たまに現実世界で魔法が使える話とか
現実世界で狼男や吸血鬼が出る話とか
現実世界にファンタジー要素を入れた作品があるので
現実世界にゴーレムが作れる人がいたら面白そう
と思い作りました
# ゴーレムメイカー
僕は平凡な高校生だ。
成績は下から数えた方が早く、クラスでも目立たない存在。
運動も苦手で、何人かの同級生からは
冷やかしやからかいの対象にされている。
でも、僕には誰にも言えない秘密がある。
ゴーレムが作れるのだ。
土でも石でも、水でも金属でも。触れた物質から、
意のままに動く人型の造形物を生み出せる。
大きさも自由自在。
手のひらサイズから数十メートルまで。
一度、調子に乗って数キロメートル級を作ろうとしたら、
頭が割れるような激痛に襲われて倒れた。
それ以来、大きくても数十メートルまでに留めている。
ゴーレムたちは僕の命令を完璧に実行する。
材質に応じた防御力と、人間離れした腕力を持ち、
自分の身体の一部を弾丸のように射出することもできる。
でも、僕はこの能力を誰にも話していない。
親にも、友達にも。
目立ちたくないから。
異能者だとバレたら、今の生活が壊れる気がするから。
だから密かに楽しんでいた。
夜中、自分の部屋で粘土から
小さなゴーレムを何体も作って遊ぶ。
休日には人気のない山奥へ行き、
木々の影からシャドウゴーレムを生み出して、
まるで映画のワンシーンのような光景を眺める。
それだけで十分だった。
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帰り道、
横断歩道の手前で信号待ちをしていた時のことだ。
突然、小さな子供が母親の手を振りほどいて
車道へ飛び出した。
ボールが転がって行ったのを追いかけたらしい。
猛スピードで迫る軽トラック。
ブレーキ音。母親の悲鳴。
僕の身体は反射的に動いていた。
足元のマンホールに手を触れる。
一瞬で高さ三メートルほどの
アイアンゴーレムが車道に出現し、
子供を抱え上げて歩道へ戻す。
直後、軽トラックがゴーレムに激突。
フロント部分が大きく潰れ、急停止する。
子供は無傷だった。
騒ぎを聞きつけた野次馬が集まり始める。
僕はすぐにゴーレムを消して、人混みに紛れた。
運転手は呆然としながらも怪我はないようだった。
警察が来る前に、僕はその場を離れた。
後日のニュースでは
「急ブレーキをかけた際に電柱に衝突した自損事故」
として処理されていた。
誰もゴーレムの存在には気づいていない。
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それから数週間後、
今度は川沿いの道を歩いていた時だ。
「助けてー!」
子供の声。
川面を見ると、小学生くらいの男の子が
必死に手を振っている。
流れに足を取られたのか、
どんどん下流へ流されていく。
周囲に人はいない。
迷っている暇はなかった。
川の水に指先を浸す。
透明な水のゴーレムが川の中に立ち上がり、
子供を優しくすくい上げて岸辺まで運ぶ。
子供は咳き込みながらも無事だった。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
僕は何も言わず、ただ頷いて立ち去った。
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そして、あの日。
下校中、商店街を歩いていると、
前方のビルから黒煙が上がっていた。
火災だ。消防車のサイレンが近づいてくる。
野次馬に混じって様子を見ていると、
誰かが叫んだ。
「まだ中に人がいる! 三階に!」
窓から必死に手を振る人影。
煙で顔ははっきり見えないが、女性のようだ。
その時、近くにいた男性がスマホの写真を見せながら
消防隊員に何か話していた。
画面がちらりと見えた。
藤崎さんだ。
僕が半年前から密かに想いを寄せている、
クラスメイトの藤崎美咲さん。
彼女は地元でも有名な資産家の一人娘で、
清楚で上品なお嬢様だ。
でも気取ったところは一切なく、
誰にでも分け隔てなく優しい。
クラスの人気者で、男女問わず慕われている。
僕なんかとは住む世界が違う。
でも、忘れられない日がある。
半年前、
いつものように数人のクラスメイトに
絡まれていた時のことだ。
「ノロマ」「役立たず」と罵られ、
ついには顔を殴られた。
鼻血が出て、僕は廊下にうずくまった。
周りの生徒たちは見て見ぬふり。
当然だ。関わりたくないだろう。
その時、白いハンカチが目の前に差し出された。
「大丈夫? 保健室、行こう」
藤崎さんだった。
優しい声で、
まるで汚れた僕を嫌がる素振りも見せずに。
「あ、いや、大丈夫です」
僕は慌てて立ち上がった。
ハンカチを受け取ることさえ躊躇ったが、
彼女は無理やり僕の手に握らせた。
「血が出てるよ。ちゃんと止めないと」
それだけ言って、
彼女は僕を保健室まで連れて行ってくれた。
後日、洗濯して返そうとしたハンカチを、
彼女は「もういいよ」と笑顔で断った。
あの日から、彼女のことが頭から離れなくなった。
不思議なことに、あの出来事以降、
表立った虐めは減った。
藤崎さんの影響力だろう。
クラスの誰もが彼女を尊重している。
彼女が気にかけた人間を、
露骨に虐めることはしなくなった。
それでも、陰口や冷たい視線は消えない。
からかいも続いている。
でも、少なくとも暴力は減った。
それも全て、彼女のおかげだ。
でも、話しかける勇気なんてない。
僕みたいな人間が彼女に近づいたら、
迷惑をかけるだけだ。
彼女の優しさに甘えるわけにはいかない。
心臓が跳ね上がった。
「消防が来るまで待て」という理性の声が聞こえる。
でも身体は勝手に動いていた。
建物の影に隠れ、近くの工事現場の鉄骨に触れる。
高さ五メートルほどの耐火金属製ゴーレムを生み出す。
建物の裏側から送り込み、
三階の窓を破って侵入させた。
煙の中、ゴーレムは藤崎さんを見つけて抱きかかえる。
窓から飛び降り、地上に降り立つと同時に消防隊が到着。
僕はすぐにゴーレムを消した。
藤崎さんは煙を吸って咳き込んでいたが、
命に別状はなさそうだった。
救急隊員に囲まれる彼女を、
僕は遠くから見守るだけだった。
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翌日の学校。
藤崎さんは包帯を巻いた手で登校してきた。
教室中が彼女の無事を喜んでいる。
僕は自分の席で、
いつものように一人で窓の外を眺めていた。
「昨日はすごかったんだよ。
鉄の巨人みたいなのが助けてくれて」
藤崎さんが友達に話しているのが聞こえる。
「それ、夢じゃない? 煙吸って」
「ううん、絶対に見た。暖かい金属の腕だった」
僕は小さく微笑んだ。
誰にも気づかれない。
誰にも感謝されない。それでいい。
学校では虐められ、成績も良くない。
友達も少ない。目立たない、平凡な高校生。
でも、僕にもできることがある。
人を助けられる。
それだけで、十分だった。
廊下から藤崎さんの笑い声が聞こえる。
話しかける勇気なんて、僕にはない。
でも、彼女が笑っていてくれるなら。
それだけで、僕は満たされていた。
窓の外、秋の空は高く青かった。