石坂洋次郎。土俗的な勁い女性たち | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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水野美紀

 

石坂洋次郎『つくられた真実』の登場人物たち。女学校では結構人気があった英語教師の〝私〟は、宿直明けの朝、めざめると足元に家庭科の女教師が昏睡状態でうずくまっている。服毒自殺を図ったらしい。遺書には恋愛関係にあった〝私〟に裏切られとあり、日記には交際の日々の出来事が綿密に書かれていた。ただ、事実に反し〝私〟は彼女と付き合ったことすらない。

 

『死への演技』粕谷の許婚者みさこは堅く操を守って最後の一線は越えさせてくれない。それならばと、粕谷は冗談半分に悪役に変装してみさこを脅かすつもりが手篭めにしてしまう。なりゆきで「バラされたくなければ」関係を続けるが、みさこにはとうにその男が粕屋の変装と気がついていて。

 

石坂洋次郎:わが愛と命の記録(1960)講談社

 

性に目覚める以前の少年少女時代の〝私〟は、川でリキ子と泳いだり遊びまわっていたが、ある日「男相手にする商売」しか知らなかった80歳の老婆と知りあって… その後、37、38年ぶりに偶然であったふたりは当時の出来事を検証する。かように〝私〟を翻弄する土俗的ともいえるほど勁くたくましい女性たちが次々に登場する。

 

とはいっても、LGBTQを標榜する時代になって、時代はすでに「石坂洋次郎的な女性」は消化しきったかに思われる。しかし、戦前から「原始的・土俗的な勁い女性」を描きだしてきた先見は評価されるべきだろう。

 

土鍋の底