久々の本格的夏休み
翌年の6月、待ち焦がれていた時期が到来した。夏休みだ!
給料を貰いながら3ヶ月もの休みをとるなんて、サラリーマンとしては考えられないことだ。僕は当然、滞在先をマウイ島に決めた。マウイ島に3ヶ月も住んだら、人生が変わるだろう。
人事部の意向によりハワイ大学留学は叶わなかったが、その代わりマウイ島で勉強や仕事を完全に忘れてウィンドに打ち込めば、トップ・ライダーへの道も開けるかも知れない・・・
スイミング・クラス
勉強ばかりに没頭していたわけではない。キャンパスではさまざまなスポーツのクラスが提供されており、僕は絶好の機会だとばかり、水泳とダイビングの2クラスに申し込んだ。
実のところ、僕は平泳ぎはできたが、クロールがさっぱりできなかった。何度かトライしたことはあったが、バチャンバチャンと水しぶきを上げる自分がとても哀れで、恥ずかしさのあまり習得する機会を失っていたのだ。この初級水泳コースのおかげで僕はやっとクロールに自信ができたが、水泳が趣味になったというわけではない。学生の競技大会にも使用される50メートル・プールは水深が2メートル近くあり、水温が非常に低かったため、寒がり屋の僕にはどうしても馴染めなかったからだ。
もしそれに耐えてバタフライもマスターしていれば、今ごろは夏になれば毎週末のように都心ホテルのプールに出没していたことだろう。
デザイン・サイエンス
この意味で、「デザイン・サイエンス」という学科は非常に興味深かった。
二次元空間を不可思議なパズルで埋め尽くすM.C.エッシャーの作品群をテーマに、僕たちはその裏に隠された多くの「謎」を紐解いた。閉じた空間、ねじれた空間、形状の表と裏・・・ 三次元や四次元空間の構造を、二次元の作品に巧妙に表現したエッシャーの才能にはただ感心するばかりだった。
この学科の自由課題で、僕はフラクタル幾何学を取り上げた。IBMにフェローとして迎えられた数学者マンデルブロー博士が体系を作り上げた不思議な数学理論で、これを応用して作成した図形は、自然界に存在する地形や生物の姿に酷似する。
詳細な説明は割愛するが、シンプルな作図ルールをミクロのレベルからマクロのレベルまで繰り返し重ねることによって、葉脈、樹木、雪の結晶、珊瑚など、我々が目にする多くの自然物の形状を自動生成することができる。入り組んだ海岸線や侵食された地形などを連想させる作図事例もあり、地球そのものにも生命と意思が存在するのではないかと感じてしまう。
Form follows function.
建築史でひとつだけ僕の興味を引いたのは、「シカゴ派」だった。
19世紀末にシカゴを中心に活躍した建築家集団を指す言葉で、ルイ・サリバンが提唱した Form follows function、つまり「形は機能に従う」という考え方を貫き、フランク・ロイド・ライトも大きな影響を受けたようだ。これは僕が傾倒した Any Rand の Objectivism の思想とも近く、現在でもインダストリアル・デザインの基本と考えられている。
極論するならば、「この形の方がカッコイイ」とか「今はこのデザインが流行っている」などといった感覚的・主観的な形状デザインを排除し、機能要件をシンプルに削ぎ落としたところからデザインの本質が生まれてくるという思想だ。我々を取り巻く自然界の形状をつぶさに観察すると、あらゆる生物はこの法則に従っていることに気づく。