新聞小説 「ひこばえ」 (13) 重松 清 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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新聞小説 「ひこばえ」 (13)  3/15(278)~4/8(302)
作:重松 清  画:川上 和生

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感想
主に、後藤さんと息子の将也さんとの関係が語られる。
破綻した証券会社は「山一証券」の事だろう。社長そのものが聞かされたのが3ケ月前だったというのだから、社員が知る由もない。
しかし、父親がちょっとがんばったぐらいで、そんなに子供の成績が上がるもんか(笑)   まあその辺はおいといて・・・・

 

後藤さんが、なぜ社長室長預かりになっているかの理由は判った。
しかし夫婦はしょせんは赤の他人なんて、日常の生活をほとんど依存していた相手に対する思いがそれだとしたら、本当に救いがない。
ゴミ屋敷にしたあげくホームに押し込められても、あまり同情心は湧かないな・・・・

 

あらすじ

第十二章 父親失格  1~25
週が明けた。後藤さんの息子、将也さんからの電話はなかった。
いつもはこういった案件を事務的にこなすのに、今回はちょっと違いますね、と本多君。大手町案件だからと言葉を濁す洋一郎は、今週いっぱいは待つと言い残して施設の巡回に出掛けた。

 

入居者の行う各サークル活動を見て回るうちに、真知子さんの事を思い出して気分が重くなる。彼女は、父と最後の交友があった小雪さんに入れ込んでいた。サイテーのダメ親父だった父を小雪さんがなぜ見

限らなかったかを見極めたい。
それに立会いたいから早く小雪さんに会ってくれという。

一方航太は、和泉台文庫から、父が読んでいた松尾あつゆきの「原爆句集」を借りて読み、涙を流していた。


感激屋の航太。父の遺品はまだあのアパートにあり、家賃を払っているうちは川端さんが管理してくれるだろうが、いつかは処分しなくてはならない。だが航太に渡すのも考えもの。

 

施設の図書館で、池波正太郎の「剣客商売」シリーズを手に取る。父が数冊持っていた。年老いた剣客秋山小兵衛とその息子大治郎を取り巻く連続モノ。この親子を自分に当て嵌めて憧れていたのか、と思うといたたまれない。
そんな時に後藤さんが声をかけて来た。
洋一郎が持っている本でいっとき時代モノの礼賛をする後藤さん。


ここがチャンスと、息子さんの事を聞くが、迷惑かけない様早く死ななくてはいけないんだけど、と呟く後藤さん。

どういうお父さんでしたか?と洋一郎に聞いた後、後藤さんは「私は父親失格でしたよ」
かつて証券マンだった後藤さん。経営破綻で廃業した有名な証券会社。当時後藤さんは四十九歳、一人息子の将也さんは東大の三年。
将也さんは仲間と一緒にインターネット関連のベンチャー企業を立ち上げ、成功の端緒をつかんでいた。

 

高卒だった後藤さんは、「趣味は息子」と言うほど入れ込みスパルタ教育で息子を厳しくしつけ、塾の送迎も自ら行った。

 

難関の中高一貫校に受かり、その後将也さんは努力を続け、ついに東大に合格した。だが中学に入った頃から、息子の目が冷たくなったという。見切りを付けられた。
会社がつぶれた時も、将也君は冷静だったという。

起業の道が軌道に乗り始めた息子と、失業した父。
外資系の保険会社に就職した後藤さんだが、一家の主人という矜持も消え、酒に溺れる生活。


会社でも酒を飲むようになって、結局六十前で退職に追い込まれた。
それから働くことがなかった後藤さん。将也さんの収入で生活に不便はない。だが妻には家族カードが将也さんから与えられていたが、後藤さんにはなかった。

 

そんなある日、スーパーでやった万引きで捕まった。初めてではなく、何度かやって味をしめていた。
その時も、以前盗んだのも乾電池。デコボコの感触が良かったという。
家の電話番号を聞かれた時、妻ではなく将也さんの携帯番号を言ってしまった。


「身元引受人」の言葉に、浮かんだ名前が将也さん。
「夫婦って、他人でしょう?」の言葉に閉口する洋一郎。
だが来たのは社長室長。今まで将也さん本人の番号だと思い込んでいた後藤さん。万引きの件は顧問弁護士が解決。

それ以後は愛想をつかされて家庭内別居の様な状態となり、食事は別に作られて顔を合わせる事もなくなった。
妻は前以上に庭の花の手入れに精を出し、また外に出る用事を作った。そんな生活が続いた後、妻が心不全で他界した。
それから始まったゴミ屋敷の惨状。
「あの乾電池の重みは何だったんでしょうね」と自分の手を見つめる後藤さん。