村越三千男の内外植物原色大図鑑 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

 村越三千男:内外植物原色大図鑑(1933)

 

現行の植物図鑑となると牧野富太郎の図鑑ということになるのだがろうが、戦前はその牧野には村越三千男という強力なライバルがいた。掲載の「内外植物原色大図鑑」は全13巻、わが国最初の本格的な(オフセット印刷による)カラー図鑑で、評判もよく私の手元にあるのは1年後に再版されたものである。

 

それほど支持されたにもかかわらず現在忘れ去られてしまったのには理由があるのだが、興味のある方は「牧野植物図鑑の謎(1999)平凡社新書」をご覧いただきたい。牧野博士は処世が巧みだったこともあり、おそらく実像よりも巨人化されて現代に伝えられた。その余波で多くの図鑑が歴史の谷に埋没してしまったのは残念である。

 

 

村越図鑑については、上記本を読んで以来気になっていたのだがなかなか巡り会えず、この度1〜4巻、1冊500円という破格値で手に入れた。発行者は(誠文堂新光社の)小川菊松ながら、図鑑の発行元は「植物原色大図鑑刊行会」になっている。大きな出版事業なところから共同事業だったのだろう。図版製版技師に橋本敏夫、印刷所は東京大手の中屋三間印刷㈱である。

 

普段私はカラー版ではないが「寺崎日本植物図譜」を愛用している。これは寺崎留吉がひとりで、しかも実際に生えている植物を描いたもので畢生の労作である。増補版は弟子筋の人たちによって寺崎博士のタッチに似せて描いている。図鑑には先人たちの血と汗が沁みている。

 

 公園(2006)

 公園(2006)