フーテンの横チン -284ページ目

同じ奇跡は二度と起こらない


2014・1・10~愛媛・松山市~
 後悔した。突然の寒波襲来。雪には縁遠いと思っていた瀬戸内の平地でも、朝から雪化粧となった。家を出る間際になって、空から白いものが降り始めた。カメラを持って、自転車で出発。通勤路の途中にある南堀端に入ると、前がほとんど見えなくなるほどに強くなってきた。チンチン電車と絡めた写真を撮ろうかな…。でも、いまバッグから取り出したら、濡れてしまいそう…。どうしようかな…。会社に遅れそうだし、どうしようかな…。しばらく迷って「昼休みに撮りに行こう」と決めた。
 午前9時前。会社の窓越しに景色を眺めた。民家の屋根も真っ白になっていた。目の前で走る伊予鉄の高浜-横河原線が通過しようとしていたので、念のために1枚押さえた。時間が経つにつれて、雲の切れ目から青空がチラホラ。午前10時を過ぎると、雪はすっかり止み、太陽が顔を出してしまった。昼休みの時間には、雪化粧はすっかりなくなり、ただ路面が濡れているだけの景色しか見られなかった…。
 「撮ろうと思った時に撮らないとダメだ。同じ絵は二度と撮れないんだからな」。ある人生の先輩からもらった言葉だ。写真に興味を持ち始め、一眼レフカメラを触るようになり、仕事でもシャッターを押すようになった。だからこそ、先輩の言葉の意味は身に染みて分かっているはずだった。それなのに、時に「あとで撮ろう」とその場を離れ、結果的に撮り逃し、後悔したことが何度もあった。そのたびにガックリきているはずなのに、時間が経つにつれて忘れてしまい、また同じように繰り返してしまう始末。この日の朝、またやらかしてしまった…。
 同じ自然現象は絶対に起きない。空に浮かぶ雲に同じ形のものはない。海を眺めていても、同じ場所に船がずっと停留しているわけではない。自分が思うところに、小鳥が着陸することはない。だからこそ、目の前にある「奇跡」は絶対に見逃してはいけない。反省の一日だった。

新しい時間を告げる朝陽


2014・1・9~愛媛・松山市~
 帯のような厚い雲の上から、目がクラクラするような、まん丸い太陽がゆっくりと顔をのぞかせる。まだ暗かった空が次第にオレンジ色に染まっていく。新しい一日の始まりを教えてくれる瞬間だ。日々、繰り返される当たり前のような光景。幸せだと思わないと、きっとバチが当たる。
 2014年になって初めてじっくりと見た朝陽だった。空を見るのが好きだ。変幻自在に形を変える雲を描くカンバスのような青空、真っ赤に空を染める美しい夕空、キラキラと輝く星を散りばめた夜空…。首が痛くなるまで眺めたことは何度あることだろうか。それなのに、朝陽は寝床から起き上がり、寝ぼけ眼で見つめる程度…。初日の出というものも、元日から観に行ったのは人生で数えるほどしかない。
 朝が弱くて、ぐうたらな自分だが、干しっぱなしだった洗濯物を取り込むために、寒いのを我慢して窓を開けた。冷気に体は震え、一気に目が覚めた。同時に、まぶしい光を体中で浴びた。水平線に沈む夕陽はロマンティックだが、朝陽は汚れ切った心を浄化してくれるような不思議なパワーがある。明けない夜はない。世界中が涙に暮れるようなつらい出来事があっても必ず、太陽は上る。後ろ向きな人生はイヤだ。前だけを見つめて歩いていこう。朝陽を見つめながら、そんなことを思った。

ケーキという名の悪魔


2014・1・8~愛媛・松山市~
 悪魔のささやきが聞こえた。会社帰りにスーパーに入ると、遠くから女性の声が…。「横チン、甘~いものがあるよ~。ほしくないか~い?ほしいだろ?こっちにおいで~」。いやいや、そんな声が聞こえるはずがない。「ケーキだよ~。おいしいよ~」。幻覚か?耳がおかしくなったのか??気がついたら、ショーウインドーをのぞいていた。ゴクッ…。イチゴのショートケーキ、ガトーショコラ、ロールケーキ…。魔の名前がズラリと並んでいる。「モンブランください」。あっ、買ってもうた…。
 実は「断ケーキ」を続行中だった。極端な辛いもん好きであると同時に、極端に甘いもの好きというヘンな味覚の持ち主。自分勝手な考えなのだが、チョコレートやまんじゅうとケーキは別物と区別し、チョコやタルトなどは食べていた。しかし「ケーキは太る」と半年間、食べていなかった。コンビニで生クリームたっぷりのケーキを発見しても、テレビ番組でスイーツ特集をやっていても「我慢、我慢…」と感情を押し殺していたのだ。
 しかし…。数日前、ある女の子がSNSでアップしていたケーキの写真を寝る直前に見てしまったことが原因となり「食べる」「食べない」の感情がボーダーラインを行き来していた。禁断症状?の一歩手前。そんな時、あの「悪魔のささやき」だ。「Wクリームモンブラン」。大のモンブラン好きにとって、こんなに自分を苦しめるネーミングはない…。
 自炊をするのが面倒だったので、弁当を食べた後、すぐにケーキへ直行。「甘いものは別腹」とはよく言ったものである。渋皮栗と黄栗の2種類のクリーム、中央には渋皮栗がトッピング。最高です!あっという間に食べてしまった。そんなに甘くはなかったが、久しぶりのケーキは特別な蜜の味がした。