気がつけば、終わってました。
サマースクールが本コースになってからの6週間、ひとことで言うと、寒かった。。。
これには気温が、という意味と、私の実力が、という意味の両方があるのですが、後者については、6週間の本コースになってからほとんどブログの更新どころではなくなっていた事実からお察しいただくとして、前者については、この夏のボストンは異常気象らしく、雨で肌寒い日が続いたのにもかかわらず、建物の中は容赦なく冷房が効いているので、結果として長そで2枚着てもまだ寒いようなありさまで授業を受けることになっていたのでした。
しかしまぁ、なんとか終わりました。
CELOPことBUのサマースクールの本コースの授業は、①ライティングスキル、②オーラルスキル、そして③ロースクールスキルの3つに分かれ、①と②は英語の先生が、③は法律家が担当していました。個人的には③の授業が、判例のまとめ方といったようなロースクールでサバイバルするためのテクニックにとどまらず、判例の根底にあるアメリカ法の考え方といったようなことまで語学力とアメリカ法の知識の二重苦をかかえるわれわれにもわかるよう解説してくれたので、一番楽しく感じました。
しかし、サマースクールで印象に残ったのは、3回の裁判所訪問でした。
最初に行ったのは、湾岸エリアにあるモダンなビルの連邦裁判所で、ここは連邦政府の施設だけあって警備が非常に厳重でした。傍聴人は、パソコン、電子辞書、携帯電話など電子機器は一切持込み不可で、受付で預けることになります。
この日はあいにく予定されていた審理が中止になり、実際の裁判を見学することはできなかったのですが、その分判事と(法廷で)たっぷり質疑応答できました。この判事は話好きらしく、実にさまざまな話題に話が及んだのですが、陪審制度は民主主義そのものである、と力強くかつほこらしげに言っていたのが、印象的でした。
質疑応答の後は、法廷の裏側にある陪審員の控室、判事やロークラークの執務室などを、判事直々の案内で見学して回ったのですが、モダンなビルだけあって設備が非常にきれいでかつ充実しており、写真が撮れないのがきわめて残念でした。
2回目に行ったのは、ボストンの中心部にある州の下級裁判所で、ここは建物の老朽化が目立ちました。
ここでは、幸いにも刑事事件(銃の不法所持)の証人尋問と最終弁論、そして裁判官の陪審員への説示を見学することができました。検察官と弁護士は、証人尋問では「異議あり!」を連発し、最終弁論では法廷を歩き回ってボディーアクションを交えながら陪審員に語りかけと、まさにテレビなどで見たままの迫力のやり取りでした。
われわれの訪問は裁判官にはアポなしだったようなのですが、にもかかわらず審理の合間のわずかな時間に傍聴席のわれわれのところへ寄って来ていただき、話を聞くことができました。
3回目に行ったのは、州の最高裁判所で、ここは先ほどの下級裁判所のとなりにある古い建物なのですが、内部は完全に手が加えられており、建造物としてたいへん美しい状態でした。ここはジョン・アダムスの展示などもあり、観光スポットとしてもおすすめです。
この日は、ある民事(行政?)事件の口頭弁論で、ある行政の建物が古く内部の環境がひどいので職員が使用差止を求めた、というような事件でした。
審理の開始前に、準備もあるだろうに、親切そうな弁護士が、今日はどんな事件でどんな手続なんだ、ということを簡単に解説してくれました。
やがて、老判事が入廷し、審理が始まりました。この老判事は相当の年齢で、話が聞き取りにくくてちょっと困ったなと思っていたのですが、ひととおり双方の主張を聞いた後に、やおら質問を始めました。
「ところで、原告代理人はこの建物に行ったことがあるかね?」
「いいえ。」
「被告代理人はどうかね?」
「私も行ったことはありません。」
「私はロースクールでも教えておるが、いつも学生に百聞は一見にしかず、真理探求の手間を惜しんではならないと言っておる。この法廷で諸君から話を聞くよりも、下に私のクルマが止めてあるから、実際に行ってこの目で見てみようじゃないか。」
ふたりの弁護士も、そして傍聴席のわれわれも、一同あぜんです。
さらに老判事は、法廷の檀上から(注:まだ審理は終わってない)傍聴席のわれわれに向かって、
「ようこそ、BUの学生諸君。本を読むだけではなく現場を見るのは非常によいことだ。いつでも見学に来るがよい。」というようなことを言って、ふたりの弁護士を連れて法廷を後にしてしまったのでした。
アメリカの裁判官は、すごいです。