サソリ退治
マウイ島でのハードなコンディションから一転し、ウィンドだけではなく、シュノーケリングや他の観光客との会話などをリラックスして楽しむことができた。
ひとつだけ驚いた体験は、シャワールームで「さそり」を発見したことだ。大きさは5センチぐらいだが、確かにピンと跳ね上がった尻尾の先には針のようなものがついていた。僕は反射的に手近にあったモップを掴み、何度も何度も、力いっぱい叩きつけた。あまりに力を入れたので、柄が折れてしまった程だ。粉砕されたさそりは、哀れにも形すら留めていなかった。
コバルトブルーのスキンダイビング
風の無い日に、ウィンドショップの連中と出かけたスキンダイビングは最高だった。
そこは沈没した巨艦が海底に斜めに突き刺さってできたスポットで、限りなく緑に近いコバルトブルーの海水の向こうにマストや船首が見え隠れし、その周辺に無数の魚が群れを成していた。正午の強い日差しで、水面には透明なブルーの波紋が煌めき、斜め下を見るとブルーの水が明るい緑色から深緑色へと次第に変化しながら果てしない海底へと続いている・・・ 水深はどれくらいなのか想像できないが、眼下に広がる無限のスペースの中を宇宙遊泳しているような錯覚に捕らわれる。
息を止めて頭を水中にダイブし、上半身を半回転させて垂直に身体を伸ばすと足の先まで水中に潜りはじめる。少し遅れてフィンを力強く蹴ると、身体は真下にギュ~ンと加速する。水圧で耳が痛くなる都度、「耳抜き」を繰り返しながら、暗い深緑に変色していく深海に向かって突き進んでいく・・・ 少し息が苦しくなった頃に足元の方向を見上げると、いつしか水面ははるかかなたに煌めき、美しい緑の水が気泡と戯れながら見渡す限りのスペースを満たしている。無重力状態の遊泳を楽しむ瞬間だ。
息が続かなくなると体制を戻して片手を頭上に掲げ、旋回しながら海面まで浮上する。重いタンクもウェイトもつけず、シュノーケルとマスクとフィンだけの軽装備で自在に水中遊泳を楽しむことができるシュノーケリングは、あらゆる束縛から身も心も開放してくれる。
ウィンド天国、アルーバ
オランダ風の建築が立ち並ぶアルーバの街は、カップルや家族でのんびりと過ごす典型的なトロピカル・アイランドで、数多くのレストランやお土産ショップで賑わっている。カリブ海に面したビーチは、眩い太陽を反射して一面がブルーとグリーンにきらめいている。
湯のような暖かい水と遠浅でフラットな海面は、マリンスポーツを楽しむ観光客には理想的だ。風が吹く方向に平たくねじ曲げられた樹木が、季節によっては常時強風が吹くこの島の特徴を物語っている。ビーチのショップには、様々なサイズのセールが張った状態で保管されており、好きなセールとボードを選ぶだけですぐにセーリングを開始できる。面倒で慣れが必要なセットアップは不要で、ウィンド初心者には理想的な環境だ。
ウィンド雑誌で見つけたトラベル・エージェントによれば、アルーバの夏は90%以上の確率で強風が吹くという話しだった。旅行期間中に万が一風が吹かなかった場合に備えて「ウィンド保険」などというオプションもあったが、割高だったので僕は契約しておかなかった。しかし運悪く、僕が滞在した期間は弱風の毎日で、うち2日間は全くの無風だった。
それでも僕はショートボードに6.4のセールを張り、無風の日を除いては何とかプレーニングを楽しむことができた。
南米旅行の計画
ニューヨーク郊外で行われた「留学生親睦会議」から戻った僕は、時間を持て余した。ウィンドのスキルアップという目標を失い、学者肌の優秀な留学生たちに再会したショックで、しばらく放心状態が続いた。
そんな暗い気分を晴らしてくれるのは、次なる冒険の計画だ。東海岸に戻って来てしまったので、マウイ島までUターンするのは費用と時間の無駄だ。地図と睨めっこしていた僕の視線は、段々とカリブ海や南米へと移動した。フロリダ、キーウェスト、カンクーン、メキシコ・・・ カリブ海周辺には、数多くの観光スポットがあるが、家族やカップルで行かないと楽しくもなんともない。ひとりで行くならば、ウィンドを思い切り楽しめる、というのが必須条件だった。僕は雑誌や電話で情報を集め、ベネズエラのすぐ北に位置する旧オランダ領のアルーバ(Aruba)へ行くことにした。
留学生親睦会議
マウイ島から戻ってきた僕は、ボストンの夏の蒸し暑さに驚嘆した。エアコンを設置していなかったアパートの部屋は、昼間の熱気が深夜になっても建物から抜けきれず、午前3時過ぎまで灼熱地獄状態だった。やっと眠ることができるのは午前4時を回ってからで、数時間眠ると再び熱気が部屋を襲い始めた。ハワイの風が懐かしく思い出された。
そんな蒸し暑いボストンから逃げ出すように、僕は「留学生親睦会議」に出かけた。初日のディナーミーティングに出席した僕は、そのアカデミックな雰囲気にちょっと気後れした。皆、研究室に通って論文をまとめたり、ゼミに出たりと、暑い夏の間も忙しく勉強していたのだ。僕のようにマウイ島で遊びほうけていたような者はひとりもおらず、真っ黒に日焼けした自分の肌が気恥ずかしく思えた。
せっかく太陽の光を思う存分楽しめる夏に、どうしてわざわざ暗い部屋にこもって本を読んだり論文を書いたりするのだろう? 誰もがこの夏という季節のために一年間頑張るのだから、遊ぶのは当然だ。どうしても勉強したいのなら、サマーキャンプのお手伝いをするとか、クラブでアルバイトをするとか、もっと別の勉強をしたらどうなのだろう?
各人の研究成果の報告を聞きながら、僕はしきりにこんなことばかり考えていた。
亜米利加放浪記、再開!
【前回までのストーリー】
高校・大学とそれぞれ1年ずつ米国で過ごした windanceは、アートとサイエンスの融合をライフワークと決めてデザイン・ファームに入社する。入社2年目に運良く米国の大学院に企業留学する機会を得て、最初の年を過酷な気候のボストンで過ごす。ただしウィンドサーフィンの魅力に取り付かれている彼は、頭の中は常にマウイ島のことでいっぱい、機会があるごとにマウイ島へのカムバックを企てる。
留学1年目を無事終了した彼は、1ヶ月のマウイ島滞在で、ついにジャイブをマスターした。彼にとって、2度目のマウイ島滞在だった。本来ならば3ヶ月滞在してウィンドの奥義を極めるところだったが、彼には「留学生親睦会議」という試練が待っていた・・・
兄弟ブログ「windance の部屋」
さて、舞台は再びマウイ島に移る。続きは、兄弟ブログのwindance
の部屋
に掲載するつもりだが、実はそちらの更新がひどく遅れている。今回は2度目のマウイ長期滞在となるわけだが、兄弟ブログの方ではまだ初めてのマウイ滞在で、ナオミとの共同生活が始まったばかりのところだ。
従って、こちらの亜米利加放浪記はしばらくお休みとし、もうひとつのブログの更新 を進めて同期をとることにする。
2度目のマウイ島で、果たして僕はジャイブをマスターできるのか? 格安コンドミニアムを訪れた友人達とは? マウイの最高峰、ハレアカラの登頂は?・・・ 請う、ご期待!