20081020 日本経済新聞 朝刊

 中川昭一財務・金融担当相は十九日出演したテレビ番組で、銀行などの有価証券の含み損処理のあり方を見直す可能性を示唆した。現在のルールでは含み益が自己資本を押し上げる効果に比べ、含み損が自己資本を減らす効果の方が大きい。株価下落で銀行の自己資本が減り、融資余力が下がれば、中小企業向け融資が滞る一因になるとの見方もある。
 中川氏は「日本の金融機関が持っている株の比率は圧倒的に高い。金融機関も(有価証券の含み損処理が自己資本比率の減少に)相当効いているようだ」と語った。
 銀行の自己資本は資本金などの「中核的資本(Tier1)」と、劣後ローンなどの「補完的項目(Tier2)」からなる。中核的資本が多いほど資本の質が健全とされ、補完的項目は中核的資本と同額までしか積むことができない。
 有価証券の含み益が出ている場合、銀行はその四五%分を補完的項目に計上する。一方、含み損が出ている場合は、税効果調整後の額を中核的資本から差し引く。中核的資本が減ってしまうと、補完的項目の上限額も同時に減る。株価下落などが続くと、銀行の自己資本が減りリスクの許容度が低下するため、貸し渋りの原因になるという懸念が出ている。
 中川氏は番組終了後、記者団に対し「日本の特殊事情でもある。緊急避難的に何か方法を考える必要があるのか、(金融庁の事務方に)勉強させている」と述べた。





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20081019 日本経済新聞 朝刊

 厚生年金の加入記録改ざんが騒がれている。だれがどういう目的で改ざんするのか。加入者・受給者にはそれを見つけ、訂正する方法はあるのか。「記録が行方不明」といった二〇〇七年からの騒動とはまた違う問題だけに、基本的なところを押さえておこう。
 【何が改ざんされた?】
 関東地方にある中小企業に勤めていた大沢太郎さん(62、仮名)は一九九一年から九二年にかけて五十万円以上の月給があった。ところが後で調べると、社会保険事務所の記録ではこの間の月給が八万円となっていた。
 このように月給を実際より低く偽るのが改ざんの代表的な例。厚生年金は月給や賞与に保険料率(現在は一五・三五%)をかけて保険料を算出。これを従業員と会社で半分ずつ負担して納める。
 月給が低いほうが保険料負担が減るので、経営が苦しくなった会社がわざと低い給料を申告するわけだ。従業員からは実際の給料に基づく保険料を天引きしておいて、差額を会社が横領していた例もあるとされる。通常、従業員は会社が自分の給料をどう社保事務所に報告しているかなどはわからない。このため虚偽が発覚しないまま年月が経過する。
 社保事務所が記録する月給は正確には「標準報酬月額」という。残業代などで毎月変わる月給をその都度届けるのは非効率なので、原則として毎年四―六月の三カ月間の月給を平均し、切りのよいところで丸める(表A参照)。
 平均月給が四十八万五千円以上五十一万五千円未満だとすると、標準報酬月額は五十万円(表Aの※印)。厚生年金の記録上の月給はその年の九月から一年間は基本的に五十万円となる。また賞与分の保険料は、賞与に保険料率をかけて計算する(表B参照)。賞与の改ざんもあり得る。
 このほかにも虚偽の申告はある。会社は存続しているのに、倒産したなどとして会社が厚生年金から脱退してしまう例だ。こうすれば会社は保険料をまったく払わなくても済む。当然ながら従業員も厚生年金から抜けてしまうことになる。標準報酬月額を引き下げ、さらに厚生年金からも脱退する虚偽の処理をした例も報告されている。
 これらの改ざんなどは「中小零細企業で目立つ。大企業ではあまり考えられない」(社会保険労務士の佐藤正明さん)という。会社が丸ごと厚生年金から抜けてしまう虚偽申請については審査が厳しくなったため、〇三年ごろから急減したもようだが、一部の従業員だけを脱退させるといった不正な処理はその後も続いているといわれる。
 【改ざんでどうなる?】
 標準報酬月額は保険料の計算に使われるだけでなく、年金額を計算するときの基礎ともなる。引き下げられると、保険料だけでなく、年金額も減る。
 社会保険労務士の北村庄吾さんの試算では、標準報酬月額三十四万円で三十七年間働いた会社員の場合、仮に標準報酬月額が二年の間、二十四万円に下げられていたら、年金額が年間約一万七千円減ってしまう。月にすると千四百円余りの損失。
 二年間、標準報酬月額の現在の下限である九万八千円まで下げられていたとすると、厚生年金は年四万円を超える減少になる。
 虚偽の届けによって厚生年金から脱退してしまったときの影響はさらに大きい。年金額が少なくなる可能性があるほか、代わりに国民年金に加入しないと原則二十五年加入という受給条件を満たせず、年金がもらえなくなる恐れもある。
 【どう見破る?】
 まずは自分の標準報酬月額の記録を知る必要がある。社会保険事務所などに問い合わせれば、記録を渡してくれるほか、申し込めばインターネットの社会保険庁のホームページから検索することも可能。ネットでの検索はこれまで現役加入者しか利用できなかったが、〇八年度中にはすでに年金をもらっている高齢者も利用できるようになる(表C参照)。
 社会保険庁から記録を送付するサービスも始まる。〇九年中に厚生年金の全受給者に対して、標準報酬月額の記録が掲載されたお知らせを送付。現役加入者に対しても〇九年四月以降送付する「ねんきん定期便」の中にこの情報を入れる。
 記録が手に入ったら、働き始めたころから順に標準報酬月額の推移を眺めてみよう。減給などの記憶がないにもかかわらず「途中で不自然に大きく標準報酬月額が下がっている場合は要注意」(社労士の東海林正昭さん)。また働き続けていたにもかかわらず、途中から記録がなくなり、厚生年金を脱退したことになっているケースなども気をつけたい。ただ脱退の場合は会社がそのことを従業員に知らせている場合もある。
 【第三者委に審査申し込み】
 記録を確認しておかしい場合は社保事務所に問い合わせたり、「年金記録確認第三者委員会」に審査を申し込んだりすることになる。同委員会は、年金保険料を払ったはずだが、「記録がない」といった事例を調べるために設けられた総務省管轄の組織。最寄りの社保事務所などで申し込みを受け付けている。
 当時の給与明細や源泉徴収票などが保存してあり、天引きされていた保険料額から本来の標準報酬月額がわかるような場合は、比較的容易に記録は訂正できそうだ。しかし第三者委員会に持ち込んでもそれなりの証拠が見つからないと救済は難しい。同委員会では雇用保険の記録や企業の経営者、当時の同僚の従業員などの証言を基に審査するという。
 万が一に備え、これからでも給与明細や源泉徴収票、確定申告したときの書類などは保存しておいたほうがよさそうだ。この機会にそのような書類の整理をするのも無駄ではない。
 社会保険庁がコンピューターの中にある一億五千万件の厚生年金加入記録を調べたところ、改ざんの疑いが濃厚なものが六万九千件あることがわかった。同庁では今月から、本当に改ざんされた記録かどうかの確認作業も始めた。本格的に調べれば六万九千件を超えて改ざんが見つかる可能性が大きい。
 不正な処理が広がる背景には、社会保険庁・社会保険事務所の組織的な関与が指摘される。「保険料が未納になるより、少しだけでも払ってもらうか、払わなくても済む状態になってもらうほうがよい」と考え、社保事務所の方から改ざんを指導した場合もあったという。舛添要一厚生労働相は調査委員会を設置、改ざんに携わった社保庁職員が明らかになれば、これを厳正に処罰する方針だ。
 ただ社会保険労務士からは「不正な処理は事業主の了解なしにはできないはず。経営者の責任も重い」との声が聞こえる。
 総選挙を意識して手っ取り早く国民の歓心を買うためだけの責任追及に走っても意味がない。真相の徹底究明によって、被害者を救い、再発を防止するような制度・運用の見直しも求められる。
(編集委員 山口聡、
手塚愛実)
【図・写真】舛添厚労相は問題解決に意欲を見せているが…(14日、参院予算委員会)




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20081019 日本経済新聞 朝刊

 世界的な株価下落で投資尺度からみて割安な銘柄が増えている。投資信託を通じた投資を検討する人もいるだろう。そのとき気を付けたいのは、金融機関でどの口座を利用するかということだ。二〇〇九年以降、口座によっては投信換金時に利益が出ると、翌年に確定申告が必要になるケースもあるので要注意だ。
 金融機関で購入した投信を預け入れる口座には「源泉徴収ありの特定口座」「源泉徴収なしの特定口座」「一般口座」の三種類がある。特定口座とは、金融機関が購入価格の管理や損益の計算をしてくれる口座のことで、金融機関が納税も代行する「源泉徴収あり」と投資家が自ら申告・納税する「源泉徴収なし」がある。一般口座では投資家が自分で損益を管理・計算したうえで、申告・納税する。
 源泉徴収ありの特定口座を使っていれば、投信換金時に利益が出ても原則として確定申告は必要ない。
買い取りか解約か
 〇八年までは、確定申告をしないで済む方法がもう一つある。換金時に解約請求を選ぶ方法だ(表A)。投信換金の手続きには、販売会社に投信を買い取ってもらう「買い取り請求」と、販売会社を通じて投信会社に解約を求める「解約請求」がある。〇八年までは利益が出た場合、買い取り(売却)ならば譲渡所得、解約(償還を含む)ならば配当所得として扱う。
 配当所得ならば口座の種類にかかわらず、利益の一〇%を源泉徴収されるだけで済み、確定申告をしない選択も可能だ。しかし、〇九年からはこうした選択はできなくなる。税制改正により、解約でも利益は譲渡所得として扱うようになるためだ。
 〇九年以降は源泉徴収なしの特定口座、一般口座にある投信の換金で利益が出れば、原則として確定申告が必要になる(図B)。サラリーマンの場合、給与所得・退職所得以外の所得合計が年二十万円以下ならば確定申告は不要。
 わざわざ確定申告をするのは避けたいと考えるならば「できれば年内に投信を源泉徴収ありの特定口座に預け入れておいた方がいい」(税理士の福田浩彦さん)。遅くとも〇九年に初めて投信を換金する前に手続きをしておかないと、確定申告不要を選べなくなるので注意したい。
 もう一つの注意点は、一般口座の投信を特定口座に預け入れられるのは〇九年五月末までとの期限があることだ。当面換金する予定がないとしても、なるべく早く源泉徴収ありの特定口座に預け入れた方がよいだろう。
 源泉徴収ありの特定口座を使わないで確定申告をする問題は、面倒が多くなることだけではない。確定申告をすることにより、思わぬところで負担が増える可能性がある。国民健康保険に加入している場合は保険料支払額が増えたり、七十歳以上では医療費の窓口負担が増えたりしかねない。また、妻が確定申告することで夫の配偶者控除などの対象から外れ、夫の税負担が増える可能性もある。
 一方、税務署は原則として金融機関からの支払調書を通じて、利益を把握している。源泉徴収ありの特定口座を使わず、確定申告もしなければ、将来、税務署から申告漏れの指摘を受けかねない。
未導入の銀行も
 しかし、〇九年からの税制改正は十分に周知されているとはいえない。日経生活モニターに登録する読者に〇八年九月に聞いたところ、株式投信を保有する七百四十二人のうち「知らない」と答えた人が四六%に上った。
 また、主な銀行の中にも、現時点で特定口座を導入していないところがある(表C)。今や投信全体の約半分は銀行を通じて販売されているが、銀行では証券会社ほど特定口座の導入が進んでいないといわれる。実際、既に特定口座を導入している銀行でも、一般口座の利用率が三〇―五〇%程度のところが多い。
 各行は一般口座を利用する顧客に、源泉徴収ありの特定口座に預け入れてもらうよう連絡を取り始めた。三菱東京UFJ銀行は〇八年十一月と〇九年一―四月、投信保有者に税制改正や特定口座の案内を送付する予定。りそな銀行も〇八年七月と十月に二十二万人の顧客に説明資料を送り、年明け以降は特定口座申込書を送付する予定だ。中央三井信託銀行は年明け以降の投信換金の注文受付時に、税制改正や特定口座への預け入れについて説明する方針だ。
 〇九年一月からは直販投信会社も特定口座を導入できることになった。さわかみ投信は〇九年一月に特定口座を導入する予定で、〇八年内に特定口座申込書を発送する。
 ただ、株価の急落で〇九年以降の証券税制は見直される可能性があり、注意が必要だ。(編集委員 山口雅司)
 二〇〇九年の改正で税制がより複雑になるとの指摘が多いが、投資家にとって改善する部分もある。株式や投信の売買で損失が出た場合に、株式の配当や投信の分配金などの利益と損益通算できる範囲が広がることだ(表D)。上手に利用すれば利益を圧縮できるので、納税額を減らせる。
 〇八年までは投信の解約・償還による利益は配当所得なので、他の投信や株式の売却損との損益通算はできない。しかし〇九年以降は譲渡所得になるので、投信買い取り(売却)による利益と同様に、他の投信や株式の売却損と損益通算ができるようになる。
 さらに〇九年以降は株式の配当や投信の分配金と、株式や投信の売却損を損益通算できるようになる。株式や投信の損切りを検討していて、〇九年以降に株式の配当や投信の分配金の受け取りを予定している人ならば、損切りを〇九年以降に先送りした方が得になるケースもあり得る。
 ただ、〇九年の損益通算については「配当・分配金を申告分離課税として確定申告をすることが必要」(税理士の福田さん)なので要注意だ。一〇年以降は源泉徴収ありの特定口座内での損益通算ができるようになり、確定申告をしない選択も可能になる。




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20081019 日本経済新聞 朝刊

 厚生労働省は確定給付企業年金と厚生年金基金について、給付を設計しやすいように規制を緩和する。職種や加入期間ごとに給付内容に格差をつけたり、給付額を従来より抑えたりすることを認める。二〇一二年三月末に廃止する税制適格年金を持つ中小企業が、これらの年金に移行しやすいようにする。二十一日に開く「企業年金研究会」で正式に決める。
 年金給付の設計としては、加入期間に応じて一定額を与える定額制、給与に応じて給付額が決まる給与比例制などがある。従来は一つの給付設計の中で違うメニューを用意することはできなかった。今後は給与比例制を選んだ場合でも、一般職と専門職で給付計算の乗率に差をつけることができるようになる。
 給付額に上限や下限を設けることも認める。給与比例の給付設計の場合、高い給与の従業員には高額の年金を支払わなければならない。これは基金にとって財政的な負担となる。上限を設ければ負担が減るため、複数の企業で年金基金を運営しやすくなるとの判断だ。
 厚労省は厚年基金や確定給付企業年金の使い勝手を良くすることで、税制適格年金の受け皿としたい考えだ。


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20081019 日本経済新聞 朝刊

 損害保険各社が火災保険を大幅に見直すのは一九六〇年代半ば以来、約四十年ぶりだ。抜本改革を怠り、商品を複雑にしたことが保険料の取りすぎにつながった。その再発防止に商品の簡素化が欠かせないのは確かだが、一部の保険料が大幅に上がる可能性がある。業界の対応が後手に回り、結果として消費者にしわ寄せされることになる。(1面参照)
 火災保険は住宅の柱や壁の材質で保険料を決める。新しい素材が次々と登場し、少し見ただけで種類を判別することが難しくなっている。外壁に軽量気泡コンクリートを使った住宅が代表例で、損保会社や保険代理店のプロでも保険料の計算を誤る例が相次いだ。
 今回の見直しでは鉄筋コンクリート造り、鉄骨造り、木造など、不動産取引や納税で使う建物の種類で保険料を決めるようにする。保険料の区分を減らすのも、間違いを防ぐためだ。
 九八年の損害保険料の自由化以降、損保商品は複雑化する一方だった。商品をわかりやすくする流れは今後も続きそうだが、保険料の引き上げをなるべく避ける努力が求められる。


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