20080930 日本経済新聞 朝刊

 厚生労働省は二十九日、年金制度改革の検討に本格的に着手した。基礎年金の受給額が少ない低年金対策を巡り、これまでの「全額税方式化」と「最低年金創設」案に加え、低所得者の国民年金保険料を軽減し、軽減分を税で補助する第三の案を新たにまとめた。年金を受けとるのに、二十五年間保険料を払い続ける必要がある受給資格期間の短縮なども検討する。年金不信が深まる中、二〇〇四年の年金改革以来の本格的な見直しが動き始めた。(二〇〇四年の年金改革は3面「きょうのことば」参照)=関連記事5面に
 厚労省は社会保障審議会年金部会に検討項目を示した。基礎年金は満額(月六万六千円)を下回る低年金も多く、これまで(1)財源を全額税で賄う税方式化(2)加入期間にかかわらず、給付時に税で加算する最低年金の創設――という二案が出ていた。
 厚労省は今回新しい第三案を含む三つの選択肢を示した。「全額税方式」は保険料未納を解消できるが、移行に時間がかかる。「最低年金創設方式」は給付は手厚いが、加入期間に関係なく一定額を受け取れ、未納が増える恐れがある。
 厚労省が示した第三の案は、自営業者らが対象の国民年金の定額保険料(月一万四千四百十円)を所得に応じて軽減し、軽減分を国が税で補って全額払ったとみなす。少額でも保険料を四十年間払い続ければ、基礎年金を満額受け取れる。
 三つの案では税負担が異なる。第三の案で現行の免除制度利用者の保険料が軽減されると一兆七千億円かかる。全額税方式は最も多くの税財源が必要だが、保険料負担はなくなる。最低年金創設は、対象を年収二百万円以下の高齢者世帯に限っても一兆円がかかる。
 このほか年金の受給資格が得られる加入期間の短縮を検討する。いまは二十五年に満たないと年金がもらえず、保険料は掛け捨てとなる。例えば十年にすれば、年金を受け取れる人が増える。
 国民年金の適用年齢も見直す。保険料を滞納してから二年間の時効後も追加で払えるよう検討する。パート労働者への厚生年金の適用拡大、育児期間中の国民年金保険料の免除なども課題だ。

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20080930 日本経済新聞 朝刊

 民主党を挑発するかのような「逆質問」とは対照的に、後期高齢者医療制度や税制抜本改革などで首相は具体的な方向性を示さなかった。目前に迫る衆院選をにらみ、防戦に回らざるを得ない政策の争点化を回避したい思惑がのぞく。
 自民党総裁選中に「抜本的見直し」に言及した後期高齢者医療制度について首相は所信表明演説で「制度を無くせば解決するものではない」と微妙に修正。「一年をメドに必要な見直しの検討」とした。税制改革では消費税率上げには触れず、膨らむ社会保障費の財源に関し「検討を急ぐ」とするにとどまった。道路特定財源の一般財源化も具体論に踏み込む姿勢は見えなかった。
 首相サイドは道路特定財源の一般財源化について「閣議決定しており、自明のこと」と説明。社会保障分野も含め、質問を受ければ論戦に応じると言うが、景気対策などに比べ位置づけの違いは明らかだ。
 例えば年金、医療。世論の反発を招いた後期高齢者医療制度は野党がそろって廃止を主張。制度見直しは議論が始まったばかりで、論戦になれば政府・与党の歯切れの悪さばかりが目立つ展開も予想される。不手際が続く年金問題も、与党内には、深入りすれば民主党を利するだけとの警戒感がくすぶる。
 消費税率上げや道路特定財源の一般財源化では、年末の税制改正論議など与党内調整を経ずに踏み込めば「独断専行」との批判を浴びる。
 景気対策など分かりやすい分野で民主党との対立軸をつくり、形勢不利な政策課題はあいまい答弁で切り抜ける――。所信表明での首相の姿勢は、与党の選挙戦術とつながる面もありそうだ。


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20080930 日本経済新聞 朝刊

▽…保険料負担の将来の上限を決め、その財源の範囲内で年金を給付することを決めた年金改革。厚生・国民年金の保険料を2017年度まで毎年引き上げると同時に、受け取る年金を実質的に下げる。現役世代の平均収入の50%を上回る年金給付額を維持できるとして、政府・与党は「百年安心プラン」とうたった。
▽…だが予想以上に少子・高齢化が進み、現役世代の平均収入の50%維持は難しいとの見方も出ている。厚生労働省の社会保障審議会は将来の人口推計に基づく設計見直しや、04年改革時に残った低年金・低所得者対策などを議論している。

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20080930 日本経済新聞 朝刊

保険料税支援 満額を重視 未納に課題
全額税方式 未納は解決 移行に時間
最低年金創設 給付は厚く 未納拡大も
 厚生労働省が二十九日の社会保障審議会年金部会で今後の検討項目を示したことで、年金制度改革を巡る議論が加速しそうだ。ただ、裏付けとなる財源のめどは立っていない。来年度に控える基礎年金の国庫負担割合を二分の一に引き上げるための二兆円余りの財源の手当てもこれからで、「国民の安心」を担保する財源の具体化が急務となる。(1面参照)
難しい所得把握
 今回、厚労省は低年金対策を柱とする基礎年金の改革案を三つ示した。このうち、新たに打ち出したのは「保険料軽減・税支援方式」。低所得者の国民年金保険料を軽減し、軽減分を税で補助する仕組みだ。
 低所得者でも払いやすい保険料負担にし、四十年間払い続ければ基礎年金を満額受け取れるようにする。満額給付につなげることを重視した案だが、課題は多い。
 まず最大の課題である保険料の未納を解消できない。自営業者の所得の把握も課題だ。介護保険料などと同じく課税状況などで保険料を軽減するとみられるが、自営業者の所得の正確な把握は難しい。税で補助される度合いの違いで不公平感が広がる懸念がある。
 もう一つの案は「全額税方式化」だ。保険料負担を全額税に置き換えるため、保険料の未納者はいなくなる。消費税が財源なら、世代間、働き方の違いなどによる不公平感は薄まる。
 保険料を廃止するので全体の負担は変わらないが、移行に時間がかかり、最も多額の税財源が必要となる。
 一定の年金額まで税で給付を加算する「最低年金創設」という方式もある。低所得者に手厚い給付が特徴だ。ただ加入期間にかかわらず一定の年金を受け取れるので、満期の四十年に達する前に保険料を払うのをやめるなど、未納者がかえって増える恐れがある。
 公的年金を受け取れる加入期間(最低二十五年)の短縮、国民年金の適用年齢(原則二十歳から六十歳)の見直し、子育て支援なども検討する。
少額でも受給へ
 いまは公的年金への加入が二十五年に満たないと年金は受け取れず、払った保険料は掛け捨てになる。米国が十年、ドイツは五年などとしており「諸外国と比べ長すぎる」との指摘も強い。これを十年などに短縮すれば、少額とはいえ年金を受け取れる。
 国民年金保険料は学生の多い若年層ほど保険料の未納率が高い。適用年齢をいまの「二十歳以上」から「二十五歳以上」に改めたり、二十代前半の保険料を猶予する代わりに六十五歳まで任意加入できるようにしたりする案がある。保険料を払った期間が四十年を超えた場合、年金額にどう反映するかどうかなど新たな課題も浮上する。
 これら新たな見直しの実現への道筋は不透明だ。厚労省が検討を本格化させたのは、政府が来年度に基礎年金の国庫負担割合を現行の三分の一強から二分の一に引き上げると約束していることが大きく影響している。
 厚労省は来年の通常国会に国庫負担の引き上げ時期を定める法案を提出する必要がある。しかし、現行制度の改善策を何ら示さないまま国庫負担を引き上げる時期を定める法案だけを提出しても、国会審議を乗り切ることは極めて難しい。
 このため厚労省には制度の将来像を示し、法案成立を後押ししたい思惑がある。だが財源をすぐに手当てするのは困難で、実際の見直しは数年後の財源確保が前提となりそう。政局の動向も大きく影響するが、財源論を先送りすれば年金への安心は得られそうにない。
【図・写真】社会保障審議会年金部会に臨む稲上部会長(左)(29日午後、厚労省)


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20080930 日本経済新聞 朝刊

 介護保険法に基づく施設サービスを提供する介護保険施設には、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム=特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設(療養型)の三種類がある。特養は長期入所を前提としているが、医療体制は弱い。老健と療養型は医療体制が充実しているが、老健は在宅復帰を前提にリハビリなどを行う。療養型は医療体制が長期的に必要な利用者向けの医療機関だ。
 いずれの施設も多くの入所待機者を抱える。中でも特養は長期入所を前提とし自己負担も少ないため、特に待機者が多い。しかし、施設を安易に増やすのは介護保険制度の理念に反し、歳出や保険料の増加につながる。そこで、厚生労働省は地域で必要なサービス量を算出する基準(参酌標準)を定め、施設の増加に歯止めをかけている。ただ、これが結果として消費者の選択を困難にし、既存事業者の権益を守っている面もある。
 施設の運営は制度上、社会福祉法人、医療法人などに限定されている。特養は開設主体の九割超が社会福祉法人である。
 社会福祉法人は社会福祉事業を行うことを目的に戦後設立され、法人税非課税など様々な補助制度により守られてきた。社会福祉法人の設立は基本財産を所有することを除けば特別な制限がなく、営利法人などが財産を寄付する形で事実上支配している場合もある。過去、特養の平均的利益率が一〇%前後と高かったこともあり、公平性の観点から批判が高まってきた。
 しかし、制度に守られる一方、強い規制に縛られており、今後、優遇制度を縮小する代わりに、経営の自由度を増す方向での見直しが考えられている。
 介護保険施設は制度施行以降、徐々にその性格を変えてきた。特養は重度者を重点入所させる制度変更を行った結果、医療ニーズにも対応せざるをえなくなっている。しかし、介護職では対応できない作業も多い。今後、こうしたニーズへの対応を含め介護保険施設の機能やその給付について再検討されるとみられる。

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