20081019 日本経済新聞 朝刊
厚生年金の加入記録改ざんが騒がれている。だれがどういう目的で改ざんするのか。加入者・受給者にはそれを見つけ、訂正する方法はあるのか。「記録が行方不明」といった二〇〇七年からの騒動とはまた違う問題だけに、基本的なところを押さえておこう。
【何が改ざんされた?】
関東地方にある中小企業に勤めていた大沢太郎さん(62、仮名)は一九九一年から九二年にかけて五十万円以上の月給があった。ところが後で調べると、社会保険事務所の記録ではこの間の月給が八万円となっていた。
このように月給を実際より低く偽るのが改ざんの代表的な例。厚生年金は月給や賞与に保険料率(現在は一五・三五%)をかけて保険料を算出。これを従業員と会社で半分ずつ負担して納める。
月給が低いほうが保険料負担が減るので、経営が苦しくなった会社がわざと低い給料を申告するわけだ。従業員からは実際の給料に基づく保険料を天引きしておいて、差額を会社が横領していた例もあるとされる。通常、従業員は会社が自分の給料をどう社保事務所に報告しているかなどはわからない。このため虚偽が発覚しないまま年月が経過する。
社保事務所が記録する月給は正確には「標準報酬月額」という。残業代などで毎月変わる月給をその都度届けるのは非効率なので、原則として毎年四―六月の三カ月間の月給を平均し、切りのよいところで丸める(表A参照)。
平均月給が四十八万五千円以上五十一万五千円未満だとすると、標準報酬月額は五十万円(表Aの※印)。厚生年金の記録上の月給はその年の九月から一年間は基本的に五十万円となる。また賞与分の保険料は、賞与に保険料率をかけて計算する(表B参照)。賞与の改ざんもあり得る。
このほかにも虚偽の申告はある。会社は存続しているのに、倒産したなどとして会社が厚生年金から脱退してしまう例だ。こうすれば会社は保険料をまったく払わなくても済む。当然ながら従業員も厚生年金から抜けてしまうことになる。標準報酬月額を引き下げ、さらに厚生年金からも脱退する虚偽の処理をした例も報告されている。
これらの改ざんなどは「中小零細企業で目立つ。大企業ではあまり考えられない」(社会保険労務士の佐藤正明さん)という。会社が丸ごと厚生年金から抜けてしまう虚偽申請については審査が厳しくなったため、〇三年ごろから急減したもようだが、一部の従業員だけを脱退させるといった不正な処理はその後も続いているといわれる。
【改ざんでどうなる?】
標準報酬月額は保険料の計算に使われるだけでなく、年金額を計算するときの基礎ともなる。引き下げられると、保険料だけでなく、年金額も減る。
社会保険労務士の北村庄吾さんの試算では、標準報酬月額三十四万円で三十七年間働いた会社員の場合、仮に標準報酬月額が二年の間、二十四万円に下げられていたら、年金額が年間約一万七千円減ってしまう。月にすると千四百円余りの損失。
二年間、標準報酬月額の現在の下限である九万八千円まで下げられていたとすると、厚生年金は年四万円を超える減少になる。
虚偽の届けによって厚生年金から脱退してしまったときの影響はさらに大きい。年金額が少なくなる可能性があるほか、代わりに国民年金に加入しないと原則二十五年加入という受給条件を満たせず、年金がもらえなくなる恐れもある。
【どう見破る?】
まずは自分の標準報酬月額の記録を知る必要がある。社会保険事務所などに問い合わせれば、記録を渡してくれるほか、申し込めばインターネットの社会保険庁のホームページから検索することも可能。ネットでの検索はこれまで現役加入者しか利用できなかったが、〇八年度中にはすでに年金をもらっている高齢者も利用できるようになる(表C参照)。
社会保険庁から記録を送付するサービスも始まる。〇九年中に厚生年金の全受給者に対して、標準報酬月額の記録が掲載されたお知らせを送付。現役加入者に対しても〇九年四月以降送付する「ねんきん定期便」の中にこの情報を入れる。
記録が手に入ったら、働き始めたころから順に標準報酬月額の推移を眺めてみよう。減給などの記憶がないにもかかわらず「途中で不自然に大きく標準報酬月額が下がっている場合は要注意」(社労士の東海林正昭さん)。また働き続けていたにもかかわらず、途中から記録がなくなり、厚生年金を脱退したことになっているケースなども気をつけたい。ただ脱退の場合は会社がそのことを従業員に知らせている場合もある。
【第三者委に審査申し込み】
記録を確認しておかしい場合は社保事務所に問い合わせたり、「年金記録確認第三者委員会」に審査を申し込んだりすることになる。同委員会は、年金保険料を払ったはずだが、「記録がない」といった事例を調べるために設けられた総務省管轄の組織。最寄りの社保事務所などで申し込みを受け付けている。
当時の給与明細や源泉徴収票などが保存してあり、天引きされていた保険料額から本来の標準報酬月額がわかるような場合は、比較的容易に記録は訂正できそうだ。しかし第三者委員会に持ち込んでもそれなりの証拠が見つからないと救済は難しい。同委員会では雇用保険の記録や企業の経営者、当時の同僚の従業員などの証言を基に審査するという。
万が一に備え、これからでも給与明細や源泉徴収票、確定申告したときの書類などは保存しておいたほうがよさそうだ。この機会にそのような書類の整理をするのも無駄ではない。
社会保険庁がコンピューターの中にある一億五千万件の厚生年金加入記録を調べたところ、改ざんの疑いが濃厚なものが六万九千件あることがわかった。同庁では今月から、本当に改ざんされた記録かどうかの確認作業も始めた。本格的に調べれば六万九千件を超えて改ざんが見つかる可能性が大きい。
不正な処理が広がる背景には、社会保険庁・社会保険事務所の組織的な関与が指摘される。「保険料が未納になるより、少しだけでも払ってもらうか、払わなくても済む状態になってもらうほうがよい」と考え、社保事務所の方から改ざんを指導した場合もあったという。舛添要一厚生労働相は調査委員会を設置、改ざんに携わった社保庁職員が明らかになれば、これを厳正に処罰する方針だ。
ただ社会保険労務士からは「不正な処理は事業主の了解なしにはできないはず。経営者の責任も重い」との声が聞こえる。
総選挙を意識して手っ取り早く国民の歓心を買うためだけの責任追及に走っても意味がない。真相の徹底究明によって、被害者を救い、再発を防止するような制度・運用の見直しも求められる。
(編集委員 山口聡、
手塚愛実)
【図・写真】舛添厚労相は問題解決に意欲を見せているが…(14日、参院予算委員会)
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