この冬休みはわれながらあんまり勉強しませんでしたが、読みかけだった「アメリカ著作権法入門」(白鳥綱重/信山社)を読了したので、その感想を少し。著者は、文部科学省からの派遣でワシントン大学でIPのLLMを取得されたとのことですので、どこかでお見かけしているかも?!

この本の一番いいところは、文章がすばらしい。良質の講義のように、流れるように頭に入ってきます。簡明な解説は、内容・分量ともに、まさに「入門」として過不足ありません。著者の博識と謙譲が、行間からうかがえるかのようです。掲載判例についても、秋学期のIPの授業で取り上げた重要判例とだいたい一致しており、おおいにお世話になりました。


唯一疑問がないでもないのは、英米法系(ことにアメリカ著作権法)では著作権の財産的側面が重視されるのに対し大陸法系では人格的側面が重視されるが、後者についてはジョン・ロックの労働理論から導き出されるというような記述が見られることでしょうか。
なぜこれが「疑問がないでもない」かというと、IPの授業で正反対に近い説明を受けたからでありマス。。。そこでの説明は(私のリスニングが正しければの話ですが)、ロックの労働理論によれば労働の成果はすべからくその人の財産として保護すべきなのであるから、著作物についてもその人の人格の発現とかいうこととはいちおう離れて財産として保護すべきことになり、これはたとえば"sweat of the brow"(額に汗)の議論のような、財産的側面を重視する考え方につながる、というような主旨だったように記憶しています。
私自身は特にロックを研究したわけではないので確たることはなにも言えませんが、直感的には、ロックの労働理論は「人は労働の成果をその人の財産として保持することを妨げられない」というところがキモであって、そのうち「労働」を強調すれば人格的側面の保護と結びつくし、「財産」を強調すれば財産的側面の保護と結びつく、要はどちらにでも結びつきうる理論なのではないかしらんという気がします。が、不勉強ゆえ、これについては今後の宿題とさせてください。


ただ、この点は些少な問題であり、また著者自身両アプローチは相対的なものである旨述べているところでもありまして、この本の価値を損なうものでありません。類書も少ない中、内容がすぐれているうえに比較的新しいこの本は、アメリカ著作権法の学習者にとって貴重な存在であることは間違いないでしょう。
よい本だと思います。

少し前にMPREの受験勉強のあまりの単調さにうんざりしてDJミックス系のpodcastを探し(聴きながら解いたら少しスピードアップした。正答率は落ちたけど(笑))、以来いくつか登録しているのですが、その中でも愛聴している"Funk It Up"という番組の少し前のSweetness という回の冒頭のプレイには、ヤラレタ。なんと、アメリカ公民権運動の第一人者(にしてBUのOBでもある)マーティン・ルーサー・キング牧師の、かの有名な演説のハウスバージョンなのです!!!

ここで私がヤボな解説をするよりもぜひともリンク先の画面左下の黄緑色の矢印をポチっと押して聴いてみていただきたいのですが、これだけ4つ打ちのリズムにきれいに乗るということは、もとの文章がとてつもなくすばらしいリズムを持っているということなんでしょうね。さすがは世紀の名演説と言われるだけあります。英文ライティングの参考にしたいものです。

食は旅のおおきな楽しみ。私はかねがね、食べものがおいしい国とはふらっと入った店でもたいていおいしいものが食べられる国である、という基準を提唱しているのですが、その伝でいけば、メキシコは食べもののおいしい国と言えそうです。観光客が集まるエリアのいかにもなメキシコ料理店(カンクンですからね。やむをえない)や、ショッピングセンターの中のイタリア料理店にあまり期待せずに入っても、どこもそれなりにおいしかった。


そんな中、ちゃんとリサーチして行ったお店が2軒ありました。
1軒目は、和食のK's Cafe 。メキシコまで来て和食かよ!と言うなかれ。ここは地元の漁師さんが持ってくる海の幸を味わえる珍しいお店(カンクンと言えども、日本の観光地と同じで地元の魚介類を使うお店は少ないとか)で、洋食の料理法も意欲的に取り入れた、絶対に行く価値のあるお店なのです。
実は、ふだんアメリカ暮らしで日本食にうえているわれわれは着いたその日に慣れないバスに乗って行ったのですが、お店はすでに予約でいっぱい。これはかなりショックでしたが、日を改めて朝食にトライしました。
朝食はメニューが限定されていますが、子どもたちはヤクルト(現地製のようです)をサービスしてもらって大満足。
アメロー
おとなは、(この浜汁定食!ロブスターやカニのおだしが効いておいしいことおいしいこと!!!おうどんもおいしかった!
アメロー


期待どおりの味に感激したわれわれは、夜もまた来ちゃいました。もちろんこんどはちゃんと予約して。
夜の部は、なんといっても刺身で冷酒を一杯!たまりません。
アメロー
ロブスター山盛りのラーメンも最高!!!
アメロー
うなぎごはん大好きの長男も、ひさびさに本格的なひつまぶしで満ち足りていました。

スタッフの皆さんもフレンドリーで、子どものものを先に持って来てくれるなどの心づかいもしていただきました。
もういちどカンクンに行くことがあれば、必ず寄りたいお店でした。


そして、最後の夜はやはり本格的メキシコ料理でしょう!ということで、2軒目はPaloma Bonita。さきほどのK's Cafeの駒形マスターご推薦 (場所もすぐ近くにあります)なら間違いはなかろうということで、予約しました。
以前メキシコ出張の際に駐在員から「メキシコ料理は高い店も安い店も出てくるものは同じ。雰囲気が違うだけですよ。」と言われたことがありますが、このことばは半分あっていて半分まちがっていると思います。メニューはありふれたものでも、やはりちゃんとしたお店のお料理はおいしかった!
お店の雰囲気はこんな感じ。入り口の敷居は若干高い感じですが、中はTシャツ短パンの人もいました。
アメロー
Hiltonのコンシェルジェにチップをはずんでおいた恩恵か、海の見えるよいテーブルでしたが、いかんせん夜なので外は真っ暗(笑)。
まずはかけつけにテキーラを一杯いただきます。
アメロー
盛り付けも、素敵です。
アメロー
メインのスズキのグリル(写真は撮りそこなった)も、たいへんおいしゅうございました。
そこへ、楽隊登場!
アメロー
街中のレストランでは、ギター一本流しのジロー(ダレ?)という感じで回ってくる場合が多いですが、ちゃんとしたお店では弦管打楽器そろった楽隊なのですね。カンクンの夜はにぎやかにふけていくところではありますが、子どもたちがそろそろ限界(昼間プールでさわぎまくってますからね!)ゆえ、後ろ髪をひかれつつ撤収しました。
でも、いいお店でした。


今回、トラブルもたいへん多く(物事が進まないことに関してはアメリカ暮らしで慣れてるつもりでしたが、メキシコは一枚上手でした!)、予定外の出費もかなりありましたが、ボストンでは絶対に得られないものが得られました。思い切って行ってよかったです。

毎日ビーチというのはさすがになんなので、日帰りでジャングルの中の遺跡を訪ねるというのが、カンクン旅行者の定番!そう、カンクンには、ピラミッドで有名な世界遺産チチェンイッツァがあるのです。
チチェンイッツァまではたくさんツアーが出ており、たいていの人はそのどれかに参加して行くことになります。これに限らず、エクスカーションは前日に頼めばホテルの中のデスクですべて手配してくれるので、このあたりはやはりちゃんとしたホテルは便利です。


さて、ホテルゾーンからチチェンイッツァまではけっこうな距離があり、少しバスに乗りつかれてきたころ到着したのは、聖なる泉セノーテ。この泉は、石灰石の岩盤がかなり深く陥没した底にあり、泳ぐことができます(我々は遠慮しておきました)が、実はその昔生身の人間が生贄が放り込まれたというオソロシイ場所。
その予備知識のせいか、どうも上から見ていると地獄の釜から人間が細い糸を必死に這い上がる曼荼羅の光景を思い浮かべてしまいます。
アメロー


泉を見たあとは、とりたててどういうことのない昼食を食べて、いよいよピラミッド!
ここからは、西語班と英語班に別れて、アカデミックな感じのガイドさんについて回ります。他のグループもガイドさんが引率していたので、どうやらこれがここのシステムのようです。
アメロー

しかし、このガイドさんの説明が、長い長い。たまらず途中で離脱。
まともに聞いてたら、30分くらいしか自由時間が取れなかったのではないでしょうか。本当に遺跡が好きで自分でじっくり見たいという方は、要注意です。


がっかりだったのは、ピラミッドに登れなかったこと。ピラミッドは登ってなんぼ(意味不明)。5年くらい前に出張のときに行ったメキシコシティー近郊の遺跡テオティワカン(下の写真参照)ではてっぺんまで登れたので期待していたのですが、最近登れなくなったらしく、かなりがっかりです。貴重な世界遺産の保存のためには、仕方ないのかもしれませんが(じゃあ泉はなに?という気もしますが)。
アメロー それでもまぁ、いちどは見ておきたかったところですので、よしとしましょう。
テオティワカン(ただし5年くらい前の)と違って、物売りがしつこくよって来ないのは、快適でした。トイレもきれいだったし、飲み物の値段も許せる範囲。これも世界遺産指定の関係なのでしょうか。


もうひとつ、カンクンでぜひ見てみたいというかやってみたいと思っていたのは、遺跡と違って子どもも文句無しに楽しめるイルカとのふれあい体験。日本ではなかなかさわれるところはないですからね。
ところがカンクンでは、さわるのはもちろんのこと、
アメロー

キッスや、
アメロー


握手までできちゃうのです!
アメロー

今までイルカショーは何回見たかわかりませんが、いっしょに泳ぐのは初めてで、これは大人の私でも感動しました。

本格的にイルカとふれあうなら島へ渡ったりちょっと郊外(?)へ出たりところでやってるプログラムが充実しているそうですが、我々の行ったLa Islaというショッピングセンターの中の水族館のプログラムでも十分楽しめましたし、ここは小さい子もOKです。

それにしても、イルカ超かわいい。。。
アメロー

さらに生きもの大好き兄妹の勢いは収まらず、潜水艦にもチャレンジしました!
潜水艦といっても3分の1ぐらいは水上に出ており、船底がガラス張りになっていて海底が見える、というものです。
沖合で乗り換えると中は相当狭く、妻は早々にギブアップ(甲板に上がることができる)。

しかし水の中の世界は、サンゴ礁に色とりどりの熱帯魚が舞う、絵に描いたような光景が広がっていました(写真がうまく撮れずごめんなさい)。
アメロー
カンクンのビーチはずっと浅瀬になっているようで、サンゴ礁の間を進むうち、こんな大群にも出くわしました。
アメロー
そのほかにも、写真は撮り逃しましたが小さな魚がスイミーのように固まっていたり、ウミガメが鳥のように優雅にお出かけしていたりと、またもや子どもそっちのけで釘づけになってしまいました。。。

明けましておめでとうございます。

この冬休み、フタを開けてみればあの人もこの人も、在米の知り合いの過半数が行ったのではないかと思われるほど、メキシコのカンクンが大人気だったようです。そんな時流に乗り遅れまいと(?)、我が家も6日間ほど行ってきました!


さて、カンクンが定番な理由は、

①暖かい
②老若男女楽しめる
③日本からは行きにくいがアメリカからは行きやすい(=比較的安く行ける+比較的日本人が少ない+アメリカにいるうちに行っとかなきゃ!)

といったあたりではないかと思われますが、冬休みの前には学生は試験というものがありまして、私が旅行の手配をしたのも試験の直前で多忙を極める時期。なので、有名だし、ビーチもあるし、遺跡も近くにあるらしいからここなら間違いなかろうというくらいのノリで、ほとんどなにも考えずにカンクンに決めました。


それでもなおエアとホテルの安いのを探して組み合わせるのめんどくさいなぁ、アメリカにも赤い風船みたいなのないのかなぁ、とぐずぐずしていたのですが、そんなときにクラスメートから聞いたのがHotwire というサイト。ここは、エアもホテルもレンタカーもぜんぶまとめて予約・購入できて、しかも個別に取るより安い!というすぐれものです。サイト上で申込むと、確認のメールが来るだけでチケットのハードコピーが来るわけではないのでちょっとドキドキしていましたが、手配に関してはなんの問題もありませんでした。


さてさて、なにも考えないといいつつも、リラックスしに行くのだから、ホテルはビーチに歩いて行けてプールもあること、というのを条件にしました。Hotwireで行き先と日程を入れるといくつも候補が表示されますが、プライベートビーチがあり、プールも充実してそうで、名前も知っていて、かつそこそこ安いHiltonを選びました。
アメロー

この選択は、悪くなかったように思います。おさいふは部屋のセーフティーボックスに入れてプールサイドには手ぶらで行き、部屋に「つけ」で飲み食いできる、というのはなにものにも代えがたいものがありました。おかげでほぼ毎日プールに入り、ほぼ毎日朝からビールだのカクテルだの飲んじゃいました。
アメロー

プールサイドで食事をしていると、時にはイグアナが遊びに来るなんてことも(おびえる息子の図)。
アメロー


そして、カリブの海の碧さ、砂の白さには、シビレました(あくまでおすなあそびの息子の図)。
アメロー

部屋は狭めでしたが、居心地は悪くありません。8階から見る海も、またよし。
アメロー

夕方部屋に戻ると、タオルアートで楽しませてくれます。
アメロー

こちらは8階のロビーからとった、初日の出。写真手前にも、いくつかプールやジャグジーがあります。特にジャグジーは、半年以上日本式のお風呂から遠ざかっている身にはしみいるように気持ちよく、思わず「あ"~朝風呂ゴクラクゴクラク」って違うか。
アメロー

先週のContractsの試験で、秋学期の日程がすべて終わりました。ふぅ。

試験は、全体にすばらしい出来とは言い難いけど、かといって単位を落とすことはなかろうという程度にはやっつけました。十数年前は試験直前の追い込みには定評あったのですが(ていうかほとんどそれだけで勝負していた)、今回はどうもそのへんの要領がどうにも思うようにならずもどかしさを覚えました。今後のために対策を考えないと。


アメリカのロースクールでの最初の学期(ふた学期しかないですが)の感想は、ひとことで言えばあっという間でしたね。毎日なにかに追いまくられてるうちに終わった、という感じ。

留学の成果に関しては声高に叫ぶことのできるようなものがあるのかどうか今はまだ実感ありませんが(会社にはもっともらしく報告しますが(笑))、一日も休まなかった、という点に関してだけは、自分をほめてやりたい。

だって、日本の私大文系の学生生活では、考えられないでしょ?!

会社員生活でも、私の場合は考えられないな。仕事だから休めないというときももちろんありますが、私は休むべきときはわりとエイヤッと休んじゃうようにしていたので(あと、近年仕事を安心してまかしておける優秀な後輩に恵まれていたので)。

アメリカのロースクールの学生生活では、代わりはもちろんいないし、すごい速度と密度で物事が進むので、いちどミスすると追いつくのも難しい。調子が悪かろうがなんだろうが、とにかく行くしかないわけです(いちおう病気などの場合は講義の録音を申請できるようですが)。

反省点は、あげていくと果てしないのですが、やはり英語がいちばん苦しかったですね。TOEFLの点数は倍ぐらいほしいです。ま、英語の勉強も留学の目的のひとつなわけですから、これはそんなに気にせず地道にやっていくつもりですが。


ボストンは先週金曜日から大雪となり、そのせいで能力の限界を超えたアパートの暖房がぶっ壊れ、おまけに折悪しくも息子が高熱を出して、この週末は吹雪の中ノーマルタイヤで暖房器具を買い出しに行くなど、たいへんでした。

冬休みはNY Barの準備や来期履修予定科目の本の読み込みなど進めたいと思っていたのですが、寒さに耐えられなくなってきたので、年末年始にかけてちょっと南のほうへ行ってきます。なので、しばらくこのブログも更新しないと思いますが、ご心配なく。

それでは、少し早いですがハッピーホリデイズ&よいお年を!

先日予告したとおり、Bone教授のCivil Procedureの授業の様子を、ご紹介します(いつもカーチェイスのビデオを見て喜んでるわけじゃない、ということを証明しなきゃいけませんので(笑))。
ある日の私のノートは、こんな感じ。


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Settlement Incentives


Suppose:
pπ = 0.75
pΔ = 0.50
cπ = $10,000
cΔ = $20,000
w = $100,000


[American Rule]
π's min. demand: 0.75 x (100,000 - 10,000) - (1 - 0.75) x 10,000 = $65,000
Δ's max. offer: 0.5 x (100,000 + 20,000) + (1 - 0.5) x 20,000 = $70,000
-> Yes


[British Rule]
π's min. demand: 0.75 x (100,000 + 10,000 - 10,000) - 0.25 x (20,000 + 10,000) = $67,500
Δ's max. offer: 0.5 x (100,000 + 10,000 + 20,000) + 0.5 x (20,000 - 20,000) = $65,000
-> No

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え~と。。。なにを論証しようとしてるかと言いますとですね、民事訴訟における訴訟費用(ここではほとんど弁護士費用)は、原則として、アメリカ法では訴訟の勝ち負けにかかわらず双方の当事者がそれぞれ自分の分を負担するのに対し、イギリス法では敗訴当事者が勝訴当事者の分も負担することになっているのだそうです。そしてこれについて、「イギリス方式のほうがより和解を促進するので望ましい」という説があります。この説を実証的に検証しよう、というのが、この回の授業のテーマでした。


本格的な説明に入る前に、まずexpected valueの説明から始めなければなりません。
expected valueとは、民事訴訟における期待価値、とそのまま直訳してしまってよいものかどうか日本法学界での議論を寡聞にして存じないので自信がないのですが、要は訴訟を行う現実的なベネフィットとリスクを数値化したもので、原告のexpected valueは、


pπ x (w - cπ) - (1 - pπ) x cπ


の式で表されます。pは確率、wは訴額、cは費用、πは原告(ちなみにΔは被告)です。式の左側では、訴額wから費用cπを差し引いたいわば手取りの金額がpπの確率で得られるよ、ということを言っています。式の右側では、負けたら得られる金額はなくて費用cπが出ていくのみなので、これが1 - pπ(敗訴の確率 = 1 - 勝訴の確率だから)の確率で出て行くよ、ということを言っています。
この式に上の"Suppose"の数字をあてはめると、


0.75 x (100,000 - 10,000) - (1 - 0.75 x 10,000) = $65,000


となり、この$65,000という金額が原告にとっての訴訟の現実的なベネフィット、言いかえると原告が和解に応じる最低ライン(つまり、訴訟をすると確率的・平均的には原告はどうやら$65,000得られそうなので、それ以上であれば和解に応じたほうがトク、ということ)と推定できます。

他方、被告のexpected valueはこの裏返しで、


pΔ x (w + cΔ) + (1 - pΔ) x cΔ


の式で表され、これに上の"Suppose"の数字をあてはめると、


0.5 x (100,000 + 20,000) + (1 - 0.5) x 20,000 = $70,000


となります。これは原告勝訴の場合(確率50%)は訴額$100,000に加えて費用$20,000が持ち出しで出ていくよ原告敗訴の場合(同じく確率50%)でも費用$20,000が持ち出しで出ていくよ、という意味です。つまり被告はいずれにせよ出費があるわけですが、この両者を足すと被告にとっての訴訟の現実的なリスクは$70,000になります。言いかえると、この$70,000という金額が、被告が和解に応じる最高ライン(つまり、訴訟をすると確率的・平均的には被告はどうやら$70,000失うことになりそうなので、それ以下であれば和解に応じたほうがトク、ということ)と推定できます。

そうすると、原告は$65,000が最低ライン、被告は$70,000が最高ラインなので、この例では両者は$65,000~$70,000のレンジで和解が可能、ということになります。


以上はアメリカ方式の場合ですが、これがイギリス方式だとどうなるか。
イギリス方式だと原告が勝訴した場合は訴訟費用も被告から支払ってもらえるので、上のcの部分が変わってきて、勝訴のベネフィットは、


0.75 x (100,000 + 10,000 - 10,000)


となります。
逆に、敗訴した場合は自分の訴訟費用に加え被告の訴訟費用も支払うことになるので、敗訴のリスクは


0.25 x (20,000 + 10,000)


となります。
その結果、原告のexpected valueは$67,500となり、アメリカ方式よりも高くなります。
被告についても同様に計算すると、こちらは$65,000となり、アメリカ方式よりも低くなります。
つまり、原告の最低ラインと被告の最高ラインが逆転してしまい、イギリス方式では和解のレンジがなくなってしまいます。


この例では、原告と被告のpとcの数字が違いますが、それはまぁ話をおもしろくするためだと思ってください(笑)。両者で勝訴の確率(の読み)や費用が違うことは、現実にもありうる話です。大切なのは、アメリカ方式では和解が可能であったのにイギリス方式では和解が不可能となった、ということで、この点から、「イギリス方式のほうがより和解を促進するので望ましい」とは言えない、という結論になります。


expected valueの概念は、数字に明るい人から見れば(私は明るくない)いろいろとつっこみどころもあるのでしょうが、紛争解決のメカニズムについてわかりやすいモデルを提示している点で、おもしろいと思いました(企業法務の現場で、応用できそうな気がします)。また、実証的な法政策的議論も、日本の大学で教える法律学(私が知ってるのは十数年前のそれですが)とはひと味もふた味も違っておもしろいと思いました。

なお、このexpected valueの計算をして事案を分析し論証するタイプの問題が試験に出ると予告されているので、しっかり復習しておかなくてはいけません。Civil Procedureの試験は、明日です。

目前に迫った学校の期末試験に気を取られすっかり忘れていましたが、ついさっきMPREの結果が出たよというメールが来たので、さっそくサイトにアクセスしてスコアリポートをダウンロードしてみました。

結果は、94点で、NY Bar受験に必要な85点をかろうじて上回り、合格!

いや~、あぶないところでした。。。


MPREの勉強は、約2週間前から始めました。

MPREの勉強方法・量は人によって激しく違うのですが、barbriのテキストの最初の要約部分をしっかり覚えるという点に関してだけは意見が一致しているようだったので、まずそれを読むことから始めました。本番2週間前の週末にbarbriの講座を予約してあったので、できればそれまでにひととおり目を通しておきたかったのですが、例によってほとんど進まず、講座を受けた次の週にひたすら読みました。

barbriの講座は、これも人によって評価が激しく分かれるのですが、私はよかったと思います。正直に言うと、アメリカで受けた授業で初めて先生の言ってることがすべて分かった気がしました(おいっ!)。講義は、先生が試験に出るポイントをひたすら読みあげて言って、生徒はそれを聞き取ってハンドアウトにキーワードを穴埋めしていくという方式で、単調と言えば単調なんですが、適度にジョークを交えながら進めてくれるし、ただ本を読むだけよりも頭に入る気がします。

本番1週間前からは、テキスト後半にある模試の問題を解いたのですが、要約部分の知識だけでは足りず、結果的にかなりテキスト本文の詳しい解説の部分を読むことになりました。おかげて復習にかなり時間もかかり、模試は4回分あったのですが、時間切れで3回分しかできませんでした。ここでは、正答率は6割前後ながら、時間が足りないことがわかり(10問あたり20分以下で解かなければいけないが、なかなか切れない)、かなりアセリました。

あとは、MPREのウェブサイトにあるサンプル問題を解きました。これは、barbriや本番の問題よりもかなり簡単なので、気をつけたほうがよいです。

当然のことながら、その間も学校の予習やレポートは容赦なくあるので、MPREの勉強としてはこれくらいが精一杯でした。


ところでこの試験、頻出パターンのかくかくしかじかの状況でsummary judgementの申立てをするのは懲戒の対象になるか、というのは連邦民事訴訟規則11条の話ですし、これこれこういう内容の弁護士の広告は適正か、というのは合衆国憲法修正1条の話です。なにげにけっこうアメリカ法の基礎知識も必要なので(LLMに行くくらいの人はそれくらいあって当然、ということなのかもしれませんが)、忙しい11月にムリして受けなくてもよかったかな、と今にしてちょっと思います。

ま、なんにしろ、受かったからよかった。

「世界の」という枕詞が失礼なほど現代クラシック界を代表する指揮者、セイジオザワ。その彼がボストンに帰ってくる!というので、ボストンの耳の肥えたクラシックファンの間では、このサンクスギビングの一番の話題となっていました。
BSOも、懐かしい映像を集めた動画 を作成するほどの力の入れよう。Bone教授も2日目土曜日にいらっしゃるとのことでしたが、私は初日金曜日のマチネに行ってきました。


開演とともにステージに出てきた氏は、私が20年以上勝手に想像していたよりずっと小柄でした。満席の聴衆はいきなりスタンディングで、温かい拍手とともに迎えました。
今夜のプログラムは、メシアンとベルリオーズの幻想交響曲(メシアンは"Trois Petites Liturgies de la Presence divine"という曲だが日本語でなんて言ったらいいかわからない。オンドマルトノ使うやつ)。メシアンは、最初少し散漫な気がしましたが、後半に進むにつれよくなってきました。珍しい楽器編成と合唱も、高いレベルでアンサンブルが取れていたと思います。しかし、客席の盛り上がりはイマひとつ。まぁ、これは曲が曲だけに、というところでしょう。
ベルリオーズは、全編を通して散りばめられる不安の旋律よりもロマンチックな「幻想」の方向に振ったように感じました。この曲は、ベルリオーズがアイルランドの女優に捧げた曲ゆえ、こういう方向に振るのもぜんぜんアリかとは思います。ただ、個人的には張りつめたような緊張感のある演奏が好みなので、いくらかもの足りない感も残りました。かつて氏が(だったと思うが、バーンスタインがだったかも)ご老人の多いマチネではすこ~しテンポを下げるとか言っていたように記憶しているのですが、そういうのもあったかもしれません。ただ、フィナーレは、たたみかけるオザワ節を聴かしてくれました。


しかしながら、正直に言うとこの日の演奏は指揮者とオケがかみあっていないというか、なんだかチグハグな感じがしました。2日目に行った妻はよかったと言っていたので、これは初日だけのことだったようです。この演奏者の顔ぶれでは、普通によい演奏ではなくて、極めて素晴らしい演奏をどうしたって期待してしまうので、難しいところです。


というわけで、今回は前回のマーラーほどの深い感動は残念ながらなかったのですが、氏とBSOの名誉のために記しておくと、今回は私の席が悪すぎたということも大きく感想に影響していると思われます。
今回なんとか入手できたのは1階の後ろの端で2階席がかかっている席だったのですが、ヘッドホンを片方外して聞いてるような、あるいは隣の部屋で演奏しているような、びっくりするくらいのバランスの悪さでした。これだったら、最前列のほうがまだよかったと思います。ボストンシンフォニーホールの後ろの端の席は、いけません。昔ながらの真四角なホールは音響の落差が激しいというのを、すっかり忘れていました。
バックパッカー時代の癖でつい安いチケットに手が伸びてしまったのですが、いいトシをしてたかだか数十ドルをケチってはいかんと、深く反省。

サンクスギビングというのは、世界のほかのどこにもないアメリカ独特の風習なので、これまでいかなるものかまるで知らなかったのですが、今年はBone教授のご自宅に招待を受けるという幸運に恵まれ、貴重な体験をすることができました。


ボストンは、サンクスギビング発祥の地(=イギリスから渡ってきた移民がネイティブアメリカンを交流を持った地)を間近に控えるだけあって、特に盛大に祝うようです(と、一緒に行ったカリフォルニア出身のJDが言っていました)。当日の木曜日は、商店などみんなお休み。平均的な過ごし方は、Bone教授のメールを無断引用すると、"We’ll be making the Thanksgiving dinner in the afternoon and maybe watching a football game. (For the LLMs : watching a football game is a typical Thanksgiving activity in the US.) We’re planning to sit down to eat at about 5:00 or 5:30, although there’ll be snacks before that. (For the LLMs : most people eat Thanksgiving dinner on the early side.)"という感じらしいです。


ボストンの知識階級は、ダウンタウンからクルマで30分以上はかかる自然の美しい郊外に住むのが定番のようですが、Bone教授宅も、郊外の小さな町にある木立の中の美しい一軒家で、キツネや鹿などが出るとのことでした。
ターキーを焼くかたわら、広くはないながらも上品な家具に囲まれた居間で、アメリカの歴史のこと、日本文化のこと、はたまた法学のことなど、とりとめもなくおしゃべりをして、午後のひとときを過ごしました(アメフトは、あまり見てないようでした)。


そして、ディナーのメインは、もちろんターキー!(窓際)美味しかったです。
奥様お手製のベークドアップルとパンプキンパイのデザートも、ほどよい甘さでした。
私はクルマを出したためワインが飲めなかったのが残念ですが、久々に試験の重圧を頭の片隅に追いやって(忘れはできない。だって、先生とクラスメートがいるから(笑))、楽しい時間を過ごすことができました。
Bone教授は来年BUにいらっしゃらないかもしれないのですが、これほどの素晴らしい先生がいらっしゃらないというのは、残念です。Bone教授が授業でどのように素晴らしいかは、いずれ書こうと思います。