おはようございます。
中村天風著、叡智のひびき(講談社)より。

~「思いやり」という事を現実にするには先(ま)ず何を措(お)いても相手方の気持ちになって考えて見る事である~

思いやりは、尊い情念です。
思いやりをもつ上で一番大切な事は、相手方の気持ちになるということです。
つまり、「自分が先方の立場にいたらどうであろうか」と考えることです。

孔子も、「君子の道は忠恕(ちゅうじょ、まごころと思いやりとがあること。忠実で同情心が厚いこと)のみ」と言いました。

英国の古いことわざにも、「To be peaceful human life, put oneself in another’s place.」(他人の立場に自分を置いてみれば、幸せな人生が送れる)とあります。

何事に対しても、まず相手方の気持ちになって考えてみることが、すべてのことの解決をスムーズにする秘訣です。
相手方の気持ちになれば、「思いやり」という心情が、わき出てくるのです。

そうできないなら、それは人生観が「自己中心主義」に偏っているからです。
自己中心主義になるのは、人生生活に対する精神態度が知らず識らずの間に何等の自制も克己(こっき、おのれにかつこと。意志の力で、自分の衝動・欲望・感情などをおさえること)もない自己中心という価値のない状態に習性づけられたからです。

そして、自己中心主義になるのは、世界観が正当に確立されていないからだ、と断言できます。
それは、宇宙の真相というものに対する考察と理解とに、徹底したものを知識としてもっていないことが原因です。

考えてみましょう、この世にある万物万象(物のすべて)は、「空」と名付ける「唯一の実在」という絶対のものから作られています。
「空」は何もないのではなく、意識感覚の線上に現れない「有」なのです。
そして重大な事は、作られた万物万象のすべては、いずれも一切独自的に存在するものは一つとしてなく、厳密に相互に強調して、その存在を確保しあっているという、犯すべからざる現実があることです。
つまり、もちつもたれつ、互いに助け合って調和を図りながら存在しているのです。
そして、この調和が完全である間は、その物象の存在は安定しています。

もう一つ忘れてならないことは、その調和が、何かの原因で破れると、それを復元しようとする無限の親切さが、この「空」なるものによっていつも行われている、ということです。
この復元という大作用が「空」なるものの力によて、絶え間なく、果てしなく、継続して行われています。
かくして、いわゆる諸行無常の姿をもって、この世は間断なく、ひたすらに完全へと、進化し向上しているのです。
これが、宇宙の真相です。

この犯すべくもない現実の中に、お互い人間が、生存生活していることに思い至ったなら、自己の存在のみを重視して、他との協和も協調も考えないで活きるという、自己中心主義が、決して正当な人生観でないということが容易にうなずけましょう。
そう、もっとも厳正なる人生観は、自他共存主義、あるいは自他統一主義、これです。
そう分かれば、人と接するにあたっては、まず、何よりも、相手方の気持ちになって考えてみることが、もっとも正しい人生態度だと、簡単にわけなく気がつきませんか。