これまで何度か書いていますが、トラウマという概念は、実は過去に起こったことではなく、今経験していることなのでは? という仮説を私は立てています。

 

一般的に言えば、トラウマとは過去に起こった恐怖体験に対して、あまりにも怖すぎるために記憶することを脳が拒絶し、それによって記憶の整理がうまく起きないために生まれているもの、となります。

 

ただこの説明には違和感があるんです。

 

その出来事が起こったときは、確かに怖くて「記憶したくない!」となるかもしれない。

 

でもそれから時間が経ち、その出来事が本当に過去の出来事になったのなら、「もう整理しても大丈夫だよね!」となるのでは? という疑念です。

 

けれどそうならず、そのくせ整理されてない過去の記憶がトラウマという形で、今現在も苦しみを産み続けている、というのがどうにも違和感がある。

 

脳の可塑性という概念が明らかになってきた今だからこそ、その思いはますます強くなる。

 

トラウマに対してよくある説明では、それは強すぎる恐怖によって精神が壊れることを防ぐために、脳が選択した自衛の反応であり、適切な自己防衛の働きだ、と言います。

 

でもそれなら、その結果として今現在も苦しみが生じている以上、今度はその苦しみを解消すべく脳がまた変化しないと、自己防衛うんぬんの理屈は破綻するんじゃないの? と思うんです。

 

なにせ、トラウマやそこから生まれるPTSDを持っている人は、自殺のリスクが高まるなんていう研究もあるわけで、だったら脳はいったいなにに対する防衛反応としてトラウマを作り出し、そしていまだに維持し続けているの? という話になります。

 

 

ここらへんについて心に聞くと、「単純な話で、全ての恐怖は『今』喰らっとるんや。だから脳は、その今の恐怖に対応して動いてるから、落ち着くことができん。それを『過去』の体験とみなすこと自体が勘違いであり、トラウマ関連の症状がなかなか回復しない原因なんよ」と言ってきます。

 

そう、脳が適切に「今」に対応して変化し続けているのであれば、過去のトラウマ体験によって作られた脳の記憶回路も、それはもう終わったこと! として、今に合わせてまた変わるはず。

 

だがその変化がなかなか起きず、それによって時には自殺にすら至る恐怖感を生むというのは、これはもうシンプルに、その恐怖体験がまだ終わってないから、今も継続しているから、という理屈です。

 

いろんな苦痛への対策に対して、私が心に聞くと「斬れ」と答えてくることが多いんですが、これはつまるところ、脅威が今そこにあるからこそ、真っ向からそれをたたっ斬るのが基本、ということらしいです。

 

この仮説には、脳のネットワークという仮説がさらに前提として存在している。

 

例えば「親からの虐待というトラウマ」であれば、今現在はもう虐待を受けていない、そもそも親はすでに他界している、といった状況であるなら、それを今も起こっていることだと主張するのは、常識的に考えれば無理がある。

 

けれど、脳のネットワーク仮説においては、脳のつながりは時空をも超えるということになっているので、過去の出来事だろうがなんだろうが、今現在の情報として受け取ってしまう、となるわけです。

 

これは一見トンデモ論に見えるかもですが、死者が今も自分の中で生きている、という感覚は、良い意味でも悪い意味でも、普通に多くの人が経験している。

 

すでに死別した家族や配偶者などのことを、思い返せば今でも心が温かくなる、なんてことは普通にありますし、それを異常なことだと言う人はおそらくあまりいないでしょう。

 

でも、これを普通のことだと言うのなら、「もう死んだんだから関係ないじゃん!」という理屈のほうがむしろおかしいよね、となるわけです。

 

「彼は(彼女は)今も私の中で一緒に生き続けているんです」という感覚が自然にある以上、それはネガティブな方向性でも、つまりいまだに自分を傷つけ続ける存在として今も生き続けているケースもあると考えるのは、むしろ自然なこと。

 

生物学的に見てすでに死んでいようがなんだろうが、人の認知においてはそうなっている、と仮定した場合、トラウマというものへの見方も非常に大きく変わってくるんです。

 

 

 

このブログの記事は全て、大嶋信頼先生が開発された「心に聞く」を用いて書いています。

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