20080930 日本経済新聞 朝刊
保険料税支援 満額を重視 未納に課題
全額税方式 未納は解決 移行に時間
最低年金創設 給付は厚く 未納拡大も
厚生労働省が二十九日の社会保障審議会年金部会で今後の検討項目を示したことで、年金制度改革を巡る議論が加速しそうだ。ただ、裏付けとなる財源のめどは立っていない。来年度に控える基礎年金の国庫負担割合を二分の一に引き上げるための二兆円余りの財源の手当てもこれからで、「国民の安心」を担保する財源の具体化が急務となる。(1面参照)
難しい所得把握
今回、厚労省は低年金対策を柱とする基礎年金の改革案を三つ示した。このうち、新たに打ち出したのは「保険料軽減・税支援方式」。低所得者の国民年金保険料を軽減し、軽減分を税で補助する仕組みだ。
低所得者でも払いやすい保険料負担にし、四十年間払い続ければ基礎年金を満額受け取れるようにする。満額給付につなげることを重視した案だが、課題は多い。
まず最大の課題である保険料の未納を解消できない。自営業者の所得の把握も課題だ。介護保険料などと同じく課税状況などで保険料を軽減するとみられるが、自営業者の所得の正確な把握は難しい。税で補助される度合いの違いで不公平感が広がる懸念がある。
もう一つの案は「全額税方式化」だ。保険料負担を全額税に置き換えるため、保険料の未納者はいなくなる。消費税が財源なら、世代間、働き方の違いなどによる不公平感は薄まる。
保険料を廃止するので全体の負担は変わらないが、移行に時間がかかり、最も多額の税財源が必要となる。
一定の年金額まで税で給付を加算する「最低年金創設」という方式もある。低所得者に手厚い給付が特徴だ。ただ加入期間にかかわらず一定の年金を受け取れるので、満期の四十年に達する前に保険料を払うのをやめるなど、未納者がかえって増える恐れがある。
公的年金を受け取れる加入期間(最低二十五年)の短縮、国民年金の適用年齢(原則二十歳から六十歳)の見直し、子育て支援なども検討する。
少額でも受給へ
いまは公的年金への加入が二十五年に満たないと年金は受け取れず、払った保険料は掛け捨てになる。米国が十年、ドイツは五年などとしており「諸外国と比べ長すぎる」との指摘も強い。これを十年などに短縮すれば、少額とはいえ年金を受け取れる。
国民年金保険料は学生の多い若年層ほど保険料の未納率が高い。適用年齢をいまの「二十歳以上」から「二十五歳以上」に改めたり、二十代前半の保険料を猶予する代わりに六十五歳まで任意加入できるようにしたりする案がある。保険料を払った期間が四十年を超えた場合、年金額にどう反映するかどうかなど新たな課題も浮上する。
これら新たな見直しの実現への道筋は不透明だ。厚労省が検討を本格化させたのは、政府が来年度に基礎年金の国庫負担割合を現行の三分の一強から二分の一に引き上げると約束していることが大きく影響している。
厚労省は来年の通常国会に国庫負担の引き上げ時期を定める法案を提出する必要がある。しかし、現行制度の改善策を何ら示さないまま国庫負担を引き上げる時期を定める法案だけを提出しても、国会審議を乗り切ることは極めて難しい。
このため厚労省には制度の将来像を示し、法案成立を後押ししたい思惑がある。だが財源をすぐに手当てするのは困難で、実際の見直しは数年後の財源確保が前提となりそう。政局の動向も大きく影響するが、財源論を先送りすれば年金への安心は得られそうにない。
【図・写真】社会保障審議会年金部会に臨む稲上部会長(左)(29日午後、厚労省)
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