20081027 日本経済新聞 西部夕刊

 「ここ数年のもうけはすべて吹っ飛んだ」――。日経平均株価が一時バブル経済崩壊後の最安値を更新した二十七日、投資家らは口々に先行きの見えない経済への不安を訴えた。世界的な株安と金融不安の波紋は広がり続け、家計も圧迫。押し寄せる円高の波が、追い打ちを掛ける。「自衛策も限界」と政府に一刻も早い経済対策を求める声が上がった。(1面参照)
 福岡市中央区天神では二十七日午前、証券会社を訪れた個人投資家らからが重苦しい表情で株価ボードを見つめた。
 出張で同市を訪れていた那覇市の会社経営の男性(58)は一時、バブル後最安値を割り込んだ株価に「下げ止まらない以上どうしようもない」とあきらめ顔。「どの時点で実体経済に悪影響が出てくるのか分からず不安。そうなる前に政府には手を打ってほしい」と話した。
 福岡市中央区の投資家の男性(77)は「ここまでの安値だと、売り買いに動くタイミングがない」と苦笑。「来月の緊急金融首脳会議で具体的な対策が出て、市場が反応してくれることを願うしかない」
 福岡県小郡市の税理士の男性(70)は「この株安で、投資信託で二千万円は損をしてしまった。ここ数年のもうけはすべて吹っ飛んだ」とやりきれない表情。「株はこのまま下がりっぱなしになるのでは。十年前と一緒だ」と話した。
 「このまま永遠に下がり続けるわけはない。いい時もあれば悪い時もあるのが株」と冷静なのは福岡市南区の女性(75)。「政府には世界各国と連携して市場を安定させてほしい」と注文を付けた。
 東京駅八重洲口の証券会社前では円高への不安の声も。出勤途中の東京都日野市の男性会社員(48)は為替のレート表示を横目に「大学生の娘が来年留学する予定なので今のうちにドルに両替しようか」と思案するが「株安も円高もここまで進むと不気味。バブル後の、経済がボロボロの状態に戻ってしまうのでは」と漏らした。
 一方、年末に向け生活への影響を懸念する声も聞かれた。福岡市南区の男性会社員(51)は「株安の原因である不況の中心が日本ではないとはいえ、一年は同じ状況がきっと続くので、今は我慢するしかない。昼食は安いファストフードや定食にして、なるべく安いものしか買わないようにしている」。
 私立の中高一貫校に勤める同市西区の男性教員(45)は「景気が悪くなり、生徒の家庭環境が悪化するのが不安。先日も、教え子の親が失業したと聞いた。家庭に余裕がなくなると、子どもにも問題が起きやすくなってしまう」と悩む。
 同区の主婦(47)は「買い控えが景気を悪化させるとは聞くものの、株安と聞くと、どうしても今は消費を抑えざるを得ない。洗濯機など大きな家電を買うときは、機能を重視していた以前よりも、少しでも安い商品を徹底的に探して買うようになった」と話した。
 サラリーマンらが行き交う東京のJR新橋駅前。国立大に通う子ども二人がいる横浜市の男性会社員(53)は「先月、生命保険を解約したばかり。子どもにはアルバイトで生活費を稼いでもらわないと……」。
 勤め先では冬のボーナス交渉が始まるが「マイナス要求は避けられず、残業代も大幅にカットされる」と表情を曇らせる。家庭では食費や光熱費を切り詰めているが「物価も上がり、自衛策は限界。いい正月を迎えられそうにない」と嘆いた。


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20081027 日本経済新聞 大阪夕刊

 「一体誰に文句を言ったらいいのか」――。日経平均株価がバブル経済崩壊後の最安値を更新した二十七日、個人投資家らは先行きの見えない景気に対する不安を募らせた。一万円割れからわずか約三週間での最安値。押し寄せる円高の波が追い打ちを掛ける。「このままではやり繰りできない。政府は一刻も早い経済対策を」。家計の圧迫にあえぐ主婦らは悲痛な声で訴えた。
(1面参照)
 「あー」。大阪証券取引所の株価ボードを見つめていた法律事務所勤務の小西浩二さん(69)は午前の取引開始直後に日経平均株価がバブル経済崩壊後の最安値を更新すると、小さくため息をついた。
 三年半前、株や投資信託に一千万円ほどを投資したが、今では六百万円ほどに下落した。「自分の生きている間にこんな破天荒な場面に遭遇するとは。きっと取り返せないだろう」とあきらめ顔だった。
 「一万円を切ったときも驚いたが、ここまで下がるとは」と話すのは株取引歴二十年という大阪府吹田市の無職男性(85)。「これから恐慌が訪れるかもしれない。まさに一寸先は闇だ」とショックを隠せない。株で運用していた約五千万円の資産は半分近くになり、「売るに売れない」。
●商店街
 大阪市北区の天神橋筋商店街の薬局で買い物中の主婦(51)は「安売りの商品を買うしかない」と値札を見つめた。メーカー勤務の夫から「冬のボーナスは厳しそう」と聞かされたばかり。東京の私大に通う長男への仕送りもあり、「このままではやり繰りできない。誰に文句を言えばいいのか」とこぼす。
 同区内の主婦(63)は約一千万円を投資信託で運用している。元本割れは確実で、「早くやめておけばよかった」とため息。この日も銀行を訪れたが「どれだけ目減りしているか怖くて担当者の話を聞けない」と話した。
●オフィス街
 サラリーマンらが行き交う大阪・淀屋橋。大阪市内の会議室のレンタル会社に勤める男性(28)は、予約数の減少に不安を感じている。企業からの貸室の問い合わせが毎月二十件ほどあったが、十月に入るとぴたりとやんだ。「このまま景気が悪化すれば、利用がどんどん細るのではないか」と漏らす。
 岡山市から出張中の医療器具ベンチャー勤務の男性(64)は「資金をあと二億円集めたいが、どこの投資会社もなかなか出資してくれない。我々のようなベンチャーが一番影響を受けている」と苦り切った表情。「国にもっとしっかり対策を取ってほしい」と訴えた。



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20081027 日本経済新聞 夕刊

 訪問看護・介護などを担う福祉車両が訪問先での駐車場確保に苦労している。取り締まりの強化で駐車許可証を提示していても違反を問われることがあるという。利用者宅を効率的に回るには公共交通機関では限界があり、車を使わざるを得ないのが現実。解決のカギは地域の理解と協力だ。
 「駐禁とられちゃったの?」--。二〇〇七年秋、ウェルケア訪問看護ステーション(横浜市港北区)の管理者の横山郁子さんは訪問看護スタッフからの携帯電話に驚いた。「駐車許可証は掲示してたの?」「ええ、もちろん」
反則金を納付
 二軒目の訪問を終え、路上に止めていた車に戻ると、駐車禁止の取り締まりを示す黄色い札が下がっていた。警察署を訪ね、訪問看護中であり、警察署が発行した許可証もダッシュボードに置いていたことを説明したが、聞き入れられず、反則金を納めることにし、午後からの業務に戻った。運転していた看護師の運転免許も減点された。
 介護ヘルパーや訪問看護師が利用者を車で訪ねた際に駐車違反で摘発されるケースが後を絶たない。道路交通法は、訪問看護などの福祉目的の車両は、理由や日時などを警察署に事前に届け出ることで、駐車許可証の交付を受けられると定めている。しかし〇六年六月の道路交通法改正で路上駐車の取り締まりが強化されて以降、従来なら許されていた駐車でも厳しく取り締まられることがあるという。
 首都圏の訪問看護ステーションの看護師A子さんの同僚が取り締まりを受けたのは〇六年九月。高齢者宅で訪問看護を済ませて車に戻ると、駐車違反を警告するステッカーが張られていたという。警察署に行き、許可証を掲示していたこと、十分にすれ違える道幅であることを延々と説明して、取り締まりは免れたが、不満は残った。
 「法改正以降、取り締まりが厳しくなったと同業者から聞いていた。でも以前から止めていた場所だし、交通の邪魔になる状況でもなかった。ちゃんと届け出もしていたのに……」と納得できない。
 もちろん駐車許可証があれば、どこでも自由に止められるわけではない。許可証を車内に掲げていても「警告したり、取り締まったりすることはある。横断歩道や交差点、バス停付近は法定の駐車禁止場所なので、これらの近くでは注意してほしい」(警視庁駐車対策課)と話す。
 全国訪問看護事業協会は〇七年十一月、道路交通法改正後に訪問看護車両が受けた駐車違反の実態を調査した。回答した約千八百の事業所のうち、約八%が駐車違反の取り締まりを受けたことがあり、半数近くが有料駐車場を利用するようになったと答えた。
 同事業協会と日本看護協会、日本訪問看護振興財団の三団体は〇八年二月、警察庁に「緊急時の訪問の必要な状況がある」と、訪問看護の車両を駐車違反取り締まりの対象から外すように要望書を出している。
 介護保険サービスを提供する事業者も対策に乗り出している。神奈川県平塚市の約百五十の介護事業者で組織する「ひらつか地域介護システム会議」は定期的な連絡会で訪問サービスの責任者らが、すいている有料駐車場や無償で止めさせてくれる個人宅駐車場の情報を交換するなどしている。路上駐車をできるだけ避けるためだ。「将来的には情報の共有化を進めたい」(同事務局)としている。
公営住宅が協力
 また、空き駐車場の利用も方策の一つ。神奈川県は県営住宅の駐車場利用を福祉目的の車両に認める方針を打ち出した。「無料貸し出しをしている横浜市瀬谷区の県営団地(約千四百戸)では月七百台の利用がある」(県住宅課)。
 模索が続くが、問題解決に欠かせないのは地域住民の理解だ。「駐車して看護を始めようとすると、事務所や警察署に駐車違反だと告げる電話が入ることもある」と複数の事業者が話す。駐車を快く思わない人が警察に通報しているのだという。
 横浜市青葉区の四十代の会社員男性は九月、出勤途上で見た光景が忘れられない。住宅街の路上で、介護施設のワンボックスカーが利用者が乗車するために一時停車したところ、後続のセダンがけたたましくクラクションを鳴らし続けた。車両には施設名も明記してある。福祉車両が、すぐには移動できない状態であることは一見してわかる。
 道幅は二台の車両がすれ違うには十分。少しバックして、脇を通り過ぎれば済むことなのに……。男性がさらに驚いたのは、セダンを運転していたのが、六十―七十代とおぼしき女性だったこと。「お互いさまだろうに」と男性はつぶやく。
 日本訪問看護振興財団の事業部の萩原正子チーフコーディネーターは「高齢化は急速に進んでおり、高度医療を必要とする在宅者は増えている」と説明。「福祉車両を安心して利用できる環境を整えることも急務で、それぞれの『地域力』が問われている」と指摘している。
 駐車違反を取り締まる警察も単純に厳正化を進めているわけではない。警察庁は二〇〇七年二月、全国の都道府県警察本部に対し、駐車許可制度の審査の迅速化や夜間休日の申請受理窓口の整備などを指示した。
 神奈川や岡山、茨城などの各警察本部は急患などに対応する看護師や介護士らを想定、緊急時には駐車許可証の申請を電話などで二十四時間受け付ける制度を導入している。地域を管轄する警察署に連絡した後、駐車許可番号や日時などの必要事項を明記した用紙を車のダッシュボードに置けば大丈夫というもの。早ければ十分以内に許可が出る。
 このほか、駐車禁止の場所に駐車できるケースとしては、道路交通法と都道府県公安委員会規則で定められている「駐車規制からの除外措置」があり、医師の緊急往診中の車両などが相当する。



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20081027 日本経済新聞 夕刊

 自民、公明両党は二十六日、追加経済対策の柱となる総額二兆円規模の定額減税について、クーポンの配布など給付金方式で実施する方向で検討に入った。
 所得税や個人住民税の一部を減税する方式は、低所得世帯に恩恵が及ばない可能性がある。自民党内では低所得世帯も含め対策対象に含めつつ、制度が複雑になるのを避けるため、一律に給付金などを支給する方が望ましいとの声が強まった。
 三十日にまとめる追加経済対策には定額減税の詳しい内容は明記しない見通し。政府・与党内には「バラマキ」との批判を浴びかねない給付金方式に慎重な意見もある。年末の来年度税制改正で結論を出すまでに異論が出る可能性がある。


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20081026 日本経済新聞 朝刊

 公的医療保険の対象外で家計の負担が重くなる、入院時の「差額ベッド代」。患者が個室などを希望した場合に請求されるのが基本だが、支払う必要があるのか、料金の根拠は何かなど、患者から見たときに「謎」が多い。差額ベッドを使うことを迫られたときは、まずは病院側に疑問をぶつけてみよう。
 静岡県に住む田村加代さん(仮名、58)は、二〇〇七年秋に夫(当時71歳)が病院で亡くなった時のことを思い出すと、今も割り切れない思いを抱く。
5時間で2日分
 末期がんと診断されていた夫の容体が急変、救急車で運ばれた。午後八時半ごろに入院し、日付が変わってまもなく亡くなった。もう手の施しようがない状態で、入院時間は五時間足らず。「親族を呼んだりするでしょうから」と個室を強く勧めたのは医師だった。まさか最期の別れになるとは考えもしなかった田村さんは気が動転し、個室の利用に同意した。
 救急車で運ばれ、たった五時間で別れの時が来てしまったのに、二日分の差額ベッド代を請求された。一日八千円の金額はともかく、こんな状況でも必要だったのか。病院の対応に冷たさを感じる苦い疑問は消えない。
 差額ベッド代は、ゆったりした空間や特別な設備がある部屋での治療を患者が希望するときに支払う費用。厚生労働省は、請求の条件として「患者の自由な選択と同意」が必要であることを、病院などに向けた通知で示している。一日分は午前零時からの二十四時間で、日付をまたぐ入院では二日分かかる。
 日本経済新聞の読者(約二千百人)を対象にした調査では、差額ベッド代を請求された経験がある人は三二%(グラフA)。厚労省の調べでは、〇四年七月時点で差額ベッド代がかかる病床数は全体の三二%だった。入院患者のおよそ三人に一人が差額ベッド代の問題に直面する。
 快適な環境で治療を受けたいと希望する人は多い。読者調査でも「差額ベッド代を払ってでも個室に入りたかった。居心地がよかったので満足」(熊本県の女性、29)との回答が目立つ。「希望した部屋に入るのだから負担は仕方ない」(東京都の男性、39)というのが患者の考え方だ。
 だが実際は希望しなくても、差額ベッド代が必要な部屋に入ることも少なくない。差額ベッド代を請求された人のうち「本人や家族の希望」は最も多いものの三八%にとどまる。次いで「差額ベッド代がかかる部屋しか空いていないと言われた」(二七%)、「治療のため病院から勧められた」(一五%)が上位を占めた(グラフB)。
通知7割知らず
 厚労省の通知では(1)患者の同意を書面で確認していない(2)救急患者など「治療上の必要」で個室などに入院させる(3)患者の選択でなく病棟の管理上の都合で個室などに入院させる――という三つの場合は差額ベッド代を請求できないと明記している。それなのに「治療のため」でも、「空きベッドがほかにない」という理由でも、請求されるのが実態だ。こうした状況が謎を呼ぶもとになっている。
 通知を知る人はわずか二割(グラフC)。知っていても「差額ベッド代に意見して病院の対応が悪くなるのは避けたい」(神奈川県の女性、40)と思うのが患者の心情だ。「差額ベッドしか空いていない場合は支払うという文言が誓約書にあり、署名しないと入院できなかった」(東京都の女性、45)との声もある。
 厚労省は「明確に説明した上で署名をもらわないと請求できない」とするが、現場では患者がきちんと説明を受けて理解したのかあいまいになりがち。署名が同意の証拠となるので、ささえあい医療人権センターCOML(コムル、大阪市)の山口育子さんは「同意書は契約書と同じ。疑問があれば『家族に相談が必要』などの理由でもいいので提出を保留し、署名の前に確認して」と助言する。
 支払いの必要性を確認しただけで免除された人もいる。千葉県に住む原奈美さん(仮名、29)は、父親(65)が大腸の検査と手術で入院した際「一日二万円の個室しか空いていない」と言われた。だが「患者が希望しておらず、個室しか選べない場合は払わなくていいはず」と病院の事務長に確認したところ、差額ベッド代はとられなかった。
 東京都では「都立病院に差額ベッド代がかかる個室はあるが、払わない患者が約四割」と説明する。救急車で運ばれた場合などは請求しないためだ。日本医師会の藤原淳常任理事は「患者の希望が原則で、病院が差額ベッドを押しつけてはいけない。また差額ベッド代を払えない人の治療は拒否できない」と指摘する。
 ファイナンシャルプランナーの内藤真弓さんは「差額ベッド代は高額療養費制度の対象にもならず負担が重い。でも支払いが必要かどうかの基準を知っているだけで払わずに済む可能性は大きい」と指摘する。

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