闘病1年3ヶ月目 <抗がん剤治療11クール目>
2日前のこと。
朝訪問入浴があって、夫はそれ以降16時くらいまでずーっと寝ていた。
起こそうかなと思ったけど、気持ちよさそうに寝てるので、
オムツ替えやお昼の胃ろうの時の声かけ以外は静かにしていた。
寝息を立てている時もあれば、
声をかけるとうなずくので、ただ目をつむってじっとしているような時も。
1年前介護を始めたばかりの頃は、寝ている夫をかわいそうと思っていた。
今まであんなに色々活動的で充実した毎日だったのに。
急に寝たきりになってかわいそう、気の毒、暇じゃないのかな?
なんとかしてあげたいと心を痛めていた。
でも、今は少し感じ方が違う。
起きていると、自分の置かれている状況がわからなくて混乱したり、
自分が発する言葉に対して変な返答が返ってきたりして嫌だろう。
意図しないことをされたり、起きているだけで疲れるし、
身体も思うように動かないので辛いだろう。
でも目をつむっていると、余計な情報は入らないし、
それまでと同じように脳の中で日常を送れる。
自分の世界で思ったように生きれる。
夫は目をつむっているけど、手を動かしたり、何かを食べる仕草をすることがある。
「何を食べているの?」と聞くと「生ハム」と答えることもあった。
いいもん食べてるじゃんっ!!
「最近、歩くようにしてる」と突然言ったこともある。
メタボを気にしてる夫は、頭の中で歩いてるのだろう。
夫らしい。
「マジかよっ うわっ。明日出勤だわ」
「今日は飲み会だー もともと決まってた」
「ちなみにゴルフにくる人何人ー?」
など言ってる様子を見ると、病気になる前と同じような生活をしているのかもしれない。
夫は寝たきりになって以来、大半は目をつむっていたが
寝ているように見えて、自分の世界で色々な経験をしながら日常を送っているのだ。
目をつむっている方が自分らしく生きれるのかも。
こっちの世で発生する人間関係や仕事のストレスもそこまで感じることなく、
案外楽しく。
決して無駄な時間を過ごしているわけではない。
かわいそうじゃない。
むしろ人生のボーナスステージなんじゃないか。
そして、いつか死ぬ時が来たら、
そっちの世界に、すーっと吸い込まれるように、
気づかないうちに逝ってしまうんだろうな、と思う。
そうなってほしい。苦痛なく、心残りなく、
死ぬ瞬間は、そっちの世界とこっちの世界が混ざり合って、
「自分はもう死んでしまうんだ」と絶望することなく。
脳が錯覚を起こして、きっとそうしてくれるに違いない。
ただ、そっちの世界に私たちはいない
それだけが悲しい。
夫の異世界語録
「(娘を指差して)ミートボール部!」
(娘、びっくり
食いしん坊がたくさんいそうな部だね
)
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重度認知症の夫が発する言葉は、いつも謎解き。それを私は「夫の異世界語」と心の中で呼んで、和ませてもらっています夫の一言一言が愛おしく大切です。
いつか夫がいなくなって、涙が止まらなくなった時、これを見て笑顔になるきっかけにしようと思っています。