修子は、荻野目慶子の部屋で自殺をした男性の話をした。
『元々、自殺願望のある人間が、
荻野目慶子と言う人に出会って、それが引き金になってしまった。
そういう人間は、決して、松田聖子みたいな人間に近づかへんのや。』
私には、彼女の言うことが、とても、理解できた。
誰もが、意識するかしないかは、別にして、
犬笛のように、ある種の人間にしか聴こえない超音波を出しているのだ。
その音を聞きつけ、不快感を覚える人間は離れ、
波長が合うと感じたり、あるいは、思い違いをした人間が近づいてくる。
ある目的を抱えた人間が、風船を大きく膨らませて、
後は、針でその風船をついてくれる人間を見つけるだけであると言う状態のときに、
針を抱えた人間をみつけたとする。
針を抱えた人間は、もちろん、自分が針を抱えているなんて思いもよらない場合は、
最悪の事態が待っている。
私も修子もそういう人間には、非常に敏感だった。
レストランにいても、本屋にいても、
ある種の問題を抱えた人間を、認識することができた。
修子は、私が精神のバランスを壊した友人とつきあうことを
頑なに反対した。
私たちは、同級生だったので、修子も彼女のことは、ある程度は知っていた。
その友人と同じ病気の人が、起こした事件を例に出して、
その友人から離れるように、私を説得しようと何度も試みた。
けれど、私は、最悪、自分が殺される覚悟で、
その友人とつきあうことを決めた。
少なくとも、その当時は、それしか私には選択肢がなかったのだ。
それほど、その友人のいろいろな事情は、複雑だった。
その夜も、多分、いつものように話をしていたに違いない。
その話をまさか、マスターが聞いているとは、思わなかった。
彼もまた、私たちの犬笛を聞き取ったのだろう。