20080529 日本経済新聞 夕刊
野党四党が提出した後期高齢者医療制度廃止法案は、二十九日午前の参院厚生労働委員会で民主党の直嶋正行政調会長が趣旨説明し審議入りした。法案は来年四月一日で同制度を廃止し、もとの老人保健制度に戻すのが柱。保険料の年金天引きや被扶養者の新たな保険料負担をなくす内容も盛り込んでいる。
福田康夫首相が社会保障費の伸びを年二千二百億円抑制する政府目標を維持すべきだとの意向を複数の与党幹部に伝えていることが二十九日、明らかになった。目標を撤廃すれば「改革後退」との印象を与え、市場にも悪影響があるとみているためだ。政府が六月下旬にもまとめる経済財政運営の基本方針「骨太方針二〇〇八」や八月の来年度予算案の概算要求基準でも方向性を示す。(関連記事5面に)
首相は十四日、首相官邸で自民党の谷垣禎一、公明党の斉藤鉄夫両政調会長と会談し「二千二百億円削減の旗を降ろすと『日本売り』につながる」と語った。自民党の津島雄二税制調査会長も二十八日夜の党税調幹部との会合で「首相は『財政規律を守るように』と言っていた。首相の決意は固く、変えるのは難しい」と報告した。
二千二百億円の抑制目標は小泉政権で策定した「骨太方針〇六」で決定し、〇七年度予算から実施した。公共事業費の年三%削減と並び、改革路線の目玉となっている。
与党内では後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の改善策の検討などに伴って、〇九年度予算案で目標を維持するのは困難との声が広がっている。政府内では雇用保険の国庫負担の廃止や、介護保険の自己負担率の引き上げなどでの歳出抑制案が検討されているが、負担増につながる関係者からの批判は必至だ。
ただ、抑制目標を維持する場合、後期高齢者医療制度の改善で歳出が膨らめば、その分を削る必要がある。政府・与党内では補正予算や地方交付税などで二千二百億円を上まわる財源を確保する案も浮上しているが、形だけの歳出削減との批判を招く可能性もある。
20080530 日本経済新聞 朝刊
四月に始まった高齢者医療制度が終盤国会の焦点になっている。
民主、共産、社民、国民新の野党四党はこの制度を廃止するための法案を共同で参院に出した。六月初旬に可決し衆院に送る見通しだ。
これに対し政府・与党も六月初旬に制度の見直し案をまとめる。対象である原則七十五歳以上の高齢者のうち、年金受給額が少ない人への保険料の一段の軽減策などが俎上(そじょう)に載っている。
四月末の衆院山口2区補選では、この制度への批判票を集めたことが民主党の勝因とされた。その余勢を駆って、廃止法案で政府・与党を追い詰めるのが野党の戦術だろう。
「保険料を公的年金からあらかじめ徴収するのはけしからん」「高齢者を健康保険制度から切り離すのは、うば捨て山の発想だ」などという不満が噴出しており、与党は防戦に追われている。
批判は自民党内にもある。堀内光雄元総務会長は制度を凍結するよう福田康夫首相に直談判した。勢いづく野党に非難され、身内からも凍結を迫る声が出るなかで、政府はこの制度がなぜ必要なのかを丁寧に説明する機会を逸した格好である。
だが、うば捨て山、家族の分断といった感情論に終始すべきではない。この制度の至らない点を建設的に直していくのが立法府の責務だ。
野党の廃止法案は無責任である。三月までの旧制度では、現役勤労世代が高齢世代へ拠出する医療費がずるずると増大する心配があった。新制度では七十五歳以上の人の医療給付費に占める現役世代の負担比率を最大で四〇%とし、歯止めをかける仕組みに変えた。野党は旧制度に戻すというが、働く世代の負担が野放図に増えていいはずはない。
民主党には廃止後の具体像を示す責務がある。具体的対応に踏みこむと野党がばらばらになるとの自民党の批判に正面から応えるべきだ。
与党もばらまきのような負担軽減策を積み重ねるのは慎むべきである。年金が極端に少ない人への配慮は必要だ。しかし負担を一律に国費で肩代わりするのは、都道府県単位で運営する制度の趣旨に照らして適切だろうか。保険運営の主体である市区町村の広域連合が独自に軽減策を考えることも検討してほしい。
制度発足時に高齢者の間に起きた混乱は、与党が二〇〇七年度の補正予算で保険料の軽減を泥縄式に取り入れたことも影響した。財源の裏付けがはっきりしないのに負担軽減策を塗り重ねて、その二の舞いを演じるのは避けなければならない。
福田首相が社会保障費の抑制目標を維持する意向を示したのは、同目標が小泉政権以来の改革路線の象徴的な存在でもあるからだ。政府・与党内には「二千二百億円の抑制目標を撤廃すれば文教や公共事業などにも波及し、政府の歳出削減計画は破綻する」と懸念する声もある。(1面参照)
二〇〇九年度予算案は六月下旬にもまとめる骨太方針で路線を定め、八月の概算要求基準(シーリング)で大枠を決める。社会保障費の抑制が二千二百億円になるか決まるのはシーリング段階。ただ、財源のめどがたたない歳出は検討事項と位置付けて、年末の予算編成で扱いを決める。
「二千二百億円抑制」を守る場合に焦点となるのが、首相指示で検討が始まった後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の改善策。内容により二百億―二千億円の財源が必要とされる。これを拠出した場合は、二千二百億円の目標に上乗せして歳出を減らさねばならない。医療費抑制に逆風が吹く中でさらなる歳出削減は難しいため、政府・与党ではこれらの歳出をシーリングで「検討事項」とし、決着を先送りする手法が浮上している。
いったん目標を守った形にし、年末にかけて、例えば補正予算や社会保障費以外の地方交付税から財源を出す――。この場合は「見せかけの歳出削減」との批判は必至だ。また与党内では特別会計の余剰金から「埋蔵金」を見つけ出して充当しようとの動きもある。
首相はこれまで抑制目標の維持について「検討中」と述べるにとどめていた。公式の方針が示されないまま、与党内で目標撤廃を目指す動きが勢いづいてしまった。補正予算などの「抜け道」を使わず、実体を伴った歳出削減路線が継続できるか、年末にかけて首相の胆力が問われ続ける。
外貨建て投資信託を通じた個人投資家の外貨買いが復調の兆しを見せている。投資の目安となる日米の株式相場が堅調に推移し、外債などへの投資余力が出てきたためだ。個人マネーが外貨建て投信に流れ込めば、外国為替市場では円安の要因になる。投資家は世界的なインフレリスクを織り込み、資源国の債券に投資するなど商品を慎重に選別する姿勢も強めている。
▼…二十九日の東京外国為替市場では、午前十一時ごろにまとまった円売り・ユーロ買いが入った。これにつられる形で円は英ポンドや豪ドルに対しても売られた。「久々に規模の大きな投信が設定され、円売りを促した」。市場ではこんな声が聞かれた。
市場に影響を与えたとみられるのが、ドイチェ・アセット・マネジメントの外貨建て投信だ。同社は同日、ロシアの国債などに投資する投信を設定。設定上限額の八割強にあたる四百八十九億円を集めた。同社は時期を明らかにしていないが、集めた資金をユーロに転換するという。
▼…三月半ばまでの急激な円高で損失を被った個人投資家は、三月下旬以降の戻り相場でも外貨建て投信に慎重だった。募集した金額が設定上限額の一割を下回る例も多かった。月ごとの外債などへの資金の流出額は、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題が顕在化した昨夏以前の約三割に落ち込んでいる。
足元で復調の兆しを見せてきたのは、市場の関心が世界的なインフレ動向に移り、金融不安への懸念が薄らいでいるため。夏のボーナスを控え、個人投資家がリスク商品に資産を向け始めた面もある。
大和証券投資信託委託は三月末からブラジル株式に投資するファンドを運用。当初の設定額は二十七億円にとどまっていたが、その後の追加募集で個人マネーが流入し、約百億円に膨らんだ。
▼…個人の投資スタイルも変わりつつある。ロイヤルバンク・オブ・スコットランドの山本雅文氏は「資源高によるインフレが各国の景気を下押しする懸念がある中、個人投資家は外貨建て投信の選別色を強めていく」と指摘する。
かつては新興国としてひとくくりだったブラジル、ロシア、インド、中国(BRICs)。資源高に伴いインフレ圧力が高まる中、資源国のブラジルとロシアへの投資は人気が高く、逆に資源消費国の側面が強いインドや中国向けには資金が集まりにくいという。外貨建て投信が伸びたといっても、円売り需要は通貨によってまちまちになる可能性もある。
(K)