戦車のサスペンション(その7)ボギーの謎(日本軍編)
さて、戦車先進国とも言えた我が帝国日本陸軍はどうだったのだろう?
最初にイギリス製のMkIV(マークフォー)重戦車を輸入、次いで日本戦車道連盟機関にも展示されているホイペットA型中戦車(Mk.A Whippet))を輸入する。
これ等の戦車は実際に使用された中古品だったようであり、塗装はイギリス軍のままだったのは戦車道連盟会館に展示してある通りだ。弾痕もあったと言われる。
いずれにせよどちらの戦車も固定転輪であり、ボギーの名称は輸入されなかったのであろう。
ホイペットと同時期にフランス製のルノーFT17軽戦車が輸入されている。
ルノーはリーフスプリング(板バネ)によるボギーを有している。
89式中戦車の懸架装置に似ているのでルノーを手本にしたのだろうか?
とりあえず、当時の呼称として「ボギー」とは言われていなかったようである。
ではどのように呼ばれていたのであろう。
97式中戦車の物であるが
サスペンション(Suspension System)の和訳である「懸架装置(けんかそうち)」であり、ボギーと称されているところは
「揺臂(ようひ)」
「曲臂(きょくひ)」
※「臂」は「肘(ひじ)」のことである。
【補足】
「臂」には他に「腕(うで)」の意味もあるようだ。
「揺れる肘」
「曲がった肘」
「揺れる腕」
「曲がった腕」
どこかで聞いた・・・
おお・・・、
見えて来たな。
次回、ボギーの謎(語源)
補足修正:2017.7.15
戦車のサスペンション(その6)ボギーの謎(混乱編)
さて
先回、ボギーの謎については別方向からもアプローチしていた。
まさか、あんなに明瞭な答えがあるとは思いもよらなかった。
しかし、当時の当事者たち(当時だけに)も用語の使用にかなり混乱したようで、他の教範等と見比べてみると非常に面白い。
M4A3中戦車のマニュアルである。
発行は1942年8月
M4A2よりも半年ほど前の物である。
SUSPENSION SYSTEM(懸架装置)の給油脂図である。
左側の赤線部に「Bogie Wheels」と記載されている。
良く見ると第3ボギーが前後逆に描かれている。
M4A4中戦車のマニュアルである。
発行は1943年1月
M4A2と同じ発行時だ。
M4A3と同様の給油脂図だが、第3ボギーがちゃんとした方向に訂正されている。ただし、転輪間隔が広い事が特徴のM4A4を示す図ではない。
この様に、M4A4の最大の外見的特徴は他の形式より車体が長いために各ボギー間が広くなっている。
図に反映されていないのは「面倒だから」いや、「効率を優先」したためだ。
ところがボギーの説明記述内にとんでもないことが書かれていた。
The bogies are the supporting and conveying unit, and are sometimes called trucks or suspensions.
あ・・・、あんだって?
【訳】
ボギーは、支持と運搬の機構であり、履帯またはサスペンションとも呼ぶ。
ボギー=サスペンション=履帯ってか。
困った・・・・・。
どこから「Tracks」が出てくるのか全くの謎である。
あえて言うならば「足回り(履帯込み)」=「ボギー」かな?
無理っす。
1944年のマニュアルでは遂に「Bogie:ボギー」の名称は消えた。
第23章
横置き筍バネサスペンション及び履帯(HVSS)
HVSSでは
「Bogie Wheel」が「Suspension Wheel」
第24章
縦置き筍バネサスペンション(VVSS)及び履帯
VVSSでは
「Bogie Wheel」が「Volute Spring Suspension Wheel」
と何とも投げやりな名称に変化している。
きっと誰も使わなかったんだろうな。
ってゆーか
横置きサス(HVSS)だって「Volute Spring Suspension」だよな。
縦置き(Vertical)と筍ばね「Volute Spring」を勘違いしたのだろうか?
豪華になった給油脂図は(Bogie Wheel) のままだ
転輪を持ち上げる工具は
「BOGIE WHEEL LIFT」のままだ。
しかし転輪、アーム、ブラケットの名称はすべて
「BOGIE」が「VOLUTE SUSPENSION」に代わっている。
?????
「VOLUTE SPRING SUSPENSION」じゃなかったか?
バネはどこ行ったんだ?
混乱の極みである。
おそらくだが、新型サスペンションが加わったのと、「サスペンション」に用語統一といった観点から、ボギーをサスペンションに変えたのだろうが、現場の戦車乗員などは普通に「ボギー」と呼んでいたのだろう。
経験上からも断言できる。
次回、ボギーの謎(日本軍編)
戦車のサスペンション(その5)ボギーの謎(アメリカ編)
いよいよ「ボギーの謎」も佳境である。
今回はサスペンションンの中でも今一つはっきりしなかった「ボギーとは?」の答えが分かるきっかけとなった米陸軍の教範を紹介する。
そもそもの疑問は「戦車のサスペンション(その4)ボギーの謎」で説明したボギーとM4中戦車やドイツの4号戦車のボギーって構造が違うけど何故ボギーと言うのだろうという疑問が沸いたためだ。
そこで、最も手に入るであろう米陸軍マニュアルに答えを求めたわけだ。
一般的に知られる米陸軍のマニュアルには「FM」と「TM」がある。
「FM」は「Feld Manual(フィールドマニュアル):野外教範」
「TM」は「Tecnical Manual(テクニカルマニュアル):技術教範」
わが国でFMに相当するものは各種「教範」であり、TMに相当するものは「MO:整備実施規定」になるだろう。
最初に手に入れたのは1943年1月発行
TM 9-731B MEDIUM TANK M4A2
「TM 9-731」の番号の後に「B」が付くので武器隊用教範であろう。
写真説明は
Frontispiece- 口絵
Medium Tank M4A2, with Rubber Tracks and First Type Suspensions
【訳】M4A2中戦車、ゴム履帯、初期型懸架装置付き
Figre2- 図2
Medium Tank M4A2, with Steel Tracks and second Type Suspensions
【訳】M4A2中戦車、鉄履帯、後継型懸架装置付き
ちなみに和訳だが、
Rubber Tracks(ラバートラック):ゴム履帯
Steel Tracks(スチールトラック):鉄履帯
※「Steel」の和訳は「鋼(こう)」なのだが、慣例により「鉄」と訳した。
First Type (ファーストタイプ)を「初期型」と訳したので
Second Type(セカンドタイプ)は「後継型」と訳した。
しかし、サスペンション(Suspensions)とは記述してあるが、ボギー(Bogie)の記述が無い。ボギーは何処に行った?
とりあえず、目次をチェック
赤枠内には
XX: Suspentions and Tracks
第20章:履帯懸架装置
ここだなp(^-^)q
第20章を開くと
ついに「Bogies」の文字が!!
そして参照ページの図を見てみたのだが・・・・
赤枠で囲ったところに
Figure113-Detail of Bogie Wheel
(図113-ボギー転輪の詳細)
と書かれてるだけで、どの図を見ても「BOGIE」の文字が無いのだ。
悶々してもう一度、履帯懸架装置の目次を見る。
!?(T▽T;)
答えが書いてあった。
黄枠に答えが書いてある。
a. Description and oparation.
「a. 説明と操作」
Six suspentions, or bogies,
「6個のサスペンション又はボギー」
ヾ(@°▽°@)ノ
サスペンション=ボギー
ところが、さらに調べていくと当時の米陸軍の混乱が分かってくるのである。
次回、ボギーの謎(混乱編)