20090104 日本経済新聞 朝刊

 世界的な金融危機が日本の実体経済に波及し、地域経済はかつてない厳しい局面を迎えている。全国各地で雇用調整の動きが広がり、工場建設を延期する企業も相次ぐ。地方のこれ以上の衰退を防ぐためには政府の支援が不可欠だが、時計の針を戻すような政策は望ましくない。
 国内景気は昨秋以降急速に悪化したが、日銀の企業短期経済観測調査(短観)の業況判断指数が昨年九月、同十二月と二期続けて小幅ながら改善した地域がある。沖縄県だ。
過剰な関与は禁物
 理由は三点ある。まず、製造業や輸出企業が少ない構造が結果的に世界的な経済変調の影響を軽微にとどめている。一方で、県経済の主力である観光が健闘している。最後にIT(情報技術)関連企業の立地が進み、新たな雇用の場になっている。沖縄へのIT関連企業の進出数はこの十年間で百八十社に上り、一万五千人の雇用を生み出した。
 本土復帰後続いてきた政府の手厚い支援策が二〇一一年度にも切れる。それまでに観光に続く柱をつくろうと照準を定めたのがIT分野だ。当初はコールセンターなどが中心だったが、最近ではシステム開発やコンテンツ制作会社の立地も増えている。ソニーの子会社のように全国に分散していた輸出入の管理業務などを沖縄に集約した企業もある。
 通信コストの七割程度を助成する県の支援策や若年層の労働力が豊富な点が企業進出を後押しする。大規模な地震が少ないうえ、東京から遠く、同時被災の可能性がないために政府機関もデータのバックアップ機能を沖縄に続々と移している。
 沖縄は香港、台湾と国際海底ケーブルでつながっている。ネット接続会社の国際的な相互中継地は東京に集中しているが、県はこれを沖縄に誘致する構想も進めている。
 一方、政府が〇二年に沖縄県名護市に設けた金融特区は六年たっても認定企業が一社にとどまっている。法人税の優遇措置はあるが、適用条件が厳しく、効果を上げていない。名護市は繰り返し条件の緩和を求めているが、政府の腰は重い。
 地域経済の崩壊を避けるためには、政府が中小企業の資金繰りを支援し、雇用不安を和らげる対策を大胆に打ち出す必要がある。ただし、政府の地域政策は画一的で柔軟性に欠けるだけに過剰な関与は禁物だ。
 政府の地方分権改革推進委員会によると、中央官庁が法令で自治体に義務づけている過剰な規制は四千項目を超す。画一的な基準を見直せば福祉や環境など様々な分野で新産業が生まれる可能性が広がる。
 地域資源をうまく使えば地方の中山間地でも活性化できる。愛媛県内子町の農産物直売所「内子フレッシュパークからり」は年間七十万人の顧客を集める。同町の農家の二割近い約四百三十人が新鮮な野菜や果物などを出荷し、年間一千万円を売り上げる農家もある。レストランや完熟トマトの加工施設も備え、観光面でも地域に貢献している。
 町が設立した運営会社には六百人を超す住民も出資している。赤字が多い第三セクターのなかで黒字経営を続け、株主配当も実施している。高齢者や女性のやる気を引き出すコミュニティービジネスである。
 地方が苦しいからといって官需への依存度を高めるような補助金のばらまきは中長期的には逆効果だろう。一九九〇年代の景気対策をみても、利用が少ない市民会館など公共事業の大盤振る舞いは一時的な需要を生んだが、地域の足腰をむしろ弱めた。苦境に陥る建設業でも新潟県の頸城建設のように農業への多角化で成果を上げる業者が出てきた。
民間の知恵使う制度を
 一方で、政府には民間の知恵を地域再生に生かす仕組みづくりを求めたい。地場の中堅企業や公共交通機関を再生し、赤字経営の第三セクターを処理するためには外部からの人材や資金の投入が効果的だ。政府は産業再生機構の地方版といえる地域力再生機構の設立を予定しているが、民主党が反対している。
 地方を元気にする方法は幾通りもあるのだから、民間と自治体が創意工夫して地域資源を生かす道を探るしかない。そのためには自治体に権限と財源を与える必要がある。
 政府・与党は早ければ五日召集の通常国会に道州制基本法案を提出する方針だ。道州制は地方分権の最終目標なだけに一歩前進である。同じ公共投資でも、ブロック中心都市の拠点性を高め、道州制を促すような広域交通網の整備は必要だろう。
 ただし、区割りの問題ひとつ考えても、道州制の実現までには相当な時間がかかるだろう。まずは、過剰な規制の撤廃などすぐにできる改革を断行すべきだ。


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20090103 日本経済新聞 朝刊

 二〇〇九年の商品市場は、世界的な景気後退の影響を強く受け、年前半を中心に深刻な需要不振と価格低迷に見舞われそうだ。自動車や建設など幅広い分野でモノの売れ行きが鈍り、産業資材とハイテク製品の減産が進むだろう。原油をはじめとする資源価格は年前半の低迷が避けられそうにない。
 産業資材の価格は下げ基調が鮮明になる。需要低迷は年前半に深刻さを増し、少なくとも年央まで需給緩和が続きそうだ。メーカーの減産などの効果が出るには時間がかかるとみられる。
 鋼材の主力商品の一つである薄鋼板は世界的な自動車販売の不振で大幅に下落するだろう。ガソリンタンク向けのポリエチレン、バンパーに使うポリプロピレンといった合成樹脂のほか、板ガラスの需要も伸び悩む。
 建設需要も縮小が必至。マンションや住宅の販売不振が続き、建築会社は建材の買い控えを続ける。合板はメーカーが昨年初めから減産を続け体力を消耗している。コスト削減のため減産を緩める動きがあり、在庫は昨年秋から増え始めた。価格低迷が長引くのは不可避だ。
 セメント、建築用板ガラス、水道管に使う塩化ビニール樹脂も需要は減る。二〇〇九年前半の塩ビ出荷量は前年実績比で二割減程度に落ち込む見込みだ。需要の低迷は石油化学全般に及び、設備の統合を目的とした業界再編も現実味を帯びるだろう。
 金融緩和や住宅ローン減税といった政府の景気対策の効果が期待できるとすれば年後半か。その場合、先行して値下がりしたH形鋼は比較的早い時期に底値感が出る可能性がある。
 原料価格の動きも焦点だ。石化は昨年後半に原料ナフサが急落した影響で年初にも値下がりに転じる。だが原油価格が上向けばナフサも上昇、石化製品も値上がりする可能性がある。
 鋼材では高炉が主原料とする鉄鉱石と原料炭の〇九年度価格交渉は、中国の鋼材減産による需給緩和を受け大幅引き下げを軸に進む。電炉が主原料に使う鉄スクラップはアジア需要の急回復が望めず、一トン一万―二万円台の現行水準が中心になるだろう。
 印刷用紙は重油やパルプ、木材チップなど原燃料コストの下落で需要家からの値下げ要求が強まる。段ボール製品も昨年十月の値上げの根拠だった古紙相場の上昇が緩み、値下がりに転じる公算が大きい。


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20090103 日本経済新聞 朝刊

 主要企業の経営者とエコノミスト二十人の景気見通しでは、二〇〇九年度の実質国内総生産(GDP)が前年比〇・八二%のマイナス成長に落ち込んだ。回答者の九割がマイナス成長を見込み、プラス成長を予想する声は皆無。世界的な景気後退が企業部門を直撃。その影響が雇用不安などから家計にまで広がって、日本経済は厳しさを増すとの見方が多い。
 〇九年度の成長率予想をマイナス二%と、最も深い落ち込みを見込む大和総研の田谷禎三特別理事は「日本経済は外需依存体質が強まり、海外の景気悪化の影響をまともに受ける」と指摘する。
 回答者の多くが警戒するのは米国をはじめ海外景気が一段と後退することだ。「米国の金融危機は米国家計の借金体質を直撃し、対米輸出減を通じ日本経済にも多大な悪影響を及ぼす」(野村ホールディングスの渡部賢一社長)とみられるためだ。米国経済については、過半数が〇九年に〇八年比で一%以上のマイナス成長を予想している。
 外需の停滞は輸出企業を中心に国内企業の収益に打撃となりそうだ。〇九年度に見込まれる連結ベースの上場企業の減益幅は回答者の平均で約一〇%。スズキの鈴木修会長兼社長は「輸出の急減速に伴い生産量は減少し、設備投資も抑制され企業の収益も悪化する」と指摘する。
 収益減に伴って設備投資の落ち込みが見込まれるほか、「雇用や賃金情勢の悪化から個人消費も落ち込む」(三菱重工業の大宮英明社長)可能性も高い。
 雇用調整は〇九年度に本格化するとの見通しが多く、回答者が予想する〇九年十二月末時点の完全失業率(平均値)は四・七%と〇八年十一月時点(三・九%)を大きく上回る水準。賃上げ率の予想値は回答した十五人の平均で一%弱にとどまり、雇用、所得の先行き不安から家計部門が一段と萎縮する恐れもある。
 ただ「世界規模の調整局面は続くが、日本経済のダメージは比較的軽微」(セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長)との声もある。キリンホールディングスの加藤壹康社長は「米国の新政権下での経済回復状況や国内の景気対策次第」との条件付きながら、〇九年度の成長率を〇八年度比横ばいとした。
 景気の下支え要因として注目されているのは、中国など新興市場国の動向。損害保険ジャパンの佐藤正敏社長は「中国の回復が早ければ日本経済を下支えする」と指摘する。中国経済の〇九年の成長率予想は平均で六―八%台に集中。中国の七―九月期の実質成長率は前年同期比九・〇%と十一・四半期ぶりに一ケタ台に落ちたが、日米欧に比べると景気減速は緩やかとの見方が多い。
 個人消費の落ち込みや国際商品価格の下落を背景に、〇八年半ばまで騰勢を強めていた物価は上昇が一服しそうだ。全国消費者物価指数(CPI)の予想は前年度比の平均で〇・二%下落。十五人が物価は下落方向にあると予想した。
 円相場は一ドル=九〇―一〇〇円との予想が大勢。昨年十二月には約十三年ぶりの九〇円を突破する円高を記録したが、これはやや行き過ぎた動きと見ているようだ。ただ相場の変動幅が大きかった〇八年後半を引き継ぎ、振れ幅の大きい一年を予想する声が多い。
 麻生太郎内閣に対してはすでに打ち出した景気対策にとどまらず、さらなる景気下支えを求める注文が相次ぐ。「短期的には大胆な景気刺激策が必要」(日本郵船の宮原耕治社長)、「最も影響を受ける中小企業と地方に対する対策が最優先」(JTBの田川博己社長)との声が上がった。半面、「将来不安を解消する社会保障制度改革など国の将来を見据えた方向性を示すことが重要」(三井不動産の岩沙弘道社長)との指摘もある。
 世界経済が停滞する現状への対処として、三菱商事の小島順彦社長は「チャンスととらえて自由な貿易・投資体制を確立すべく積極的な外交を行うべきだ」という。


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20090103 日本経済新聞 朝刊

 二〇〇九年の日本経済は実質国内総生産(GDP)が米欧とともにマイナス成長に陥り、回復の糸口を見つけにくい状況が続きそうだ。民間エコノミスト十五人に予測を聞いたところ、景気後退が深く長くなるとの見方が大勢を占めた。金融危機による世界同時不況で昨秋以降、輸出と生産が急激に落ち込み、雇用調整が消費不振を招きつつある。本格回復は一〇年にずれ込む見通しだ。
 〇八―〇九年度の予測の平均値は、物価変動の影響を除いた実質GDPの伸び率で〇八年度のマイナス一・〇%に続き、〇九年度はマイナス〇・九%となる。十五人のうち十四人が、山一証券など大手金融機関の破綻やアジア通貨危機が起こった一九九七―九八年度以来の二年連続のマイナス成長を予想している。
 悲観的な見方が多いのは、未曽有の金融危機の影響が終息するめどがたちにくいためだ。世界同時不況で、頼みの綱である輸出はほぼ全地域向けで減少基調になり、生産の急減を招いて企業収益を圧迫。工場の新設や設備の増設も見送りが相次ぎ、〇九年度の設備投資は前年割れが確実だ。
■デフレ再燃の懸念
 さらに企業部門の不振が雇用の減少を通じて家計に波及する公算が大きい。横ばい圏内にあった個人消費も減少する可能性がある。資源価格の反落に需要減が加わり、〇九年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の予測平均はマイナス〇・五%と「デフレ再燃」を示す数字になった。
 実質成長率予測の平均値(年率換算)を四半期ごとにみると、一―三月期がマイナス一・八%で四―六月期(同〇・三%)、七―九月期(同〇・四%)とマイナスが続き、十―十二月期にプラス〇・六%。平均的な景気の底打ち予想は秋になる。しかし一%台半ばとされる潜在成長率並みの成長は見込めず、本格回復は一〇年以降になる。
 三菱UFJ証券景気循環研究所の嶋中雄二氏は「世界規模で景気刺激策が出動される」ことから景気が後退から拡張に転じる「谷」を〇九年三月と予想する。しかし早期回復シナリオは一人だけで、大勢の予想は「〇九年九月」(三人)と「一〇年三月」(四人)に集中している。
■後退の速さ際だつ
 戦後の景気後退期間は平均十六カ月で、エコノミストが予測する今回の後退期間は平均約二十六カ月。後退が〇七年末ごろから始まったとすると、抜け出すのは一〇年初めだ。最も先の脱出を予測する野村証券金融経済研究所の木内登英氏は「一〇年十一月」で後退期間は三十六カ月となり、戦後最長に並ぶ。
 一年前には多くのエコノミストが〇九年まで緩やかな景気回復が続くとみていた。急降下を予想できなかった理由を聞いたところ、回答の第一位は金融市場の悪化。「米政府が大手投資銀行を破綻させた」(日興シティグループ証券の村嶋帰一氏)など、市場の失敗に「政府の失敗」が加わった要因が挙がった。
 今回の不況に名前を付けてもらうと、後退スピードの速さを強調した命名が目立った。日本経済研究センターの竹内淳一郎氏とニッセイ基礎研究所の櫨浩一氏は「バンジージャンプ不況」。高所から一気に落ちた後、元の高さには戻らないイメージだ。「平成世界同時不況」(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)など世界的な不況の広がりを重視した命名も多い。
 アンケートの回答者は以下の通り(五十音順)
 菅野雅明氏(JPモルガン証券)、木内登英氏(野村証券金融経済研究所)、熊谷亮丸氏(大和総研)、河野龍太郎氏(BNPパリバ証券)、小玉祐一氏(明治安田生命保険)、後藤康雄氏(三菱総合研究所)、嶋中雄二氏(三菱UFJ証券景気循環研究所)、新家義貴氏(第一生命経済研究所)、竹内淳一郎氏(日本経済研究センター)、櫨浩一氏(ニッセイ基礎研究所)、藤井英彦氏(日本総合研究所)、南武志氏(農林中金総合研究所)、村嶋帰一氏(日興シティグループ証券)、森実潤也氏(富国生命保険)、山本康雄氏(みずほ総合研究所)


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20090103 日本経済新聞 朝刊

 財務省はいわゆる「埋蔵金」と呼ばれる十兆円規模の財政投融資特別会計の金利変動準備金について、二〇一〇年度までに全額を経済・雇用対策や基礎年金の国庫負担引き上げの財源として活用する検討を始めた。通常国会に提出する〇九年度予算案と併せ、二年間に限り同準備金の一般会計繰り入れを可能にする特例法案を提出する。同省は準備金の取り崩しに慎重だったが、経済・雇用情勢の悪化を受け方針転換した。
 財投特会の金利変動準備金は、政府系機関や自治体向け貸し出しの原資となる財政融資資金を安定運用するために積み立てておく資金。資産の五%を金利変動に備え、現在約十兆円の残高がある。今年度第二次補正予算案や来年度予算案で取り崩しが決まっており、一〇年度末の残高は四兆円程度に目減りする見込みだ。
 財務省が今後二年間で経済対策などに活用するのは、まだ使い道が決まっていないこの四兆円余りのお金。残高がわずかになり、万が一、金利変動で不足が生じた場合は「赤字国債の追加発行で対応する」(幹部)構えだ。
 ただ同特会の資金は法律上、国債償還にしか使えず政策経費には回せない。このため五日召集の通常国会に提出する特例法案では、財投特会から一般会計への繰り入れを一〇年度までの二年間に限り認める措置を明記する方針だ。
 金利変動準備金は一度取り崩せば、それきりのお金だ。借金返済以外の用途に使えば、政府の負債が拡大し財政は悪化するため、財務省は与党内で盛り上がる埋蔵金活用論に強く反対してきた。
 しかし経済・雇用情勢の悪化が想定を超えて進み、麻生太郎政権下で財政出動要請が一気に強まった。国の税収が大幅に落ち込み、赤字国債の大幅増発を強いられるため「臨時的、異例の措置」(中川昭一財務相)として活用を認めざるを得なかった。
 〇八年度第二次補正予算案では定額給付金の財源に転用する。〇九年度予算案では、基礎年金の国庫負担引き上げ分のほか、経済の急な悪化に備える一兆円の緊急予備費や減税措置に回す。さらに一〇年度予算でも基礎年金国庫負担や、減税措置の継続分など約四兆円の使途が固まっている。
 財務省が積極的な活用に転じた背景には、準備金は枯渇させる一方で、財投特会以外の積立金や準備金の流用を防ぎ、「埋蔵金論争」を封印する狙いもある。政府が決定した税制改正の「中期プログラム」は一一年度の消費税率引き上げを示唆したが、その時点で余剰資金が残っていれば増税論が再び後退する可能性もある。次期衆院選で民主党政権が誕生した場合も、政策財源は埋蔵金頼みとなる公算が大きい。


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