20080728 日経MJ(流通新聞)
二〇〇六年に保険金の不適切な不払いで、金融庁から行政処分を受けた損害保険大手の三井住友海上火災保険。再発を防ぐために「苦情は経営の品質を向上するための重要な情報」と位置付け直し、苦情を全件登録して分析し、業務改善に生かす仕組みを整えている。五月に主力の自動車保険で、顧客の声を反映した新商品を発売。業界でも取り組みは先進的だ。
不払いの原因は販売競争を優先するあまり、商品が複雑化し、それに見合った保険金の支払い体制を構築できていなかったためとされる。再発防止は消費者の視点を取り入れることが不可欠。三井住友海上はこうした反省を踏まえ苦情のとらえ方を大きく改めた。
顧客から苦情を受けると社員は、社内ネットワークに設けられた「CS・苦情システム」に、内容やクレームの対象、受け付けた時間や先方の名前や住所、対応する部署などを入力する。即時に、該当する全国の営業や保険金支払いの拠点にメールを配信。現場を管理する支店長や部長にも同様のメールを送る。
現場とは営業部門なら各支店の課や営業所の単位で全国に七百七カ所ある。保険金支払いを担当する損害サービスセンターで二百八十三カ所。
メールが送られてきた各現場では、所属する十―十五人全員が情報を共有する。直接対応する担当者が苦情を表明した顧客に連絡を取った日時やその後の対応状況などを、システムに逐一入れていく。情報が共有できていれば担当者が休みなどで不在でも引き継ぎがスムーズにいくという。
このCS・苦情システム自体は〇二年に整えた。行政処分を機に刷新したのは、苦情を業務改善に生かす仕組みだ。
〇六年九月に「お客様の声担当部」を設け、苦情が全件集まるようにした。部は前日発生した苦情をチェックする。また業務改善の「種」になる苦情を探し、経営改善につなげる重要な役割も担っている。
特別に対応が必要と判断すれば、関係部署に改善を提言する。例えば自動車保険の契約者に送るはがきに張る個人情報の目隠しシール。「照明にかざすと透ける」との苦情を受け、シールの紙を変えた。苦情を基にお客様の声担当部の提言で改善された事例は、〇七年度で四十五件あった。
このほか、重要案件は関係部署と相談したうえで経営会議にかけたり、外部識者を交えた諮問会議を通じ取締役会に提案してもらったりする。
従来は苦情が多いことを事業所の評価に反映していたが、規定をなくした。〇五年度の苦情件数は約九千件だったが〇六年度は約二万二千件、〇七年度は約二万四千件に増加。少ないにこしたことはないが、「苦情は経営品質向上の重要情報」との意識改革は、着実に浸透しているようだ。
五月に発売した自動車保険「GK」は初回の保険料の支払い猶予期間を一カ月延ばし、三カ月とした。これも顧客の声をもとに生まれた特徴。既存のITインフラを、有機的に生かす仕組みが目に見える成果を上げ始めた。(藤野逸郎)
【図・写真】コールセンターに寄せられた苦情も即時に各現場にメールで知らせる(東京都中央区のコールセンター)
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