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ヘッジファンドの調べ方11/1/2

<問題意識>


ヘッジファンドは金融市場をかく乱する要因になるという見方から、注目度が高いのだが、では、実際にどんな動きをしているのかを知るにはどうしたら良いか?


<情報の発端となった記事>


20101221日の日経の「ヘッジファンド残高回復・・・11月末残高137兆円経済の好転期待背景」という記事は、こうした関心に応えようというものである。



この手の記事でまずもって確認しなければならないのは、情報ソースである。いうまでもなく、ヘッジファンドについての公式統計というものは、存在しない。従って、民間で情報収集しているところがあれば、有力な情報源となる。



記事本文の冒頭には、「シンガポールの調査会社ユーリカヘッジが集計した」と情報源を明らかにしているので、事態は簡単である。検索すれば、この会社のホームページに行きあたる。

http://www.eurekahedge.com/



これによると、ヘッジファンドの定期的なレポート、資金フロー、パフォーマンスについて報告していることが判明。ただ、このレポートを読むためには、会費を払って購読者にならなければならない。ここで、一応、情報のトレースは終わってしまう。


日経はこの調査会社の情報サブスクライバーになっているものと思われる。


<日本での調査状況>


では、日本でヘッジファンドに関する他の情報源はないかというと、そうでもなく、経済産業省、金融庁などが過去に調査を実施している。


紹介しておくと、

経済産業省のホームページより「国内外で存在感高めるヘッジファンドの実態調査報告書」平成204月発表。これは、「ヘッジファンド研究会」の研究・調査結果報告である。

http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004464/report01.html


また、金融庁のホームページでみると、

200512月に「ヘッジファンド調査の概要とヘッジファンドの問題点」を発表した後に、20063月に追加調査の結果を発表している。

http://www.fsa.go.jp/inter/etc/20070315.html


<ヘッジファンド規制に関する報告書>


もともと、ヘッジファンドの動きを金融当局が規制しようというところからも、実態解明の動きはあったので、これに関するレポートも多い。一番手軽に、レポートの全体像を見るには、東洋経済が提供している「経済情報」にある。

http://www3.keizaireport.com/feature/750.html  


以上

「経済指標の見方・読み方」書評

「初心者のための経済指標の見方・読み方」 塚崎公義著 東洋経済新報社

2010年10月刊  本体価格1500円


「初心者のための」とタイトルにあるが、実は中級者程度のレベルの内容である。また、上級者レベルの人からは、「そんなに手の内をあかさないでよ」と苦情が来るかもしれない。もちろん初心者が、丁寧に読み進め、経済情報を解釈するのに、その都度本書を参照するという使い方が理想であろう。


この手の経済指標の読み方を解説する本には、類書が相当あるが、記述のユニークさと包括性という観点からトップクラスといってよいだろう。


特に、ユニークなのが、第5章の「景気をみる際、何に注意すべきだろう」だ。「景気を語る人々」という節では、エコノミストとマーケット・エコノミストの違いと、どちらの方の言うことを聞くべきかなどについて述べているが、なかなか意味慎重で面白い。


景気予測の最後は「勘」とある(P115)が、まさにその通りだと思う。金融マーケット関係者や経済を実践的な立場から勉強を始めた学生など、幅広く読まれるべき本だと感じた。


ということで、評価は☆5つ。






米国の金融政策のあり方2010年12月3日朝日新聞経済気象台

金融政策をめぐる議論の読み方    2010/12/31記


「あとはよろしく」 柴犬氏寄稿  朝日新聞「経済気象台」2010/12/3


匿名の寄稿(朝日新聞の社外筆者)だが、

金融政策の目的についての論点について面白い点を突いている。


金融論の教科書によると、金融政策の目的のところで日本は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を、


米国は「雇用の最大化、物価の安定、穏やかな(moderate)な長期金利」を、法律で規定している。これは、1978年に制定された「完全雇用・均衡成長法(通称:ハンフリー・ホーキンス法)」によって、最大雇用も政策目標に加えられている。


柴犬氏は、米国議会では、FRBに雇用の最大化を法律で義務付けているが故に、無理な金融緩和政策に走っているのではないかという認識が共和党を中心にあるという。従って、法律では「物価の安定」に専念させる方が、今後の大インフレやバブルを心配しなくていいと考えているのだろう。


柴犬氏は、翻って「日本の国会では正反対のことが起こりつつある。日銀の目的に物価だけでなく雇用の安定も加えようという動きだ」と指摘し、「『うまいことやってくれ』と二兎を追わせれば、米国の轍を踏む」と警告している。


コラムのタイトルの「あとはよろしく」というのは、政治家が安易に中央銀行に最大雇用という政策責任をおしつけることを警戒しているように読める。柴犬氏は、おそらく日銀サポーターだと推測されるが・・・それは本質的な問題ではない。


私は米国議会の最近の動きを把握していないが、それはともかくこの議論は、


①日銀の独立性の問題に  さらには  ②金融政策におけるインフレ・ターゲット政策導入という論点につながる。


自民党の中川氏は、日銀批判の先鋒だが、例えば、下記で「中央銀行の目的に『雇用の最大化』がある国とない国の物語」と題して詳しく自説を展開している。

http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10484803899.html



また、みずほ総研の小野亮氏が下記で、金融政策の目的におけるデュアル・マンデート問題を詳しくレポートしているので必読だ。

http://www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/pdf/market-insight/MI100716.pdf



最後に、私の経験を紹介しておくと、ドイツのブンデスバンクのエコノミストと議論した際に(1980年代後半)、金融政策は物価の安定のみに集中すべきであり、雇用の最大化だけでなく、景気の拡大にさえついて、責任を持つべきでないと力説したことを想起する。


「そこまで否定しなくてもいいのになあ」と驚きながら、インフレ・ファイターのブンデスバンク魂の一端をみた思いがした。


ハイパーインフレを経験したドイツならではの思考法だが、日銀批判派は、超デフレ時代に、ハイパーインフレ時代のトラウマを気にしている場合ではない と一笑に付すのであろう。

以上