六月の雪  乃南 アサ

 

 父が「湾生」だったことで、日本統治下の台湾についてある程度は知っていましたが、終戦後の台湾については知らないことが多く驚かされました。そして、台湾と日本のつながり、それぞれの国の家族のありようについて考えさせられました。台湾の女性が語る過去が少し長いかなと思いましたが、ここまで書かないと台湾の悲しみは書ききれないと作者は考えたのかもしれません。主人公未来が自分の将来を見つめるためにも。

  誰の人生も重く長い物語だと改めて思い知らされました。  もう父はいませんが、いつか父が好きだった台湾(台北)へ行きたいと思い続けています。

 

 

読書からはじまる (ちくま文庫)  読書からはじまる   長田 弘


 自分なりに本を読むことの意味や楽しさをわかっているつもりでいましたが、長田氏の考えにふれるとさらに深く大切なものがあることを教えられました。付箋を貼った個所を何回も読みなおし、それでもまだ言葉だけでわかったつもりでいるのではと考え込んでしまいます。

 『すべて読書からはじまる。本を読むことが、読書なのではありません。自分の心のなかに失いたくない言葉の蓄え場所をつくりだすのが、読書です。』

 かみしめながら、言葉でしか出会えないものをさがして行きたいと思います。


昨日がなければ明日もない (文春文庫 み 17-15)   昨日がなければ明日もない    宮部 みゆき


    日の当たる場所と当たらない場所で、人の幸不幸はこんなにも違うのでしょうか。いえ、環境のせいではなく、個々の思慮や性格のせいでしょう。あまりにも愚かな生き方しかできない女性たちに暗い気持ちになりました。ニュースで知る限り、現実もフィクションとそれほど違わないのかもしれません。

 相談者を思いやり、良心的で、でも鋭い調査をする杉村氏がくたびれませんように。ひょっとして新しい相棒?になるのかもしれない立科警部補と、次はどんな調査に臨むのか期待が膨らみますが、本当はもっと穏やかな世の中がいいんですけどね。


銀杏手ならい (祥伝社文庫)   銀杏手ならい   西條奈加


   江戸時代の手習い所が舞台の物語ですが、今の時代にも通じる考えさせられる内容でした。若い萌先生の、少し頼りないけど子どもを見つめるやさしいまなざしや、悩みながら自分も成長していく姿が、子どもを教え育てるために最も大切なものだと思います。西條さんの作品はまだ3冊目ですが、どれも帯にあるように「笑ってほろり」とさせられるものでした。


漢方小説 (集英社文庫)  漢方小説   中島 たい子 


 12年ぶりの再読。このゆるさが漢方の効果と同じだなと思いながら読んだことを思い出しました。心と体がつながっていることにも、ある程度の年齢になると体のあちらこちらに原因のはっきりしない不調が訪れることにも大いに共感できます。ただ、この物語の主人公はまだ31歳。これからが長い長い人生です。漢方でよい方へ向かうか、更年期にさらにつらい状態になるか…。

 漢方2000年の知恵と坂口先生の温かさのおかげで、とりあえず自分の体への向き合い方がわかって安心です。


かがみの孤城 上 (ポプラ文庫 つ 1-1)    かがみの孤城 上   辻村 深月


   主人公『こころ』が光る鏡に吸い込まれたように、読み始めてすぐに物語の世界に惹きこまれてしまいました。学校での人間関係、家族の気持ち。言葉はこんなにもどかしいものなのかと思いながら(下)へ。


かがみの孤城 下 (ポプラ文庫 つ 1-2)    かがみの孤城 下 
 

   辻村さんの作品は若い人への応援歌だなと思うことがあります。傷つき辛いことがあっても、気づかないだけで誰かがそばにいてちゃんと見ていてくれる。手を伸ばせばそっと受けとめてくれる。いつもそんなメッセージを感じます。自分だけの世界にいるときは見えなかったけど、同じように悩んだり絶望的な気持ちになっている人がいて、その人を助けてあげたいと思ったとき、自分もまた助けられている…。誰かを深く思う気持ちが、ときを超えて繋がっていく温かい物語でした。



R帝国 (中公文庫)  R帝国   中村 文則


    この世界に自分が望むような救いはないと思い知らされるような作品でした。

  何が幸せなのか言葉にするのは難しいけど、自由、多様性、個々の考えが尊重されるのではなく、大きな力にコントロールされ、同じ方向に進んでいくことが求められる世界。あの国もかの国も、ひょっとしたらこの国もと、ゾッとしながら読み終えました。

 サキのように抵抗すると傷も悲しみも深くなるけど、悲しむことさえできない社会は怖い…。エピローグで流した吉川の涙が、小さな小さな救いでした。


ホテルメドゥーサ (角川文庫)   ホテルメドゥーサ   尾崎 英子


   フィンランドの森に異次元の世界に通じる入り口があるという。そこへやってきた初対面の4人それぞれの物語です。自分の意志でやってきたような、何かの仕掛けで誘われるように来たような、そこからして不思議な話ですが、最後にその世界に行くか行かないか決めるのは自分。その緩さが考えるきっかけになり、次に踏み出す力になります。フィクションに参加するのもなんですが、わたしは行かないかな。


驚嘆!セルフビルド建築 沢田マンションの冒険 (ちくま文庫)    驚嘆!セルフビルド建築 沢田マンションの冒険   加賀谷 哲朗


    ごくたまに自分で家を建てました、という話は聞きますが、自分でマンションを建てましたという話は初めてです。建築の方法はもちろん未知の世界ですが、そんな発想もわたしにとっては未知との遭遇。なので、難しいところはとばして、写真を楽しみながらの拾い読みです。写真が全部カラーだったらもっと楽しめるのになんて思いながら。

「残念ながら違法建築です。」仕方ないけど、ついの住みかとしてはちょっと怖いですね。

 

 

 

うちの赤ちゃん りんちゃん(仮称)

 

里親さんのところへ行くまでの間

我が家で預かっています

 

2が月と半分 950g

とにかく小さくてかわいい!

でも、おてんばでよく動き

怖いもの知らずの冒険家

どこにでも何にでも飛び込んでいくので

目が離せません

 

 

 

お母さん姉妹猫も知人宅で保護されています

みんなに家族ができて 幸せになれますように

 

 

  

 

4月の読書

 


喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima (講談社文庫)  喜嶋先生の静かな世界  The Silent World of Dr.Kishima   森 博嗣

 
  大学で出会った喜嶋先生。「研究の王道」を進み続けるその先生に惹かれた主人公が、研究のすばらしさと先生の魅力について語ります。

 科学とはかなり遠いところにいるわたしでも、あゝそうだよなと共感し、登場人物それぞれに好感が持てて心地よい作品でした。名誉や評価のためではなく、ただ研究することがおもしろくて没頭する。研究以外のことで時間や労力を消費したくない…。

 そんなふうに生きる先生に愛情を感じた人がもう一人。でも、最後にその人が幸せになれなかったことが何だか引っかかっています。凡人の尺度ですね。

 


魔力の胎動 (角川文庫)  魔力の胎動    東野 圭吾


  鍼灸師ナユタと不思議な力を持つ少女円華が、自信を無くしたスポーツ選手や子供の事故で崩壊していく家族に再び希望をもたらす物語。

  2章目まで読んでこのパターンが続くのかなと思っていたら、3章目から気持ちがざわつき閉じられなくなりました。ナユタにこんな秘密がかくされていて、円華がこんなふうに関わっていくとは。

  「胎動」とあるので、続きがあるはずと期待したら、先にその続きらしきものが出版されていたのですね。「ラプラスの魔女」。こちらの方にも東野氏の、誰かの生きる希望でありたいという思いがこめられているのでしょうか。



花桃実桃 (中公文庫)  花桃実桃    中島 京子


  父親の遺したアパート「花桃館」の管理人になった40代の茜。想像していたのとは少し違って、いろいろな住人に振り回されるスタートでしたが、こんな仕事もいいかな、と楽しくなる作品でした。なんせ、アパートを離れがたいやさしい幽霊の住人まで登場するのですから、いいアパートですよね。

   茜自身も自分のこれからの人生をどう生きればいいのか迷っていて、先輩読者としては、背中を押してあげたいような引き止めたいような複雑な気持になりました。

  『花が大事か実が大事か。地下茎だって大事。』人の幸せはそれぞれってことですね。

 


ラプラスの魔女 (角川文庫)   ラプラスの魔女    東野 圭吾  


   「魔力の胎動」と繋がる作品ということで気になって読み始めたら、閉じられないおもしろさでした。

  以前、脳に関する本を読みましたが、脳はかなり未知の世界なのだなと感心したことを思い出しました。とてもデリケートでミクロなものも、膨大な宇宙のような大きさのものも詰まっています。そしてこの作品にあるように、美しいものも悍ましいものも詰まっています。

  いつか、こんなふうに人の脳を操作する時代が来そうですが、予測通りにはいかないのも脳の(心の)未知なる部分。どんな方へ進むのか、きっと次の物語があると楽しみに待つことにします。

 


許されざる者 (創元推理文庫) 許されざる者   レイフ・GW・ペーション


 警察小説は入れ物。今野敏の言葉ですが、本当にそうだなと実感させられる作品でした。

 様々な分野で評価や好感度の高いスウェーデンですが、重く暗い部分もたくさん。そういう部分を書ける表現の自由もあるということでしょうか。

 25年前に起き、もう時効となった少女の暴行殺人事件を、脳梗塞で倒れた元犯罪捜査局長官が鋭い視点で解決していきます。その過程に絡められた、家族関係、小児性愛、移民、暴行、ロシアの孤児院の話までの多岐にわたる問題。その悍ましさと対峙する主人公の芯の強さに感心しながら読み終えましたが、この解決法でよかったのか、この終わり方でよかったのかと読後感は複雑。


 
海馬の尻尾 (光文社文庫) 海馬の尻尾   荻原 浩


 ヤクザの暴力シーンは想像するのもつらい描写でしたが、その残酷さの倍くらい笑わせてもらいました。精神科病棟での非人道的な治療の描写もひどかったけど、そこにもユーモラスで温かい表現がたくさん。

 狂暴だった主人公が、最後に一番まっとうな人間に代わっていったのですが、きっかけが治療なんかではなく、小さな女の子のくったくのない笑顔だったというところが荻原さんらしいですね。荻原さんの愛をたくさん感じさせてもらえる作品でした。

 

 

                                 桜井一恵さんの刺繍(ポストカード)

 

 みなさんはLINEを使っていますか。

 わたしは家族と親しい友人限定で使っています。

 (友人に、家族以外とは使わないというルールを決めてぃる人もいますが。)

 

 中学生になった孫がスマホを使い始め、LINEもしています。

 

 先日、「明日の部活は何時から?」と送ったら

 「1」と返信が…。

 若い人のLINEが短い言葉のやり取りだとは聞いていましたが

 さすがにこれは省力のし過ぎでしょう。

 「1時から。くらいは書いて。」

 と送ったのですが、ちゃんと伝わっているのかな。

 おばあちゃんの言葉はブロックされているような気がします。

 

 ちなみに、わたしと妹や友人たちとのやり取りは

 長~い長いお手紙のようです^^;。


八月の銀の雪 八月の銀の雪   伊与原 新


 「月まで三キロ」もそうでしたが、タイトルがすてきです。どんな世界へ連れていってくれるのだろうと、心を澄ましてページをめくりました。

 人はもちろん大切ですばらしい存在だけど、ときに無力で厄介なもの。生きるために生まれてきたのに、生きづらい…。でも、わたしたちを包む自然や宇宙は、想像を超える小ささと大きさ、神秘的ともいえる仕組みで、はるか遠くの時代から孤独に耐えて存在し続けてきました。

 彼らが送り出す言葉にならないメッセージに気づくと、少しだけ光が見えてきて、自分の中にひそんでいる強さを感じられそうです。

 


私を月に連れてって 私を月に連れてって  鈴木 るりか

 

 前作で少しだけ見えてきた母親の過去が、偶然の出会いでまた少し明らかになってきます。反面、本当の親子だろうかと読者の疑問は残りますが、花実にとって大切な存在であることに変わりはなく、むしろ母を思う気持ちは強くなっていくよう。

 フィクションなのに花実と作者が重なって、考え方や行動に感心してばかりです。いろいろな社会問題を絡めていますが、本流にあるものは愛。表題作では、その愛に満ちた会話に笑いっぱなしでした。「夜を超えて」は、こみ上げてくるものを抑えながら読みました。

 


野良猫を尊敬した日 (講談社文庫) 野良猫を尊敬した日   穂村 弘


 穂村氏のエッセイ集3冊目。急に現れるエピソードに、何度呼吸困難に陥ったことか、笑わせてもらったことか。玄関にたどり着く頃には上着のボタンをはずし終えるなんて、大の大人のすることじゃないですよね。

 たくさんの共感する考えや言動の中に、これはちょっと、と思うところも書いてあって、正直で飾らない人なんだなと改めて思いました。穂村氏のそばにいるとちょっと疲れるかもしれません。でも、それ以上にほんわかとした幸せな気持ちになれそうです。



二千七百の夏と冬(上) (双葉文庫) 二千七百の夏と冬(上)   荻原 浩


 2年ほど前に購入していたのですが、数十ページほど読んで、カタカナの名前や単語がなかなか頭に入ってこず挫折。今度こそは!と自分に言い聞かせて読み始めました。人物表を何度見たことか。でも、舞台となる縄文時代の自然や暮らしを想像しながら、徐々に惹きこまれていきました。

 作者のユーモアたっぷりの本も、ぞくっとする怖い本も、切なくなる本も好きですが、こういう遥かな時代を描いたロマンあふれる本もいいですね。ただ、物語の展開はロマンというより怖さの方へ向かっているようですが。ドキドキしながら(下)へ進みます。

 


二千七百の夏と冬(下) (双葉文庫) 二千七百の夏と冬(下)   荻原 浩


 建設現場で発見された若い男女の骨。その骨が語る2700年前の冒険と愛の物語です。すべてが未知といえる世界で、新しい土地を求めて旅に出た人間。ウルクのように一人でかもしれません。大勢でかもしれません。命がけで山々を超え、海を渡り、生き抜いていた人々の命がわたしにつながっているのですね。『歴史を作ってきたのは愛だ』という文にしみじみとした気持ちになりました。

 上下巻600㌻では表しきれない長い長い時間と人々の営み。2体の骨は、目に見える文明だけでなく、獲得してきた思考や言葉の重みを教えてくれます。



死の島 (文春文庫 こ 29-10)  死の島   小池 真理子

 

 迷いながら手に取った本。新聞の土曜版で「月夜の森の梟」という連載文を読み、夫を見送った作者の思いに心打たれ、どんな小説を書くのだろうと怖々読み始めました。

 フィクションなので、もちろん夫の死を描いたものではないでしょうし、読んでいる間は作品のおもしろさにそんなことは忘れるほどでした。末期の癌に苦しむ男性。その苦しさを想像することは難しいけど、自分の死を演出することぐらいは許されてもいいのかもしれないと考えさせられる作品でした。家族としては、最後の最後まで生きていてほしいと思いますが。



レミーさんのひきだし  レミーさんのひきだし  斉藤 倫,うきまる 

 

 引き出しに何が入っているのか、表紙からもう小さなわくわくが始まります。きれいな模様の箱、かわいい形のビン、リボン、毛糸…。わたしにも覚えがあります。

 レミーさんは暮らしを楽しむのが上手。自分のために誰かのためにいろいろなものを作り、ひきだしにとってあったものに入れます。だいじにされてまた出番をもらえた物たちは、小さな幸せを誰かに届け、そしてレミーさんにも届けてくれました。ひきだしにあったものは、レミーさんのやさしさ。



お蚕さんから糸と綿と  お蚕さんから糸と綿と  大西 暢夫


 子どもの頃、蚕が桑の葉を食べている様子は目の前で見ていたのですが、その後の工程ははっきりとは知りませんでした。以前あるテレビ番組で繭を熱湯に入れる作業を見て、厳しい仕事だなと思ったことを思い出しました。ちょっとつらかった…。

 『糸は生きている。命あるものからできている』 蚕の命と作業をする人の丁寧な技術からそれはそれは美しい糸が生まれます。糸も真綿も大切に使い切らなくてはと思わされます。雲のような真綿の写真は繊細で本当にきれいで、消えていってしまう日本の手仕事によせる作者の強い思いが伝わってきます。

 

 

 

 新聞の土曜版で連載されている小池真理子さんの『月夜の森の梟』

 

 夫を亡くした作者の、悲しみとともに暮らす日々の思いが綴られています。

 家族を亡くした頃の自分の思いと重なり、きちんと言葉にできなかったことを

 あゝ、わたしもそうだったと、改めてなぞりながら読んでいます。

              

 人と会うのがつらかったこと

 そのことについて話したくなかったこと

 昼間のお店に行けなくて、買い物はいつも閉店前の時間に行っていたこと

 帰り道、明かりのついた窓の向こう側には幸せな家族がいて

 自分にはもうそんな幸せが持てないのだと思ったこと

             

 6年が過ぎてもまだきちんと受けとめられずにいます。

 でも、悲しみは心の奥にそっとしまって

 たくさん笑って元気に暮らせるようになりました。

              

 小池さんの文章は、わたしがそっとしまったものをそっと思い出させてくれます。

 

  切り抜いてときどき読み返しています

 

           

孫が小学校に入学したときに植えたチューリップ

毎年咲いてくれます。

孫は、この春中学生になりました。   


 


日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08) 宇治拾遺物語  町田 康 訳


 道行く者を身分に関係なく庭に招き入れ、おもしろい話をさせて聞き書きしたもの。それだけでも何が出てくるかわからないのに、町田氏が訳したとなればいろいろな意味で期待値が上がります。期待に違わぬおもしろさ。古典を現代によみがえらせただけでなく、未来まで引き寄せた感の語りでした。

 教訓に走らず、格式も気にせず、わけわかんない部分はわからないままに、高貴な人も修業を積んだ僧侶も、ありがたいい面もあるけど基は同じ人間、と思いたい庶民の気持ちが見え隠れします。おもろうてやがて怖くなる…人の世です。

 


波風 (光文社文庫) 波 風   藤岡 陽子

 

 7話の短編集。ささやかな幸せにさえなかなか手が届かない、手を差し出すことさえためらってしまう…。心の中に悲しみや傷を抱えて、それでも誰かを憎むこともなく静かに生きる人々の物語です。

 不遇に見える彼らに幸せになってほしいと思うけど、多分本当は彼らの方が強いのかもしれません。欲張らなければ、どんなに小さな幸せでもとても大切なものだと思える強さ。隣にいる人の悲しみをそっと受けとめられる強さ。「鬼灯」「真昼の月」がとくに心に残りました。

 


しらふで生きる 大酒飲みの決断 しらふで生きる 大酒飲みの決断  町田 康

 

 サブタイトルは「大酒飲みの決断」。町田氏が酒を断つにいたった理由と、断って思ってことが綴られています。そのテーマで1冊も?と思うかもしれません。わたしも思いました。読んでいる途中でも思いました。ただ、これは断酒について書かれながら、ほぼ人生論。いつもの文体ですが彼の哲学書でした。

 彼が最後にたどり着いたのは「酒を飲んでも飲まなくても人生は寂しい」という境地。やはり彼はマジでまじめな人間でした。これからの彼の作品が、断酒によって変わるのかちょっと気になるところです。

 


神々は繋がれてはいない (ケン・リュウ短篇傑作集6) 神々は繋がれてはいない (ケン・リュウ短篇傑作集6)  ケン リュウ 

 

 8話の短編のうち4話は『人間と人間以後の存在』について描かれたもの。体を持たずAIの中に存在する人間を創り出す未来が本当にやってくるかもしれません。人は想像したことを実現しようとするようにできているみたいですから。でも、1話目にあった

『体は知性を持つ、~略~ 生きている意味を心よりもうまく表現する方法を知っている』

という文がきっと答えだと思います。

 その体を極限まで鍛えて世界と世界の裂け目にまで入り込めるようになった「隠嬢」のように、昔の中国を幻想的に描いた作品の方が好きです。そういう作品が少なくて、ちょっともの足りない1冊でした。



太陽はひとりぼっち 太陽はひとりぼっち  鈴木 るりか


 「さよなら、田中さん」の花実が中学生になりました。感受性の強い年齢。家族の問題を中心に悩んだり傷ついたりすることも多くなりました。

 謎だった母親の若い頃の生活や、亡くなったと思っていた祖母の存在もわかって、うれしいのと悲しいのとが入り混じった複雑な思いにかられます。中学生に問題を解決する力があるわけではないけど、花見の明るさや前向きな性格はみんなの生きる喜び、励みになります。つらい娘時代を過ごしたお母さんの強い愛情が、花見をそんなふうに育ててくれたのですね。それは作者の生き方、考え方そのもの。

 続く2篇の短編も、なるほど、こう繋がるのかと考えさせられるテーマでおもしろいのですが、家族はつらい…。

 

 

 虹 昨年秋と先月、肺炎で通院していた猫が旅立ちました。

 

  最期、呼吸がとても苦しそうで、何とかしてと言うようにわたしを見ていた悲しい表情が

  忘れられません。

 

  子どもだった頃

 

 

 

    我が家に来て15年と半年

 

  やんちゃで甘えん坊な猫で、天然な行動にたくさん笑わせてもらいました。

  つらいとき、何も言わずそばにいてくれる存在に、どれほど助けられたことか。

 

  この猫を飼ったことで、ほかの猫にも幸せになってほしいと思うようになり

  里親さん探しや、外猫の避妊・去勢手術をするようになりました。

   

  会えた喜びと、会えなくなった悲しみを大切に心にしまって

  今、ひとりぼっちになって後ろで寝ている2歳の猫と仲良く過ごします。

 

 

 

 


 


ザリガニの鳴くところ  ザリガニの鳴くところ  ディーリア・オーエンズ

 

 物語全体が湿地そのものでした。静かな美しさと、何が隠されているのかわからない怖さ。動物学者である作者が描く自然の営みは、とても繊細で密やかです。地球が発酵しているような気配まで伝わってきます。それだけでも惹きこまれるのに、湿地で暮らす少女の孤独と少女を囲む人々のそれぞれのあり方も切なくなるほど深く細やかに描かれていて、読み終えた後しばらくはわたしも湿地から抜け出せませんでした。

 読み書きのできなかった少女が、やさしい少年に文字や計算を教わりながら、言葉のもつ豊かな力に気づいていく場面が印象的でした。


猫がいなけりゃ息もできない (集英社文庫) 猫がいなけりゃ息もできない   村山 由佳


 飼っていた猫によせる思いにあふれた本です。もみじ、17才。とくに口の中に癌が発症してからの、もみじの頑張りと動物病院の先生の懸命な治療、何より作者の献身的な愛情に胸を打たれました。

 わたしも昨年秋にアイコンの猫が肺炎になり、毎日通院しました。夜は隣で寝ました。峠を越えたとき、どんなにうれしかったか…。小さな命がくれる豊かな時間。心を通い合わせて愛されて、もみじは幸せな猫でした。

 


JR上野駅公園口 (河出文庫) JR上野駅公園口   柳美里


 読み終えたのは真冬の、冷たい雨が降る日でした。雨音を聞きながら、今もたくさんの家を持たない人々が寒さに震えているのだろうと思いました。

 理由はそれぞれでも、悲しみに押しつぶされて平凡な暮らしの中に居場所をなくし、みな望まずにそこまで来てしまったはず。この作品の主人公も、つらい出稼ぎ生活の中で息子を失い、これから穏やかな暮らしが始まるというときに妻を失いました。貧しさと無力さに打ちのめされた彼のやりきれない思いが、念仏といっしょに切なく響いてきました。

 悲しみはわたしも同じ。悲しみは同じなのにとずっと考え続けています。

 


湖畔の愛 (新潮文庫) 湖畔の愛  町田 康 


 なんてロマンティックなタイトル。なのに帯には大きく「アホだらけ。」とあります。どれだけアホなのか期待して読み始めたのですが、「笑い死に寸前」とはなりませんでした。むしろ反対に、何とピッタリの言葉のチョイス、そして胸にささる真理、と感心してしまいました。ただ、難解なストーリーでも表現でもないのに読むのに時間がかかってしまいました。わたしがアホだから?



セント・キルダの子 セント・キルダの子  ベス・ウォーターズ


 「世界のはての島々」とよばれるセント・ギルダ島。 その島で人々が暮らしていたのは1930年まで。幼い時代をその島で過ごした少年の思い出をたどりながら、人々の営みが綴られています。

 貨幣はなく物々交換が行われていたこと、助け合いながら鳥や魚を捕り公平に分け合っていたこと、そんな暮らしがとても幸せだったこと。思い出は版画の技法で描かれた絵の温かい色合いで、よりなつかしくやさしいものになりました。

 集落が消えていくのは歴史をたどると世界の各地で起きていることかもしれません。でも祖先の歩いてきた道は忘れずにいたいもの。

 


図書室 図書室   岸 政彦


 モノクロの映像を見ているような静かな物語でした。わたしが子どもの頃、世界はこんなに目に見える範囲の狭さで、本とラジオだけが空想を広げてくれるものでした。     

 時代はずいぶん違いますが、登場する女の子の、貧しいけど母親や猫たちとの温かい暮らしに思わずタイムスリップしてしまいました。図書室で知り合った男の子との会話から空想と現実が溶け合って、生き残ったのが二人だけになってしまった日。死んでいく動物たちのことを思うやさしさは、きっと男の子の中にも消えずに残っているでしょうね。小さな猫と幸せに暮らして、と願いました。

 

 

     

 

昨年肺炎になった猫が、2月に入ってまた同じ症状を起こしてしまいました。

レントゲンを撮ると、肺にかなり水が溜まっています。ちゃんと様子を見て通院しなかったことをドクターに注意され、何より診察で吠えまくり、ストレスでさらに呼吸が荒くなった猫を見て申し訳ない気持ちになり、後悔しています。

 

入院もストレスになるので、家で朝夕4種の薬をのませています。

 

わたしの体も弱ってきたようです。

歯科医に歯の状態が良くないと言われ、日ごろのメンテナンスの悪さを注意されました。

それも後悔。 

 

自分のこと猫のこと以外にもいろいろあって、落ち込んでばかりの日が続いています。

もちろん、よく食べて^^;、カラ元気でも元気で行きます!

 

 

     

小さな幸せ。庭に咲いたやさしい色の椿と、妹の飼っている猫(4匹もいるんですよ)。