川口松太郎の蛇姫様と岩田専太郎 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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蛇姫様04
蛇姫様03
 川口松太郎:蛇姫様(1970)立風書房

野洲(宇都宮)烏山の秋草茶屋の主人が、国家老佐伯左衛門の酒乱の息子に斬られ、親代わりで育てられた甥の千太郎が剣を習っていたこともあって、町人ながら堂々立ち会って仇を討ってしまうのだが、これが元となって藩のお家騒動に巻き込まれていく。千太郎の妹〝おすが〟は城主の姫に助命嘆願を願って腰元として仕えるが、こちらも悪家老の手によって斬られてしまう。しかし、琴姫を慕うおすがは(死してなお)蛇身に身を変えて姫の危難を助ける。

一方、千太郎は国元を逃れ追手を振り切りながら旅役者の一座に紛れ込み、座長やお鳥に助けれ旅役者として一本立ちをする。しかし、やがて叔父や妹の死を知るとふたたび仇を討たんと烏山へ。帰京した千太郎は騙されて妹が仕えた琴姫を仇と狙うのだったが、やがて美しい姫に惹かれ真実も知らされると、ふたりは手をたずさえて悪家老に立ち向かう。という(今となっては)絵に描いたような大衆娯楽小説で肩が凝らなさすぎて、かえって凝ってしまうような作品。

「蛇姫様」は昭和14年10月~翌7月へかけて東京日日新聞に連載された。川口松太郎の刎頸の友岩田専太郎の挿絵と相まって評判がよく、昭和15年に長谷川一夫、山田五十鈴(お鳥)、入江たか子(琴姫)らによって映画化されている。立風書房版の装幀画口絵は(木村荘八ばりの)三井永一。

蛇姫様02
蛇姫様01
 岩田専太郎の挿絵

連載当時切抜かれた(全230回分すべての)挿絵の張込み帳が手元にあって「蛇姫様」安価本が手に入ったのを期に、挿絵と対照しながら楽しく読んだ。現代では岩田専太郎のセンスは劇画的で、案外時代遅れに見えたりするが、陳腐に見えるほどに時代を風靡したともいえる。あまりにメジャーになりすぎたツケのようなものだろう。個人的には最初期の出世作「鳴門秘帖」が一番好きで、以降は徐々に好みから外れるのだが、この頃の岩田には凄みがある。よって、個人的な好みとは別に一段の評価をしている。
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