先日エントリーした(これこれも)とおり、「Business2.0」は、ここへきてバタバタしながら、スタッフブログの積極的な導入を図っているが、昨年あたりから、スタッフブログを含めて、オンラインに積極的な姿勢を示していたのは「BusinessWeek」。ウェブ版でのコンテンツは、ブログはもちろん、ビデオやスライドショーなど、すばらしい充実度だ。ちょうど、BusinessWeek編集長のインタビューが、FT.comに掲載されていた。以下、だいたいのサマリー。

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「Wall Street Journalで、オンライン版を担当する代理編集局長だったStephen Adlerは、昨年から、Businessweekの編集長となり、プリント版以外への進出を積極的に図っている。それまで、編集者のパートタイムワークだったウェブ版編集作業に専任を設け、ジャーナリストには積極的にブログを書くように命令。それによって、web版オリジナルの記事は、2005年には全体の33%だったのに対し、今年は46%までアップしている。
 
 またコストカットのために、ヨーロッパ版とアジア版を廃止。その代わりに、オンラインでそれらの地域向けにカスタマイズしている。

 著名ライターも、Businessweekのサイトでブログを開始し、ビデオ映像コンテンツも増やしている。そのかいあって、8月には710万ユニークユーザー、5000万PV。紙版の広告は、変化がなかったが、オンライン版は61%アップ。

 紙版は週平均930万部。来年、コンデナストからビジネス雑誌「Portfolio」が発行され、競合となるとも言われているが、「Portfolio」は、「Vanity Fair」のような高級誌になると思うので、競合ではないと思う。」

 
 ウェブでコンテンツ制作、読者獲得、広告獲得、ブランド力アップ のためにも、既存のメディアも、オンラインに積極的に移行する必要があるのは明らかなようだ。ウェブで広告市場の成熟度や、広告単価がまだまだかなり異なるので、日米を同じ基準で判断することはできないが、既存メディアのオンライン化、は、徐々に日本でも進まざるを得ないんだろう。
 趣味のサッカー関連サイトを見回っていて、この記事「W杯取材記者落第てん末記 」に目が止まった。元朝日新聞・編集委員で、長年サッカー取材をされてきた中条一雄氏が、先日のワールドカップを取材するため日本サッカー協会に「取材記者申請」をしたところ、一方的に不適格と判断され、記者証が発行されなかった。そのために予定していたドイツ行きをあきらめた、という。

 長い間日本のサッカー報道に貢献された、もう80歳になろうというベテラン記者さんなんだから、日本サッカー協会も、もう少し融通を効かせられなかったか、と思う。

 だが、いっぽうで、それほどまでW杯にこだわりをお持ちなら、自費で観戦されて、ブログにでもお書きになればよかったのに、とも思う。取材がしにくくなることは、多々あるだろうが、記者証がなくてもできる取材もたくさんあるはずだ。

 実際、多くのブロガー(サッカーに限らず)は、誰にも頼まれず、何の見返りもなく、勝手に出向いて、(できる範囲の)情報収集をして、ブログを書いている。そしてなかには、下手な一般紙の記事よりもよほど質の高い分析をし、そして専門誌ほどのアクセスを獲得するブロガーが何人も現れている・・。すでに"記者"が書かなくても、それなりの"記事"は存在するのだ。

 また、今回のような「記者証」を発行するという"審査"の存在は、一種の"検閲"となって、サッカー協会への批判を書くことへの、無言のプレッシャーになりはしないかと思う。特に若い駆け出しのライターにとっては、「記者証」の有無は、生計に直結するだろう。

 多くのブロガーは、こうしたしがらみからも自由だ。
アメリカでブログが広まったのは、アメリカ同時多発テロ事件以来だと言われる。多くの人が、マスメディアの報道を疑い、「真実は?」という気持ちからブログを書き、ブログに集ったのだ。当然、ブログからは、単なる噂や誤った事実が広まることもあるが、真実は、マスメディアの中だけにある、とはもはや誰も思っていない。

 すでに、この状況を押しとどめることはできない。

 そこで、今、マスメディアは、こうした"市民ジャーナリズム"ともいえる声をいかに取り込むか、苦心の最中だ。CNNは、先日、CNN exchange をスタートし、一般からの投稿を募集したり、International Herald TribuneohmyNews Internationalと提携したり、washingtonpostがブログネットワークを始めたり・・と、その策は様々。
 
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 いまのところ、どれも決定打、というところまで至っていないようだが、すでに一種の特権だった"ジャーナリズム”の世界は、一般に向けて"窓"を開けざるをえない状況にある。
 先日、サンフランシスコで行なわれたあるカンファレンスに出席したIT系ビジネス雑誌『Business2.0』の編集長 Josh Quittner が、「所属のジャーナリストは、全員ブログ書いてもらう」と発言して注目を集めた。

 ことの発端は、『Business2.0』のシニア・ライターだったOm Malikが、自身の個人ブログを拡大して、しっかりとしたメディア・ブログとして運営するための資金をベンチャーキャピタルから得て、7月に独立、起業したことから始まる。

 『Business2.0』は、もともと雑誌『WIRED』の編集者がスピンアウトした発刊した雑誌で、ビジネス雑誌でありながらビジュアルやデザインにも凝っていて、先端的な情報を扱うユニークな存在だ。オンライン版も、雑誌の記事の二次利用を中心にした形であって、今年1月からは、CNNMoney.comに併合される形となった。また、http://digital.business2.comでは、電子雑誌の形で紙版すべてを読むこともできる(これは楽しいですよ)。

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 というわけで、『Business2.0』は、オンライン版、電子版とネットで展開してきていたが、紙版をもとに二次利用という形で、その主体はあくまで、紙版、ということだった。(やや話がそれるが、二次利用とはいえ、これだけ雑誌の記事をそのままネットで無料で読めるようにしてしまって、雑誌の売上に影響しないのか?と思ってしまう。CNNMoney.comでの展開の後、定期購読が3倍になったともいうが、どこまで本当なのか・・?)

 だが、ここへきてブログもますますメジャー化。アメリカでは、主流メディアと同等のアクセスを集めるブログもいくつか出現し、またそうしたブログへの広告掲載も組織化されてきたことで、ブログ単体をメディアとして扱い、ブログをビジネスとして運営する人々があらわれてきていた。先日、日本語化もはじまった「TechCrunch」は有名だろう。

 そして、それらの成功をみて、『Business2.0』のシニア・ライターだったOm Malikは、独立・起業を決意した。自身のブログ「GigaOM」は、スタッフを増員し、コンテンツを充実させ、着々とブログメディアとしての地位を確立している。

 そうした状況を目にしながら、紙メディアを発行してきた『Business2.0』編集部の思いは複雑だったろう。これまでの雑誌のビジネスモデルに限界を感じたかもしれない。そこで考えだされたのが「所属のジャーナリストは、全員ブログを書くべし」というお達しだ。今のところ、ウェブ内にあるスタッフブログに大きな変化はないが、これを徐々に充実させ、広告を獲得しようということなのだろう。確かに、ブログの手軽さ、低コスト、速報性には、紙の雑誌では到底叶わない。それに充分な広告がつくという状況ならば、ブログに進出しない手はない、と考えるのも自然だ。

 だが、これまで、あくまで紙版が中心で、オンライン版は二次利用、ブログは付加、というバランスだったわけだが、これに大きな変化が起きるのか? ただ負担が増えるとしたらジャーナリスト達が黙っているようにも思えないし、本来の雑誌の記事の質に大きな変化があるようなことがあれば、それは読者の反応にもはっきりを現れるだろう。それで、雑誌の"信頼"を損なうようなことになっては、かえって逆効果だ。

 う~ん、『Business2.0』、これからどうするのか。徐々に大きな展開がありそうな気がするが、それは雑誌、オンライン雑誌、ブログメディアのこれからにちょっとした影響を与えそうな気もする。
 先日、イギリスの経済誌『The Economist』に「Who killed the newspaper?」という特集が掲載された。新聞販売の低迷は世界的な傾向だ。ヨーロッパでは特に無料新聞が大きなブームとなっていて、朝刊から夕刊まで広がり、既存の新聞社も無料新聞に進出している。これまでの何十年も続いてきた新聞の安定したビジネスモデルは、確実に変更を余儀なくされているのだ。

 やはりきっかけは、インターネットだろう。情報はタダで手に入る、という感覚はすでに生活の中に当たり前のことになってしまった。『The Economist』の特集タイトルは、「Who killed the newspaper?」だが、日本でも、2003年に、青木日照+湯川鶴章著『ネットは新聞を殺すのか』というタイトルの書籍が出されている。

 そして、ここ10年、"殺された"り、"消された"りしたのは、「新聞」だけではない。思いつくところでも、津野海太郎『本はどのように消えてゆくのか』(96年)、津田大介『だれが「音楽」を殺すのか?』(04年)、小林雅一『コンテンツ消滅』(04年)、西正『IT vs 放送』、ジョセフ・ジャフィ『テレビCM崩壊』(06年)といった本がそうした問題を扱っていて、出版、新聞、音楽産業、放送、テレビCMの順で、メディアのデジタル化とネット出現による危機に直面し、右往左往してきたわけだ。

 で、その結果、出版や新聞が殺されたり、消えたりしたかというとそういうわけではなく、これからも本や新聞はずうっと生き残るに違いないのだ。ただ、ある部分はこれまでと同じビジネスモデルで継続するができるだろうが、その他の大部分は圧倒的に別の形になる可能性が高い。

 それだけメディアがドラスティックな変化を遂げつつある今、メディアを制作する「編集者」や「編集」そのものは、これからどうなるんだろう・・。それが僕の関心事だ。

 ひとつの予想は、昨年、話題となった未来予測FLASHムービー「 EPIC2014」が示している。2014年までにgoogleとamazon.comが合併し、個々人の嗜好、消費行動、などの情報を集積し解析して、その人が求めそうな情報を、的確に届けるEPIC(Evolving Personalized Information Construct)と呼ばれる「パーソナライゼーション型メディア」現れるという……。

 このEPIC2014の世界では、"編集"は、すべてコンピュータによって代行されている。近頃のネット業界の趨勢を見ていると、確かにそうした状況になっても不思議じゃない、と思えるわけだが、果たしてそうなんだろうか? このあまりに"わかりやすい未来"とは別の道を歩むためにどうしたらいいのか? こんな疑問とわずかな希望を抱きつつ、海外メディアの最新状況をチェックしながら、このブログを進めていこうと思う。