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書評 池上彰の新聞活用術

書評 池上彰の新聞活用術  池上彰著 ダイヤモンド社20109月刊

本体価格1200



本書は20074月から20103月までの間に、朝日新聞の毎週月曜日の夕刊に掲載されていた「池上彰の新聞ななめ読み」がベースになっている。


いま、出版界には3つのバブルがあるというが、勝間和代、茂木健一郎、池上彰の3氏らしい。バブルが続くかどうかについてあんまり興味はないが、本書が安易な企画であることは間違いない。



「一粒で二度おいしい」タイプの企画。ただ、学生に薦められる本かどうか確かめる意味でも読んだが、学生が読むにはまずまずの親切さと幅の広さをもって、新聞の読み方を解説している。


ただ、フレッシュマン以外のビジネスマン社会人についてはどうだろうか。これを読んで感心しているとしたら、ちょっと問題だと思う。その方のマスコミ情報リテラシーに不安を感じる。



内容で、一番印象に残ったのは、「オバマ大統領はなぜ『黒人』なのか」という項目だ。ワン・ドロップ・ルールという考え方があり、少しでも黒人の血が入っていれば黒人とみなされたという歴史的事実を紹介している。この言葉は初めて聞いた。


読み進むうちに、イライラしてきたことがあった。最近の検察・マスコミの大合唱のもとで犯人に仕立て上げられそうになった村木氏の事件である。と思っていたら、最後の最後に「自社の報道を批判的に検証する記事」という項目があった。



朝日新聞の20091011日の特集のことを取り上げ、村木事件とは別の検察取材の問題点を検証していることを紹介している。だが、これでは不十分だろう。そもそも日本のマスコミがもつ記者クラブ依存体質、霞が関などの情報源とのもたれ合い体質をとりあげなければ本質を突いたことにはならないと思う。



村木氏の件でも、そうだったが、小沢一郎氏の「政治とカネ」の件でも、大手マスコミが検察に情報操作され、結果として、国策捜査や冤罪事件に関与した。このことの真摯な反省も踏まえて、マスコミの姿勢を糾すという視点を読者に提供しないと、小手先だけの「新聞情報の読み方」ではもの足りなく思うのは、評者だけではないだろう。


ただし、本書は朝日新聞に掲載されたものがベースだから、そうした根本的な切り込みを期待するほうが無理なのかもしれない。


ということで、☆は3

以上







































書評 流跡

書評 流跡 朝吹真理子著 新潮社刊 201010月 本体1300




堀江敏幸氏の選考によるドゥマゴ文学賞を最年少で20109月に受賞。NHK衛星放送の「週刊ブックレビュー」の年末特別番組に出演して、自著を語っていたのを見て、読んでみたくなった。ある意味では、野次馬根性である。




作家は容貌で判断してはいけないのだろうが、それによって興味をそそられることは、許されると思う。特に、評者のようにオジサンになっている身には・・・NHKの同番組で朝吹氏へのインタビューアーであった藤沢周氏でさえ「バレリーナのようなスタイルと女優のような雰囲気で・・・」と鼻の下を延ばしていたように見えたのだから。



それはともかく、いろいろな書評でも絶賛されているので、早速手にとって読み始めた。




冒頭の「・・・結局1頁として読みすすめられないまま。もう何日も何日も、同じ本を目が追う。どうにかすこしずつ行が流れて、頁の最終段落の最終行の最終文字列にたどりつき、これ以上は余白しかないことをみとめるからか、指が頁をめくる。」からして、不思議な小説だなと感じる。



ひょっとして全く感性が合わない小説を手にしてしまったかと、後悔の念にかられそうになる。だが、テレビ番組での彼女の語り口の不思議さと、高い評価の信ぴょう性を確かめたいという誘惑に負けて読み進む。




読了してから読んだ書評に、「これは小説ではなくて、散文詩だ。ヌーヴォー・ロマンといえば言えるが・・」とあったが、これは私のように文学の門外漢にはどうでも良いことである。



普通の小説として読んでしまうと混乱するだけなので、彼女の言葉の豊饒な選択、語り口自体を楽しまなければならないのだと認識するのに、1時間かかった。そう割り切ってしまえば、かえってどんどん引き込まれるように読みすすめられる。




読後感。冒頭の文を読んだフィーリングと変わらなかった。不思議な小説だが、この書き手の持つ「蛇つかい」ならぬ「文章・言葉つかい」の類まれな才能に引き込まれてしまった。



彼女が、サガンの翻訳者である朝吹登水子の親戚であり、父親が大学の文学者であることを読了してから知り、さもありなんと思った。

以上


























書評 龍馬史

書評  龍馬史 磯田道史著  文藝春秋刊 20109月 本体1333


著者は「武士の家計簿」というベストセラーをものにしている。2010年に映画化もされた。そのことは知らずに、龍馬ブームに乗って本書を読んだが、掛け値なしに面白い。


邪道かもしれないが、第2章「龍馬暗殺に謎なし」を最初に読んだ。非常に明快。諸説を納得性のある推論で退け、見廻り組が実行犯で、黒幕は見廻り組を配下におく京都守護職の松平容保だと。


とにかく、各種資料を綿密に渉猟しているだけに、その論は迫力があり、第1章「龍馬、幕末を生きる」も当時の日本社会・政治全体のバランスをとって、その中で龍馬の存在を浮き彫りにしている点でも、大いに参考になった。


大河ドラマはそれなりに面白かったが、別の角度からの龍馬像を思い描くのには格好の材料を提供してくれている。


この勢いで、「武士の家計簿」も読んでみようという気になった。


ということで、評価は☆5つ。