アメリカン・スピリット
僕は実に幸運だった。危険な目に遭うこともなく、実に素晴らしい人々と出会い、助け合いながら逞しく生きていくことを生活習慣として身に付けたアメリカン・スピリットを体験した。
一路、南へ・・・ カリフォルニアの恵まれた気候の中を、様々なクラスの人々と会話を楽しみながら、僕はヒッチハイクを続けた。
友人達と再び合流したサンタバーバラでは、僕を車に乗せてくれた青年が、両親の所有だという広大なリゾート・アパートに全員を泊めてくれた。スペイン風の建築が見え隠れする丘のすぐ横にヤシの木をたたえた美しい海岸が広がり、ビーチバレーを楽しむ若者たちの姿が夕日に映える情景は、今も目の奥に焼きついている。
ヒッチハイク
バイオレンスの国アメリカでヒッチハイクをするとは、なんとも無謀な話だが、それしか選択肢はなかった。乗車の際には全身の感覚を総動員し、悪質なドライバーでないかどうかを判断した。高校時代にも1年間アメリカで過ごした僕は、このあたりの鼻がきいた。
ヒッチハイクに起因した多くの事件が報告されてから、誰もがヒッチハイカーに警戒心を抱くようになった。そんな時代でも、ハイウェイの入り口で3時間ほど待てば誰か停まってくれたのは、アメリカの国旗をあしらったアルミ製のバックパックが僕の愛国精神を表現していたからかも知れない。もうひとつの要因は、とても拳銃を隠しているようには見えない痩せ型で温和な僕の風貌だったと思う。(ドライバーの母性本能をくすぐるってやつかも知れない)
逆に、一見親切そうなドライバーから身包み剥がれる恐れもあったが、僕は何一つ金目のものを持ち合わせているようには見えなかったし、事実そうだった。ジャケットを着てめがねをかけ、カメラをぶら下げていれば格好のターゲットとなるが、僕の風貌は全くその対極にあったからだ。
坂道駐車
ただしオルタネーターに異常があるため、バッテリーには充電されない。エンジンを切ったが最後、再び「押し掛け」のご厄介となる。そのたびに通行人を呼び止めていては申し訳ないと、僕はサンフランシスコの坂道を利用することを思いついた。
ご存知のようにサンフランシスコは坂道だらけ。坂道に駐車しておけば、サイドブレーキをはずすだけで車は坂道を転がり出すので、適当にスピードが乗ったところでクラッチ・オンすれば、エンジンがかかるという訳だ。
ただし、「下り坂」に縦列駐車するのが鉄則だ。間違って「上り坂」に停車してしまうとバックで「押し掛け」をやることになり、さすがに僕も成功させる自信はない。駐車中にエンストすると後が無いので、細心の注意を払う必要がある。
サンフランシスコは、この方法で何とかなった。問題はここから先だ。こんなに坂道に恵まれた都市は他にない。ひとりで車を押しながら「押し掛け」する自信はない。思い出深い愛車だが、その役割は終わったようだ。車を捨てるしかないと決断した僕は、いくつかのガソリンスタンドと交渉し、30ドルで若い店員に売りつけた。
こんなゴミでも値段がつくのが信じられないが、こういったアバウトなところがアメリカの醍醐味だ。
オルタネーターの故障
半壊した右ヘッドライトは、シアトルに到着した時の友人宅でボンドとガムテープを使って修理した。こんな車でも公道を走れるのだから、アメリカは本当にアバウトな国だ。ただし、この事故でオルタネーターが損傷していたことを、僕は後で知った。
オルタネーターとは発電機のことで、エンジンの回転を利用して発電し、走行中にバッテリーを充電し続ける役割を担う。これがなければ車の電気系統はすべてバッテリーの容量に依存することとなり、バッテリーはあっという間に放電し切ってしまう。スパークプラグで火花を散らすのにも電気が必要なので、エンジンの回転にも電気はなくてはならない。
オルタネーターが故障すると、バッテリーの充電ができない。従ってバッテリーはどんどん電圧が低下し、最後には「あがって」しまう。いくら新品のバッテリーに交換しても、充電されないので寿命はあっという間だ。