2018 9月の読書

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 誰にでもある誕生日。

 

わたしはシュウメイギクや萩の花が咲くと 1つ歳を重ねます。
家族はみんな忘れていますが 好きな花に祝ってもらえて

しみじみとした気持ちになります。

 

夏バテで何もできなかった分 カーテン洗い 本の断捨離 キッチンの掃除

そして庭の草取りと頑張りました。庭の手入れはまだ進行中。終わらない家事です。

 

 

 

ちょっと早いけど、小さな家に紅葉の秋が来ました。

夕焼けをイメージして加工してみましが、ぼろ隠しにもなりました^^。

エアコンの下でビール飲んでアイス食べていた季節が嘘のようです。

 


新装版 苦海浄土 (講談社文庫) 新装版 苦海浄土   石牟礼 道子

 

 水俣病について初めて知ったのは1962年、小学5年生のときでした。

住んでいた鹿児島に近い町での出来事であり、その病気の原因が魚介類にあると報道されたとき、海が繋がっている町では、大人たちが魚屋で「どこの魚?」と聞いて買っていました。身近な問題でしたが、その悲惨さを本当に知ったのは、ユージン・スミスの写真を見たときです。体の動かない我が子を入浴させる母親のやさしさと悲しみに満ちたまなざし。決してもどらない穏やかな生活。

 知っているからなかなか読めずにいたこの作品でしたが、読むことが作者への一番の追悼だと思い、手に取りました。

 一括りにされがちな患者一人一人に、それぞれの日常や喜びがあり、病気になってからの暮らしにもそれぞれの思いがあることが、作者の愛情とともに伝わってきます。

 『先祖さまを大切に扱うて、神々さまを拝んで、人のことは恨まずに、人のすることを喜べちゅうて、暮らしてきた』のにどうしてこんな人生が待っていたのか、答えられる人はいないでしょう。闘って勝ち取りたいものはお金ではなく、以前の暮らし。失われた命。発展の恩恵を受けているからこそ忘れてはいけないことが描かれています。

 方言がわかりにくいかもしれませんが、それも含めて素朴に生きてきた人々の思いや言葉の美しさに胸を打たれる作品です。言葉や文の持つ力を感じました。

 

 
ななめねこ まちをゆく ななめねこ まちをゆく  ジェイソン・カーター・イートン

 

みんながまっすぐ見ているときは、ななめに見ることも必要。でも、みんなが斜めに見出したら、まっすぐ見ることも大切。流されてみんないっしょじゃ、猫としては楽しみが減ります。
 


でんでらの (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期) でんでらの (京極夏彦のえほん遠野物語 第二期)  京極 夏彦

 

 はてしない野は、風さえ音もなく吹いているようで『とても寂しい』…。

 捨てられる方も捨てる方も、とても切ない…。そんな貧しさにたえながら、遠野の人々は生と死を愛しむ物語を生みだしてきたのですね。



ざしき童子のはなし (宮沢賢治の絵本シリーズ) ざしき童子のはなし (宮沢賢治の絵本シリーズ)   岡田千晶


 ざしき童子は、きっと子どもたちのそばにいていっしょに遊びたい。いっしょに遊ぶことができなかった子どもの願い…。そんな悲しい気持ちと、いるかもしれないという不思議な気持ちにさせる、淡い色合いの絵がとてもきれいです。北上川の上に広がる満天の星空。夜の空はたくさんのことをやさしく包み込んでいるようです。

 


錆びた滑車 (文春文庫) 錆びた滑車  若竹 七海

 

 地味で貧乏でちょっとさえない雰囲気の女探偵、葉村晶。でも、彼女の人生はかなりハードボイルドなんです。今回も命にかかわるような怪我で入院したり、留置所に入れられたりで、40代の体へのダメージを心配しながら読みました。

 晶自身も魅力的ですが、周りの人々の関わり方もおもしろく、何より予期せぬ展開にわたしもじっくりと巻き込まれていきました。
 

 

赤い猫 (ちくま文庫) 赤い猫   仁木悦子
 

 先に読んだ若竹七海さんの本に登場していた仁木悦子さん、初めての作家です。1928年生まれで、しかも病床や車いすの生活の中で推理小説を書いていたとのこと。だから、事件が日常生活の延長のように身近なところで起き、そして、解決するのも平凡に見える主婦や家族なのかと考えるのは短絡的でしょうか。

 ただ、情報を得る方法が今のように発達していない時代なので、聞いた話や見たことだけで推理を組み立てていくおもしろさや、謎解きが終わった段階で良しとして、犯人を罰するのはまた別の話、というしっとりとしたところがいいですね。

 


おばあちゃんのはこぶね おばあちゃんのはこぶね  M.B. ゴフスタイン

 

 とてもシンプルな物語。でも、その中をたくさんの時間とたくさんの愛とたくさんの笑顔が流れていきます。

 おとうさんの作ってくれたはこぶねに、おとうさんは温かい愛情を乗せてくれました。おばあさんは、そこに喜びと悲しみをたくさん乗せました。はこぶねは人生そのもです。

 表紙の絵。窓の外を見つめるおばあさんは、どんなことを思い出しているのでしょう。何を思っているのでしょう。


あの家に暮らす四人の女 (中公文庫) あの家に暮らす四人の女   三浦 しをん

 

 4人の女性それぞれに迷いも不安もあって、それでも傍からは穏やかな暮らしに見えるところがいいですね。軽い雰囲気で描かれていますが、ストーカー、水難の相、泥棒と、ちょっとゾッとする出来事もあって、今どきを生きていくのは大変。これからもいろいろありそうですが、そのときはまたみんなでいい知恵を出し合えばいいんですよね。のんびり流れる善福寺川のように、ゆっくりと。佐知の独り言をはじめ、しをんさんの表現に感心しながら気持ちよく読みました。わたしも昔は女だけの暮らしに憧れました。今は一人暮らしかな…。

 


異人たちの館 (文春文庫) 異人たちの館   折原 一


 筆者紹介の欄に叙述トリックを駆使した作品…とありました。騙されやすい単細胞のわたしは、素直に騙されることにして、迷子にはならないようていねいに読んでみました。異常な家族愛がもたらした同情の余地のない悲劇。最後に一番まともだと思っていた主人公?が迎えた結末は残念でしたが、彼は母親のしたことに感謝しているでしょうか。それとも、もう余計なことはしないでくれと思っているのでしょうか。樹海の暗い森の中で…。

舞台 (講談社文庫) 舞台   西 加奈子

 

  例えばこうやって感想を書くとき、飾らず素直に書こうと思ってはいるのですが、読んでくれる人のことをちょっと意識してしまいます。でも、年齢と経験を重ねて(視野が狭くなって)まあこんなものか、と自分を収めるようになりました。だから、自意識過剰な主人公に対して共感も覚えましたが、疲れるほどあきれもしました。このまま突き進んでいったらどうなるのだろうとかなり心配もしました。最後、ボロボロになって、やっと素直に人に頼ることができてホッとしました。守るものが自分だけじゃなくなればきっともっと変わるはず。

一人旅は大事ですね。

 

2018 8月の読書

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暑い暑い夏でした(過去形になることを願って)。

いつの間にか朝夕は秋の気配

シュウメイギクの蕾がふくらんできて

秋を告げる日を待っています。

 


キリンの子 鳥居歌集 キリンの子 鳥居歌集   鳥居

 

 以前から読みたいと思っていて、でもきちんと向き合えるだろうかと不安で手に取れずにいた本。

 忘れてしまいたいようなできごとを、消してしまいたいような過去を、作者は歌を詠むことで目をそらさずに受けとめます。その人生の壮絶さと、詠まれた歌の悲しいまでの美しさに、胸がしめつけられ、涙がこみあげてきました。。 

  

   病室は豆腐のような静けさで 割れない窓が一つだけある

   目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ

   いつの日も空には空がありました 母と棺が燃える真昼間

   慰めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです

 

 母の自殺 施設で受けたひどいいじめ 友人の自殺 自身の自殺未遂。こんなふうに生きている子がいると知らなかったはずはありません。でも、どうすればいいのか答えがわからないわたしたちは、目をふせて通り過ぎてきたのでしょう。

 悲惨な過去も刻まれたけど、少しだけほんわりとした思い出も残っていた…。歌があってよかった、言葉があってよかったと、わたしの方が救われた思いでした。

 


起き姫 口入れ屋のおんな 起き姫 口入れ屋のおんな   杉本 章子

 

 家というものが重い存在だった江戸時代。嫁という立場でも娘という立場でも幸せになれなかった女性が、口入屋という仕事に出会い、自分の力で幸せをつかむ物語です。と書けば、何だかよくある話のようですが、こんな考え方もあるんだと、見方捉え方対処の仕方の多様さに感心させられます。それはいつの時代でも、男でも女でも、周りの目ではなく自分の目で見て生きていきなさいという、作者の強いメッセージのようでもあります。

 一歩前に出ると遠くが見える、一歩下がると視野が広くなる。そして、転んだらまた起き上がる。しっとりと胸に残ります。

 


ふゆねこさん (世界の絵本) ふゆねこさん (世界の絵本)  ハワード・ノッツ

 

 表紙はカラーですが、中の絵はモノクロです。そのせいか、雪景色がとても静かで、子どもたちの遊ぶ姿もこねこのたたずまいも静かです。そして、子どもたちを見ているこねこの後姿や、窓から外を見ている目がとてもかわいい…。こねこと仲良くなるためにはどうしたらいいか、子どもたちにやさしく教えてくれる教科書のようです。

 追っかけないで。大きな声を出さないで。ゆっくりゆっくり仲良くなって。こねこも仲良くなりたいはずだからと。ふゆねこさん、暖かいおうちができてよかったね。



キッチン風見鶏 (ハルキ文庫) キッチン風見鶏    森沢明夫

 

 いくつかのタイトルからきっとほのぼのとした作品なんだろうなと想像していました。初めて手に取ったこの本も、想像通り温かくそして美味しい作品でした。最後に幸せだったと言える生き方、周りと自分を大切にする生き方。これは、見えるものしか見えないガサツな人間のわたしにも頑張ればできるかもしれません。頑張って疲れたときやうまくいかなくて落ち込んだとき、こんなお店におじゃまして、やさしいランチで心と体を休められたらいいですね。

 


同じうたをうたい続けて 同じうたをうたい続けて  神沢 利子

 

 初めて読んだ作品はくまの子ウーフのシリーズ。ほのぼのとした作品から想像していたイメージとは違う横顔の表情、そして歴史でした。

 昭和の始まりに生まれてサハリンで暮らし、夫婦で肺の病にかかり、夫を送り母を送って生きてきた女性の暮らしがどれほど厳しいものだったか。それでも悲しみと喜びを静かに受けとめて語る言葉は美しく、わたしも残り少なくなってきた時間だけど、先を行くすてきなお手本に出会えたことを大切にしたいと思いました。

 

 『人間の愚かしさを見、わが身のうちに実感しながら生きてきた。その一方で高貴な心をもつ存在なのだということも経験してきた。それらは全部わたしの内にもあるはずだ』

 

 亡くなったお母さんを思って、月の夜に庭でコーヒーをのむ場面が好きです。遠い南の国で育ちましたが、木の脂を指でくちゃくちゃして遊んだ思い出が同じでうれしくなりました。

 

 

 


手のひらの音符 (新潮文庫) 手のひらの音符   藤岡 陽子

 

 辛いことや悲しいことがたくさん覆いかぶさってくるけど、きっとわかり合えていると信じられる人がいれば、それは希望となり生きる力となる。たとえ遠い子ども時代のことでも。

 登場するどの人も好きだと思えるほど、みな苦しくて、でも誰かを責めたり恨んだりすることができなくて、わたしも同じ場所にいたいと思ってしまいました。家族、幼なじみ、友だち、恋人。誰かを大切に思う気持ちは、自分の生き方も大切にしてくれます。

 


こころの旅 (ハルキ文庫) こころの旅   須賀敦子

 

 年譜によると作者は1929年生まれ。戦後欧州へ留学し、イタリア人と結婚、そして永くイタリアで暮らしました。

 「自分の足にぴったりの靴をもたなかったせいか、行きたいところ行くべきところに行っていない」とありましたが、それが具体的な場所を指すのか、タイトルのとおり心の場所を指すのか考えさせられます。

 詩人サバの章や日記は難しくて文の上を目が通り過ぎただけですが、家族や友人の話は失われてなお作者の中に生きる大切な記憶に、作者の深い愛情と寂しさを感じました。

 



 

 

2018  7月の読書

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暑中お見舞い申し上げます

 

ピントはずれの画像ですみません。

ここ数日、夏バテでぐったりしていました。

70%ほど回復して

やっとパソコンの前までたどり着くことができました。(ノ_-。)

南の育ちで、夏が大好きだったのですが

歳には抗えない…。

みなさんもどうぞお体に気をつけてお過ごしください。



満願 (新潮文庫) 満願   米澤 穂信

 

 1話目で気持ちが無表情になり、その後は次、次こそはとすっきりとした着地を期待して読み進めたのですが、心が凍りついてしまいそうな結末ばかりでした。普通に隣にいそうな人々の中に潜む闇。守るものや守る方法を間違えた人の心が一番怖い、と振り返ったり余韻に浸ったりすることなく、早く本棚に戻したくなる作品でした。

 情緒のある文章なのに書かれていることが怖い、冷たい。世の中には不思議なことがたくさんあるけど、人の心の闇は地球規模だなと思わされます。

 


化け猫、まかり通る 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫) 化け猫、まかり通る 猫の手屋繁盛記   かたやま 和華

 

 妖怪もの?ファンタジー?いやいや、これは宗太郎の成長物語ですね。猫の姿をしているけど、ちゃんと宗太郎の中身を見ていてくれる周りの人たち。彼らの言葉は軽いようだけど深い。人も猫も(犬も)、武士も町人も、みなそれぞれに事情を抱えているけど、お互いを受け入れれば生きやすいってことでしょうか。宗太郎になついてきた子猫の田楽がかわいい。

 


「いる」じゃん 「いる」じゃん  くどう なおこ,松本 大洋

 

 孫はこの本をお化けの本だと思って手に取ったようです。実はわたしも…。

 1ページ目「だれかいるかー」で始まります。そして最後「『いる』じゃん」で終わります。その間にいる数えきれないたくさんのステキな仲間たち。あゝ、くどうなおこさんだと何度も読み返し、やさしい言葉が組み合わさって生み出される命の輝きにしみじみとした気持ちになります。1冊の本が1つの詩です。

  ✑風よ ずいぶん道草したみたいだね くぐったり 乗りこえたり うずまいたり お前のふところから いろんな香りが あふれてくる
 


ギケイキ: 千年の流転 (河出文庫) ギケイキ: 千年の流転   町田 康


 ギケイキ、義経記。わたしの中の義経は、1966年に放送された大河ドラマの尾上菊之助です。古~い^^;。儚げで美しい少年のイメージでしたが、町田さん、見事に打ち砕いてくれました。もう動いていないかのように静かに治まっていた古典をこんなにイキイキと楽しく蘇らせてくれるなんて、パンク侍のときも感じましたが、ずいぶんもだえ苦しんで書いたのでしょうね。人間離れした義経が、物語の最後に見せた人間らしさ、「やっと会える。やっと兄に会える。」の1行はとても美しく、尾上菊之助義経と同じでした。

 町田氏の作品を読むと、独特の言い回し、リズムが頭から離れなくなります。感想を書くときもついその言い回しになってしまいそうで、普通に書くのが大変。いや、マジで。ホント、感化されやすいわたし、という感じ^^。

 


猫を拾いに (新潮文庫) 猫を拾いに  川上 弘美

 

 自分にとって居心地のいい場所。その「自分にとって」ということに強くこだわっているわけではないけど、やっぱり自然にそちらに向いてしまう…。そういう感覚をもっている人といると、こちらまで居心地良くなってしまいそうです。ちょっと不思議なのも、ちょっと切ないのも、ちょっとほんわかします。
 


夏のねこ 夏のねこ  ハワード ノッツ

 

 大好きな猫への愛情と、人への愛の物語。一匹の猫を大好きになった少年と、その猫を大事にしている飼い主の、どちらの気持ちもよくわかって胸を打たれます。

 夏が終わって、町に帰った猫が、夏の日々や少年のことを思い出す場面も切ないけど、猫にとってはきっと温かい思い出ですね。また、夏になったら…という最後の1行にちょっとホッとしました。猫の絵の、じっと見つめる目が好きです。

海にはワニがいる 海にはワニがいる  ファビオ・ジェーダ

 

 読む前は、目をそらさず最後まで読めるだろうか、ちょっと不安でした。多分、想像を絶する過酷さだろうと、そこは想像できたので…。

 宗教や民族の争いが絶えないアフガニスタンから命がけで脱出し、5つの国境をどこもまた命がけで超え、8年をかけてイタリアにたどり着いた少年。表現は比較的穏やかで冷静ですが、実際には常に死と隣り合わせ。わたしたちが当たり前だと思っている暮らしが、地球上の大半の人々にとっては考えられないほど恵まれたものだという、その現実を思い知らされます。ただ、あまりにも問題が大きすぎて無力感も覚えますが。

 

                      

先日、Eテレで「田中一村」の特集を放送していました。

一村は東京芸術大学に入学したのですが、師事したい教授がいないと退学し

旅をする中で奄美大島にたどり着いた日本画家です。

子どもの頃数年間だけ奄美で暮らしました。

奄美の濃い緑、そこから吐き出される濃い空気。

一村を思い出すと、一村の絵が好きだった父を思い出します。

写真は剣道着を着て元気だった頃の父です。

 

2018 6月の読書

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6月の手仕事

何とか7月に間に合いました

桜井一恵さんの刺繍キット「小さな家の四季・夏」

春と並べて飾っていると、孫が春の方が好き…と^^。

 

 

 


鳩の撃退法 上 (小学館文庫) 鳩の撃退法 上   佐藤 正午


 可愛い子どもの会話、ピーターパンの絵本。ほのぼのとした出だしなのに、怖い…。そして長い。

 おもしろいのでぐんぐん読み進めたいのだけど、う~ん、ここの描写は要らないから先に行って、と思う場面もいくつかありました。いつの話、どこの話、誰の言葉、と迷路に入り込んで迷子になりそうですが、出口に何が待っているのかドキドキですぐに下巻へ。

 


鳩の撃退法 下 (小学館文庫) 鳩の撃退法 下   佐藤 正午

 

 下巻も、この描写は要らない、と頭の中で削除したくなるほど長い場面がありました。でも、どんどんおもしろくなり、そして怖くなり、迷路は出口ではなく入り口に戻って、やっと抜け出せました。一周する物語。

 ちょっと騙された感は残りますが、とにかく出られてよかった。彼らはどうなったのだろうと気になるところもありますが、そこは想像して自分に都合よく埋めるしかありませんね。こんな物語を鉛筆で手書きしていたのですから大変です。あ、作品に登場する小説家の話です。

 


生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫) 生きていてもいいかしら日記  北大路 公子


 凡人ならあまり気にかけないような身の周りのできごとを、こんなに細かく見つめて表現できるなんて、いやいやたいしたものです。つらいことも不愉快なことも、公子さんのような視点で書くと、こんなふうに楽しいことに変わるんですね。

 でも、ちょっとチクチク痛いところをついてくる?もちろん、これからもその細やかさ、マイペースぶりを失わずに生きていてください。飲み過ぎには気をつけて!
  


椿の海の記 (河出文庫) 椿の海の記   石牟礼 道子

 

 昭和初期、苦海となる前の水俣の暮らしを描いた物語です。

 この国の自然や四季はこんなに美しく、人々の暮らしはこんなに豊かで愛おしいものだったのかとしみじみとした気持ちで読みました。この後に人々がこの豊かさを失い、町が死の町と変わっていくことを思うと、その美しさが悲しくさえ見えます。

 自然がもたらす小さな恵みにも「いただきます」と声をかけ、分け合い、よく働き、ささやかなことを楽しむ暮らし。その暮らしを語る言葉がまた美しく、「書く」ということについて改めて考えさせられる作品でした。

 


すばらしい日々 (幻冬舎文庫) すばらしい日々   よしもとばなな

 

 生きていくことがつらい、と思う日があります。きっと誰にも。病気、老い、身近な人の死…。人は悩み、傷つき、心がかたくなになってしまいがちです。

 でも、そんなつらい中でも少しだけ顔を上げると、誰かのやさしさや温かさが木洩れ日のように心に入りこんできます。ささやかでも、それだけでわたしたちの暮らしは「すばらしい日々」。

 体中で生きる子犬も、最後まで病と闘った父親も、家族も友だちも、そして自分も愛おしいと思えるすばらしい日々です。
  


ちいさなちいさな王様 ちいさなちいさな王様  アクセル ハッケ

 

 読み始めてしばらくは、この王様は何者で、この作品はわたしをどこへ連れていってくれるのだろうと、固い頭で考えていました。途中で、あゝそうなんだと急に霧が晴れたような感じになって、王様の言葉が大きな意味を持って胸に沁みこんでくるようでした。えばっているけどなかなかやるじゃない王様、という感じ。

 「そうすると、おまえには、おれが欠けている、ということになるだろうか。」

本当にそう。賢くなったつもりでも、見えないものを想像する豊かさは小さくなっているんですね。絵も味があってすてきです。

 


鹿よ おれの兄弟よ (世界傑作絵本シリーズ) 鹿よ おれの兄弟よ  神沢 利子

 

 とても静かでまっすぐで、あゝこうやって生きることが始まりだったのだと思い知らされる作品でした。

『おれは鹿の肉をくう それはおれの血おれの肉となる だからおれは鹿だ 鹿よおれの兄弟よ』

厳しい自然と向かい合うとき、人はこんなに真剣に、そして謙虚になるのですね。絵もとてもきれいで、美しい森や川、空に惹き込まれていくようでした。人は大切なものを失いながら歩んできて、地球からも大切なものを奪ってしまいました。

 


スガンさんのヤギ  スガンさんのヤギ  アルフォンス ドーデ

 

 何という作品でしょう。守りたいと思って柵の中に入れてつないでおいたのに、ヤギは野生の本能に導かれて山へ逃げ出し、一晩オオカミと闘って死んでしまった…。それでよかったの? やっぱり生きている方がよかったでしょう?

 いやいや、これはヤギの話じゃなくて、人間の物語なんですよね。自由といっしょにある危険。それだって受け入れるのが生きるということ、自由に生きるということ。自由じゃなければ生きる意味がないのだと、心のどこかで導くものがあるのでしょうか。空の色がきれいで悲しい。
 

 

2018 5月の読書

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えほん北緯36度線  えほん北緯36度線   小林 豊

 

 北緯36度線にある街東京から西へ、1匹とふたりと1羽の大きな鳥が広大なアジア大陸を超え、地中海を渡り、大西洋へと抜けていきます。

 

どこにも美しく壮大な自然があり、人々の素朴な営みがあります。

『鳥は知っています。人間が地面に線を引き、その線を何度も引き直すこと。その線を越えて生きることの喜びを。』

人も、鳥のように大きな大地を見渡せたら、きっと同じことを思うかもしれませんね。

以前、コーヒーのCMで流れた曲と谷川俊太郎の詩を思い出しました。地球が愛おしくなります。



ヤマネコ毛布  ヤマネコ毛布   山福 朱実

 

 森のみんながやさしいのか、ヤマネコがけっこういいやつなのか、ほのぼのとしたやりとりに温かい気持ちになりました。

1ページ目の「もうきめた というかおです。」というところからもう楽しい。それだけ森の仲間は繋がっているんですね。

いっしょに遊んだ楽しい思い出、追いかけられたり食べられそうになったりしてドキドキした思い出。全部ひっくるめて森のステキな思い出です。

 版画の力強く味わいのある表現がそんな森の雰囲気にぴったりで、絵が語りかけてくれるものもたくさん。うわおん、うわわおん…。ヤマネコさん、照れてる?

 


逢魔が時に会いましょう (集英社文庫) 逢魔が時に会いましょう    荻原 浩

 

 「愛しの座敷わらし」がおもしろかったので、同じような楽しさを求めて。タイトルからして楽しそうでしょう。

いるのかもしれない、いないのかもしれない。いてほしいけど、できればお会いしたくない…。そんな不思議な存在を求めて、世間の常識からちょっとずれた男女が現地調査とやらに出かけます。

この二人が、ずれたままどこへたどり着くのだろうと思いながら読みましたが、予想通り期待通りの着地でした。

ごめんなさい。テレビの見過ぎで、どうしても二人が深夜番組で観たあの二人に見えて頭から離れませんでした。でも、この本もあの番組も好きです。



海うそ (岩波現代文庫)  海うそ   梨木 香歩

 

 植物が怖ろしいほどの熱気で山を包む南の島で、人々は自然と語り合いながら倹しく暮らしている、その営みのなんと美しいことでしょう。

 でも、生きるというのは変わり続けること。人も、動物も、地球を包み込む大自然も。変わり続けて大切なものが失われ、島の歴史もあちこちに潜んでいた何かも消えてしまいました。

 海にうかぶ蜃気楼、海うそだけが変わっていく島を見つめていたのでしょうか。みんなみんな生きた。その時の風に吹かれ、誰かを愛しみ、そして独りで…。

 作中に出てきたいくつかのカモシカ。雪の中で立ったまま凍死していくカモシカの哀しみを誰も助けることはできません。

 


まるまるの毬 (講談社文庫)  まるまるの毬   西條 奈加

 

 和菓子にこめられた人の思いの物語。

 7個の和菓子を練りながら、登場する人々の人生も喜びと悲しみが練り合わされ、こんなふうに生きていけたらなと、しみじみとした気持ちになります。読み終えて、「心根」という言葉がうかんできました。心根がいい、とか、心根がしっかりしているとか、だいじなんだなと。

 とげとげしい気持ちで作ったお菓子ではなく、心根のいい人が作ったものを食べたいものです。お菓子に限らず。


山本周五郎名品館I おたふく (文春文庫 や 69-1 山本周五郎名品館 1)  山本周五郎名品館I  おたふく    山本 周五郎

 

 沢木耕太郎が編んだ九つの短編集。女性たちの深い愛、その愛ゆえの強さ、けな気さ、そして哀しさ、切なさが抑え気味の表現で静かに描かれています。

 思われるより誰かを思い、その誰かのために生きる喜び。

 夫にさえ気づかせず周りの人々に親切にふるまいながら、自分は粗末な着物を繕い着続けていた武士の妻も、「へんな、たん。」(入んな、おとうたん)と言って酔っぱらいの父親を気づかう幼い娘も、そう生きることが自分らしく幸せなんですね。

 


火星に住むつもりかい? (光文社文庫)  火星に住むつもりかい?    伊坂 幸太郎

 

 警察ドラマでよく聞くセリフ 「どんな理由があっても、人を殺すことは許されない。」 いつも、そうだね、と頷きながら見ていましたが…。

 この本を読みながら、平和警察の警察官たちが殺されたときは「あゝよかった!」とホッとしてしまいました。伊坂氏の作品を読むとき、わたしがよく陥る危ない罠です。でも、無実の罪だとわかっているのに人をなぶり殺しにする警察官には反省や更生の余地はなく、また同じことを繰り返しそうです。悪い奴は本当に悪い。

 それでもこの星には善き人が住む余地があると信じ、伊坂氏のように「善き物語」を書き続けてほしいとおもいます。伊坂氏の作品を読んだ人が、伊坂氏は善き物語を書こうとしていると言っていました。その言葉を拝借。

 


祖父 大平正芳  祖父 大平正芳   渡邊 満子

 

 大平正芳は、わたしが20代の頃の総理大臣。孫から見た祖父の人柄や言動、政治家としての苦悩などが描かれていて、その人となりにも惹かれるものがありますが、その頃の政治をとり巻く人々の様子にもおもしろさを感じました。

 野党の議員や厳しく追及する新聞記者にも謙虚におおらかな態度で接する寛容さ。国民の今と将来のために信念を持って行動する強さ。人の痛みを感じとるやさしさ。政治にとって言葉は大切なものですが、その言葉の奥にある人となりをよく見極めることがもっと大切だと、改めて考えました。

 

            今日は6月4日。

            天気予報士の言葉をまねるなら、梅雨入り前の貴重な晴れ☀ 

            木々の緑と青空がまぶしく輝いています。

            庭の紫陽花たちはちょっと疲れ気味