米国の金融政策のあり方2010年12月3日朝日新聞経済気象台 | ESG投資、金融・経済関連の情報や書評など

米国の金融政策のあり方2010年12月3日朝日新聞経済気象台

金融政策をめぐる議論の読み方    2010/12/31記


「あとはよろしく」 柴犬氏寄稿  朝日新聞「経済気象台」2010/12/3


匿名の寄稿(朝日新聞の社外筆者)だが、

金融政策の目的についての論点について面白い点を突いている。


金融論の教科書によると、金融政策の目的のところで日本は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を、


米国は「雇用の最大化、物価の安定、穏やかな(moderate)な長期金利」を、法律で規定している。これは、1978年に制定された「完全雇用・均衡成長法(通称:ハンフリー・ホーキンス法)」によって、最大雇用も政策目標に加えられている。


柴犬氏は、米国議会では、FRBに雇用の最大化を法律で義務付けているが故に、無理な金融緩和政策に走っているのではないかという認識が共和党を中心にあるという。従って、法律では「物価の安定」に専念させる方が、今後の大インフレやバブルを心配しなくていいと考えているのだろう。


柴犬氏は、翻って「日本の国会では正反対のことが起こりつつある。日銀の目的に物価だけでなく雇用の安定も加えようという動きだ」と指摘し、「『うまいことやってくれ』と二兎を追わせれば、米国の轍を踏む」と警告している。


コラムのタイトルの「あとはよろしく」というのは、政治家が安易に中央銀行に最大雇用という政策責任をおしつけることを警戒しているように読める。柴犬氏は、おそらく日銀サポーターだと推測されるが・・・それは本質的な問題ではない。


私は米国議会の最近の動きを把握していないが、それはともかくこの議論は、


①日銀の独立性の問題に  さらには  ②金融政策におけるインフレ・ターゲット政策導入という論点につながる。


自民党の中川氏は、日銀批判の先鋒だが、例えば、下記で「中央銀行の目的に『雇用の最大化』がある国とない国の物語」と題して詳しく自説を展開している。

http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10484803899.html



また、みずほ総研の小野亮氏が下記で、金融政策の目的におけるデュアル・マンデート問題を詳しくレポートしているので必読だ。

http://www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/pdf/market-insight/MI100716.pdf



最後に、私の経験を紹介しておくと、ドイツのブンデスバンクのエコノミストと議論した際に(1980年代後半)、金融政策は物価の安定のみに集中すべきであり、雇用の最大化だけでなく、景気の拡大にさえついて、責任を持つべきでないと力説したことを想起する。


「そこまで否定しなくてもいいのになあ」と驚きながら、インフレ・ファイターのブンデスバンク魂の一端をみた思いがした。


ハイパーインフレを経験したドイツならではの思考法だが、日銀批判派は、超デフレ時代に、ハイパーインフレ時代のトラウマを気にしている場合ではない と一笑に付すのであろう。

以上