あまりにもたくさんの歴史が

見過ごされている


こぼせない幾つもの歴史を

刻み付けて人がすれ違う


歩き続ける

足を止めれば

「なぜ?」の言葉に気付いてしまうから


出口を間違えれば

もう元の自分には

戻れなくなりそうだから


地下道をくぐり終えると

何ごともなかったかのように

今が広がっている

心が湧かないくらい

打ちのめされてしまった


寄りかかれない肩を

壁に預けて

あらすじも知らない

ドラマを眺める


あなたを知る前の

なんとなく過ごせていた夜を

取り戻せない


思い出の重しを

眠りが連れ去るまで

待ち続けるしかない


あなたに出会う前の私が

どんなに魅力的だったか

あなたは知らない

夢を漕いでいた

ずっと遠くまで


夢を漕いで着いた

憧れの岸辺へ


あの向こう岸に

確かに僕はいたんだ


開いたまぶたの先に

あの船は見当たらない

島影も見えない


手がかりを失くした

朝の水面が

うつろに光る


夢を漕いでいた

ずっと遠くまで


あの向こう岸に

確かに僕はいたんだ

午後に突然差した

日差しに

小鳥の鳴き声はまだ

追いついていない


彩り豊かな女性たちが

路を通れば

街が完成する


デパート前の

柱に寄りかかる人々

電波で飛び交う

待ち合わせの言葉


次の目的地を

どこにしようか言い合いながら

恋人たちは

ためらいを楽しんでる

3年生の教室は

春休みが早い


寂しさで賑わっていた

3月の初旬


「卒業おめでとう」の字は消され

将来の夢を書いた紙は剥がされ

今は何もなかったような表情で

冬の日差しを取り込んでいる


3年生と教室の思い出は

黒板の消しきれない白みに

壁の画鋲の刺さった跡に


机の隅の落書きは

新3年生たちの永遠の謎に


扉を開くのが

卒業生か新入生かで

教室は懐かしくも

新しくもなる

歩いていると

歩いているうちに景色が違ってる


いつもいつの間にか

逸れてしまう


選び取ろうとしてるうちに

別の道に切り替わっていた


迷いようのない道で

何だか途方に暮れている


途方に暮れるにふさわしい

夕焼け空とカラスの声

言葉を探し始めると

夜は長いから

僕は眠ることにする


机もテーブルも

洋服ダンスも

いつもより静かな部屋


探している言葉は

この夜には見当たらないと

知ってるから


閉じられた敷居の中でも

見えない夜風を

浴び続けている


昼間の雑踏が

意識から遠ざかる

きっとあの中に

大事な言葉が隠れていたのに

私とあの人の思い出を

あなたの言葉でまとめないでほしい


私たちの日々を

あなたの物語にしないでほしい


ふと過ぎる寂しさを

あなたの悲劇で押し流さないでほしい


また書きかけの人生を

上手な一言で締めくくらないでほしい


BGMも演出もいらない

ただの私でいさせてほしい

はいはいするのは

産まれてからでいい


返事をするのは

聞こえてからでいい


まだ早い 早すぎる


飲み込むのは

口に入れてからでいい


店に点数をつけるのは

店に入ってからでいい


急ぐな そんなに急がなくても


後悔するのは

後になってからでいい


痛むのは

殴られてからでいい


まだ早い 早すぎる


月曜を恐れるのは

日曜になってからでいい


死に急ぐのは

生き返ってからでいい

どんな偶然も

必然的に

終わる一日


思い出せないのに

眠らせ切れない

記憶の残り香


「じゃあね」と

「おめでとう」が

このひとときを舞う


別れと

旅立ちの

入り混じった一歩