11月13日のブログ『映画に言葉は必要ない?』では
セリフのない映画
『ゴンドラ』と『ロボット ドリームズ』
を取りあげました。
言葉しかない文学と映像中心の映画
という対立軸を考えてみましたが、
出演者が休みなくしゃべり続けるという
しゃべくり映画とでもいうべきものを見ました。
at the benchです。
5編の短編からなるオムニバス映画です。
公園の古ぼけたベンチにやって来た二人か三人が
おしゃべりをするというだけなのですが、
見終わって数日経った今、
振り返ると登場人物たちがとても愛おしく感じられます。
まあ、こういった自主制作映画だ
と出てくるキャスト陣は往々にして
みたことない顔ばかりということになりますが、
本作については主役クラスの人気俳優オンパレードなんですね。
第1編 のこりものたち
広瀬すずさんと仲野太賀さんの二人は幼なじみですが、
職場の人間関係で悩んでいたり、
残業がよく似合うと言われるほど仕事漬けだったり、
そう楽な毎日ではなさそうです。
公園の遊具も撤去されてしまって、
座っているベンチも残っているのが不思議なくらい。
でも話しているうちに明るい展望が開けそうになってきます。
二人を正面からは撮らず、
後ろからとか斜め横からとかのショットが多く
、広瀬すずさんの顔をもっと見たいと
思わないでもなかったのですが、
広瀬さんは「視界に一切カメラがない現場なんて、
最初で最後だろうな」と語っています。
お風呂に浸かっているかのような
温かい気分で気持ちよく演じられたようです。
ゆっくり陽が沈んでゆく広々とした公園を背景とした
とても心地よい映像になっていました。
第2編 まわらない
岸井ゆきのさんと岡山天音さんの
カップルがベンチでランチです。
岡山さんはバイクのライダー風の帽子とウェアですが、
「バイクも乗らないのにそんな格好してたら
周りからどう思われるか分かってるの」と
岸井さんから突っ込まれます。
岸井さんはパンを食べているのに、
岡山さんはスーパーで買ったお寿司をとり出します。
「こんなところでお寿司なんかどうして出すの」と岸井さん。
ツッコミ役の岸井さんと岡山さんの
漫才のようなやりとりのうちに別れ話が出てきます。
そこへ二人の話を聞いていた荒川良々さんが
加わってさらに立場もお寿司もなくしそうな岡山さん。
どうなるの。
第3編 守る役割
ホームレスの姉と家に連れ戻そうとする妹が
雨の中で激しく言葉のバトルを繰り広げます。
舞台でやったら盛り上がりそうな
第3編の脚本は根本宗子さんでした。
劇団活動だけでなく、映画では
『もっと超越したところへ』の脚本を書かれていました。
第3編の面白さも納得です。
あの美しい今田美桜さんがホームレス役ですよ。
なかなか誰か分かりませんでした。
妹は森七菜さんでした。
妹キャラがはまってました。
第4編 ラストシーン
草彅剛さんと吉岡里帆さんの二人は市役所の職員として
ベンチを撤去するべきかどうか調べに来ます。
草彅さんはベンチの高さと言うところを深さと言ったり
なんかヘンです。
それは生半可なヘンさではなく、
いきなりもっと超越したヘンさへ飛んで行きます。
神木隆之介さんも出ています。
第5編
第1編の二人が再登場します。
二人の仲も順調に進んでいます。
ああ、よかったね、と言いたくなります。
時刻もさらに進んで暗くなってきました。
おうちに帰りましょう。
全体を通してみると、対称形をなしているようです。
第1編と第5編は穏やかな日常の世界、
第2編と第4編は少しずつ日常からずれて行くヘンな面白い世界、
第3編は嵐のような激情の世界。
5楽章のシンフォニーに見立てて、
発想記号で表してみると
Pastorale(田園風)-Capriccioso(気紛れに)-Tempestoso(嵐のように)-Serioso/fantastico(真面目に/幻想的に)-Con amore(愛情に満ちて)
といったところでしょうか。
そして第1編の二人の親密な関係は第5編で進み、
第2編の日常生活の仲のささいな違和感は
第4編では日常を完全にはみ出してしまう、
といったように高まりを見せるらせん状に進んでいるようでもあります。
5編の配置も絶妙です。
去年、広瀬すずさんには
主演映画『水は海に向かって流れる』と
大作『キリエの歌』への出演があったのに、
今年は映画出演作はなしか、と思っていたところだったので、
短編とはいえ2編に登場されてうれしいことでした。
MOVIE WALKERのサイトを見ると
来年は出演作が待機中のようですね。
『片思い世界』は
「広瀬すず・杉咲花・清原果耶のトリプル主演、
坂元裕二脚本で迷い悩みながら生きる若い女性の姿を描く」ですと。
見逃せません。
『遠い山並みの光』は
「カズオ・イシグロの同名小説が原作、
時代と場所を超えて交錯する記憶の秘密を紐解くミステリー」。
「時代と場所を超えて交錯する記憶の秘密」ですか、面白そうです。
『宝島』は
戦後沖縄の史実に記されない真実を描いた
真藤順丈の第160回直木賞受賞作『宝島』を原作に、
大友啓史監督が手掛けた人間ドラマ。シリアスですね。
撮影はもう終わってるんでしょうか。
来年は豊作だ!