戦車サスペンションの本II
昨日は奥方とお江戸に行ってきた。
目的は国立西洋博物館で開催中のアルチンボルド展だ。
前日は仕事で秋田に行ってたんで結構きつかったんだけどな。
一日で千キロメートル走行は、やっぱきついぞ
せっかくなので神田神保町にある書泉グランデによって資料を買ってきた。
戦車サスペンションの本II
著:T.N.T.SHOW
定価 500円+税
ネット販売はしていないという事だったので購入した。
前作は第二次大戦中までのサスペンションを解説しており、本作はそれ以降の流れとして解説しているようだ。
【気になった記述】
①この軸をトラニオン(砲耳)軸といいます。(4ページ)
トラニオンは「筒耳(とうじ)」だな。
一作目でも同様の記述だったけど誰かがチェックするだろうと思っていた。
「砲耳(軸)」はあくまで「砲にある筒耳(トラニオン)」の別称だ。
②ゴム袋に直接空気を密閉したタイプは、今のところ戦車には使われていません。(5ページ)
・・・・我が国の74式戦車がまさに空気(N2ガス)袋を使用したタイプだ。
プラダ式(プラダ型アキュームレータ)と言う。
一時期は保管要領の不備でパンクしてノンサス74式が結構あった。
操縦したことあるが最悪の乗り心地だぞ。
ちなみに、90式と10式はフリーピストン式の独立懸架になっている。
③ポーポイズ運動は起きないはずです。(20ページ)
起きないかもしれないが、機動性落ちるというか、ほぼなくなると考えていい。
そもそも日本軍のサスペンションって見た目と違い優秀なの米軍も認めた通りだ。動画を見てもショックアブソーバーが無い(ノンショック)のになんであんなに制振出来るのかが不思議だ。魔法だ。疑問だ。
同種のコイルスプリングでノンショックのT-34の動画を見ると結構ポーポジング起こしている。それでも思ったほどひどくないのは次項「クリスティーちゃんの秘密」で明らか?になるかもしれん。
ちなみに、ポーポジング対応ではなく塹壕通過のための方策としてだが、バースティン・モーターガン(バースティン機動砲)を紹介する。
オーストリア-ハンガリー軍の中尉ギュンター・バースティンが1911年に開発したとされる「戦車の様なもの」だ。
④日本の10式戦車は油圧回路によって連成懸架された(後略)
10式戦車は②で記述したように「連成懸架」ではなく「独立懸架」である。
走行系と姿勢制御系の油圧回路は別系統なのだ。
当然のことながら、別系統なので走りながらの姿勢制御は出来ない。というか、してはならない。姿勢制御系で走行すると油圧配管が破裂するためだ。
これは教えられないが、低速走行による姿勢制御を上級操縦手は行う。
履帯外れに効果的なのだが、秘密だ。
他にもあるが、まあ、いいや。
さて、他に以下の資料を購入した。
八九式中戦車写真集
著:吉川和篤
定価 2315円(税抜)
写真が奇麗だ。
国元戦車塾第14号M11/39
著:国本康文
定価 1000円+税
簡単なイタリア軍戦車の開発とイギリス軍が鹵獲したM.11/39戦車の調査報告
サスペンションに続く(予定の)ステアリングシステム(操向装置)資料として購入
戦車に注目せよ グデーリアン著作集 |
著 | 大木毅 編訳・解説 |
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定価 5500円+税
ご存知ハインツ・ぐでーリアンの著作集
表題の「戦車に注目せよ!」原題Achtung-Panzer!(1937)の他、以下を掲載している。
・「機械化」機械化概観戦車部隊と他兵科の協同(1937)
・快速部隊の今昔(1925)
・近代戦に於けるモーターと馬(1940)
・.西欧は防衛し得るか?(1950)
・そうはいかない!西ドイツの姿勢に関する論考(1951)
厚さ5cmほどある分厚い本だ。
戦車と戦車戦
著 島田豊作ほか
定価 900円+税
雑誌「丸」に掲載された元戦車関係者達の体験記だ。
日本人なら購入をお勧めする。
戦車のサスペンション(その12)ホルストマン式サスペンション
■ホルストマン式サスペンション
suspension type HORSTMANN
さて、先回「種類」として紹介した記述について詳細を説明しよう。
記載例①で下記に示した3つの記述だ
・ Horstmann Type (ホルストマン式)
・ Christie Type (クリスティー式)
・ "Slow Motion" Type (スローモーション式)
これらは代表的なイギリス戦車のサスペンションタイプとして記述される。
分類としては「人名若しくは会社名」となるのだ。
「ホルストマン(Horstmann)」は開発者名であり、会社名でもある。
厳密には「Horstmann」が人名で「Horstman」が会社名だ。
カタカナで書くとどちらも一緒だからどーでもよい。
「ホーストマン」表記もあるし、発音的には「ハーストメン」となろうが、戦車関連では一般的な「ホルストマン」として表記する。
このホルストマンはイギリスの技術者だ。本名を「Sidney Adolph Horstmann:シドニー・アドルフ・ホルストマン」という。父親はドイツの時計職人だった。
ホルストマンはは1913年に自動車会社「Horstman Cars」を設立した。現在ではHorstman Defense Systems(ホルストマン防衛装備)として存在する。
戦後イギリス第2世代主力戦車チーフテンが有名であるため、広義ではチーフテンが採用しているような水平コイルスプリング2輪ボギータイプをホルストマンサスペンションと呼ぶが、チャレンジャー戦車に採用されたサスペンションは独立懸架式の油気圧懸架方式であり製品名を「Hydrogas®:ハイドロガス」という。
自衛隊でも16式機動戦闘車がホルストマン社の油気圧懸架装置を採用している。製品名は「Hydrostrut®:ハイドロストラット」だ。
一般的に「ホルストマン・サスペンション」と呼ばれる懸架方式は、懸架台(suspension or bogie bracket)に独立した2つのスイングアームに水平コイルスプリングを使用する2輪ボギー構造である。
基本的なホルストマンタイプ
実装例①
ホルストマン・コイルスプリング・サスペンション、ツーペアタイプ
フランスのルノーR35戦車のボックスボギー
構造はアームが同軸にないだけでホルストマンと同じである。
バネがゴムばねと言う違いだけ
実装例②
ホルストマン・コイルスプリング・サスペンション、フォーペアタイプ
ビッカースMk.IV軽戦車やブレンガンキャリアでお馴染みのサスペンション
ツーペアタイプの改良版で、バネを左右に配し斜めに配置した。
センチュリオン戦車への装着例
水平コイルスプリング方式に戻った
前後のボギーにはショックアブソーバーが付いている。
ショックアブソーバーなしのボギー
ホイールが無い状態なので構造が分かる。
戦車のサスペンション(その11)種類
ティーガー戦車のサスペンションがクリスティー式とか馬鹿じゃねぇの?
と、盛り上がってもらったと思う。
あくまでこれは、「走行方式」という分類上の話である。
では、サスペンションにはどのような種類があるのか各書籍による記述を見てみたい。
記載例①
<出典:BRITISH AND AMERICAN TANKS OF WORLD WAR TWO
The complete illustrated history of British, American and Commonwealth tanks 1939-1945>
・ Horstmann Type (ホルストマン式)
・ Horstmann coil-spring
・ "two pair" spring bogies
・ "four pair" bogies
・ Modified Horstmann
・ Christie Type (クリスティー式)
・ Improved Christie (クリスティー改)
・ Improved Christie with return rollers (上部転輪付きクリスティー改)
・ "Slow Motion" Type (スローモーション式)
・ "Slow motion" with 3-wheel bogies
・ Triple-wheel bogies
・ Sprung bogies
・ Box bogie and leaf spring
・ Box bogie ("Japanese Type")
・ Bell crank ("Japanese Type")
・ Sprung bogies
・ Independently sprung bogie
・ rigid rollers
・ Vertical volute
・ Vertical volute springs
・ Vertical volute and trailing idler
・ HVSS
・ Torsion bar
記載例②
<出典:歴史群像アーカイブVol.16 WWII戦車大研究>
・ 独立懸架式
・ ボギー式
・ ダブルボギー式
・ コイル・スプリング・サスペンション
・ リーフ・スプリング・サスペンション
・ ボリュート・スプリングサスペンション
・ トーションバー・サスペンション
記載例③
<出典:歴軍[図解]マスター 戦車>
・ シーソー式
・ コイルスプリング(弦巻バネ)式
・ ロッカー・アーム式
・ リーフ・スプリング(板バネ)式
・ ロッカー・アーム式(垂直渦巻スプリング付き)
・ トーションバー(捩れ棒バネ)式
・ 油気圧式
この様に多数の名称がある。
同じものなのに書き方が違っていたりするので戦車サスペンション研究家が頭を悩ませるわけである。