時に歩まされて

戻れない道を


たどり着いた

晴れ過ぎた空の下に


Tシャツの軽さに

速まされる足


去り際に輝く

雨粒できらびやかな街

僕が伝えようとしていない僕まで

あなたは受け取ってしまっている


僕の知らない僕ばかり

あなたは知ってしまっている


言い争うあなたの口からは

いつも覚えのない僕が出てくるから

油断ならない


目覚めると聞こえた

音楽が胸をゆする


ベッドにひっつき放しの

背中が感じている鼓動


失意に動けない体を

なお動かす

命のざわめき


心臓が奏でる

マーチに乗せて

心は歩む

一秒先、一秒先へ

走りたい

背中に負った荷物など

何もなかったように走りたい


肺が繰り出す

止めどない吐息

喉をぐぐる

血の味のする吐息


雑音に縮こまって

憂鬱さに慣らされた

心臓を鳴らしに行く


走りたい

明日なんて当分は

来ないかのように走りたい


胸に返される

過剰なほどの空気

頭の中を巡る

真っ白な空


このひとときは

明日を忘れて走りたい

先頭を走る今に追いつきたい

かけがいないものを得るため

一人の旅は始まる

余計なものを捨てるため

一人の旅は始まる


事実は何を伝えるでもなく

宇宙中に散らばっている

そこから何を拾い上げるかに

僕がかかっている


渓流の隅にある

大きめの岩にじっと座り

ふと湧き上がった気持ちを

お告げと思い込んでもいい

降り始めの昨日を

引きずっているかのような雨

溜まった本やDVDを

見るチャンスなのに気分が乗らない


激しく屋根を打つ音に

例えられそうな衝動や

願望があるのに

その中身が読み取れない


汗と雨と僕の

湿り気が部屋に充満する

重く太りあがった雲の影に

棚の茶碗までもが染まっている


窓にぶつかった水滴が

まるで戸惑っているかのように

ゆっくり下り落ちていく様を

瞳はなぞっている何度も

午後九時

通り過ぎる風が

記憶のひとひらを持ち去って行った


駅前通り

感傷を抱えて歩く

ぶつかりそうな人をかわしながら


どんな馴染みのない場所も

故郷のように思えていたのに

君がいれば


定まりようのない足元で

僕は帰ろうとしている

ただの家に

たどり着くまでの道順を

親切に教えたりしないで

発見した時の喜びまで

ただの知識にしてしまいそうだ


悟った人の言葉など

聞きたくもない

理解できない宝物で溢れた

世界をまとめてしまうから


抜け出したくて

もがいているんだ

その先にある光とか

そんな話は後にして

何の告白もなくて

分かり合える気持ちがあって


何の決定打もなくて

こじれゆく関係があって


そこにあった心の揺れを

互いになんとなく知っている


過ぎ行く時の中で

解きほぐされるわだかまりがあって


何を確かめ合った訳もなく

肩寄せあったりする


心の揺れはまだ消えず

互いの胸で響いている

僕の瞳に

朝は入り込めても

脳も心臓も

ずっと夜の中にいる


夢と現実が

ごちゃ混ぜになった闇の中に


耳ですくった言葉を

目に入った言葉を

夕闇の向こうへ沈めて


湧き上がってきた言葉は

飛び出せる時を待ってる

喉の向こうの朝を待ってる