私たちは、バラバラに別れた。
私と平田は、ホテルに戻るために、
タクシーを捕まえた。
二人とも、精神的に、かなり疲れていた。
私は、タクシーの中で、左側を下にしてソファに顔をもたれさせた。
しばらくして、後ろから強い衝撃が伝わった。
酔った車が、私たちの乗車しているタクシーに後ろからぶつかってきたのだ。
弱り目に祟り目である。


周りは大騒ぎになっていた。
タクシーの運転手は、車から降りて、
相手に怒鳴っている。
私は、すぐに事態を飲み込むことができなかった。
それほどに、疲れていた。
しばらくして、警察がやってきた。
救急車も、大きなサイレンを鳴らして、私たちの元に駆けつけた。
赤いランプと騒音が、さらに、私を疲労させた。
私たちは、救急車に乗って、病院に運ばれて、簡単な検査を受けた。
待合室で、平田の診察が終わるのを待っていた私は、
診察室から出てきた平田を見て、驚いた。
私は、左のこめかみにちょっとした打撲だけだったが、
平田は、ムチウチ症と判断された。
夜中の3時過ぎに、私たちは、レントゲンを撮られ、
私は左こめかみに湿布を貼り、
平田は、首にムチウチ症のコルセットをはめていた。
ここまで行くと、喜劇である。


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国立大学の医学部での話は、

限定公開という形を取るしかないように思います。

どういうシステムなのか、調べてみますね。

詳細は、それからご報告させてください。

今の話も後、少しで終わりになってきました。
次の話を考えているのですが、
大変、難しいのです。


私は、ある国立大学医学部である時期、
働いていたことがありました。
その時は、「家政婦は見た」的な感じで
興味本位で応募したところ、
たまたま採用されたのです。
働くようになって、「白い巨塔」であることがわかりました。
有名国立大学の医学部のある教室の教授になるという
すざましい執念と強靭な精神力は、
山崎豊子氏が興味を大いに抱くところなのは、
とても理解ができます。
私は、たまに助教授に誘われて
一緒に、ご飯を食べました。
その大学を辞めた後も、彼から電話がかかってきましたが、
私は居留守をつかい、彼と、
というよりもその大学に関係する人との接触を絶ちました。
正に、伏魔殿です。
いろんな化け物がいるのです。


特に、私が所属していた教室は特異なところでした。
そこを詳しく書くと、かなり限定されてしまうのです。
けれど、その部分を抜かしてしまうと、
大きく路線がずれてしまうと言うジレンマが生まれます。
そこが、悩ましい問題です。

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ところで、フジテレビで放送された「白い巨塔」ですが、
私は、ほとんど観ていないのです。
一度、5分程度、観て、止めました。
他の方のサイトでも書かれていましたが、
唐沢の背の低さでは、本当の財前吾郎が表現できないからです。
彼が教授になって、回診時に他の医師を従え、
中心になって歩くその姿は、彼が一番背が高くなければいけません。
また、助教授時代も常に教授を見下ろす位置関係である必要があるのです。
それこそが、財前吾郎そのものだからです。
そういう意味では、田宮次郎は最適でした。
外国人と一緒にいても、遜色のない容姿を持っていたのです。
また、彼自身も学習院大学卒というインテリで

英語も堪能でした。
たいへん、失礼な話ですが、
唐沢にしても江口洋介にしても、馬鹿には見えませんが、
そんなに頭が切れるように見えません。
これは、たいへん、痛いです。
財前吾郎を、加藤雅也が演じれば観たかもしれません。
加藤雅也は、背の高さ、英語力、そして彼自身も国立大学を卒業しています。
こういう要素は、知らず知らずに、表に出ます。


里美の役は、内科医です。
実際、メスを持つ医師とそうでない医師と言うのは、
それぞれ、ちょっと、独特の雰囲気を持っています。
私は、どちらかと言うとメスを持つ先生の方が、
話が合いました。
そういう意味で言うと、江口は、内科医という感じではないのです。


また、ひどいのは、西田敏行です。
彼の関西弁は、聞くに耐えないです。
軽い役をすると、西田敏行の舌足らずのしゃべり方は活きてきます。
例えば、「釣り馬鹿日記」のスーさんです。
NHKの「春が来た」もよかったです。
けれど、重たい役は、番組事態を壊してしまう可能性があるのです。


一度、古い方の「白い巨塔」を観てください。
ドラマとして観ずに、ドキュメントとして観てほしいのです。
画像の質は、正直言うと、決して好いとはいえません。
けれど、それを差し引いても、余りあるくらいに
本当の話のように描かれています。

六本木の駅で待ち合わせの後で、
私と、平田と東京の知り合いのAと三人でバーに入った。
マスターは、いた。
彼は、すぐに私の顔を認めた。
相変わらず、お客さんは、たくさんいた。
マスターの客あしらいがいいのも、手伝っているのだろう。
『カウンターで、いい?』
彼は、尋ねた。
私は、うなずいた。
『久しぶりだね。』彼は、私に声をかけた。
けれど、お客さんの対応に追われていた。


私は、Aに今回上京した目的を話した。
Aは、私に、自分の会社で働いたらどうか、と言った。
Aの会社は、最近、できたばかりで、
東証に上場なんて、問題外であった。
A自体は、関西学院大学を出て、別の会社に勤めていたが、
そこを辞めて、今の会社の社長を尊敬して、ついて行った。
『考えてみるわ。』
『いつでも、言ってくれたら、ええし。』
私の友人もAも、意気投合して、
冗談を言い合って、楽しく、話をした。
マスターは、時々、話に入ってきた。
『この間の彼女は?』修子のことを、訊いてきた。
『今回は、一緒に来てへんの。けど、元気やよ。』
『また、忘れずに来てくれて、嬉しいよ。』


お店が終わった後で、私たちは、残って、話をした。
マスターは、自分の理想の店を語った。
「スター・ウォーズ」の何かを例えていた。
私も、修子も、
スピルバーグの映画は、受け入れない。
修子は言った。
『スピルバーグの映画は、遊園地やもん。』
『わかる、わかる。私、遊園地、アカンわ。』
『アンタは、そう言うたら、わかってくれるやろ。
 けど、それが、わからん人間が多いのよ。』
だからこそ、友達なのだ。
男性二人は、しばらく、「スター・ウォーズ」の話で盛り上がっていた。
男の人は、「スター・ウォーズ」が好きらしい。

そのバーが終わる時間に近づいた。
私たちは、清算をしようと席を立った。
マスターが声をかけた。
『ちょっと、待ってて。』
私たちは、顔を合わせた。
何か、勘定が合わないのだろうか。
もしかしたら、
関西弁で話していたので、田舎者と見られて、
法外な値段を取られるのかもしれない。


他のお客さんがいなくなった後で、
30前後のマスターは、カウンターの席に座って、
私たちに話しかけた。
『ごめん。カウンターでちょっと、話を聞いてて、
 少し、話をしたいな、と思ったんだ。
 最初は、関西弁で変な話をしてるな、と思っていたんだけど、
 何か、ちょっと、話をしてみたいな、と思ったんだ。』
彼は、映画に詳しかった。
私はスポーツに詳しくなかったが、
私の友人の修子は、スポーツを観るのが好きなので、
マスターと話していた。
『お店のお客さんで、なかなか、こんな話できる人がいないんだ。』
彼は、言った。
休みの日は、サイクリングをしていると話した。
『なかなか、太陽に当たる機会がないからね。』
夜の世界で働く人であるが、少し、また、違ったタイプのように思えた。
時計は、4時になろうとしていた。

修子は、荻野目慶子の部屋で自殺をした男性の話をした。
『元々、自殺願望のある人間が、
 荻野目慶子と言う人に出会って、それが引き金になってしまった。
 そういう人間は、決して、松田聖子みたいな人間に近づかへんのや。』
私には、彼女の言うことが、とても、理解できた。
誰もが、意識するかしないかは、別にして、
犬笛のように、ある種の人間にしか聴こえない超音波を出しているのだ。
その音を聞きつけ、不快感を覚える人間は離れ、
波長が合うと感じたり、あるいは、思い違いをした人間が近づいてくる。
ある目的を抱えた人間が、風船を大きく膨らませて、
後は、針でその風船をついてくれる人間を見つけるだけであると言う状態のときに、
針を抱えた人間をみつけたとする。
針を抱えた人間は、もちろん、自分が針を抱えているなんて思いもよらない場合は、
最悪の事態が待っている。
私も修子もそういう人間には、非常に敏感だった。
レストランにいても、本屋にいても、
ある種の問題を抱えた人間を、認識することができた。
修子は、私が精神のバランスを壊した友人とつきあうことを
頑なに反対した。
私たちは、同級生だったので、修子も彼女のことは、ある程度は知っていた。
その友人と同じ病気の人が、起こした事件を例に出して、
その友人から離れるように、私を説得しようと何度も試みた。
けれど、私は、最悪、自分が殺される覚悟で、
その友人とつきあうことを決めた。
少なくとも、その当時は、それしか私には選択肢がなかったのだ。
それほど、その友人のいろいろな事情は、複雑だった。


その夜も、多分、いつものように話をしていたに違いない。
その話をまさか、マスターが聞いているとは、思わなかった。
彼もまた、私たちの犬笛を聞き取ったのだろう。