『ピンポン』 パク・ミンギュ 斎藤真理子訳
白水社エクスリブリス 2017年初版
卓球小説?
2004年の暑い夏、ラジオから流れてきた「パーハップス・ラヴ」を聞き(著者あとがき「近くの卓球場に行ってごらん」)、目の前に落ちてきたピンポン玉(訳者あとがき)を拾ったパク・ミンギュは、20世紀を生き延びた中学生として、21世紀にこの物語を書きました。
主人公はふたりの中学生、「モアイ」と語り手の「釘」。ふたりはセットでいじめられていて、「モアイ」はその風貌から、「釘」は殴られている様子からついた綽名です。
目次(各章ごとに段落を下げている)
ピン:原っぱのど真ん中に卓球台があった。その横には古ぼけたソファー。
僕とモアイはソファーに座り込んで、ずっと向こうで動く巨大なクレーン
を見る。ふたりの日常は何かと難癖をつけられて殴られること。
モアイに初めてかけられた言葉が「卓球、する?」だった。
ポン:いじめているのは5人。それを知っていても何もしない級友たち。
ま、誰かはおごってやったってわけだよな:
モアイと僕は「卓球人」セクラテンに出会う。
皆さん、うまくやってますか?:
ふたりをいじめていたチスの失踪。ピンポンをしながら、ようやくふたり
は話はじめる。
奥さんを借りてもいいかな?:
釘はモアイの家を訪ねる。モアイの奇妙な習慣。
ハレー彗星を待ち望む人々の会。
1738345792629921 対 1738345792629920:
失踪しても釘をパシリに使うチスだが、その態度は微妙に変化する。
世界は初めから今まで、いつもジュースポイント。
セレブレイションを歌うクール・アンド・ザ・ギャングみたいに:
夏休み、セクラテンに教えられ、卓球が上達するふたり。
良くも悪くも:
ラッキーとはどういうことか。
九ボルト:
ハレー彗星を待つ人々。9ボルトの乾電池を舐める会員
シルバースプリングのピンポンマン:
モアイが話してくれた小説の主人公がピンポンマン。宇宙の空白。
インディアンサマー、高い台、空っぽの球:
秋、原っぱの向こうの工事は終わった。モアイの引っ越し。
ハレー彗星のようにあらわれた巨大なピンポン玉。
ご苦労様です、いやいや、どうも:
ピンポン玉の衝突。卓球界ではじまる人類の存亡を賭けた試合。
せんきゅ、せんきゅ:
人類界の偉大な人物から代表を選ぶ。
昼の話は鳥が聞き、夜の話はネズミが聞く:
人類の代表はラインホルト・メスナー(登山家)とマルコムX
も一度ピン、も一度ポン:
試合結果は?人類はインストールか、それとも・・・
カモン、セレブレイション!:
あとがき 近くの卓球場に行ってごらん:
力のない人々が痛めつけられ爆撃にさらされているのに、何事も無い
無事なわが身という状態は、昔から今まで続いてきた。だから、人類は
生存したのではなく、その意味も分からず残存してきただけ。
とあとがきで述べていますが、
扉には《安心して。安心してもいいんだよ。》と記しています。
訳者あとがき
これは簡潔に面白さを伝えようとしても要約しにくい小説です。著者あとがきを全文引用したら少しはわかっていただけるかもしれません。私はとても面白く読みました。『亡き王女のためのパヴァーヌ』で語り口になれたので、語り手が誰かとか、カギ括弧が使われず、しかも饒舌であることなども気になりませんでした。中学生の男の子の口調のせいか『ライ麦畑でつかまえて』(野口孝訳、白水社)のホールデン少年が浮かんできます。
若き日のプラシド・ドミンゴとジョン・デンバーの歌声
1980~’81年の大ヒット曲