20081027 日本経済新聞 夕刊

 訪問看護・介護などを担う福祉車両が訪問先での駐車場確保に苦労している。取り締まりの強化で駐車許可証を提示していても違反を問われることがあるという。利用者宅を効率的に回るには公共交通機関では限界があり、車を使わざるを得ないのが現実。解決のカギは地域の理解と協力だ。
 「駐禁とられちゃったの?」--。二〇〇七年秋、ウェルケア訪問看護ステーション(横浜市港北区)の管理者の横山郁子さんは訪問看護スタッフからの携帯電話に驚いた。「駐車許可証は掲示してたの?」「ええ、もちろん」
反則金を納付
 二軒目の訪問を終え、路上に止めていた車に戻ると、駐車禁止の取り締まりを示す黄色い札が下がっていた。警察署を訪ね、訪問看護中であり、警察署が発行した許可証もダッシュボードに置いていたことを説明したが、聞き入れられず、反則金を納めることにし、午後からの業務に戻った。運転していた看護師の運転免許も減点された。
 介護ヘルパーや訪問看護師が利用者を車で訪ねた際に駐車違反で摘発されるケースが後を絶たない。道路交通法は、訪問看護などの福祉目的の車両は、理由や日時などを警察署に事前に届け出ることで、駐車許可証の交付を受けられると定めている。しかし〇六年六月の道路交通法改正で路上駐車の取り締まりが強化されて以降、従来なら許されていた駐車でも厳しく取り締まられることがあるという。
 首都圏の訪問看護ステーションの看護師A子さんの同僚が取り締まりを受けたのは〇六年九月。高齢者宅で訪問看護を済ませて車に戻ると、駐車違反を警告するステッカーが張られていたという。警察署に行き、許可証を掲示していたこと、十分にすれ違える道幅であることを延々と説明して、取り締まりは免れたが、不満は残った。
 「法改正以降、取り締まりが厳しくなったと同業者から聞いていた。でも以前から止めていた場所だし、交通の邪魔になる状況でもなかった。ちゃんと届け出もしていたのに……」と納得できない。
 もちろん駐車許可証があれば、どこでも自由に止められるわけではない。許可証を車内に掲げていても「警告したり、取り締まったりすることはある。横断歩道や交差点、バス停付近は法定の駐車禁止場所なので、これらの近くでは注意してほしい」(警視庁駐車対策課)と話す。
 全国訪問看護事業協会は〇七年十一月、道路交通法改正後に訪問看護車両が受けた駐車違反の実態を調査した。回答した約千八百の事業所のうち、約八%が駐車違反の取り締まりを受けたことがあり、半数近くが有料駐車場を利用するようになったと答えた。
 同事業協会と日本看護協会、日本訪問看護振興財団の三団体は〇八年二月、警察庁に「緊急時の訪問の必要な状況がある」と、訪問看護の車両を駐車違反取り締まりの対象から外すように要望書を出している。
 介護保険サービスを提供する事業者も対策に乗り出している。神奈川県平塚市の約百五十の介護事業者で組織する「ひらつか地域介護システム会議」は定期的な連絡会で訪問サービスの責任者らが、すいている有料駐車場や無償で止めさせてくれる個人宅駐車場の情報を交換するなどしている。路上駐車をできるだけ避けるためだ。「将来的には情報の共有化を進めたい」(同事務局)としている。
公営住宅が協力
 また、空き駐車場の利用も方策の一つ。神奈川県は県営住宅の駐車場利用を福祉目的の車両に認める方針を打ち出した。「無料貸し出しをしている横浜市瀬谷区の県営団地(約千四百戸)では月七百台の利用がある」(県住宅課)。
 模索が続くが、問題解決に欠かせないのは地域住民の理解だ。「駐車して看護を始めようとすると、事務所や警察署に駐車違反だと告げる電話が入ることもある」と複数の事業者が話す。駐車を快く思わない人が警察に通報しているのだという。
 横浜市青葉区の四十代の会社員男性は九月、出勤途上で見た光景が忘れられない。住宅街の路上で、介護施設のワンボックスカーが利用者が乗車するために一時停車したところ、後続のセダンがけたたましくクラクションを鳴らし続けた。車両には施設名も明記してある。福祉車両が、すぐには移動できない状態であることは一見してわかる。
 道幅は二台の車両がすれ違うには十分。少しバックして、脇を通り過ぎれば済むことなのに……。男性がさらに驚いたのは、セダンを運転していたのが、六十―七十代とおぼしき女性だったこと。「お互いさまだろうに」と男性はつぶやく。
 日本訪問看護振興財団の事業部の萩原正子チーフコーディネーターは「高齢化は急速に進んでおり、高度医療を必要とする在宅者は増えている」と説明。「福祉車両を安心して利用できる環境を整えることも急務で、それぞれの『地域力』が問われている」と指摘している。
 駐車違反を取り締まる警察も単純に厳正化を進めているわけではない。警察庁は二〇〇七年二月、全国の都道府県警察本部に対し、駐車許可制度の審査の迅速化や夜間休日の申請受理窓口の整備などを指示した。
 神奈川や岡山、茨城などの各警察本部は急患などに対応する看護師や介護士らを想定、緊急時には駐車許可証の申請を電話などで二十四時間受け付ける制度を導入している。地域を管轄する警察署に連絡した後、駐車許可番号や日時などの必要事項を明記した用紙を車のダッシュボードに置けば大丈夫というもの。早ければ十分以内に許可が出る。
 このほか、駐車禁止の場所に駐車できるケースとしては、道路交通法と都道府県公安委員会規則で定められている「駐車規制からの除外措置」があり、医師の緊急往診中の車両などが相当する。



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