サンダンス映画祭が、携帯向けのショートフィルムを制作上映する。
サンダンス映画祭といえば、ロバート・レッドフォードが創設し、これまで、スティーブン・ソダーバーグ、クエンティン・タランティーノ、ロバート・ロドリゲス……といった、一癖ある映画監督を排出してきたインディペンデント系若手映画人の登竜門だ。

sundance

 毎年1月に、ユタ州の田舎町で開催され、地方色豊かなのどかな映画祭の面もある一方で、ここ数年は、最先端のデジタル技術を使って映画を製作、公開することにひじょうに熱心だった(過去のWired news これこれ)。Adobe SystemsやHewlett-Packard、IntelなどのIT系企業が後援していることもあって、一種の技術のパブリシティという役目も担っているのだろう。

 今回は、携帯通信事業の業界団体GSM Associationと共同で、携帯電話向けのショートフィルムを上映するプロジェクトを立ち上げた。5分ほどの短編映画が5本制作され、1月の映画祭で公開される。11月8日に、ロバート・レッドフォード自ら発表している。その模様のビデオはこちら

 このところ、携帯電話はipodなどの携帯型小型端末で、映像を観る機会が徐々に増えているが、ワンセグを含めて、映画やテレビ向けのコンテンツを転用し、ただ小型端末で受信、再生しているにすぎない。個人的に、この映画祭の企画に期待しているのは、小型端末に適した、小型端末ならではの映像表現が登場することだ。

 1920年代のサイレント映画の時代に、カットバック、クローズアップ、モンタージュといった今の映画の撮影・編集技法の基礎ができあがったわけだが、それらの技法は、大画面で観ることを前提としている。映画には映画なりの映像編集法があるように、テレビにはテレビの映像編集法が、ケータイにはケータイ向けの映像編集法があるはずなのだ。例えば、僕のような素人が考えると──引きの映像が多いと、小さすぎてよくわからないからアップが多用されるようになるだろう。そして、空いた時間に、暇つぶぶしに観られることが多い、携帯端末の特性を考えると、最初の極々短い時間で注意を引きつけ、ヤマを持ってくる展開・・といったところか。

 映像作家が、小型携帯端末向けに、どんな映像"文法"を生み出すしてくれるのか、ひじょうに楽しみ。そして、映画やテレビからのコンテンツを転用するのではなく、ipodや携帯向けに特化した映像が生み出されることで、この分野はさらに人気を博して行くことになるのだろう。
 今年は、"動画"が、主役に躍り出た年、と言えるだろう。90年代前半からマルチメディアはさまざまな形で喧伝されてきたわけだけれど、これまで実質的にネットで広く流通してきたのは、音声でも画像でもなく、文字、だった。それが今年に入って一気に動画が主役に立ち始めた。この動画ブームは、これからますます盛んになるだろう。やはりYouTubeの存在が大きいが、その背景には、アメリカでブロードバンドの一般化がある。日本では、すでに何年も前からそうしたインフラは整っていたのだが、残念ながらYouTubeのような爆発的ウェブサービスが開発されなかったのは、なんとも寂しいところ。

 それはさておき、こうした映像や音声の流通といったマルチメディア化は、ジャーナリズムの世界にもやってきていて、このところ多くの新聞社や通信社のサイトが、各自オリジナルのビデオニュースや音声のポッドキャストのサービスを始めている。またいっぽうでは、つい先日も、Dow Jonesが地方新聞6紙を売却する、という発表があったように伝統的メディア企業が、これからますますオンラインビジネスにシフトしていきそうだ。

 そうした事態に、ジャーナリストも対応を迫られていて、「Knight New Media Centor」のようなジャーナリストを対象にしたニューメディア学校がある。この学校のカリキュラムを見ると、オンライン・メディアのジャーナリストのためのコンテンツ・プランの立て方、編集やライティング法、といったものもあるが、伝統的メディアのジャーナリストが、新しいメディア環境に対応するために、デジタルビデオカメラの使い方、音声、動画編集、Flash、webデザインを習得する、というといったものもある。

knight
 
 以前、ニューヨークの地方テレビ局NY1が、レポーターにテレビカメラを持たせて、一人で、カメラマン、レポーター、編集もこなすことで、コスト削減をはかって話題になったことがあったけれど、これからのオンライン・メディアの取材現場は、Macとビデオカメラ片手に、一人で何役も兼任する、ということになるんだろうか。あ~忙しない。

 記事の執筆と映像の編集では、かなり異なったノウハウが必要になるが、これだけ多くの人々が、自らの映像をネットにアップしている様を見ると、ジャーナリストにとっても、この両方の技術を兼ね備えることが必須となる時代が来る気がする。その時には、すでにメディアの業態も大きく変わっているに違いない。また、そのために、日本でもジャーナリスト向けの学校が開校されることはないだろうけれど。
 バルセロナの話題をもうひとつ。先週の27日から29日まで、スペイン最大のマンガイベント「SALON DEL MANGA」が開かれていた。新聞などによるとモンキーパンチさんなどがゲストで招待されていたとのことで、来場者58000人。

 残念ながら、参加できなかったのだが、28日土曜日は、コスプレをした人は、入場料無料になるということもあって、バルセロナ市内の地下鉄の車内で、コスプレをした若者を多数見かけた。羽織を着たり、キョンシー風だったりとややビミョーな感じの人もいたけれど・・。会場で着替えることがないのか、コスプレして電車に乗り込んでくるので、もう目立つこと。コスプレ集団の近くにいたオジさんが、最初はジロジロ見ていたが、我慢できなくなったのか、何事か彼らに問いただし始め、最初は丁寧に応えていた若者も、だんだんウザくなったらしく、下向いてた。オタク道を突き進むのも大変だ・・w。

 このイベントもすでに12回目だという。以前、別のブログで、アメリカやヨーロッパでマンガ市場を開拓した堀淵清治氏による『萌えるアメリカ』について書いたことがあるけれど、こうして大きなムーブメントになったのも、堀淵さん達の苦労があったことを思うとなにか感慨深いものがある。
 写真は、方々の地下鉄駅にあったイベントの告知看板。

manag061031
 ただいま、バルセロナ滞在中。26日から29日まで開催されていた、デジタルアートの展覧会ArtFutura2006を見る。カンファレンスには日本から松浦雅也氏クワクボリョウタ氏が講演。アートからゲーム、ビジネスにも対応可能な情報デザイン・・など、バラエティに富んだプログラム。

artfutur061030

 日本でこの手の展覧会が行なわれると、アート、ゲーム、ビジネス、と極端に振れてしまいがちだが、ここでは、それらの間を取るようなバランスがよかった。個人的に楽しめたのは、情報美学と情報デザインを扱ったAndrew Vande Moere氏の講演。具体的な事例は、彼のウェブにも紹介されているので、こちらを見ていただけれるといい。日本でも有名なサイトなどもあるが、ウェブを使ったデータの視覚化、ビジュアルデザインの可能性を改めて認識した。

 残念ながら、見ることができなかったが、当地で注目を集めていたのは、キアヌ・リーブス新作「A Scanner Darkly」の試写。P.K.ディックの小説「暗闇のスキャナー」を映画化したもので、実写の人物をフレーム毎にアニメーション化するというとんでもなく手間のかかる作業を施している。日本でももうすぐ公開されるようなので、すぐ話題になるだろう。実写とアニメーションを融合させたこの手法は、幻想と現実を行き来するディックの小説世界にまさにぴったりのように思う。脚本の出来は確認してませんが・・。オフィシャルサイトはこちら

scanner
 "Microsoft geek blogger "として有名だったRobert Scobleが、Microsoftからポッドキャスト・ベンチャーのPodtech.netに転職し、ビデオブログ「Scoble Show」を開始したことは、先日、もうひとつのブログでエントリーした。このビデオブログは、クオリティーも高く、ビデオブログ新時代の到来を感じさせたのだが、自身のブログ「Scobleizer」で、その採算性の悪い現状について、内情を語っている。以下、こんな感じ。

scoble

「ブログ広告ネットワーク「Federated Media」を運営しているジョン・バッテル(*『ザ・サーチ』の著者)に会い、インターネットのコンテンツ・ビジネスについて話し合った。多くのブロガーが、CPM10ドルから40ドルの広告収入を得ている。1000人アクセスする度に、10ドルほど支払われる、ということ。多くのアクセスを得ているブロガーにはこれはかなりの収入だ。

 だが、ビデオの場合は事情が異なる。今、ひとつのエントリーにつき200MBぐらいのデータをアップしているが、回線帯域を確保するために1000ダウンロードにつき28ドル支払っている。ということは、28ドル支払って広告料10ドルを得る、ということになる。ビデオがいい商売だって言ったのは誰だ?

 他にも制作費が必要。撮影のため1時間90ドル、編集のために120ドル、計210ドルは必要。さらに、ヴビデオカメラとMacも・・。

 しかし、ビデオブログのネットワークをつくるためのチャレンジをするつもりだ。もし、グーグルや他の広告主が、ビデオ広告収入をコストよりも高くなるようにしてくれるようなら、私たちはもっと、面白いビデオを見ることができるようんなるだろう。もしそうでなけらば、カスのようなものばかり見ることになる。」


 ビデオブログに進出した有名ブロガーの切実な悩み……。
 確かに、ビデオのほうが手間もコストもかかるし、それをテキストベースのブログと同じPV換算で広告料金を設定されては割に合わない、と考えるのもわかる。現状を変えるには、やはり、ビデオならではの特徴を持った広告配信システムや新しい広告評価の形を考案する必要があるんだろう。そうなると、先のエントリーの「GoogleがYouTubeを買った本当の理由」とテーマもやや重なるところ。

 それにしても、これからビデオブログの広告料金が上がることになったとしても、なにかあやふやで、危ういものを基盤にしていることは確かだ。今、通常のブログがCPM10ドルから40ドルの広告収入を得ているというのも、適正なのかバブルなのかもわからない。個人的には、ややバブルなんじゃないか、と思う。(日本はコストのかかるニュースサイトでもとんでもなく安いし・・。)そのあたりはそのメディアの広告市場の成熟とともに、徐々に調整されていくところなのだが、ネットでは調整される前に新しい形のメディア、新しい広告システムが生まれる。
 このあたり、新しいメディアが関わる者の醍醐味でもあり、ひじょうに判断の難しいところだ。