大昔に作ったオリジナルのお話を

AIに作り直して貰いました

 

これは第二弾のかなり前のお話で

フレデリック・D・マクミランの誕生を描いたものです

この前後にも沢山のお話を作ってあるので

そのうち続きも載せるかもしれません

 

因みにネタバレすると発想の大元は

小学生の時に見た「スターウォーズ」と

「銀河大戦」です 苦笑

で自分がロボットアニメ好きだったので

それらの要素を全部 詰め込んだ

お話が見てみたいと思って作りました

最初に作り始めたのが

小学生の時だったので時代が進む度に

細かく修正していきましたけどね 苦笑

 

 

 

# 転生の代償

## 第一章:老いゆく最強者

ダミアンの指先から放たれる魔力は、
かつて艦隊を一瞬で蒸発させた。
惑星の地殻すら引き裂くその力は、
銀河のどの星間国家も恐れをなした。
だが今、その伝説の魔導師も老いには勝てなかった。

「マリア、データは」

しわがれた声が研究室に響く。
五百年の時を生きた肉体は、
もはや細胞の若返り術すら受け付けなくなっていた。

「はい、師匠。転生魔法陣の成功率は
九十七パーセントまで上昇しました」

マリアは恭しく頭を下げた。
彼女は複数の星間国家が協力して
ダミアンに対抗するために作り上げた
人造魔導師だった。
ダミアンの遺伝子から生まれた彼女は、
本来なら暗殺者となるはずだった。
だが、ダミアンの圧倒的な力と知性に触れた瞬間、
彼女は師として、父として、
そして神として彼を慕うようになった。

「フランクリン、君の見解は?」

「完璧です、師匠」
フォークストン王国の王子だった青年が答えた。
「千の術を持つ」と謳われた天才も、
ダミアンの前では永遠の学徒に過ぎなかった。

「マリアの身体こそ、
あなたの魂を受け止められる唯一の器です」

ダミアンは微笑んだ。
マリアの身体は自分の遺伝子から作られている。
この宇宙で唯一、自分の魂の重さに耐えられる肉体だ。

「では、始めよう」

## 第二章:次元の狭間で

地球。別の次元に存在する青い惑星。

「よっしゃ、S級まであと少し!」

ケンジは興奮しながらコントローラーを握りしめた。
高校を卒業してから配達業で生計を立てている
彼の唯一の楽しみは、このロボットゲームだった。
明日は休み。徹夜でランクを上げるつもりだ。

その時、世界が揺れた。

「地震!?」

激しい揺れ。
天井が崩れる。
ケンジの視界が暗転した。

死。

だが、ケンジの魂は消えなかった。
ロボットへの情熱、
生への執着、
そして何より「まだ終わりたくない」
という強烈な想いが、彼の魂を次元の狭間に留めた。

*身体が欲しい。新しい身体が*

魂は彷徨った。
そして、次元の裂け目を抜けて、
別の宇宙へと辿り着いた。

## 第三章:魂の激突

転生魔法陣が光を放つ。
ダミアンの身体が崩れ落ち、
その魂がマリアの身体へと向かう。

だが、そこに別の魂があった。

*なんだ、この身体は? 温かい...生きてる!*

ケンジの魂は
本能的にマリアの身体に飛び込もうとした。

*誰だ!*

ダミアンの魂が怒号を上げる。
五百年の叡智と、惑星を砕く力の記憶を持つ魂が、
侵入者を排除しようとする。

だがケンジは引かなかった。
死んだばかりの彼の魂は、生への渇望で満ちていた。

*渡すか!*

魂と魂がぶつかり合う。
次元を超えた戦い。
だが、ケンジには予想外の武器があった。

ロボットゲームで培った反射神経。
配達業で鍛えた諦めない心。
そして何より、「まだ何もしていない」という未練。

一方、ダミアンの魂は五百年の疲労を抱えていた。

ケンジの魂が、ダミアンの魂を飲み込んだ。

## 第四章:想定外の誕生

「師匠!」

フランクリンが魔法陣を見つめる。
マリアの身体が光に包まれている。

「成功...したのか?」

光が収まる。マリアの身体が動いた。
いや、違う。

彼女の腹部が膨らみ、そして—

産声が上がった。

だが、それは普通の赤ん坊ではなかった。
生まれた瞬間、赤ん坊は立ち上がった。
その小さな身体から放たれる魔力は、
かつてのダミアンをも凌駕していた。

ケンジとダミアン。
二つの魂が融合した存在は、
想定を遥かに超えた力を持っていた。

「ああ...」

マリアが呻いた。
彼女の身体は、この力に耐えられなかった。
設計上、ダミアン一人の魂を受け止めることしか
想定されていなかった肉体は、
融合した二つの魂の重さに耐えきれず崩壊し始めた。

「マリア!」

研究室の扉が蹴破られた。
カルタゴ王国の王子、カール・エクスワイアだった。
マリアを愛していた彼は、
異変を察知して駆けつけたのだ。

「マリア、マリア!」

カールはマリアの身体に駆け寄り、抱き上げた。
だが、彼女はもう息をしていなかった。

「貴様!」

さらに一人、研究室に乱入してきた。
宇宙海賊ブラッドウィン・マクドミラ。
彼もまたマリアに惚れていた男だった。

「カール、貴様がマリアを殺したのか!」

「違う! 私は—」

「言い訳は聞かん!」

ブラッドウィンが剣を抜く。
カールも応戦する。二人の戦闘が始まった。

フランクリンは呆然としていた。
師の転生は失敗したのか? 
それとも成功したのか? 
だが、この赤ん坊から放たれる力は明らかに危険だ。

「くっ...」

フランクリンは決断した。
赤ん坊を抱え、転送魔法を発動する。

次の瞬間、彼らは研究室から消えた。

## エピローグ:新たな物語の始まり

宇宙のどこか、辺境の惑星。

フランクリンは赤ん坊を抱えて立っていた。

赤ん坊—かつてケンジであり、
ダミアンの記憶も持つ存在—は、
フランクリンを見上げた。

その瞳には、二つの魂の混沌が渦巻いていた。

*俺は...誰だ?*

ケンジの記憶とダミアンの記憶が交錯する。
ロボットゲームの記憶と、
惑星を破壊した記憶が混ざり合う。

「君は...一体何者なんだ?」

フランクリンが呟いた。

赤ん坊は答えなかった。答えられなかった。

ただ、その小さな手が光を放ち、
空に浮かぶ衛星を粉々に砕いた。

世界最強の魔導師の転生は、
誰も予想しなかった形で完了した。
そして、新たな混沌の時代が幕を開けようとしていた。

---

**終わり**

第五十二弾の続きです

カーチェイスものにしたくて

こんな感じになりました

 

 

# 幻影の追跡者

都内の巨大なビル、L'sコーポレーション東京支社。
その灰色の外壁は夕暮れの光を冷たく反射していた。

ビルから少し離れた路地に停車した
ワンボックスカーの中で、
警視庁公安部公安総務課第四公安捜査第8係の捜査官、
桐生隆は監視を続けていた。
助手席には運転担当の若手捜査官、田中が座っている。

「まだ出てきませんね」田中が呟いた。

「もうすぐ一時間だ。そろそろ動くはずだ」

公安部外事第四課からの情報では、
L'sコーポレーション傘下の
エイキュー警備保障企画第三課課長、
石田莉佳子という女性が要注意人物として
マークされていた。

エイキュー警備保障。
日本国内ではただの警備会社として登録されているが、
欧米では別の顔を持っていた。
優秀なPMC――民間軍事会社として知られ、
受けた依頼は確実に達成することで
業界内では伝説的な存在だった。
ただし、依頼を受けるハードルは極めて高いらしい。
一部では
「米軍の特殊作戦部隊でさえ太刀打ちできない」
という噂まで流れていた。

桐生はその噂を半信半疑で聞いていた。
だが、L'sコーポレーション関連の捜査では、
これまでも説明のつかない事象が何度も起きていた。
証拠が消える。
監視対象が神出鬼没に現れる。
まるで何か見えない力が働いているかのように。

「出ました」田中が身を乗り出した。

ビルの正面玄関から、黒いスーツ姿の女性が現れた。
石田莉佳子だ。
三十代半ばと思われる彼女は、
颯爽とした足取りで地下駐車場へと向かった。

数分後、黒いワンボックスカーが駐車場から出てきた。

「行くぞ」

田中がエンジンをかけ、
適度な距離を保ちながら追跡を開始した。

石田の車は都心を抜け、首都高速道路に乗った。
東京外環自動車道を経由し、
関越自動車道へ。車は北へ北へと向かっていく。

「群馬方面ですか」

「ああ。何か目的地があるんだろう」

前橋インターチェンジで高速を降りた石田の車は、
市街地を抜けて山間部へと向かった。
時刻は午後八時を過ぎていた。
街灯もまばらな山道に入っていく。

「こんな時間にどこへ行くんだ?」

桐生は不審に思った。
接触する相手がいるのか。
それとも何か別の目的があるのか。

その時、前方の石田の車が徐々に速度を上げ始めた。

「気づかれましたかね」田中が緊張した声で言った。

「離されるな。だが無理はするな」

峠道に入ると、道は複雑に入り組んでいった。
カーブが連続し、見通しの悪い急勾配が続く。
石田の車はカーブごとに距離を広げていく。

「田中、振り切られるな」

「はい!」

田中は学生時代にラリーで優勝した経験を持つ、
公安部随一のドライバーだった。
彼の技術を持ってすれば、
同じワンボックスカー同士なら
振り切られることはないはずだった。

しかし、現実は違った。
カーブを曲がるたびに、前方の車は不気味なほど
スムーズに、まるで道路に吸い付くように
走り去っていく。

田中は必死にハンドルを操作していた。
額に汗が浮かんでいる。
それでも距離は開く一方だった。

そして次のヘアピンカーブを曲がった時、
前方の車は完全に視界から消えていた。

「くそっ!」

田中が悔しそうにハンドルを叩いた。
桐生は無言で前方を見つめていた。

車を路肩に停め、田中は信じられない
という表情で口を開いた。

「あんなの初めて見ました。ドリフトもせず、
タイヤのスキール音もせず、ブレーキの音もせずに
――静かに、でも強引に曲がっていったんです」

「何を言っている?」

「本当なんです。普通の車じゃありえない。
まるで……まるでSF映画の浮遊している車みたいでした」

そんな馬鹿な、と桐生は思った。
だが同時に、もしや、という予感も胸をよぎった。

L'sコーポレーション。
エイキュー警備保障。石田莉佳子。

彼らが持っているのは、ただの軍事技術ではない。
何か、常識では説明できない力なのではないか。

桐生は夜の闇に消えた黒いワンボックスカーの
残像を思い浮かべながら、携帯電話を取り出した。
本部に報告しなければならない。
だが、何を報告すればいいのか。

「車が、浮いていた」

そんな報告を誰が信じるだろうか。

しかし、これは始まりに過ぎなかった。
桐生はまだ知らない。
石田莉佳子が、
そしてL'sコーポレーションが守る秘密の深さを。

峠の夜風が、ワンボックスカーの窓を叩いていた。

第五十一弾の続きです

別の視点に変えてみました

 

 

 

# 暗殺阻止 —— 公安外事四課の焦燥

警視庁公安部外事第四課の尾形達也は、
オフィスのデスクで額に手を当てた。
焦燥感が全身を駆け巡る。

C国による日本初の女性総理大臣暗殺計画
——外事第二課からの通達は、衝撃的な内容だった。
しかも、既に陸上自衛隊指揮通信システム
・情報部と在日米軍情報部が
合同調査に着手しているという。
完全な出遅れだ。

尾形の脳裏に、あの忌まわしい事件が蘇る。
某県警がC国と内通して実行した元総理大臣暗殺事件。
外事四課は未然に防ぐことができず、
真相は闇に葬られた。
結果、世間には宗教法人絡みの事件として
公表せざるを得なかった。
あの屈辱を、二度と味わうわけにはいかない。

だが、調査は一向に進展しなかった。

万が一を考えて、尾形は自宅に帰らず、
新宿の雑居ビルの上にある安ホテルに泊まることにした。
夕食時、ホテル近くの定食屋に入る。
店内はそこそこ混んでおり、店員に相席を頼まれた。

「構いません」

尾形が頷くと、目の前の席に
三十代くらいの女性が座った。
黒いスーツに身を包んだ、
涼しげな目元が印象的な美人だ。

尾形は鯖の味噌煮定食を黙々と食べ、
会計を済ませて立ち上がった。
その瞬間、女性の顔が不意に近づいた。

「情報、欲しいですか?」

低く、静かな声。尾形の心臓が跳ねる。
だが、表情には一切出さなかった。

「何の事です?」

尾形は冷静を装って聞き返す。

女性は微笑んだ。「久我さんの件です」

久我——陸上自衛隊指揮通信システム
・情報部部長の久我将補。
なぜこの女性がその名を知っている?

「もし興味がありましたら、連絡下さい」

女性は名刺を差し出した。尾形はそれを受け取る。

**エイキュー警備保障**  
**企画第三課課長**  
**石田莉佳子**

公的機関ではない。
多国籍企業L'sコーポレーション傘下の民間警備会社だ。
尾形の頭が疑問符で埋め尽くされる。

民間企業が、なぜこの件に? 
久我将補と何の関係が? 
そもそも、どうして自分だと分かった?

帰り際、石田莉佳子は不敵な笑みを浮かべていた。

尾形はホテルの部屋に戻り、名刺を見つめる。
連絡すべきか。罠かもしれない。
だが、手掛かりのない今、
これは唯一の糸口かもしれなかった。

彼は深く息を吐き、スマートフォンを手に取った。

 

日本を舞台にしたスパイものを作ってみました

 

 

 

# 影の監視者

ホテルのバーは薄暗く、
ジャズのメロディーが静かに流れていた。
フリージャーナリストの桐島は、
カウンター席でウイスキーグラスを傾けながら、
奥のテーブル席に座る二人の男を
注意深く観察していた。

一人は陸上自衛隊指揮通信システム
・情報部部長の久我将補。
制服ではなく背広姿だが、
その姿勢の良さと鋭い眼光は隠しようがない。
問題はもう一人の男だった。
四十代半ばと思われる痩身の男。
桐島はあらゆる人脈を使って調べたが、
その素性は一切掴めなかった。
まるで影のような存在だ。

久我将補は数日前、
在日米軍の情報関連部署に所属する将校と密会していた。
桐島はそれを目撃し、
何らかの諜報活動が進行しているのではないか
と確信した。
だからこそ、こうして尾行を続けていた。

二人の会話は一時間ほど続いた後、
ようやく終わりを告げた。
久我将補が先に立ち上がり、正体不明の男が後を追う。
桐島は慎重に距離を保ちながら、
正体不明の男の後を追った。

男は渋谷の雑踏に紛れ込んだ。
人混みの中、桐島は必死で男の姿を追った。
しかし、雑居ビルの角を曲がった瞬間、
男の姿は消えていた。

「まずい」

桐島は焦りながら周囲を見回した。その時だった。

「動かないでください」

背後から冷たい声が聞こえた。
振り返る間もなく、腕が背中に回され、
巧みな手つきで拘束された。
声の主は女性だった。

「あなた、野党議員の依頼で
久我将補を調べていますね」

女性の声は静かだが、有無を言わせぬ力があった。
桐島の血の気が引いた。

「その裏にC国がいることも、私たちは知っています」

C国。

桐島の脳裏に、数年前の衝撃的な事件が蘇った。
元総理大臣の暗殺。
警察庁は宗教法人の単独犯行として処理したが、
ジャーナリストの間では別の噂が囁かれていた。
某県警の一部が関与し、
その事実を警察庁が隠蔽したという噂。
そして更にその裏には、
C国の工作機関がいたという噂だ。

「C国は今回、
日本初の女性総理大臣を標的にしています」
女性は桐島の耳元で囁き続けた。


「それを調査しているのが日本と
在日米軍の合同情報チーム。
久我将補とさっきの男性がその中心人物です」

桐島の頭の中で、
パズルのピースが音を立てて嵌まっていった。
自分が追っていた「怪しい密会」は、
実は国家の安全保障に関わる重要な作戦だったのだ。

「日本にいるC国関連の人物には、
全てうちの監視が付いているんですよ」
女性の声には、かすかな皮肉が混じっていた。
「あなたに依頼した野党議員も、
その秘書も、そしてあなた自身も」

「うちってどこの組織だ?」

桐島はそう思ったが、口には出さなかった。
公安か、それとも防衛省情報本部か。
あるいはもっと深い場所にある、
名前すら知られていない組織か。

それよりも今、桐島の心を占めていたのは
別の不安だった。
自分は今後、どうなるのか。
こんな機密に触れてしまった以上、
ただでは済まないだろう。

「心配しなくても、あなたを消したりはしません」
女性は桐島の思考を読んだように言った。
「ただし、これから二十四時間、
私たちと一緒に来ていただきます。
作戦が終わるまでの間、
安全な場所で過ごしていただきます」

桐島の拘束が解かれた。
振り返ると、そこには三十代半ばと思われる
知的な顔立ちの女性が立っていた。
黒いスーツに身を包み、
その目には有無を言わせぬ決意が宿っていた。

「こちらへ」

女性は静かに先導した。
桐島には選択肢がないことは明らかだった。
彼は女性の後に続きながら、
自分がどれほど大きな渦の中に
巻き込まれてしまったのかを、
ようやく理解し始めていた。

夜の渋谷は相変わらず騒がしく、
何事もなかったように人々が行き交っていた。
しかしその喧騒の裏で、見えない戦いが静かに、
しかし確実に進行していた。

桐島は歩きながら思った。
真実を追い求めるジャーナリストとして、
この経験は貴重なものになるかもしれない。
もし、生きて帰ることができれば、の話だが。

黒いバンが路地裏に停まっていた。
女性がドアを開けると、中には二人の男が待っていた。
桐島は深呼吸をして、バンに乗り込んだ。

扉が閉まり、バンは闇の中へと滑り出した。
 

よく眼鏡を外したら美人だった

みたいなのをよく聞きますが

眼鏡をかけている自分からしたら微妙な話

なので眼鏡をかけたら注目されるようになった

という話を作りました

 

主人公が憧れている

アイドルグループのモチーフは

ハロプロのJuice=Juiceで

新メンバーは林仁愛さん

グループ名や名前は違うけど

そのまんまです 苦笑

 

 

 

# 眼鏡の向こう側

経理課の机は、いつも窓際の一番奥にある。
28歳の私、田中美咲の定位置だ。
数字と向き合う毎日。ミスは許されない。
でも、完璧にこなしても
「経理なんだから当然でしょ」と言われるだけ。

金曜の夜、
隣の席の同期たちが
飲み会の約束をしている声が聞こえる。
私に声がかかることはない。
別にいい。
誘われても、きっと断るだろうから。

私には、誰も知らない世界がある。

帰宅してパソコンを開く。
画面に映るのは、きらめく女性アイドルグループ「Stellar*5」。
5年前からの熱狂的なファンだ。
配信で観るライブ映像に、いつも心を救われてきた。
コンサート会場に足を運ぶ勇気はなかったけれど、
画面越しの彼女たちは確かに私の光だった。

そして先月、衝撃のニュースが飛び込んできた。
新メンバー加入。
14歳の天才少女、星野りん。
デビュー前から
ゲームの主題歌を任されるほどの逸材だという。

初めて彼女を見た瞬間、画面に釘付けになった。
透明感のある歌声、凛とした佇まい。
そして何より——眼鏡。
アイドルには珍しい、
細いフレームの眼鏡をかけていた。

「今後は眼鏡で活動します」

彼女の言葉が、何かを溶かした。

気づけば、チケットサイトを開いていた。
手が震えた。
でも、クリックした。
人生初のコンサートチケット。

---

コンサート当日。
会場の熱気に圧倒されながら、私は息を飲んだ。

生で見る彼女たちは、想像を遥かに超えていた。
りんちゃんの歌声が会場を包む。
眼鏡の奥の瞳が、まっすぐ前を見ている。
自分らしさを貫く強さ。それが眩しかった。

雷に撃たれたような感覚だった。

終演後、ふらふらと街を歩いていた。
気づくと、眼鏡屋の前に立っていた。

「いらっしゃいませ」

試着した眼鏡が、鏡の中の私を変えた。
ずっとコンタクトだった。
「地味に見えるから」という理由で。
でも今は、違う自分に会えた気がした。

「これ、ください」

---

月曜の朝。

玄関の鏡で、もう一度確認する。
眼鏡をかけた私。

少しだけ、勇気が湧いた。

いつもの電車。

いつもの道。

でも、何かが違う。

会社に着く。自動ドアが開く。
受付の人が
「おはようございます」と言いかけて、固まった。
目が丸くなる。

「た、田中さん……?」

「おはようございます」

いつも通りに挨拶して、エレベーターに乗る。
心臓がドキドキする。

経理課のフロアに入った瞬間——世界が変わった。

「えっ!」

「田中さん?」

「嘘、別人みたい!」

ざわめきが一斉に広がる。
みんなが顔を上げる。視線が集中する。

「すごく似合ってる!」

「めちゃくちゃ素敵!」

「なんで今まで眼鏡じゃなかったの?」

隣の課の人まで立ち上がって見に来る。
廊下からも人が覗き込んでくる。

これは……夢?

28年間、こんな経験をしたことがなかった。
透明人間のように扱われてきた私が、
たった一つの眼鏡で、こんなにも見てもらえる。

自分の席に着こうとすると、
課長が駆け寄ってきた。

「田中さん!

いいね、その眼鏡!知的で素敵だよ。
今度、営業部との合同ミーティングにも出てもらおうかな。

君の説明、わかりやすいから」

課長が、私を褒めた。
今まで「当然」としか言われなかったのに。

午前中だけで、10人以上の人が話しかけてきた。

「どこで買ったの?」

「前髪も似合ってる」

「今度ランチ行こうよ」。

休憩室でコーヒーを淹れていると、
普段全く話さない女性社員たちが集まってきた。

「田中さん、前から綺麗だと思ってたけど、
眼鏡でさらに魅力的になったね」

「実は私、田中さんの仕事ぶり、
すごいなって尊敬してたんだ」

「今度、おすすめのカフェ教えてほしい!
一緒に行かない?」

言葉が、温かい。

笑顔が、本物に見える。

これが……私?私に向けられている言葉?

昼休み。お弁当を広げると、
総務課の山田さんが隣に座ってきた。

「田中さん、眼鏡すごく似合ってるね。
実は前から気になってたんだ。
仕事で何度かやり取りしたでしょ。
いつも的確で、頭いいんだろうなって」

「ありがとう、ございます」

声が震えた。

嬉しくて、信じられなくて。

すると、次々と人が集まってきた。
営業部の人、総務の人、企画の人。
男性も女性も。

「眼鏡似合うね!」

「知的で素敵」

「前から話したかったんだよ」

「今度飲みに行こうよ」

あっという間に、私の周りが人だかりになった。

笑顔。声。温度。

28年間、こんなに人に囲まれたことはなかった。
存在を認められたことはなかった。

これが、人との繋がり?
これが、受け入れられるということ?

でも——息ができない。

嬉しいはずなのに、胸が苦しい。
人が多すぎる。

視界が揺れる。

めまいがする。
人が苦手だ。
こんなに注目されたら、私、どうすれば。

「田中さん、ちょっといい?」

突然、誰かが私の手を掴んだ。
温かい手。

強く、優しく。

引っ張られる。
人だかりを抜けて、廊下へ。非常階段へ。

扉が閉まる。静寂。

「大丈夫?」

営業部の佐藤さんだった。
仕事でメールのやり取りはするけれど、
直接話したのは数えるほどしかない。

「あ、はい、大丈夫、です」

息を整える。彼は優しく微笑んだ。

「突然あんなに人が集まって、
驚いたでしょ。顔色悪かったから」

「すみません……人が、苦手で」

「うん、なんとなく分かってた」

佐藤さんが階段に腰を下ろす。

私も隣に座った。

「田中さんって、実はみんな気になってたんだよ。
仕事は完璧だし、すごく集中してるし。
でも、話しかけづらい雰囲気があって。
声かけたら迷惑かなって、みんな遠慮してたんだ」

「え……?」

「でも今日、眼鏡かけてきたでしょ。
すごく似合ってて、

なんていうか、変化を受け入れたのかなって。
心を開いてくれたのかなって、

みんな思ったんじゃないかな」

涙が出そうになった。

28年間、誰にも必要とされていないと思っていた。
透明で、価値がないと思っていた。

でも、違った。

眼鏡一つで、こんなにも世界は変わる。
人は変わる。

いや——変わったのは私だ。

「あの、佐藤さん」

「うん?」

「私、今日、初めて分かりました。
世界って、こんなに温かいんですね」

心臓の音が、少し速くなった。

「もしよかったら、今度お昼一緒にどう?
おすすめのカフェがあるんだ。
ゆっくり話せる静かな場所」

佐藤さんが少し照れくさそうに笑う。

眼鏡の向こうに映る彼の顔。真っ直ぐな瞳。

りんちゃんが教えてくれた。自分らしさを貫く強さを。

そして今、もう一つ気づいた。

たった一つの小さな変化が、
世界を180度変えられることを。

28年間閉ざしていた扉が、音を立てて開いた。
光が差し込む。人の温もりが流れ込んでくる。

「はい。ぜひ、お願いします」

初めて、自分から誰かの誘いを受け入れた。

眼鏡越しに見る世界は、色づいていた。
鮮やかに、温かく、希望に満ちて。

もう透明人間じゃない。

私は、ここにいる。

そして、見てもらえている。

——眼鏡をかけた私は、生まれ変わった。
 

ファンタジーものが続いたので

現代ものにしようと思い作りました

音楽のお話にしようと思い

以前 グループアイドルものを作ったので

今回はソロ歌手にしてみました

 

 

 

# 歌声の約束

幼稚園の砂場で、
私は初めて彼に歌を聴いてもらった。

「すごいね、本当に上手だよ」

隣の家に住む幼馴染の蓮は、
いつも私の歌を褒めてくれた。
嬉しくて、私はますます歌うようになった。
朝起きた時も、お風呂に入る時も、道を歩く時も。
歌うことが、呼吸と同じくらい自然だった。

小学生になっても、それは変わらなかった。
休み時間には教室の隅で鼻歌を口ずさみ、
下校中には蓮と一緒に歌った。

「将来の夢は?」
と聞かれれば、迷わず答えた。

「武道館でコンサートをすること」

それは遠い夢ではなく、
いつか必ず叶える約束のように感じていた。

---

小学五年生の秋。
クラスで一番人気のある雄太が、
音楽の時間に言った。

「あいつ、音痴じゃね?」

教室が一瞬静まり返り、
次の瞬間、彼の取り巻きたちが笑い出した。

「マジだ、音痴だ」  
「うるさいだけじゃん」

それからは毎日だった。
廊下ですれ違う度に「音痴」と囁かれ、
休み時間に歌おうとすれば
「やめてよ」と顔をしかめられた。

蓮は何度も庇ってくれた。
でも、言葉は胸に深く刺さり続けた。
やがて私は、歌うことを止めた。
夢も、心の奥底に閉じ込めた。

---

それから十年以上が過ぎた。

私は地味な事務職に就き、平凡な日々を送っていた。
蓮とは高校卒業後に疎遠になり、
彼が音楽大学に進学したことを
風の噂で聞いただけだった。

ある日、
駅前のカフェで休憩していると、声をかけられた。

「やっぱり君だ。久しぶり」

振り向くと、スーツ姿の蓮が立っていた。
背も伸び、面影はあるものの、
すっかり大人になっていた。

「音楽事務所で働いてるんだ」
と彼は言った。

「新人発掘を担当してる」

思いがけない再会に戸惑っていると、
蓮は真剣な表情で続けた。

「君の歌声で、多くの人を幸せにしてほしい。
歌手として、デビューしないか?」

私は首を横に振った。
あの頃のトラウマが、瞬時に蘇った。

「無理だよ。私、音痴だから」

「違う」
蓮は即座に否定した。

「君の歌声は本物だ。昔からずっとそう思ってた」

何度も断った。
でも、蓮の熱意は揺るがなかった。
毎週のようにカフェに現れ、語り続けた。
音楽の素晴らしさを、歌うことの意味を、
そして私の才能を。

三ヶ月後、私は決意した。
もう一度だけ、あの夢を追いかけてみようと。

---

デビューへの道は険しかった。

地方都市を回るキャンペーン、
レコード店への挨拶回り。
小さなライブハウスに空きが出たと聞けば、
蓮はすぐに交渉して歌わせてくれた。

最初の観客は五人だった。
二回目は八人。
でも蓮は諦めなかった。
私も諦めなかった。

「いい歌だったよ」

ライブ後、一人の女性が声をかけてくれた。
その一言が、どれほど嬉しかったか。

少しずつ、確実に、ファンが増えていった。
SNSで歌声が話題になり、
音楽番組から出演依頼が来た。
全国ツアーが決まった。

そして、ついにその日が訪れた。

「武道館でのコンサート、決定です」

事務所の会議室で聞いた時、涙が止まらなかった。
幼い日に見た夢が、現実になる。

---

武道館コンサート当日。

楽屋で衣装に着替えながら、私は落ち着かなかった。
開演一時間前なのに、蓮がまだ来ていない。
いつもなら真っ先に駆けつけてくれるのに。

電話をかけると、すぐに繋がった。

「ごめん、ちょっと遅れる。
でも大丈夫、間に合うから」

蓮の声は明るかった。

「緊張してる?」  
「うん、すごく」  
「君なら大丈夫。あの頃から、
君の歌声は誰よりも輝いてた。自信を持って」

胸が熱くなった。

「ありがとう。待ってるね」

電話を切り、深呼吸をした。さあ、行こう。

---

舞台袖に立つと、
武道館を埋め尽くす観客の熱気が伝わってきた。
何千人もの人々が、私の歌を待っている。

照明が落ち、歓声が上がった。

一歩、また一歩と、ステージの中央へ歩いていく。
スポットライトが私を照らした。

最初の一音を発した瞬間、すべての恐怖が消えた。
音痴と言われたあの日も、
歌えなくなった長い年月も、
もう何も怖くない。

歌った。

心を込めて、魂を込めて。

観客は手を振り、声援を送ってくれた。
涙を流している人もいた。

アンコールの最後、私はマイクを握りしめて言った。

「ここまで来られたのは、一人の人のおかげです。
ずっと信じ続けてくれた人。
今日も、きっとどこかで
見ていてくれていると思います」

蓮、ありがとう。
これからも一緒に、もっと大きな夢を叶えていこうね。

私は最後の曲を歌い始めた。心からの感謝を込めて。

---

そのとき。

武道館から三キロ離れた交差点で、
蓮は小さな女の子を抱きかかえていた。

飛び出してきた車。
咄嗟に女の子を押し出した彼の体が、
代わりに衝撃を受けた。

アスファルトに倒れた蓮の耳に、
遠くから歓声が聞こえた気がした。

——ああ、始まったんだな。

唇に、かすかな笑みを浮かべて。

彼女の歌声が、きっと今、武道館に響いている。
それだけで、すべてが報われた。

蓮の視界がゆっくりと暗くなっていく。
最後に浮かんだのは、
砂場で歌う小さな少女の笑顔だった。

すごいね、本当に上手だよ。

—— その言葉を、もう一度伝えたかった。

---

コンサートは大成功だった。

翌日の新聞には「武道館を感動で包んだ新星」
という見出しが躍った。

私は楽屋で携帯を握りしめていた。
蓮からの連絡が、まだない。

「結局、来られなかったのかな」

少し寂しかったけれど、きっと忙しかったのだろう。
後で電話して、昨日のこと、全部話そう。
感謝の気持ちも、これからの夢も。

窓の外は、よく晴れた青空だった。

私は立ち上がり、小さく鼻歌を口ずさんだ。

新しい一日が、始まる。

(了)

これは水魔王の番外編なのですが

異世界転生モノの

テンプレみたいなお話になったので

載せるかどうか迷っていたのですが

第四十七弾が番外編みたいになっちゃったので

先に作ったこっちも載せる事にしました

 

因みにリオとその仲間たちは

この後に国に因縁を付けられ

茶番な裁判の結果 国から追放されました

 

 

# 水の魔法使いリオ 番外編:冒険者として

## プロローグ

光明寺の鐘が、朝を告げる。

リオは質素な僧服を脱ぎ、街着に着替えた。

「リオ、本当に行くのか?」

養父である僧侶が心配そうに尋ねる。

「はい。寺の費用も必要ですし、何より——」

リオは窓の外、街を見た。

「この街で暮らすには、お金が必要です」

アクアリア共和国では、
孤児院出身者への風当たりは強い。
まともな職に就くことさえ難しい。

だが、冒険者ならば
——実力さえあれば、誰でもなれる。

「気をつけてな」

「大丈夫ですよ」

リオは微笑んで、冒険者ギルドへと向かった。

## 第一章 最下位からの始まり

冒険者ギルド。

荒くれ者たちが酒を飲み、大声で笑う場所。

リオが入ると、何人かが振り返った。

「なんだ、ガキか」

「しかも、あの光明寺の孤児だろ?」

嘲笑が聞こえる。

リオは気にせず、受付へと向かった。

「冒険者登録をお願いします」

受付嬢が書類を差し出す。

「はい。登録料は銀貨三枚です。
ランクはFからのスタートになります」

「分かりました」

リオは登録を済ませた。

こうして、彼は最下位のFランク冒険者となった。

***

Fランクに与えられる依頼は、
単純なものばかりだった。

**依頼:薬草採取**

「薬草ねぇ……」

リオは森へと向かった。

普通の冒険者なら、一日かけて袋一つ分を集める。

だが、リオは違った。

「水よ、教えてくれ」

彼は水魔法で地下の水脈を感知する。

水脈が豊富な場所
——そこには、良質な薬草が育つ。

さらに、水魔法で土壌の湿度を調整し、
薬草の成長を促進させた。

結果——

「な、なんだこれは!」

ギルドの薬剤師が驚愕した。

リオが持ち帰ったのは、通常の十倍の量。
しかも、品質は最高級。

「こんな短時間で……しかもこの品質……」

***

**依頼:小型動物の捕獲**

街の貴族が、珍しい小鳥を欲しがっていた。

普通なら、罠を仕掛けて数日待つ。

だが、リオは水魔法で空気中の水分を操作し、
特定の場所に霧を発生させた。

霧に誘導された小鳥たちが、
リオの作った水の檻に自ら入ってくる。

「……十羽も捕まえたのか? 
しかも、一羽も傷ついていない?」

依頼主は目を丸くした。

***

**依頼:街の清掃**

「清掃か……」

リオは街の水路を見た。

汚れ、詰まり、悪臭を放っている。

彼は水魔法で水路全体の水を操作した。

汚れは全て浄化され、
詰まりは解消され、水は透き通った。

「一人で……街全体の水路を……一日で?」

街の行政官が呆然とした。

***

こうして、わずか一週間で——

リオはFランクの全ての依頼で、
従来の記録を大きく更新した。

## 第二章 特例のランクアップ

「リオ君、ちょっといいかな」

ギルド長が、リオを個室に呼んだ。

「君の働きぶり、見させてもらった」

白髪の老人
——元Sランク冒険者だったギルド長は、
険しい顔をしていた。

「率直に言おう。君は、Fランクではない」

「……はい」

「そこで、特例でのランクアップを提示したい」

ギルド長は書類を差し出した。

「Dランクへの昇格だ」

「Dランクですか……」

リオは少し考えた。

通常、FからDへは、E、Dと段階を踏む。
それを飛び越すのは異例中の異例だ。

「ただし、条件がある」

ギルド長は立ち上がった。

「私と、模擬戦をしてもらう」

「……模擬戦?」

「そうだ。君の実力を、この目で確かめたい」

***

ギルドの訓練場に、人だかりができていた。

「おい、Fランクの新人が、ギルド長と戦うらしいぞ」

「馬鹿な。ギルド長は元Sランクだぞ」

「どうせ、一瞬で終わるだろうな」

野次馬たちの視線の中、
リオとギルド長が向き合った。

「始め!」

審判の声とともに——

ギルド長が剣を抜き、突進してくる。

その速度、Sランクの実力。

だが、リオは動じなかった。

「水流」

リオの足元から水が湧き出し、
ギルド長の足を絡め取った。

「なに!」

ギルド長が体勢を崩す。

その隙に、リオは水の鞭を放った。

ギルド長の剣を弾き飛ばす。

「氷結」

水の鞭が瞬時に凍り、
ギルド長の体を縛り上げた。

開始から、わずか三秒。

「……勝負あり」

審判が呆然と宣言した。

訓練場が、静まり返った。

元Sランク冒険者が——新人に、一瞬で敗北した。

「……参ったよ」

ギルド長は笑った。

「君は、本物だ」

***

その日、リオはDランクに昇格した。

だが——

「納得いかねえ!」

ギルドに、怒号が響いた。



## 第三章 Aランクの驕り

「たかが孤児院出身の小僧が、Dランクだと?」

声を荒げたのは、五人組の冒険者パーティー。

この街で唯一のAランク冒険者パーティー
「蒼炎の騎士団」だった。

リーダーの名はヴィクター。
アクアリア共和国の有力議員の息子だ。

「ギルド長、これは不公平だ」

ヴィクターは傲慢に言った。

「我々は命をかけて、Aランクまで上り詰めた」

「それを、孤児上がりの小僧が、特例で昇格だと?」

「ヴィクター、君は見ていなかったのか?」

ギルド長が冷静に答える。

「リオ君は、私に勝った」

「……まぐれだろう」

ヴィクターは鼻で笑った。

「所詮、孤児は孤児だ」

彼はリオを睨みつけた。

「いいか、小僧。
お前のような下賤な出自の者が、
冒険者として成功するなど——片腹痛いわ」

「……」

リオは何も言わなかった。

怒りを感じないわけではない。

だが、千年を生きた魂は、
こんな小物の挑発に動じなかった。

「黙りか。やはり孤児は孤児だな」

ヴィクターは嘲笑して去っていった。

***

その夜、リオは一人、星空を見上げていた。

「エリナ……」

彼は呟いた。

「人は、変わらないな」

千年前も、今も。

出自で人を差別し、力で弱者を踏みつける。

「でも、いいんだ」

リオは拳を握った。

「私は、私のやるべきことをやる」

「それだけだ」

## 第四章 ゴブリン軍団

数日後——

街に、緊急の報せが入った。

「ゴブリンの軍団だ!」

「数は……数千!」

「街のすぐ近くまで来ている!」

ギルドは騒然となった。

「蒼炎の騎士団、出動してくれ!」

ギルド長が頼む。

「当然だ」

ヴィクターは自信満々に答えた。

「我々Aランクの力、見せてやろう」

***

だが——

半日後、
蒼炎の騎士団は、血まみれで帰還した。

「ゴブリンジェネラルが……いた……」

ヴィクターは息も絶え絶えに言った。

「さらに……ゴブリンキングまで……」

「何だと!」

ゴブリンジェネラルは、
通常のゴブリンの百倍の力を持つ。

ゴブリンキングは、
さらにその上——Sランクの魔物だ。

「無理だ……俺たちじゃ……勝てない……」

蒼炎の騎士団は、全員が重傷を負っていた。

再度の討伐は不可能だった。

***

「誰か……誰か行ける者は……」

ギルド長が呼びかけるが——

「無理だ。Aランクが負けたんだぞ」

「俺たちが行っても、死ぬだけだ」

誰も手を挙げなかった。

その時——

「私が行きます」

リオが前に出た。

「リオ君……」

ギルド長は複雑な表情をした。

「だが、君はまだDランクだ。Aランクでさえ……」

「大丈夫です」

リオは静かに言った。

「任せてください」

***

「待て」

ヴィクターが、ベッドから起き上がった。

「貴様に……何ができる……」

「俺たちが……負けたんだぞ……」

「貴様ごとき……孤児が……」

リオは振り返った。

その目には——憐れみがあった。

「……休んでいてください」

リオは静かに言った。

「すぐに、戻ります」

## 第五章 絶対零度

リオは、ゴブリン軍団のいる平原へと向かった。

そこには——

「……これは」

リオは息を呑んだ。

数千、
いや、おそらく一万を超えるゴブリンの群れ。

その中央に、巨大な個体が二体。

ゴブリンジェネラルと、ゴブリンキング。

「これは……確かに、Aランクでは厳しい」

だが、リオには——

千年前、一つの国を建国した力がある。

「仕方ない」

リオは深呼吸した。

「本気を出すか」

彼は両手を地面につけた。

「氷よ、大地を覆え」

魔力が放出される。

地面から、猛烈な冷気が立ち上った。

ゴブリンたちが気づく。

「ゴブッ!」

だが、遅かった。

冷気は瞬く間に広がり——

東京23区ほどの広大な土地が、一瞬で凍りついた。

「ギャアアアッ!」

ゴブリンたちが悲鳴を上げる。

だが、その悲鳴も——一瞬で途切れた。

全てのゴブリンが、凍結した。

ゴブリンジェネラルも。

ゴブリンキングも。

例外なく。

そして——

パキン、パキン、パキン——

凍りついたゴブリンたちの体が、バラバラになった。

リオが放った冷気は、絶対零度
——いや、それ以下。

物質の運動が完全に停止する温度。

そこでは、全てが脆くなり、砕け散る。

***

リオは立ち上がった。

眼前には、氷と破片だけが広がる静寂の世界。

数万のゴブリン軍団が——跡形もなく消滅した。

「……終わった」

リオは静かに呟いた。

## 終章 畏怖

翌日、リオが街に戻ると——

ギルドは、異様な静けさに包まれていた。

***

「リオ君……」

ギルド長が、震える声で尋ねる。

「ゴブリンは……?」

「全滅しました」

リオは淡々と答えた。

「ゴブリンジェネラルも、ゴブリンキングも、全て」

「……全て?」

「はい。一体残らず」

沈黙。

誰も、何も言えなかった。

Aランク冒険者が命からがら逃げ帰った相手を——

Dランクの新人が、全滅させた。

「どうやって……」

「凍らせました」

リオは簡潔に答えた。

「広範囲を一瞬で凍結させ、全て砕きました」

ギルド長の顔から、血の気が引いた。

彼は理解した。

この少年は——

次元が違う。

「リオ君……」

ギルド長は、畏怖を込めて尋ねた。

「君は……どれほどの力を持っているんだ?」

「さあ」

リオは首を傾げた。

「試したことがないので、分かりません」

その言葉が、さらに恐ろしかった。

つまり——まだ、全力ではないということ。

(この少年に逆らえば……)

ギルド長は確信した。

(国の一つや二つ、簡単に滅ぼされる)

それは、誇張ではない。

東京23区ほどの土地を一瞬で凍結させる力——

それを都市に向ければ、国家すら消滅する。

「リオ君」

ギルド長は、深々と頭を下げた。

「今後とも、よろしく頼む」

それは、敬意ではなく——畏怖だった。

***

その瞬間、ギルド内にいた冒険者たち全員が——

一斉に頭を下げた。

「「「よろしくお願いします!」」」

***

ギルドの片隅で、Cランク冒険者のグレッグが呟いた。

「昨日まで……俺、あいつのこと
『孤児のガキ』って笑ってたんだよな……」

彼の顔は青ざめていた。

「もし、あいつが怒ってたら……俺、今頃……」

「俺もだ……」

隣のBランク冒険者、マルコが震えながら言った。

「『孤児院育ちが調子に乗るな』
って、陰で言ってた……」

「バカだった……本当にバカだった……」

二人は顔を見合わせた。

「あれは……人間じゃない」

「神か……悪魔か……」

***

受付嬢のエリカは、
カウンターの下で膝を抱えていた。

「私……あの人に、冷たく接してた……」

彼女は思い出す。

リオが初めて登録に来た時、
孤児院出身と知って、明らかに態度が冷たかった。

「孤児なんて、どうせすぐ辞めるわ」

そう思っていた。

「もし……もし、あの人が私を恨んでいたら……」

エリカは震えた。

一瞬で街を凍らせる力——

それが自分に向けられたら。

「謝らなきゃ……ちゃんと謝らなきゃ……」

***

Dランク冒険者のトニーは、仲間たちと固まっていた。

「なあ……あいつ、Dランクなんだぜ?」

「俺たちと同じランク……」

「同じわけねえだろ!」

別の冒険者が叫んだ。

「俺たち、ゴブリン十体倒すのに必死だぞ?」

「あいつは一万体を……一瞬で……」

「もう……比べるのも失礼だ」

トニーは拳を握った。

「昨日、俺、あいつに『Dランクの新人』
って呼んだんだ。馬鹿にした口調で」

「……お前、生きてて良かったな」

「本当に……」

***

そして、ヴィクター。

ベッドの上で、彼は震えていた。

「孤児が……孤児が……」

自分が嘲笑した少年。

見下した少年。

「下賤な出自」と罵った少年。

その少年が
——自分たちAランクパーティー全員が
束になっても敵わない、規格外の存在だった。

「俺は……何をしていたんだ……」

ヴィクターの仲間たちも、同じように青ざめていた。

「リーダー……俺たち、
あの人を怒らせてる……よな?」

「……ああ」

「どうする? 謝った方がいいのか?」

「謝って……許してもらえるのか?」

沈黙。

誰も答えられなかった。

ヴィクターは思い出す。

リオの目——

最後に振り返った時の、あの目。

憐れみ。

「……俺たちは、虫けらだったんだ」

ヴィクターは呟いた。

「最初から、相手にすらされていなかった」

彼のプライドは、完全に砕け散った。

***

翌日、ギルドの掲示板に、
リオの名前が貼り出された。

**臨時昇格:リオ → Sランク**

それを見た冒険者たちは、誰も異論を唱えなかった。

いや、唱えられなかった。

「当然だ」

「むしろ、Sでも足りない」

「あれは……Sランクを超えている」

***

その日から、ギルドでのリオへの扱いは一変した。

彼が入ってくると——

「リオ様!」

「お疲れ様です!」

冒険者たちが一斉に頭を下げる。

受付嬢は、最高の笑顔で迎える。

「リオ様、本日はどのような御用でしょうか!」

依頼の報酬は、必ず多めに支払われる。

「いえ、規定通りで……」

「お受け取りください! 
これは街からの感謝です!」

酒場では、冒険者たちが
リオに酒を奢ろうと競い合う。

「リオ様、一杯どうですか!」

「いや、俺が奢る!」

「俺が!」

リオは困惑していた。

***

ある日、Cランク冒険者のグレッグが、
震えながらリオに近づいてきた。

「り、リオ様……」

「はい?」

「あ、あの……以前、失礼なことを……」

グレッグは土下座した。

「本当に申し訳ありませんでした!」

「え? 何のことですか?」

リオは本気で分かっていなかった。

「い、いえ! 孤児のガキって……」

「ああ」

リオは微笑んだ。

「気にしていませんよ。事実ですし」

「あ、ありがとうございます! 
ありがとうございます!」

グレッグは涙を流して去っていった。

***

受付嬢のエリカも、
ある日、勇気を出して謝罪した。

「リオ様……最初、冷たい態度で接してしまって
……本当にごめんなさい!」

「え? そうでしたっけ?」

リオは首を傾げた。

本当に、気づいていなかった。

「許してください!」

「いや、その……別に怒ってないですけど……」

エリカは安堵の涙を流した。

***

そして、ヴィクター。

彼は三日三晩悩んだ末、リオの前に現れた。

「……リオ」

「はい?」

「俺は……お前に、酷いことを言った」

ヴィクターは震える声で続けた。

「孤児だと馬鹿にし、下賤だと罵った」

「でも、お前は……
俺たちなんかより、遥かに強く、遥かに優れていた」

彼は深々と頭を下げた。

「すまなかった」

リオは、少し驚いた顔をした。

そして——微笑んだ。

「気にしないでください」

「え……?」

「確かに、私は孤児院出身です。それは事実です」

リオは穏やかに言った。

「でも、それで何かが決まるわけじゃない」

「大切なのは、今、そしてこれからです」

ヴィクターは、その言葉に——泣いた。

「お前は……優しいんだな……」

「本当に……優しい……」

彼は自分の小ささを、心から恥じた。

***

その日から、街の冒険者たち、
そして住民たちの、リオへの評価は確定した。

畏怖すべき力を持ちながら——

決して驕らず、誰にでも優しく、謙虚な少年。

「リオ様は、本物の英雄だ」

「力だけじゃない。心も、本物だ」

人々は、心からそう思った。

そして同時に——

「あの人を、二度と怒らせてはいけない」

それもまた、真実だった。

***

リオは、変わらず光明寺に戻った。

夕暮れ時。

寺の門をくぐると——

「リオ!」

「お帰り!」

「リオ兄ちゃん!」

大勢の声が響いた。

驚いて顔を上げると、そこには——

養父である僧侶だけでなく、
多くの孤児たちが待っていた。

リオが街で出会い、助けた浮浪者たち。

孤児院で一緒に育った仲間たち。

行き場のない人々。

みんなが、リオを迎えてくれていた。

「みんな……」

「リオ、聞いたよ! すごいことしたんだって!」

幼い少女が駆け寄ってくる。

「ゴブリンを全部やっつけたって!」

「街を救ったんだろ?」

少年たちが目を輝かせる。

「おかえり、リオ」

養父が、温かく微笑んだ。

「ただいま」

リオも、微笑み返した。

***

その夜、寺の中庭で、みんなで食事をした。

質素だが、温かい食事。

リオが稼いだお金で買った食材を、みんなで調理した。

「美味しい!」

「こんなに食べられるなんて!」

子供たちが笑顔で食べている。

浮浪者だった老人が、涙を流していた。

「こんな……温かい食事……何年ぶりだろう……」

「たくさん食べてください」

リオは優しく言った。

「ここには、十分な食べ物があります」

***

食事の後、子供たちがリオの周りに集まった。

「リオ兄ちゃん、話聞かせて!」

「ゴブリンとの戦い、どうだったの?」

リオは少し考えて、話し始めた。

ただし、戦いの話ではなく——

「みんな、大切なことを教えるよ」

子供たちが真剣な顔で聞く。

「力は、何のためにあると思う?」

「悪いやつをやっつけるため!」

一人の少年が答えた。

「それもあるね」

リオは頷いた。

「でも、本当に大切なのは——守るためだよ」

「守る?」

「そう。大切な人を守る。大切な場所を守る」

リオは子供たちの頭を撫でた。

「力は、誰かを傷つけるためじゃない。
誰かを守るためにあるんだ」

子供たちは、真剣に頷いた。

***

夜が更けて、子供たちが眠った後。

リオは一人、中庭の縁側に座っていた。

養父が隣に座る。

「リオ、お前は本当に強くなったな」

「……そうですね」

「でも、変わらない」

養父は微笑んだ。

「お前の優しさは、昔のままだ」

「それは……あなたが、そう育ててくれたからです」

リオは頭を下げた。

「ありがとうございます」

「礼を言うのは、私の方だよ」

養父は空を見上げた。

「お前がいてくれるから、この寺には笑顔がある」

「お前が稼いでくれるから、
子供たちは空腹に苦しまない」

「お前が守ってくれるから、みんな安心して眠れる」

「……」

「これからも、頼むよ」

養父は、リオの肩を叩いた。

「ああ、この子たちを——この場所を、守ってくれ」

***

リオは、眠っている子供たちを見た。

穏やかな寝息。

安心しきった顔。

ここには、争いがない。

奪い合いがない。

差別がない。

ただ、互いを思いやり、助け合う人々がいる。

貧しいかもしれない。

質素かもしれない。

でも——

ここには、笑顔がある。

温かさがある。

優しさがある。

「エリナ……」

リオは心の中で呟いた。

「これが、あなたが望んだ世界だよね」

エリナが幼いリオを抱きしめてくれた時のように。

エリナが優しく微笑んでくれた時のように。

今、リオもまた——子供たちを守っている。

「私は、これを守りたい」

リオは拳を握った。

「この場所を」

「この笑顔を」

「この優しい世界を」

彼は立ち上がった。

「どんな力を持っていても——」

「どんなに強くなっても——」

「私がすべきことは、変わらない」

リオは夜空を見上げた。

星が瞬いている。

まるで、エリナが微笑んでいるかのように。

「私は、弱い者の味方でいる」

「理不尽に苦しむ者を、助ける」

「そして——」

リオは光明寺を振り返った。

灯りが優しく灯る寺。

そこで眠る、大切な人々。

「この場所を、守り続ける」

「ここにいる、みんなの笑顔を守る」

「これが——」

リオは微笑んだ。

「私の使命だ」

風が、優しく吹いた。

リオの髪を撫で、寺を包み込む。

まるで、世界が彼の決意を祝福しているかのように。

***

翌朝。

「リオ兄ちゃん、起きて!」

子供たちの元気な声で、リオは目を覚ました。

「おはよう」

「おはよう! 今日は何する?」

「今日は、みんなで畑を耕そうか」

「やったあ!」

子供たちが駆けていく。

その後ろ姿を見て、リオは微笑んだ。

ここには、未来がある。

希望がある。

そして——愛がある。

「さあ、始めよう」

リオは立ち上がった。

「今日も、みんなで」

光明寺の鐘が鳴る。

新しい一日の始まり。

水の魔法使いリオは——

今日も、大切な人々を守るために歩き出す。

強大な力を持ちながら。

決して驕らず。

ただ、優しく。

それが、リオの生き方だった。

そして——

それは、これからも変わらない。

***

(エリナ、見ていてください)

(私は、あなたの望んだ世界を——)

(ここに、作り続けます)

(未来永劫)

空が、青く晴れ渡っていた。

**【番外編・完】**

水魔王のスピンオフみたいな作品を作りました

でも水魔王は出て来ません

あと「俺つえー作品って嫌い」っていう人や

「努力してなく強いのは嫌い」

なんてのをよく見かけるので

その辺も盛り込んでみました

 

 

# 風神と呼ばれた少年

## 第一章:見えざる強者

冒険者ギルドの酒場は、
今日も粗野な笑い声に満ちていた。

「おい、見ろよ。
またあのチビが依頼を受けようとしてるぜ」

「Fランクのくせに生意気だよな。
ああいう童顔のガキは、
せいぜい薬草採取でもしてりゃいいんだよ」

カウンターの前に立つ少年
――ユウは、背後から聞こえる嘲笑を聞き流していた。
慣れたものだ。
この小さな体と幼い顔立ちは、
いつも彼を過小評価させる。

「ユウ君、本当にこの依頼でいいの? 
森の盗賊団討伐よ。
少なくともCランク推奨なんだけど…」

受付嬢のミラが心配そうに眉をひそめる。

「大丈夫です。僕なら問題ありません」

ユウは穏やかに微笑んだ。その笑顔に嘘はない。
彼にとって盗賊団など、
朝の準備運動程度のものだった。

---

翌朝、
ユウが森へ向かうと知ったギルドの冒険者たちは、
哀れみの目を向けた。
だが数時間後、状況は一変する。

「盗賊団が…全滅だと?」

「一体誰がやったんだ!」

生き残った盗賊の証言は混乱していた。

「わからねぇ…風が…ただ風が吹いただけで、
仲間が次々と倒れていった…」

「黒い影みたいなものが見えた気がしたが…
速すぎて…」

その日を境に、噂が広まった。
「風神」と呼ばれる謎の冒険者の話。
誰も姿を見たことがない。
ただ風のように現れ、風のように去っていく。
百メートルを1秒で走り抜け、
近接格闘術と風魔法を組み合わせた
戦闘スタイルは、
人間の認識速度をはるかに超えていた。

ユウは今日も、ギルドで軽蔑の眼差しを受けながら、
次の依頼書を眺めていた。

---

## 第二章:幼馴染の視線

「ユウ! また無茶な依頼を受けたんですって?」
村に戻ったユウを待っていたのは、
幼馴染のセリアだった。
二つ年上の彼女は、村一番の狩人の娘で、
弓の腕前は既に一人前を超えている。

「セリア、大丈夫だよ。
ちゃんと帰ってきたでしょ?」

「それはそうだけど…」

セリアの脳裏に、幼い頃の記憶がよみがえる。
いじめっ子たちに囲まれ、
泣きそうになっているユウを何度も助けた日々。
彼女にとってユウは、
いつまでも守ってあげなければならない、
優しくて弱い男の子だった。

「あなた、
本当に冒険者に向いてないんじゃないかしら。
村で私と一緒に狩人になれば…」

「ありがとう、セリア。でも大丈夫」

ユウはいつもと同じ、柔らかな笑みを浮かべた。

それから数日後
――セリアの心に、ある記憶がよみがえってきた。

## 第三章:隠された真実

それは一年ほど前のことだった。
夜明け前、
セリアは狩りの準備のために村外れの森へ向かっていた。

まだ薄暗い森の中で、彼女は奇妙な音を聞いた。
風が唸る音――いや、それは風ではなかった。
好奇心に駆られて音の方へ近づくと、
月明かりの下で修行する少年の姿があった。

「ユウ…?」

セリアは思わず声を上げそうになり、
慌てて口を押さえた。

少年――ユウは風となって空間を切り裂いていた。
木々の間を縫うように、
残像すら残さない速度で移動し、
巨大な岩に拳を叩き込む。岩は音もなく砕け散った。
それは彼女の知る、
あの優しくて弱々しい幼馴染ではなかった。
セリアは息を呑んだまま、その光景を見つめていた。
しかしユウが振り返りそうになり、
彼女は慌ててその場を離れた。
見てはいけないものを見てしまった気がして、
彼女はその日のことを誰にも話さなかった。
自分でもなぜそうしたのか分からなかった。
あれは夢だったのかもしれない
――セリアはそう自分に言い聞かせていた。

「セリア? どうかした?」

ユウの声で、セリアは我に返った。
目の前には、
いつもの穏やかな笑顔を浮かべる幼馴染がいる。

「…ねえ、ユウ」

「うん?」

「あなた、毎晩森で修行してるの?」

ユウの表情が一瞬だけ驚きに変わった。

「…見られてたんだ」

彼は少し困ったように頭を掻いた。

「いつから知ってたの?」

「一年くらい前に…偶然見かけて」

「そっか」
ユウは静かに笑った。

「努力は人にアピールするものじゃないでしょ? 
だから誰にも言わなかったんだ」

「どうして…どうして黙ってたの? 
これだけ強ければ、みんなに認められるのに」

「僕がいくら強くても
所詮、大型魔獣や盗賊団を倒せるくらいだよ」

ユウは夜空を見上げた。
その瞳には、遠い憧憬が宿っている。

「本当に強い人は、一人で国を滅ぼせるような人だよ。
みんなちょっと強い人に
すぐ『俺つえー』って白けるよねって言うけど、
あんなのは本当に強いとは言わないよ」

「あなた…一体何を目指してるの?」

ユウの脳裏に、ある光景が浮かぶ。
幼い日、村を襲った魔獣の群れ。
絶望の中、突如現れた一人の魔法使い。
青い髪をなびかせ、その手を一振りするだけで、
海のような水流が魔獣たちを飲み込んだ。
「水魔王」と呼ばれたその人物は、
誰にも気づかれることなく去っていった。

「僕はね、いつかあの人みたいになりたいんだ」
ユウは静かに言った。

「本当の強さって、きっとそういうことなんだと思う」

セリアは、初めて知った。
自分の知らない世界で、
ユウはずっと前を向いて走り続けていたのだと。

「…ねえ、ユウ」

「うん?」

「その『風神』って噂になってる人…もしかして」

ユウは悪戯っぽく笑った。

「さあ、どうだろうね」

月夜の森に、静かな風が吹き抜けていった。
それは誰にも見えない、
少年の足跡を運んでいく風だった。


―――終―――

 

シリーズ化していたこの作品も

今回でひとまず終わりです

一応 番外編も考えてはいます

でも番外編は異世界転生モノの

テンプレみたいな作品になるだろうなぁ・・・

と思うので作ろうかどうしようか悩み中です

 

 

 

第八章 崩壊と選択


アクアリア共和国、首都。
その街は、地獄と化していた。

「魔族だ! 魔族が来るぞ!」

「逃げろ! もうこの街は終わりだ!」

人々が逃げ惑う中、炎と破壊が広がっていく。
北部の魔族戦線から、
クリムゾンを引き抜いた代償
——それは、あまりにも大きかった。
防衛線は崩壊した。
北部の五十の村が、次々と襲撃され、全滅した。
そして今、魔族の大軍は首都近郊まで迫っていた。

「クリムゾン様はまだか!」

兵士が叫ぶ。

「無理だ! まだ寝たきりだ!」

アクアリスでの戦いで重傷を負ったクリムゾンは、
いまだベッドの上にいた。
リオの魔法により受けた傷は深く、
戦場に出られる状態ではない。

「終わりだ……この国は終わりだ……」

総督府では、ガルバが喚いていた。

「これは私のせいではない!」

側近たちに向かって叫ぶ。

「クリムゾンが弱かったのが悪い! 
あの氷の都市が悪い! 魔族が悪いんだ!」

「総督閣下、早く避難を……」

「そうだ! 私は避難する! 
お前たちは残って戦え!」

ガルバは金品を詰め込み、逃げ出そうとした。
だが、総督府の門で——

「待て、ガルバ!」

怒れる市民たちが立ちはだかった。

「貴様のせいだ! 
貴様が英雄を呼び寄せたせいで、
こんなことになった!」

「ど、どけ! 私は総督だぞ!」

「もう総督なんていらない!」

刃が振り下ろされた。
ガルバは、最後まで「自分は悪くない」
と叫びながら——倒れた。

共和国からの避難民は、数千人に及んだ。
彼らは必死で北へ、西へと逃げた。
そして、その噂を聞いていた。

「アクアリス……氷壁の都市……」

「あそこなら、助けてくれるかもしれない」

「行こう! アクアリスへ!」

数週間後、
アクアリスの氷壁の前に、大勢の避難民が到着した。
疲れ果て、怯えた顔の人々。
子供を抱えた母親、老人、傷ついた兵士——

「お願いします! 助けてください!」

彼らの叫びに、氷壁の門が開いた。
リオが現れる。

「ようこそ」

リオは静かに言った。

「皆さんを、受け入れます」

避難民たちは歓声を上げた。

「ただし」

リオの声が、その歓声を静めた。

「条件があります」

アクアリスの入口で、リオは避難民全員を集めた。

「この都市に入るには、
四つの誓いを立ててもらいます」

リオは厳かに宣言した。
「第一 ——人を傷つけない」
「第二——人から奪わない」
「第三——人より上に立とうとしない」
「第四——自分よりも、人のために努力する」
避難民たちは、ざわめいた。

「これは……厳しいな」

「でも、生きるためなら……」

渋々ながらも、多くの人が頷いた。
だが、一部の人々は顔をしかめている。

「さらに」

リオは続けた。

「子供たちは、都市全体で育てます」
「家族になれるのは、パートナーまでです」
「子供は共同体の子供として、みんなで育てます」
「そして、行政が家系図を管理し、
将来の健康に備えます」

「何だと!」
一人の男が叫んだ。

「自分の子供を手放せというのか!」

「手放すのではありません」

リオは冷静に答えた。

「共同体で育てるのです。
あなたも、他の子供たちの親になるのです」

「冗談じゃない! 自分の子供は自分で育てる!」

男は怒って去っていった。
同じように、数十人の親たちが去った。
リオは悲しそうに、だが毅然として見送った。

「これは、格差をなくすために必要なことです」

「親の貧富や地位で、
子供の未来が決まってしまう
——それを、私たちは許しません」

「そして、最後に」

リオは、さらに厳しい表情になった。

「子供が法を犯した場合、厳しい罰を与えます」
「子供だから許される、ということはありません」

また、避難民たちがざわめいた。

「厳しすぎる!」
「子供には優しくすべきだ!」

「聞いてください」
リオは声を張った。

「人は、大人になると変わりにくくなります」

「これまでの経験を重視し、
新しいことを受け入れられなくなる」

「だからこそ、子供のうちに
正しく教育しなければならないのです」

「悪事のハードルは、
一度下がると、どんどん下がっていきます」

「だから、最初が肝心なのです」

ある母親が泣きながら言った。

「でも……子供は間違いを犯すものです……」

「その通りです」
リオは優しく答えた。

「だからこそ、
早い段階で正さなければならないのです」

「甘やかすことは、優しさではありません」

「時には厳しさも、愛なのです」

しかし、多くの親たちは受け入れられなかった。
結局、避難民の半数近くが、
アクアリスへの入都を拒否した。

「行こう……他に何とかなる場所があるはずだ」

彼らは去っていった。
リオは、それを止めなかった。

アクアリスの門をくぐった避難民は、約二千人。
彼らは、全ての条件を受け入れた。

「歓迎します」
リオは微笑んだ。

「ここが、あなたたちの新しい家です」

都市の人々が、温かく彼らを迎えた。
食事が用意され、住居が与えられ、
新しい生活が始まった。

一方、アクアリスを去った避難民たちは——

「本当にこれで良かったのか……」
ある父親が、不安そうに呟いた。

「大丈夫よ」
妻が子供を抱きしめる。

「私たちには、この子がいる。
家族で一緒にいられれば、きっと何とかなるわ」

彼らは森の中を進んでいた。約千人の避難民の群れ。

「どこか、別の街があるはずだ」

「そうだ、アクアリスだけが安全な場所じゃない」

だが、その希望は——

「ギャアアアアッ!」

突然、悲鳴が上がった。
森の奥から、魔族の群れが現れた。

「に、逃げろ!」

人々は逃げ惑った。
だが、魔族は容赦なく追いかけてくる。

「お母さん!」

少女が転んだ。

「待って! 娘が!」

母親が戻ろうとするが、群衆に押されて進めない。
魔族の大きな手が、少女を掴み上げた。

「やめて! やめてえええっ!」

母親の叫びも虚しく——
魔族は少女の体を、両手で引き裂いた。
血と肉片が飛び散る。

「ああああああっ! 娘があああああっ!」

母親は狂ったように叫んだ。
その母親も、次の瞬間、別の魔族に頭を掴まれ
——地面に叩きつけられた。

「父さん! 母さん!」

幼い兄弟が、親の手を握って走っていた。
だが、魔族が追いついた。

「離すな! 絶対に離すな!」

父親が必死で子供たちの手を握る。
だが、魔族の巨大な腕が、父親を殴り飛ばした。

「うわああっ!」

父親の手から、子供たちの手が離れる。

「父さん! 父さああああん!」

兄弟は引き離された。
兄は魔族に捕まり、高く持ち上げられた。

「やめろ! その子を離せ!」
父親が這いつくばって叫ぶ。

目の前で——
魔族は兄の両腕を掴み、引き千切った。

「ぎゃああああああっ!」
少年の絶叫。

そして、その体は——地面に投げ捨てられた。

「ああああ……ああああああ……」
父親は、もはや言葉にならない声を上げていた。

弟は、別の魔族に捕まっていた。
まだ五歳にもならない子供。
魔族は、その小さな体を——壁に叩きつけた。
一度、二度、三度——

「やめろ……やめてくれ……お願いだ……」

父親の懇願も、魔族には届かない。
弟の体は、もはや原型を留めていなかった。

「条件を……受け入れれば……」

ある老人が、血を吐きながら呟いた。

「受け入れれば……良かった……」

彼の腕は引き千切られ、足は折られていた。

「あの都市に……いれば……」

だが、その言葉も最後まで続かなかった。
魔族の爪が、老人の胸を貫いた。

「助けて! 誰か! 誰か助けて!」

母親が泣き叫んでいた。
彼女の腕の中には、まだ赤ん坊がいた。

「この子だけは! この子だけは助けて!」

だが、魔族は容赦しなかった。
赤ん坊を母親の腕から奪い取り——
母親の目の前で、地面に叩きつけた。

「ああああああああっ!」

母親の絶叫が、森に響く。

「アクアリスに……行けば……良かった……」

彼女は泣き崩れた。

「子供を……手放しても……生きていれば……」

「共同体で育ててもらえれば……」

「この子は……死ななかった……」

だが、後悔は遅すぎた。
魔族の剣が、母親の背を貫いた。

虐殺は、数時間続いた。
森は血で染まり、肉片が散乱し、
叫び声がこだまする地獄と化した。
アクアリスの条件を拒否した千人近い避難民——
その中で、生き残った者は、一人もいなかった。
全員が、魔族に蹂躙され、殺された。
親子は引き裂かれ、家族は八つ裂きにされ、
希望は完全に踏み潰された。
彼らが最後に思ったことは、
おそらく同じだっただろう。

「アクアリスに入れば良かった」

「あの条件を受け入れれば良かった」

「厳しくても、生きていられた」

「子供たちは、生きていられた」

だが——
もう、遅かった。

そして、魔族の大軍は、
ついにアクアリスにも到達した。

「おお……あれが噂の都市か」
魔族の将軍が、氷壁を見上げた。

「面白い。踏み潰してやろう」

数千の魔族が、一斉に氷壁へと殺到する。

その瞬間——
自動防衛システム起動
氷壁の各所から、高圧水流が噴射された。
魔族たちが吹き飛ばされる。

「な、何だ!」

地面が凍結し、魔族の足を捕らえる。
空から氷の槍が降り注ぐ。
海からは巨大な渦が発生し、
海路から接近しようとした魔族を飲み込む。

「退却だ! 退却しろ!」

だが、遅かった。
防衛システムは完璧に機能した。
魔族の大軍は、わずか数時間で壊滅した。

都市の中では、人々が見守っていた。

「すごい……」

「リオ様がいなくても、守れる……」
ダンが感動したように呟く。

「これなら……リオ様だけに負担をかけなくても、
都市を守っていける」
トムも頷いた。

「ああ……これで、安心だ」

新しく加わった共和国からの避難民も、
涙を流していた。

「入れてもらって……本当に良かった」

「あの条件は厳しかった。
でも、それが正しかったんだ」

「ここなら……子供たちは、安全に育つ」

人々の間に、安堵と確信が広がった。

その夜、リオは一人、氷壁の上に立っていた。
防衛システムは完璧に機能した。
新しい市民たちも、無事に受け入れられた。
だが、リオの心は重かった。

「千人……」
彼は呟いた。

「千人が、死んだ」

条件を受け入れなかった人々。
彼らは、魔族に虐殺された。

「私が……もっと説得すれば……」

だが、リオは首を振った。

「いや、違う」

彼は拳を握った。

「私は、全てを説明した。理由も、必要性も」

「それでも、受け入れられなかった」

「それは……彼らの選択だった」

厳しい言葉だが、それが真実だった。
アクアリスには、アクアリスのルールがある。
それを守れない者を受け入れれば
——都市全体が崩壊する。
千年前、アクアリア帝国が崩壊したように。

「私は……間違っていない」
リオは自分に言い聞かせた。

「この都市を守るために、厳しくあらねばならない」

「甘さは、優しさではない」

「真の優しさとは——今と未来を守ることだ」

リオは都市を見下ろした。
灯りが優しく瞬いている。
人々が笑い、子供たちが学び、
みんなが助け合って生きている。
ここには、争いがない。
飢えがない。
暴力がない。
理不尽がない。

「エリナ……」
リオは夜空を見上げた。

「私は、あなたが望んだ世界を、ここに作った」

「小さな世界だけれど……確かに、ここにある」

星が瞬く。
まるで、エリナが微笑んでいるかのように。

「私は願う」

リオは両手を合わせた。

「この優しい街が、未来永劫、続きますように」

「どれだけ時が経っても、人々が互いを思いやり、
助け合う心を失いませんように」

「私がいなくなっても、
この理想が受け継がれますように」

「子供たちが、孫たちが、そのまた子孫たちが——」

「ずっと、ずっと、この平和を守り続けますように」

風が、優しく吹き抜けた。
リオの髪を撫で、都市を包み込む。
まるで、世界が彼の願いを聞き届けたかのように。

「ありがとう、エリナ」

リオは微笑んだ。

「あなたに出会えて、あなたに教えられて」

「だから私は、この世界を作れた」

「あなたがいたから——」

涙が、一筋、頬を伝った。
でも、それは悲しみの涙ではない。
感謝の涙。
そして、希望の涙。

アクアリス。
氷壁に守られた、水の都。
そこでは今夜も、人々が幸せに眠っている。
子供たちが安心して夢を見ている。
老人たちが穏やかに余生を過ごしている。
争いはなく、暴力はなく、理不尽もない。
ただ、優しさと、思いやりと、助け合いがある。
それは、千年前にリオが夢見た世界。
エリナが望んだ世界。

そして今——
それは、現実となった。

「未来永劫、この街が続きますように」

リオは、最後にもう一度、願った。
星々が、その願いに応えるように——
一斉に、輝きを増した。
水の都アクアリス。
その物語は、ここから始まる。
いや——
ここから、永遠に続いていく。

【完】
 

アクアリス側のネタは

今のところこれで終わりなので

次回でこのシリーズは終わる予定です

 

 

第七章 未来への備え
ミラとの会話から数日後、リオは重大な決断をした。

「みんなを集めてくれ」

リオは主要なメンバーを会議室に招集した。
ダン、トム、エマ、ミラ、
そして新しく加わった技術者や学者たち。

「今日、話したいことがある」

リオは真剣な表情で言った。

「私が、いなくなった後のことだ」

「リオ様、何を——」

ダンが驚いて立ち上がる。

「落ち着いて聞いてくれ」

リオは手で制した。

「私は、いつか必ず死ぬ。それは避けられない」

「でも、リオは大魔法使いだ。まだまだ——」

「分からない」

リオは首を振った。

「私の前世は、老衰で死んだ。
だが、今回も同じとは限らない。
事故かもしれない。病かもしれない」

「あるいは……」

リオは窓の外、氷壁の向こうを見た。

「また、誰かに殺されるかもしれない」

沈黙が会議室を支配した。

「だからこそ、準備が必要だ」

リオは立ち上がった。

「私がいなくなっても、アクアリスを守れる力を」

それから半年間、
リオは驚くべきプロジェクトを進めた。
都市の地下深く、巨大な施設が建設されていく。

「リオ様、これは……」

技術者たちが、設計図を見て驚愕する。

「魔法兵器だ」

リオは静かに答えた。

「私の水魔法を結晶化し、
半永久的に機能する防衛システム」

その内容は、恐るべきものだった。
自動迎撃システム「アクア・ガーディアン」

氷壁の周囲を監視し、敵対的な接近を感知
高圧水流による遠距離攻撃
瞬間凍結による敵の無力化
濃霧展開による視界の遮断

海洋防衛システム「オーシャン・センチネル」

海からの侵攻を感知
渦潮の生成により艦隊を無力化
氷山の生成による航路封鎖
海流操作による敵船の強制排除

空中防衛システム「スカイ・プロテクター」

飛行による侵入を感知
水蒸気による雲の生成と視界妨害
氷の槍による対空攻撃
雹による広範囲攻撃

「これらは全て、防衛専用だ」

リオは強調した。

「絶対に、攻撃には使えない」

そして、リオは最も重要な作業に取り掛かった。
魔法的拘束の付与。
都市の中央、最も深い地下室で、
リオは巨大な魔法陣を描いていた。

「この魔法陣は、全ての防衛システムに制約をかける」

リオは汗を拭いながら説明する。
「第一の制約——防衛以外での使用禁止」
「第二の制約——非武装の民間人への攻撃禁止」
「第三の制約——弱者への使用禁止」
「第四の制約——アクアリス市民の総意なくしては
起動不可」

ダンが尋ねた。

「でも、どうやってその『制約』を守らせるんだ?」

「魔法の契約だ」

リオは魔法陣に手を置いた。

「これは、私の命と魂を担保にした絶対契約」

「もし、誰かがこの制約を破ろうとすれば
——システムは永久に停止する」

「さらに、制約を破ろうとした者は、
魔法陣の呪いを受ける」

エマが震える声で聞いた。

「呪い……とは?」

「魔力の永久喪失」

リオは厳しい顔で答えた。

「二度と、魔法を使えなくなる」

「そこまで……」

「そこまでしなければ、意味がない」

リオは言った。

「力は、必ず腐敗する。
絶対的な力は、絶対的に腐敗する」
「だからこそ、絶対的な制約が必要なんだ」

さらに、リオは別の制約も組み込んだ。

「この防衛システムは、弱者を守るためにも機能する」

「例えば、アクアリス内で暴力が発生した場合——」

リオは魔法陣の一部を指し示す。

「システムは自動的に介入し、暴力を止める」
「水の拘束で、加害者を無力化する」
「ただし、決して傷つけない。拘束するだけだ」

トムが感心したように言った。

「つまり、この都市では、
力による支配が不可能になるってことか」

「そうだ」

リオは頷いた。

「誰も、暴力で他者を支配できない」
「誰も、力で弱者を虐げられない」
「それが、私が望む世界だ」

システムの完成には、一年かかった。
起動式の日、リオは全市民を集めた。

「今日から、アクアリスは新しい時代に入る」

リオは高台から宣言した。

「この都市には、強力な防衛システムがある」
「しかし、それは決して、攻撃のための力ではない」
「守るための力だ」
「そして、その力は——絶対に、弱者を傷つけない」

リオは深呼吸した。

「私がいなくなっても、このシステムが君たちを守る」
「だが、忘れないでほしい」
「本当に大切なのは、力ではない」
「互いを思いやる心だ」
「それを失った時、どんな力も無意味になる」

人々は静かに聞いていた。

「さあ、起動する」

リオは魔法陣に魔力を注ぎ込んだ。
地下深くから、光が立ち上る。
都市全体が、淡い青い光に包まれた。
システムが起動した。
見えない守護者が、都市を見守り始めた。

その夜、リオは疲れ果てて部屋に戻った。

「これで……いいのか……」

彼は自問した。

「私は、正しいことをしたのか……」

強力な軍事力。それは、諸刃の剣だ。
使い方を誤れば、恐ろしい破壊をもたらす。

「でも……」

リオは拳を握った。

「制約をかけた。絶対的な制約を」
「これなら、きっと……大丈夫だ」

窓の外では、都市が静かに眠っていた。
淡い青い光が、優しく都市を包んでいる。

(エリナ……)

リオは心の中で呟いた。

(私は、できる限りのことをした)
(後は……信じるしかない)
(この都市の人々を)
(未来を生きる人々を)

月が、静かに昇っていく。
アクアリスは、今日も平和だった。
そして、その平和は
——これからも続くはずだった。

(続く)