないと分かっていての判断だ。つまり民主主義の元では成しえないので反則技を出したという事。これは民主主義への完全なる冒涜だ。




3:トロイの木馬と重なる偽装解釈の反論



 一般的には、安倍・岸田両政権は憲法への拡大解釈によって憲法9条を無効化したと言われる。しかしそれは解釈や曲解ですらない。

 

 

憲法解釈のフリ、憲法を尊重するフリをした反論、敵対論であり、安倍の安保法案も岸田の安保3文書も明らかに平和憲法を壊す内容になっている。まさにトロイの木馬だ。

 

 平和憲法にある他国での戦争禁止に対し、安倍安保は日本の危機の際に同盟国と共に他国で戦争ができることを約束する「存立危機事態」を認めた。

 

 平和憲法にある専守防衛に対し、岸田の安保3文書は敵国をミサイル攻撃できる「敵基地攻撃能力」を認めた。これらは明らかに憲法9条を壊すものだ。

 分かりやすい例で言えば、盗みを禁じる窃盗罪がある。これに対して、自分の生活が脅かされるときに限って盗みが許される「生活危機事態」を認める。または悪事を働いた人にだけ盗みが許される「悪人攻撃能力」を認める。

 

 こうなれば最初の窃盗罪は完全に消え去ってしまう。なぜならこれらの法解釈のフリをした反論・敵対論はほぼ無制限の状況を許してしまうからだ。

 

「存立危機事態」であれば、1930年代から40年代の日本の侵略戦争も正当化される。朝鮮半島に侵攻したのはソ連を排除するためであり、東南アジア侵攻はエネルギー確保のためになる。いずれも日本の国家存立にかかわる危機回避のためだ。

「敵基地攻撃能力」は、日本への攻撃の兆候があるだけで敵国の領土を攻撃することを認めている。であれば攻撃情報を捏造するだけで、いつでもどこにでもミサイルで先制攻撃ができることになる。

 安倍・岸田両政権のトロイの木馬によって今、日本の平和憲法は葬られ、ただの紙切れになってしまった。そして自民党はすでになくなった9条をあるかのように見せかけ、未だに国民をあざむき続けているのだ。





4:日本にウクライナ役を望むアメリカ



 日本がこの先どのような国になるのかは、アメリカが日本に何を望むのかにかかってくる。

 

 2023年のタイム誌は『世界で最も影響力のある100人』に岸田首相を選んだ。記事では中国やロシアの脅威を念頭に防衛費を50%増やし、外交的な革命を起こしたと称えている。

 まさにここにアメリカが根本的に日本に対して何を望んでいるのかが出ている。アメリカは敵対関係にある中国や北朝鮮に対して、日本を使って弱体化させることを狙っているのだ。

 

 

 それはまさに今、アメリカ主導でウクライナがロシア相手にやらされている役回りと同じものだ。


 台湾有事や朝鮮戦争が起これば、アメリカにはほぼ無害で中国や北朝鮮を叩けるチャンスがやって来る。自国以外の領土で米兵を使わずにこうした危険な独裁国家に大ダメージを与えられるからだ。その戦場は台湾や朝鮮半島に加え、日本も入れればより大打撃を与えられるだろう。

 バイデン大統領は台湾有事が起これば米兵を派兵すると言うが、ウクライナ情勢を見れば核保有国に対してアメリカが極めて慎重な戦術をとることが分かる。

 

 

 ロシア同様、中国や北朝鮮も積極的な軍事介入によって本気で怒らせれば、アメリカ国内に核ミサイルが落ちる可能性もある。


 そのため日米同盟を結んだ日本が中国から攻められても、アメリカは米兵を送るような積極的な参戦は避けるだろう。有事の際、日本・台湾に対して、ウクライナと同じ物理的な後方支援に回る可能性が高い。だからこそ、タイム誌も軍国化を図る岸田首相にエールを送るのである。

 

 



5:非戦という世界平和の鍵

 



 

 日本がこの先、軍事大国になれば日本や東アジアの平和は保たれるのだろうか。事態は当然、逆である。軍拡競争が起これば、その地域は確実に戦争に近づいてゆくのが歴史の常だ。

ロシアのウクライナ侵攻の第一要因はウクライナがNATOという一大軍事同盟に加わろうとしたことにある。2008年のロシアのジョージア侵攻にしても当時のアメリカ・ブッシュ大統領がジョージアをNATOに率いれようとしたことが最大の要因となった。

 軍事大国はライバル国が大きな武器を持とうとすれば、強くなる前に叩こうとする。日本がこの先、軍備増強してゆけば中国や北朝鮮も増強し、東アジアは極度の緊張状態に陥るだろう。



世界平和をもたらす方法はいつもただ1つ。

非戦、武器を捨てることだ。

 

 

 プーチンを止める方法も簡単。ウクライナがNATO加盟の意思を放棄し、NATOがロシアの周辺地域からミサイル基地を総撤去すれば、ロシアは軍を引くだろう。上手く交渉すればウクライナの占領地域も返還するかもしれない。

 ロシアに罰を与えねば後に続く国が出てくるという反論は無意味だ。ロシアはすでに戦争でとてつもない損失を被っており、一体だれが後に続きたいと思うのだろう。ウクライナはロシアより多くのものを失っているが、戦争が長期化するほど喪失は増すばかりだ。


 中国や北朝鮮の軍事的な脅威も同様。アメリカが台湾や韓国や日本から米軍を総撤収すれば、中国や北朝鮮もまたほぼ確実に軍備縮小に向かうだろう。



 ナイーブな平和主義だと笑う人にこそ現実が見えていない。戦争が始まるキッカケは常に軍拡競争だと言う歴史のリアルを知っていれば、平和を築くのは軍拡競争からの離脱、武器の放棄であることは明白である。

 平和憲法のある日本は東アジアの地域で、まさにそれを実践することのできる唯一の大国だった。しかし現状はその理想から遠ざかるばかりだ。

 

 今、日本はかつてナチスが成し遂げたように、多くの国民が知らない間に最も大切な憲法が葬られ、まったく別の国になろうとしている。自民党が選挙で勝ちづづける限り、日本が軍事専制国家のレールから外れることはないだろう。■