「お邪魔しまーす。」

風丘は、仁絵たちにとって最も最悪なタイミングで現れる。
今回もご多分に漏れずで、仁絵と夜須斗は思わず身じろいだ。

「か、風丘…なんだよ、こんなとこに…。」

仁絵が何とか口を開くと、風丘はにべもなく問い返してきた。

「さぁ、どうしてだろうね? 2人は何となく分かるんじゃない?」

「え…」「いや…」

嫌な予感はするが、風丘がどこまでどう知っているか読めず、リアクションできずに固まる仁絵と夜須斗。
そんな2人に、日室が苦笑いしつつも何も言わない様子なのを見て取った呉羽は頭を抱えた。

「葉月。お前どうしてこうややこしいタイミングで…勝輝、お前なんか繋いでただろ。」

呉羽に睨まれた須王はまたホールドアップ。

「知らないッスよ。つか、仁絵と夜須斗がいること俺知らなかったっスよね?」

呉羽と須王がやんややんや言っていると、風丘が2人の間に割って入り、呉羽を見つめて言った。

「來流センパイ。俺のかわいい教え子にろくでもない入れ知恵するのは止めてほしいんですけど。」

「…ナンノコトデスカ」

しらばっくれる呉羽に、風丘はいきなり話題を変えた。

「…ついさっきうちの学校にパトロールついでに警察の人の訪問があったんですよ。
連休中にうちの生徒を補導したのでその報告ですって。」

その瞬間仁絵と夜須斗は終わりを悟ったが、風丘はまだ2人ではなく呉羽を見ていた。

「俺には知ったこっちゃねーよ。」

「補導の理由は夜7時過ぎに16歳未満の子のみでのゲーセン利用。
ずいぶん細かい理由での補導だなと思って報告してくれた…勝輝の部下の人ね。兵藤さんだっけ。
その人に言ったんですよ。

『こう言っちゃ何ですけど珍しいですね、この内容で補導でしかも学校にまで報告なんて』って。
そしたら、補導担当したのが尾田だって教えてくれたから。」

「それで尾田のジジイだって言う兵藤も兵藤だけど、葉月も呼び捨てかい。」

須王のツッコミに風丘はまぁまぁと笑う。

「『尾田さんはちょっと融通が利かなくて。

この報告も尾田さんから念押しされていたものですから一応。』って言ってたよ。
で、まぁ、俺もあんまり好きじゃないけど、多少知ってはいるから。
世間話的に俺が学生時代から補導とかで回ってましたー、ご健在なんですねー、

今日はいらっしゃらないんですかーって言ったら、

『えぇ、まぁ今はちょっと所用で連休明けからしばらくは…それで自分が代わりに…』

ってごにょごにょ濁されちゃって。」

正直な奴…と、須王が苦笑いすると、まぁ確かにね、と風丘が続けた。

「で、適当な勘で突っ込んでみたわけ。

『ひょっとしてまたお酒で失敗しちゃって奥さん怒らせちゃったとかです?』って。
そしたら兵藤さん『なんで分かったんですか!? 

それで尾田さん休みでただでさえ人員少ないのに

須王さんまでなんだか分かりませんが

センパイに文句言ってくるだのなんだのでパトロール外しちゃって…』って。」

須王はあいつベラベラ喋って…と別ベクトルで呆れているが、仁絵たちの問題はそこではない。

「で、なんとなーく來流センパイの顔が浮かびまして。
来てみたら來流センパイの悪魔の所業大暴露が繰り広げられてたから

弥白センパイと一緒に聞き耳立ててました。」

「は!? 弥白、葉月といたのかよ!?」

突然の事実に呉羽が日室を見ると、日室はまぁな、とさしたることではないように言った。

「勝輝が中に入っていったのと入れ違いに来たからな。

頃合いを見計らって入るからと言われたから勝輝に呼ばれたときは俺だけ入った。」

「もっと早く言えよ! そしたらもっと上手く…」

「上手く?」

「あ、いや…」

風丘にすかさず詰められ口籠もる呉羽から、風丘はさっさと視線を外すと、

息を潜めていた仁絵と夜須斗に投げかけた。

「さて。來流センパイはなんで今更尾田をターゲットにしたんだろうねー?」

「…分かってるくせに。」

夜須斗が相変わらず性格悪、と呟くと、風丘はふーんと不敵に笑った。

「この状況でそういうこと言っちゃうか。

吉野は普段は頭良いのにこういうときびっくりするくらいお馬鹿さんになるよね。」

そう言うと、風丘は夜須斗の腕を掴むと、そのまま日室に話しかけた。

「弥白センパイ。買い取りするんで、適当な木べら使わせてもらえませんか。」

「…取ってくる。」

その言葉の意味を理解してしまった夜須斗は焦った。慌てて風丘の腕を振りほどく。

「は!? ちょ、ここではやだ!! こんな人が…っ」

「心配しなくても勝輝は空気読んで帰ってくれたよ。」

確かに須王はいつの間にかいなくなっていた。しかしそれだけが問題ではない。

「いや、須王だけじゃなくて…」

夜須斗が何となく悟られてしまっているような表情の呉羽に目を向けるが、風丘は首を振る。

「來流センパイ巻き込んだんだからそれはダメ。その結果弥白センパイにも面倒かけてるしね。」

「ぅ…」

「おい、ちょっと葉月…いくらなんでも…」

呉羽の制止も、風丘はあっさり却下して言った。

「來流センパイが思ってるようなのはしませんよ。俺『は』優しいので。」

「それはどういう意味だ葉月。…ほら。」

「フフ、こんないかにもな木べら持ってくるあたりですよ。」

「弥白…お前…」

日室が持ってきたのは、平たい部分が分厚めで柄が長く、

まさにこの用途にぴったりで威力を発揮しそうな木べらだった。
來流が信じられないと日室を見るが、当の日室は涼しい顔をしている。

「吉野は余計なことしないで補導だけだったら痛い思いしなくてすんだのにねぇ。」

「っ…それっ…」

木べらを見て顔を歪める夜須斗の顔の前で、

風丘は見せつけるように木べらを振って改めて夜須斗の腕を取った。

「報復なんてくだらないこと考えるからこんなことになるんだよ。

はい、じゃあこの椅子に手ついて。服は許してあげる。そのための木べらだからね。」

人前でのお仕置きは嫌だが、ここで往生際悪く抵抗したら、

お仕置きが重くなり、温情で許されたズボンをやっぱり下ろせと言われかねない。
流石に夜須斗だっていくら「こういう時はお馬鹿さん」と言われてもそこの判断能力はあった。
ノロノロと椅子に手をついて目をきつく瞑る。

「5回ね。姿勢崩したらノーカウント。」

「っ…」

「お返事は? それとも姿勢崩したらやり直しのがいい?」

「いや、違う、分かった、分かりましたっ」

慌てて返事をすると、はい、よろしい、と風丘の声が聞こえ、続いて衝撃がやってきた。

バシィィィンッ

「いっ…!?」

服の上からとは思えない痛みに思わず瞑っていた目を見開く。
しかし、そんな夜須斗の驚きなど知ったことないと続けて連続で衝撃が襲ってきた。

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ 

「いったぁぁっ ゃっ、ちょっ…いったぁぁっ」

お尻の下の方を狙われた連打に、思わず腕がくずおれる。
風丘はすかさず持っていた木べらでパシパシと軽くはたいて夜須斗を急かした。

「はい、4発目、腕が折れたからやり直しー」

「待ってちょっと痛いっ…」

軽くはたいているだけとはいえ、道具だしそれなりに痛い。

というか、そもそものお仕置きだって威力が違う気がする。
夜須斗が呻くと、風丘は当たり前でしょ、と言い放つ。

「いつまでも中学生の時とおんなじ様なお仕置きじゃ済みません。

ほら、早く戻らないと追加しちゃうよー?」

さーん、にーぃ、と勝手にカウントダウンを始める風丘に、

夜須斗は戻るから、と慌てて腕を伸ばして立ち上がった。

「はい、よくできました。」

バシィィィィンッ バシィィィィンッ

「いってぇぇぇっ」

二発は更に威力を上げてお尻の左右。

クリティカルヒットし、夜須斗は結局声を我慢することができなかった。
またすぐに崩れ落ちた夜須斗の目線に合わせて風丘がしゃがみ、夜須斗の顔を覗き込んだ。

「『もう報復なんて馬鹿なことは二度としないと誓います。ごめんなさい。』」

「…え?」

「はい、復唱。」

「そんなのっ…あんた5回って…」

「お尻を叩くのはね。お仕置きがそれだけなんて言ってない。」

それはそうなのだが。

ためらっている夜須斗に、風丘はやっぱりお馬鹿さんだねぇ、と言うと、

傍らのテーブルに木べらを置いて歩み寄った。
夜須斗の背後に回り、片腕を回して羽交い締めのようにして軽く拘束すると、
痛めつけられたばかりの夜須斗のお尻にもう片方の手を伸ばした。そして。

ギュゥゥゥッ

「!? ちょ、風丘痛い痛い、待って無理っ」

思いっきり抓ってきた。夜須斗が抵抗しても、風丘は全く離す気配がない。

「復唱できたら離してあげる。はい、とっとと言う!」

「痛いって! 言うから離してっ…」

「ダーメ。このまま言いなさい。」

叩かれるのと違って全く途切れることのない痛み。

慣れない痛みに耐えきれず、夜須斗にしては瞬殺と言えるくらいあっさり陥落した。

「も、もう報復なんてっ…馬鹿なことしない、二度としない、誓う、誓いますっ…

あーっ 痛いってば!!」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい!!」

「はい、OK~」

「っ…痛すぎ…っ」

ようやく解放された夜須斗は必死すぎたのかぜーぜーと肩で息をしている。
もう周りの目とかそれどころではなかったが、
仁絵はもちろん呉羽も好奇の目どころではなく風丘に対してドン引きの目だった。

「葉月ヤバ…」

「じゃあ來流センパイ。夜須斗君はこれで手打ちってことで。」

「あ、いや、あぁ…」

そもそも呉羽は別に2人のことについてなんとも思っていないのだが、

風丘の雰囲気に気圧され、とりあえず頷いた。

「さて、仁絵君は」

「っ」

名前を呼ばれ、嫌な予感がして肩を震わせる仁絵。
ここ最近、お仕置きされる時、

仁絵に関しては名字呼びだろうが名前呼びだろうがあまり関係なくなってきた。

学校関係でお仕置きされる時以外はわりと名前呼びのままだ。

「お家のルール破りもあるからここじゃお仕置き終われないけど。

とりあえず報復企てた分は夜須斗君と同じお仕置きね。」

さらっと家でもお仕置き宣言をかまされ、仁絵の心はずーんと暗くなった。
木べらでさっきまで夜須斗の処刑台だった椅子を指し示され、仁絵も足取り重くそこへ向かう。
四六時中風丘と生活しているのだ。仁絵本人に自覚はなくても、しっかり躾けられていた。
ゆっくりながらも手をついて、姿勢を取る。

「はい、それじゃあ5発ね。」

バシィィィンッ

「う゛っ…」

仁絵にとっても思っていたより強い衝撃で、唇を強く噛んで何とか耐える。
人前でのお仕置きで徹底的に耐えるところは、全く変わっていなかった。

「…唇、あんまり強く噛んだら血が出ちゃうからダーメ。」

風丘はすぐに察知して、ポケットからハンカチを出して仁絵の口元に当てた。
いつもより心なしか耐え方が必死なのは、呉羽たちの前だからか痛みが強いからか。
仁絵は差し出されたハンカチを咥えてギュッと噛みしめた。

バシィィィンッ バシィィィンッ バシィィンッ バシィィィンッ

「ぅっ んっ…ぅぅっ」

「さーいご。」

バッシィィィィンッ

「んーーーーっ…っ…ハァッ…ハァッ…」

「すっげぇ仁絵…」

体勢を崩すことなくうめき声で耐えきった仁絵に、呉羽が感嘆の声を漏らす。
仁絵はゆっくり起き上がると、風丘の方に伏し目がちで向き直った。

「はい、どうぞ。」

「っ…あとで…家で言うからっ…」

お仕置きは耐えられても、何故かこういうことを言わされるのはダメらしく抵抗する仁絵に、風丘はため息をつく。

「ダメに決まってるでしょ。はい、時間切れ。」

「あっ…ちょっ…う゛っ…」

「唇噛んだらお尻ペンペンからやり直しするからね。」

「なっ…」

サッと夜須斗と同じ体勢でお尻を抓られる。
ハンカチは仁絵の手に持たれたままで、咄嗟にまた唇を噛もうとした仁絵だったが先に風丘が牽制する。

「というか、誓いますって言ってもらうんだから唇噛んだら言えないでしょ。」

「んー…ってぇ…」

「ひーとーえー?」

まだ口籠もる仁絵に、風丘が少し声を低くして呼びかける。
これは最後通告だ。仁絵もそれを感じ取って、渋々口を開いた。

「っ…報復なんて…っことは…ばかなことはっ…二度としない、誓うっ…ごっ…ごめんなさいっ…」

「はーい、OK。」

「っ…馬鹿力っ…」

「はいはい、2人ともよく頑張りました。」

風丘は仁絵を解放すると、仁絵と夜須斗と続けざまに頭をポンポンと軽く叩いて労った。

恥ずかしげに俯いて佇む2人を尻目に傍らに置いていた木べらを手に取ると、

傍観していた日室に話しかける。

「弥白センパイ、ありがとうございました。これ、買い取りは…」

「いい。俺が引き取る。仁絵が勘弁してくれって顔をしてるしな。」

「いや、そんなっ…」

家に置かれることを想像していた仁絵は顔に出ていたかと赤面する。
そんな中、人知れず嫌そうな顔をしている人物が1人。

「さっさと捨てろよ、もう厨房じゃ使えねーだろ。」

「…分かりやすい奴だなお前は。」

「…」

「それじゃ仁絵。悪いが次は3日後だ。」

「…分かりました。」

「じゃ、2人とも帰るよー。お邪魔しましたー
あ、來流センパイ、うちの子たちが巻き込んですみませんでした。」

「あー…」

気まずそうに頭をかく呉羽だったが、風丘はそこにニコッと笑って言い放った。

「で・も! センパイ、絶対2人をダシにして自分の好き勝手やって楽しんでましたよね?
うちの子たち都合良く口実にしてろくでもない世界見せてくれちゃったことは許してませんから。
しっかり懲らしめられてくださいね♪」

「っ…」

「お、おい風丘っ」
「ほんと怖すぎ…」

颯爽と店を立ち去る風丘の後を他人事ながら背筋の凍った夜須斗と仁絵が慌てて追う。
 

3人が出て行ったすぐ後に、立ち尽くす呉羽を置いて

日室は店の出入口に「close」の札をかけたのだった。
 

 

 

 

 

 

 

バチィィンッ

「いったぁっ」

夜須斗と別れた帰宅後。
荷物を置いて早々、仁絵は風丘の膝に招待された。
あっさりズボンも下着を取り払われ、

ほのかに赤みを帯びたお尻はあっという間に新しい手形で赤く染められた。

仁絵もさっきと打って変わって最初から大騒ぎ。
時間が空いた分更に痛みが増した気がする。

バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ

「いってぇっ ああ゛っ…もーいい、もー痛いからっ」

「痛くしてるの。約束破ってずーっと黙ってる悪い子はまだ終われません。」

バッチィィィンッ

「ぎゃぁっ だってっ…ケンカとかじゃねーじゃん!」

バッチィィィンッ

「んぁぁっ」

「『補導されたら正直に言う』がルールでしょ。ケンカだけなんて言ってません。」

バッチィィィンッ

「いぃぃっ…ゲーセン行ってただけっ…」

「別に補導された理由では全く怒ってないよ。これは約束破りのお仕置き。」

バチィンッ バチィンッ バチィンッ バチィンッ

「あーっ 痛い痛い痛いっ もういらないっもう無理っ」

「ほんとにー? こんなことでお仕置きしなくたってって思ってるでしょ。」

バチィィィンッ

「いーいったぃっ! 約束守るからっ…」

「是非そうしてほしいねー はい、そしたら何て言うの?」

「ぅ、さっきも言ったじゃん…」

バッチィィィィンッ

「あ゛あ゛っ!?」

「ふーん、そう。そういうこと言っちゃう反省の見えない子はまだしばらく終われないねー。
素直に言えたら仕上げの3発で終わりだったのに残念でしたー。物差しでも使おうか。」

「っやだ待って、言う、言うからっ…」

バチィィィィンッ

「あぁぁっ 約束破ってごっ…ごめんなさいっ」

「もー遅い。仕上げは物差しにします。」

「待って、言った、言ったのにっ」

「そんな顔してもお仕置きはなくならないよ。もうしばらくは反省の時間。」

バチィンッ バチィンッ バチィンッ バチィンッ

「あ゛あ゛っ もっ…いぃぃっ…もういらないってばぁぁっ」

この後しばらく風丘の平手は止まらず、お尻が真っ赤になった頃に仕上げの物差しが登場し、
結局泣きながらごめんなさいを連呼することになった仁絵なのだった。
 

大学進学を機に上京した智穂美(ちほみ)は、

ゴールデンウィークで一度地元に戻っていた。
初めての一人暮らしは楽しさもあるが慣れないことも多く、

約1ヶ月ぶりとはいえ地元の空気は心安らかにさせてくれた。

 

 

東京とは比べものにならないくらいこぢんまりしている駅前で買い物を済ませ、

智穂美は自宅方面のバスをバス停で待っていた。
スマホで適当なネットニュースを読み流していた時。
目の前に立った青年が突然話しかけてきた。

「ちほちゃん?」

「え…」

「ちほちゃんじゃん。久しぶり。全然変わんないな。」

「えっと…」

パーマをかけた明るい茶髪はボブくらい。

180cmはあろう長身のスラッとした体躯は、田舎町に似つかわしくないおしゃれな洋服で包まれている。
覚えがない智穂美が首をかしげると、青年はムッとして言った。

「何だよ忘れちゃったの。小学校の時はあんなに構ってくれたのに。」

「小学校…そ、奏史(そうし)くん!?」

「あー、よかった、覚えててくれた。」

小学校の時、同じクラスだった男の子。
成績優秀だった彼は中学受験をして私立中学に進学してしまい、それっきりになっていた。
当たり前だが髪型も服装も全く変わって、背も当時からずっと伸びていて、

5年以上ぶりの再会ではすぐには分からなかった。

「見た目が全然違っちゃって…分かんなかったよ…」

智穂美の中で奏史は色が白くてひょろっと細く、華奢で黒髪のお坊ちゃんみたいな男の子。
当時生育が早かった智穂美に圧倒されているような気の弱い優しい子だった。
まさかこんな今時の都会モデル風イケメンになるなんて…と感嘆していると、奏史に吹き出された。

「いやそりゃそうでしょ。ちほちゃんが変わらなすぎ。」

「だよねぇ…自覚あるんだけど…」

小学生時代からほとんど変わらないミディアムボブの黒髪を触ると、奏史は笑った。

「別に悪い意味じゃなくてだよ。…まだこっちに残ってるの?」

「ううん。大学は東京だよ。今はゴールデンウィークだから帰省中。奏史君は?」

「俺も東京。引っ越し費用浮かすのにしばらく新幹線通学だけど、来週には上京する予定。」

「へー、そうなんだ! なんかびっくりしちゃった、久々で…」

少し恥ずかしそうに目線を斜め下に逸らす智穂美は、奏史にちほちゃん、と呼ばれて顔を上げた。

「…荷物持つからさ。よかったらちょっと一緒に歩かない?」

「…? いいけど…」
 

 

 

駅から智穂美の家までは歩いて15分前後。
のんびり歩きながら、小学校卒業後からのそれぞれの話をする。
そして二人の進学先の大学は同じ区内、一人暮らし先も電車で一駅という偶然にひとしきり驚き合った後だった。

「ねぇ、ちほちゃん。俺さ、あの時の返事ちゃんとしてないよね。」

「え゛っ…やだ、忘れてると思ってた。恥ずかしいから蒸し返さないでよ…
それにあれは返事も何も…」

智穂美にとって、奏史は実は初恋の人だった。
奏史が思い出したように語るのは、恐らく卒業前の6年生のバレンタインデーの時のこと。
祖母にほとんど手伝ってもらった手作りチョコレートを渡しながら勢いで告白した。
といっても、小学生当時。

「付き合う」なんて概念のなかった智穂美は「好き」と伝えただけのつもりだったのだ。

「あの後あからさまに俺のこと避けるし。」

「避けてなんか…」

「嘘。ホワイトデーの日なんてずっと他の女子と一緒にいてさ。
当時の俺がそんなところに突入していけないこと知ってたくせに。

ちほちゃん、あの頃意地悪だったからなぁ」

「もう、からかうのやめてってば。あの頃の私の性格は黒歴史だから…」

小学生時代の智穂美は気が強く、体の成長も早かったため、

口でも力でも男子を圧倒するような存在だった。
奏史への接し方も、初恋の子に対する女の子の接し方というより、

好きな子相手に意地悪をする男子のような振る舞いに近かった覚えがある。
今はもう大人しい控えめタイプに変貌した分、

智穂美にとって昔のことを振り返られるのは恥ずかしくてしょうがなかった。
顔を赤くする智穂美を見て奏史は、ちほちゃん、と呼びかけた。

「俺も好きだったよ。ちほちゃんのこと。」

「え…」

「言わせてもらえなかったのだいぶ引きずってたくらい。おかげで卒業式とかあんまり記憶ないし。」

「ご、ごめんね…?」

「でさ。提案なんだけど。」

奏史が突然立ち止まって、真剣なまなざしで智穂美を見つめた。

「俺と付き合ってよ。」

衝撃の提案に智穂美は目を丸くして固まる。

その意味を理解して、慌てて首を振った。

「…は? いやいやいや、私たち6年ぶりの再会だよ?

私だってあの時とは全然変わってるし、奏史君だって…」

「俺はバス停でちほちゃん見て、好きだった気持ち蘇ったけどな。」

「う…」

実は奏史と分かってときめいたのは智穂美も同じだった。
かといって、それで渡りに船とあっさりこの提案にのるのも違う気がした。

「いや、ほら、一時の気の迷いってことも…」

「ひっど。わりと本気なんだけど?」

「そう言われても…」

食い下がる智穂美に、奏史はムッとすると、

少し思案顔になり、何を思いついたかニヤッと笑って言ってきた。

「…じゃあ、嫌なら『無理です。好きじゃないので付き合えません。』って言ってくれたら諦めるよ。」

「そ、そんなこと…」

そんな面と向かって断り文句を初恋相手(しかもちょっとときめいた)に投げつけるなんてできない。
分かっていて言っているのだろう。意地悪だ。

(なんか…こんなSキャラだったっけ…?)

奏史のキャラ変ぶりに翻弄され、智穂美はついに陥落した。

「うー…分かった。お願いします。

でも私、人と付き合ったこととかないから、ほんとに分からないから、あの、お手柔らかに…」

しどろもどろの智穂美に、奏史はありがとう、と微笑んだ。

「もちろん。6年ぶりの再会だからね。ゆっくりやってこう。」

この時の智穂美は、まさか奏史とあんな関係になるなんて思ってもいなかっただろう。
2人の関係が再び始まった…そんな大学1年、新生活の春だった。
 

時はゴールデンウィーク真っ最中。
今年は休日の並びが良く、カレンダー通りの学生も5連休ある。
そんな喜ばしい連休初日の夜。
 

夜須斗と仁絵は夜須斗の部屋にいた。

「あー! マジでムカつく、ちょっとゲーセン時間過ぎたからって!」

「いきなり補導することねーよな、夜7時過ぎだぜ? 

言いたくないけど須王だったら口頭注意で終わりだったな。」

「誕生日前だからって中学生と同じ扱いとか意味分かんないんだけど。」

「まぁ…当たった奴が悪かったよなぁ…

あのハゲジジイ、滅多に見ないけど細かいことネチネチネチネチうるさい奴だから。」

二人が機嫌を損ねている理由。

それは経った今ゲーセンにいたところを少年課の刑事に補導され、引き渡されてきたところだったからだ。
補導といっても夜7時過ぎ。決して遅い時間ではないのだが、

市の条例上、誕生日の来ていない二人はまだ15歳。規定の時間は夜6時なのだ。
見つかった刑事が須王やその周りの若い警察官たちであれば即刻補導などあり得ないケースだが、
今回捕まったのは年配の意地の悪い刑事で、融通が利かなかった。
喧嘩等で補導歴のある二人はすぐに年齢を調べられ、即補導されてしまったのだった。

「それもこれも須王まで風丘たちと連れだって旅行行ったりするからじゃん…。」

「でもまぁ、そのおかげで風丘にこの補導はバレてないのはラッキーだな。

夜須斗の母さんには悪いことしたけど。」

今回いつもの須王ではなく別の刑事が見回っていたのは、

須王が休暇をとって風丘や雲居たちと同窓旅行に出掛けているからだった。
ゴールデンウィーク中なので直で親への連絡となり、

風丘が旅行中ということを夜須斗が伝えると、夜須斗の母が機転を利かせて

仁絵も親戚の子だから、と合わせて引き取ってきてくれたのだった。

「全てじゃないにしろある程度事情聞いてるらしいしね。

風丘引き取り人って説明するの面倒だろうし、どうせ来られないし。
じゃあ実家ってなるとよけいめんどくなること目に見えてたしな。
結果的に俺も仁絵も風丘に補導のこと誤魔化せてラッキーだし。」

今回の場合、保護者に連絡がついているのと、喧嘩等と違って大した違反ではないので

警察から学校に改めて連絡がいくことはないだろう。

「だな。…まぁ、補導されたら報告するってルールあるけど。」

「…何それ家ルール?」

顔をしかめる夜須斗に、仁絵が肩をすくめる。

「ま、門限とかはねーけどな。…でも想定してるの喧嘩とかだろ。」

「今回のことは?」

「誰が律儀に言うと思ってんの。」

「フフッ、だろーね。」

即答の仁絵に夜須斗が笑う。

「…ねぇ、今日のハゲジジイに一矢報いたくない? 俺結構ムカついてるんだけど。」

夜須斗が仁絵にそう投げかけると、仁絵も頷く。

「そりゃ俺だって、ちょっと前だったらその場でぶん殴ってたぐらいムカついてる。」

流石にそうなったら軽い補導じゃ済まないから押さえ込んだけど、と仁絵はギュッと拳を握った。
この1,2年で大分瞬間的にキレることは減ってきたと感じている。
だが、あくまで押さえ込んでいるだけで内心キレているのは変わらない。

「仁絵あいつの弱点なんか知らないの? 顔知ってたじゃん。」

 

夜須斗に問われるも、仁絵の反応は芳しくない。

「…興味ねー奴の情報なんか覚えてねーからなぁ…。
確かあのジジイ、須王がこのエリアの非行少年メイン担当になる前の中心の奴だったとかなんとかは

須王が言ってたくらい。あと上の名字。尾田(おだ)。」

「手っ取り早いのは須王に聞くことだろうけど教えてくれるわけないし…」

「いや、須王もそんな関わりたくなさげだったから…あ。」

 

突然仁絵が何かを思いついたようだった。夜須斗を見て口角を上げる。

「何?」

「可能性1つあったわ。」





翌日。
仁絵は夜須斗を連れて繁華街を歩いていた。

夜は賑わう辺りだが、昼間はそこまで人通りも多くなく閑静だ。
どこに行くの、と尋ねる夜須斗に着いてから説明する、とだけ言った仁絵はズンズンと先導し、ある建物の前で立ち止まった。

「着いた。」

その建物はモノトーン調でとてもスタイリッシュだが、気になるのはその看板。

「何ここ…パティスリーメイプルって…」

看板の文字を読み上げて首をかしげる夜須斗に、仁絵が答える。

「俺のバイト先。」

仁絵の衝撃の告白に、夜須斗は一瞬固まり、言葉の意味を咀嚼すると、理解した途端吹き出した。

「はぁっ!? え、ちょっと待ってバイト新学期入ってすぐ始めたとは聞いたけどさ。
似合わないにもほどがあるんだけど…なんで?」

「…あとで説明する。」

そう言ってドアを開ける仁絵に、夜須斗は慌てて後に続いた。



「はよーっす。店長ー」

仁絵が店内に入って声をかけると、おー、と奥から男性の声がした。

「どした仁絵。今日出勤じゃねーじゃん。あれ?オトモダチ? カミングアウト早くね?
早くても連休明けつったじゃんよ。」

「え…」

男性を見て夜須斗は目を見張った。
店長、と呼ばれて奥から出てきた男性は、ケーキ屋の店長には全く見えない、仁絵と同じ金髪で、
仁絵と同じくらい同性から見ても美しい男性だった。

仁絵の容姿はもう見慣れてしまったからなんとも思わないが、

初めて会う人のこのような容姿はやはり衝撃的だ。

「ちょっと事情が変わったんだよ。少年課のハゲジジイ、尾田知ってんでしょ?」

仁絵がその名を口にした瞬間、男性はゲッと顔を歪めた。

「やめろよあのジジイの名前出すの。俺のこの世から消し去りたい人間ベスト10の一人だぜ?」

 

デスノート所有してたら高校時代に即書いてるわーと冗談めかして言う男性に、

仁絵はずいっと詰め寄った。

「俺らも昨日あいつに補導されたんだよ。ムカつくから報復したい。」

仁絵の告白に、男性の歪めた顔はニヤリと不敵な笑みに変わった。

「なーるほどね。何やらかした?」

「7時にゲーセンにいただけ。」

仁絵がそう言うと、男性は聞くなり爆笑した。

「アッハハハハハハ!! さすがジジイ、相変わらずキモい杓子定規なことやってんな、

そりゃ報復されても文句言えねぇわ。
オッケー、座れ。オトモダチ、名前は?」

男性は二人にイートインスペースの椅子を勧め、自分は対面にさっさと腰掛けた。

「吉野 夜須斗です。」

「夜須斗な。俺は呉羽 來流(くれは らいる)。よろしく。」

「どうも…。」

「風丘の高校時代一個上の先輩で、

1000万プレイヤーだったくせにさっさとホスト辞めて友達で黒服やってた奴と一緒にケーキ屋立ち上げた変わり者。
俺が金髪辞めたくなくてこの見た目のまんまでできるバイトないかって風丘に相談したら紹介されたのがここだった。
ちなみに高校時代はほぼ暴走族。だからあのジジイのこと知ってる。」

仁絵の簡潔な説明に、夜須斗はなるほどね…と独り言ちる。
かなり繁華街に近い、ケーキ屋にしては少々変わった場所にあるな、と思ったが、

彼の昔の客やコネクションらが来やすい立地なのだろう。

「…良かったらどうぞ。」

「ど、どうも。」

3人が話し始めると、奥からもう一人男性が出てきて、徐に3人分紅茶を出してくれた。
黒髪短髪で長身。呉羽ほどではないがこちらもかなり男前だ。

「こいつが俺のホスト時代の店の黒服…っていうか幼なじみの日室 弥白(ひむろ やしろ)。」

「ちなみにケーキとか作ってんのは全部弥白さん。店長…來流さんは接客専門。」

「さすがホスト…」

「弥白もジジイにお世話になったことあんだろー 一緒に聞けよー」

 

呉羽が日室の腕を引くと、日室はあっさり振りほどいてため息をつく。

「…俺は知らん。來流、ほどほどにしておけよ。」

そう言うと、紅茶を出し終えてキッチンに下がってしまった。

「相変わらずつれないねぇ。

…で、本題な。ジジイの弱点だけどそりゃやっぱり…鬼嫁の奥さんだな。」

「へー、結婚してんだ。」

「離婚してなきゃ今もそこが一番のウィークポイントだろうな。

で、もう一つ。あのジジイ、マジのキャバクラ好き。」

「…典型的じゃん。鬼嫁に疲れてキャバクラに癒しを求めるって。」

呆れる夜須斗に呉羽もだろー?と鼻で笑う。

 

「分かりやすい脳筋だからな。で、その奥さんが一番嫌がるのもキャバクラ通い。ってなわけで。」

「…だから?」

「お前らが直接手を下せないけど、ジジイの無様な姿見られるだろう方法ならある。ノるか?」

呉羽の不敵な笑みに、仁絵と夜須斗は顔を見合わせ、そして頷いた。

「よし…まぁ今回はお前らの代わりに俺が一肌脱いでやるよ。

俺も久々にあのジジイの顔を思い出したらムカついてきたしー」

そう言うと、來流は携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。

「おー、アカネ。ちょっとさー、お願いがあんだよね。あとでメッセージ見といて。
ん。それじゃ。
っと、これでよし。

あとは…そうだな。連休明けには良い報告できると思うから夜須斗連れてまた来いよ。仁絵出勤だろ?」

「うん。」

「成功報酬は1日タダ働きでよろしくー」

「ハイハイ。」

こうして軽いノリで報復作戦を始めた仁絵たちだったが、
夜の世界に生きていた大人の悪ふざけがどういうものか、二人はまだ分かっていなかったのだった。





約束の連休明け。
仁絵は夜須斗と連れだってまたパティスリーメイプルにいた。

「はよーっす。」
「どうもー」

「おー、来たな! なかなかいい絵が撮れたぜ!」

待ってましたとばかりに呉羽が二人を出迎えると、ノートパソコンをセッティングしたローテーブルに案内する。

「今ちょうど弥白が買い出し出てていないんだ。グッドタイミングだな。

あいつはこういうのあんまりいい顔しないから。」

仁絵と夜須斗がローテーブル前のソファに座ると、呉羽はすぐに再生ボタンを押した。
そこに映っていたのは、ものすごい剣幕で怒鳴りつけている女性と、
二人を有無を言わせず補導してきた時の姿とは似ても似つかない平身低頭で謝り続ける尾田だった。

「え、ヤバ…これ尾田…? ダッサ…」
「ってか奥さんガチギレじゃん…」

その映像は三分ほど続き、最後は尾田が泣きそうな声で奥さんに土下座して許しを乞うている場面で映像が切れた。

「どーよ、結構スカッとするだろ? あいつの偉そうな態度見たばっかりだと余計に。」

「あぁ…ってかこんなの誰がどうやって撮ったの?」

結構はっきり捉えられていた映像は盗撮っぽくもなく、

第三者がしっかりスマホか何かを構えて撮ったような映像だった。

「ジジイの行きつけキャバクラの黒服。
奥方が婦人会の旅行で夜遅くまで家を空けてるからジジイがこの日にキャバに来るって情報を仕入れたから
そこのキャバ嬢買収して頼んだんだよ。

深い時間まで粘らせてちょっと激しめに酔わせてアフターお持ち帰りされてくれってな。」

「え…」

過激な雰囲気を感じ取って若干引き気味の夜須斗に呉羽は笑う。

「冗談だよ。泥酔してどうしようもなかったからってことにして家に送らせた。
もちろん普通はないことだから店に根回しして黒服つけてな。
で、自宅には旅行から帰った奥方が待ち構えてるってわけ。」

「うわ、えげつな…」

「玄関まで付き添わせたのは黒服だけど、
それにしたってすぐに追い出されるだろうから怒鳴り声ボイレコで録れるぐらいでいいっつってたけどな。
奥方沸点低すぎてすぐ怒鳴り散らすし、ジジイは一気に酔い冷めて必死に謝ってて
二人とも黒服アウトオブ眼中だったらしいから映像も撮れました!って嬉々として送ってきた。」

 

こともなげに言ってのける呉羽に、仁絵と夜須斗は感心しつつもやっぱり少し引いてしまう。

「夜の世界こわ…まぁ、ジジイの土下座は見物だったけど。」
「だな。」

「ちゃんと秘密フォルダに複製込みで保管しとくから、入り用になったり見たくなったりしたらいつでも言えよー」

「あぁ。ありがと。」

「どーいたしまして。

カランカラン

…いらっしゃいま…お?」

ノートパソコンを閉じながら、扉が開く音に呉羽が目線を投げる前に声をかけたが、

その後顔を上げるとそこに立っていたのは予想外の人物だった。

「…げ」
「…うわ」

仁絵と夜須斗が顔をしかめるその人物は。

「勝輝。どーしたよ、勤務時間中だろ?」

二人と同じくらい顔をしかめている須王だった。
風丘の高校の先輩ということで、須王もまた呉羽とは顔見知りだった。

「來流さん。あんた今更尾田のジジイ何オモチャにしてるんスか…」

 

尾田の名前が出た瞬間、ある程度悟ったのか呉羽がニヤリと笑う。

「何だよ、勝輝人聞き悪いな。」

「あんたのおねだりに負けたって店のママさんがゲロったんだっつの。」

「事件でもねーのに職権乱用デスカー?」

 

茶化す呉羽に、須王は眉間の皺を深くして吐き捨てる。

「事件じゃなくても職務に支障出てんだよ。

尾田のジジイ明日から1週間の長期休暇、警察官が。普通あり得ないスからね!?」

あんなジジイでもいないと他の奴らの交代シフトに影響が出る、と須王が少々ピントのずれた怒り方をしている。

「何だよその長期休暇。鬼嫁のご機嫌取りか?」

「ご機嫌取りどころか家庭崩壊の危機だよ。離婚届突きつけられたらしいから。」

「「え」」

まさかの展開に息を潜めていた仁絵と夜須斗が声を漏らす。
須王はつーかなんでお前らいんの、と一瞬二人に目を向けたが、
呉羽が、仁絵今日バイトのシフトだから、と助け船を出し、

須王は仁絵のバイトのことは聞き及んでいたのか、ああそうか、とそれ以上追求せずにまた呉羽に向き直った。
当の呉羽は「離婚届」の言葉にも全く動揺せず、へー、そこまで言ったか、と笑う。

「結構なとこまでいってんじゃん。謝って許してくんなかったの。

泣きながら土下座してたって送った黒服から聞いたけど。」

映像のことは隠して呉羽が話を進めると、須王が白々しいと顔を歪める。

「一通り怒鳴られた後玄関先に放り出されて、締め出し食らって、

翌朝ようやく入れてもらったはいいものの、
脱いだスーツの内ポケットに嬢の熱ーいメッセージ添えられた名刺と前の晩のガバガバ飲んだ分の領収書。

で、おまけにYシャツの首元に口紅のキスマーク。
古典的な手だけどそれでもう奥さんプッツリいって

そのまま役所に直行して離婚届全部書いて

ジジイが昼休憩に家覗いたらもう離婚届以外もぬけの殻。」

「アッハハハ、傑作だな。やるなあの子。」

「笑い事じゃないでしょーよ、やっぱあんたがけしかけて…」

「俺は『普段よりちょっと多めに愛してやって』って言っただけ。」

全く悪びれない呉羽に、須王はため息をつくと、扉に向かって声をかけた。

「だーめだわこの人。」

「…そのようだな。」

 

その声に応じて扉から入ってきたのは日室。

彼の姿を認めた瞬間、呉羽は初めて分かりやすく動揺した。

「ゲッ弥白…勝輝お前っ」

 

呉羽が仕組んだな、と須王を睨むと、須王はホールドアップしてたまたまです、と答える。

「店向かう途中で会ったんスよ。で、道中あらすじ話したら

弥白先輩が自分がいないとこで來流さんがどういう態度とるか見てから決めるって。」

「や…しろ…」

 

呉羽が少し青ざめて日室に向き合うと、呉羽より10センチ近く長身の日室が見下ろして冷たく言う。

「お前は一体いくつ人の家庭を壊したら気が済むんだ。ほどほどにしておけと言ったはずだが。」

「…別に壊すつもりでやってねーし。ちょっとからかっただけだろ。」

 

説教が始まると悟り、呉羽が分かりやすく言い訳を始めると、日室はあっさり一刀両断した。

「結果的に崩壊寸前までいっているし、ジジイ本人以外にも影響が出てるだろう。
これは『ちょっと』とも『ほどほど』とも言わない。
それと、來流。」

「…何だよ。」

完全にふて腐れている呉羽に、日室は問うた。

「ママや嬢…それから情報を仕入れた…どうせアカネさんだろう。どうやって買収したんだ。」

 

日室の問いは呉羽にとってかなり都合が悪かったのか、口籠もってようやくボソッと小声が聞こえた。

「っ…ちょっと頼んだだけ…」

「嘘だな。彼女らは夜の世界の女だ。

いくらうだつの上がらないジジイとはいえ客を1人失うような悪ふざけに何のメリットもなく付き合うとは思えない。」

「…」

「言わないならアカネさんに直接聞くぞ。その代わり、ここまで手こずらせて、結果によっては覚悟しておけ。」

 

脅すように携帯をちらつかせた日室だが、呉羽も意地っ張りなのか口を割らなかった。

「勝手にすれば。」

「全くお前は…」

そっぽを向いた呉羽に日室はまたため息をつき、携帯を操作してどこかへかけると、スピーカーをオンにした。

[もしもーし。弥白。どーしたの、貴方がかけてくるなんて珍しい!]

スピーカーからは艶のある女性の声が聞こえてきて、シンとした店内に響いた。

「アカネさん。ちょっと聞きたいことがあって。…麗牙(れいが)のことで。」

[麗ちゃん? あぁ、弥白からも麗ちゃんにお礼伝えといてくれる? 

この前の夜すっごい盛り上がったのよー 弥白も来れれば良かったのに。]

「夜?」
「チッ…」

電話口のアカネの声に、呉羽が舌打ちをした。
それが聞こえたか聞こえていないのか、アカネは少しトーンを落として続けた。

[あらやだ、弥白知らなかったの? 

ちょっと麗ちゃんに野暮用頼まれてあげたお礼に、麗ちゃん私に一晩くれたのよ。
一緒に野暮用手伝ってあげたコがいるクラブで飲み明かしてアフターまでね。

引退したとはいえ1000万プレイヤー緋彩 麗牙(ひいろ れいが)が一晩エスコートしてくれたのよ、

最高の夜だったわー]

「分かりました。…ありがとうございます。」

[あら、もういいの? じゃあまたね、弥白。あと…麗ちゃんも。]

そう言って、アカネは何かを察したのかあっさり向こうから電話を切った。

「…アウトだな。來流。」

「…別に。」

 

日室が睨むと、呉羽心なしか顔色が更に青ざめたようだが、口は減らない。

「仁絵、悪いが明日と明後日のシフトは無しにしてくれ。」

「え?」

突然話を振られた仁絵が目を丸くすると、日室はにべもなく告げた。

「臨時休業だ。」

「なっ…店長は俺だぞ、勝手に決めるな!」

噛みつく呉羽を日室はあっさりとあしらう。

「商品を作るのは俺だ。俺が作らなければ店は開けられない。

それにお前はどうせ接客なんてできないさ。」

「やっ…」

「結果によっては覚悟しておけと言ったよな?」

「っ…」

苦悶の表情を浮かべる呉羽に、成り行きを見守っていた須王がニヤニヤ笑って言った。

「ごしゅーしょーサマ。來流センパイ。」

「勝輝てめぇっ」

呉羽が掴みかかろうとするのを須王はサラッと受け流す。

「ハイハイ、あんたケンカは俺より弱いでしょ。自殺行為はやめなって。
っていうか、何で突然思い出したようにジジイ標的にしたんスか。」

「「!」」
「そっ…れは…」

突然の核心を突く質問に、仁絵と夜須斗が息を呑む。
呉羽もどうしたものかと言葉を詰まらせ日室に目線を投げた。
ことのきっかけは日室もその時いたからなんとなく知っているはずだ。

しかし、日室は何もリアクションしてくれない。
言わないということはそれについては日室も言わなくていいという判断だろう、
日室が怒っているのはそもそもこのきっかけではないのだから。

「いや、なんとなく? 夢にジジイが出てきてイラッとしたからさ。」

「はぁ? あんた暴走族引退して何年経ってるんだよ。」

「いやそうは言ってもあのジジイの印象は強烈よ?何しろ…」

不審がる須王に呉羽がパワープレイで丸め込もうと奮闘している時だった。

「お邪魔しまーす。」

「「!」」

今度現れたのは、仁絵たちがいつもいつも今一番来て欲しくない、というタイミングで不思議と現れる、あの人物だった。
 

「いやー、入学式怠かったなー」

「ていうか入学式とかホームルームで自己紹介とか必要? 皆ほぼ同じメンツじゃん!」

新学期。
晴れて高校生活の幕開けとなったが、ほぼ全員高等部へ進学、クラス替えもほぼなし、
担任も半分以上は持ち上がりとなれば、真新しさはほぼ0だった。

入学式とホームルームが終わり、惣一たちはいつもと同じメンバーでぐだぐだ時間を潰している。
初日の今日は、午前中で終わり。昼食持参の者は残って教室で食べたり、即帰宅したり、思い思いの放課後だ。

「一応外部入学も多少いるから無しってわけにもいかないんでしょ。」

5クラス、約170人の内、外部入学生は20人弱。
1クラス35人程度の内、4人いるかいないかというレアな存在だ。
しかし、だからといって彼らを蔑ろにするわけにはいかないのは明白で、

夜須斗はつばめの短絡的な思考にツッコんだ。

「まぁ、眠いのは確かだったけどね。」

ガラッ

「あ、惣一たちまだいた!」
「よかったぁ!」

そんな惣一たちの元に、教室のドアを勢いよく開けて入ってきた女子の集団が迫ってきた。

「な、なんだよ…」

その勢いに気圧される惣一たちを一瞥して、一人の女子があれ、と首をかしげる。

「なに、日山。」

夜須斗が問うと、黒髪ロングの気の強そうな女子-日山は、夜須斗じゃないの、と腰に手を当てて言う。

「仁絵君は? まさか一人先に帰ったとか…」

「はぁ? 仁絵に何の用?」

思わぬ探し人に夜須斗が怪訝な反応をする。
仁絵はクラスメイトとは男女問わず適度な距離感を保って比較的良好な当たり障りない関係を築いてはいるが、
惣一たちを除く級友たちに自ら関わることはほぼ無く、女子たちから名指しで探されるような存在ではないはずだ。

「急用なの! 惣一、夜須斗、仁絵くん今どこ!?」

「あ、あの私は別にそんなっ…」

詰め寄ってくる日山を筆頭にした数人の女子の後ろから、
夜須斗たちがあまり馴染みのない女子が彼女らを制そうと必死に話しかけている。

「あれ。あんた…」

馴染みのない顔、つまり外部入学生。
焦げ茶色のミディアムボブで、色白で垂れ目がち。大人しそうではあるが、かなりの美少女だ。
かなり可愛い、と入学式終わりに他クラスの男子も教室の前を通ってチラ見していったくらいには。
名前は確か…と惣一がつい数十分前のホームルームを思い出そうとするが、日山はそんなことお構いなしだ。

「っていうか場所分からないなら連絡取ってここ呼んでよっ」
「そんな、そこまでは悪いですっ…」

「ひーくんなら飲み物買いに食堂の自販機行っただけだから、待ってれば帰ってくると思うよー」

そんな押し問答の中、のんびり今更教えてくれた洲矢に、日山がくるっと向き直る。

「ほんとっ!? もー、洲矢くん、知ってるなら早く…」

その時、タイミング良く声がした。

「何だよ、わらわら騒がしい…」

声の主を視認すると、夜須斗はやれやれとため息をついた。

「…はいはい、待ち人来たるよ。そっち行って。」

「は? な、何…」

教室の入り口から声をかけてきた仁絵に一瞬にして視線が集まる。
そして夜須斗の一言を合図に、女子たちの詰め寄る先は仁絵にガラッと変わった。
突然の圧に仁絵も若干引き気味だが、

相変わらずの圧で日山は先ほどの新顔の女子を仁絵の前に引っ張り出す。

「ねぇ、この子覚えてない!?」

「ひ、日山さん、さすがに3年近く前ですし、ほんの数回のことですからっ…」

必死で仁絵の前から顔を逸らして退避しようとする彼女だが、他の女子がいいからいいから、とそれを許さない。

「もー、私のことはなるみで良いってば、っていうかそこじゃなくて!
仁絵くん、朝凪 和歌葉(あさなぎ わかば)ちゃん!」

惣一はあー、そんな名前だったな、と先ほどのホームルームを回想する。

そしてもう一つ思い出した。確か出身校は…

「…覚えてるけど?」

「えっ」

仁絵の返答に、和歌葉は目を丸くして固まり、

周りの日山たちは当事者の和歌葉そっちのけでキャーと盛り上がり、
仁絵はその黄色い歓声を聞いてなんなんだとため息をつく。
そんな中、惣一が暢気に声を上げた。

「あー! あんた天凰中から来た奴か!」
「何、惣一。今更思い出したの。そんなインパクトある情報。」
「うるせー、俺はそもそもホームルーム眠かったんだよ。」

惣一と夜須斗が言い合う中、仁絵はこの場を納めようともはや俯いて固まってしまっている和歌葉に声をかけた。

「良かったな。脱出できて。」

「…はい。」

「俺が知ってる限り、少なくともこのクラスの奴らはずっとまともだから。もうコソコソすることねぇだろ。」

仁絵の言葉に、和歌葉は顔を上げて少し微笑んだ。

「はい。」

「…ま、女子はお節介ばっかりだけどな。」

「ちょっとどこがーっ!?」

視線を向けられた日山が噛みつくが、仁絵はそりゃな、と続けた。

「初日にろくでもない話聞き出してすぐに直撃してくるあたりがだよ。あんまり余計な詮索すんなよ。
朝凪も。無理に話さなくていいから。」

仁絵はそう言うと、自分の席まで行き、鞄を掴んで帰るぞ、と惣一たちに声をかける。

「あ、おいちょっと待てよっ」
「なになに、どんな関係!?」
「ひーくん待ってっ」
「はーぁ。」

スタスタ出て行ってしまう仁絵を惣一たちが追って、教室には和歌葉たち女子だけが残されたのだが…。

「よかったねっ 和歌葉ちゃんっ」

「お、覚えててもらえるなんて思ってなくて…」

「言ったじゃない、1ヶ月も一緒にお弁当食べてたら流石に覚えてるよって」

「いや、そんなに一緒に食べてたってわけじゃ…」

「これからどんどん話してこ!」

「む、無理ですっ~~」

花咲くガールズトークはここからしばらく続き、

見回りに来た風丘にもうそろそろ帰るんだよー、と声をかけられるまで終わらなかった。





仁絵が転校するまでの短い期間ではあるが、仁絵と和歌葉は天凰中学1年の時のクラスメイトだった。

仁絵は言うまでもなくクラスで浮いた存在だったが、和歌葉もまたクラスで浮いていた。

それは、和歌葉の家庭の事情によるものだ。
天凰学園は名門私立であり、入学試験はあるので確かにある程度学力的にそれなりの生徒が多いのは事実だが、
通う生徒の多くは家庭の経済力で選ばれているといっても過言ではないくらい、裕福な家の子が多かった。
学費が高額なのだから、元々払える見込みのある子どもしか受験しないので

それは当たり前といってしまえば当たり前なのだが。
 

しかし、和歌葉は一般受験ではなく、奨学金をもらえる特待生入試を合格して入学していた。
和歌葉の家庭は父子家庭で、

とても一般生徒として名門天凰に通うことはできないが、学費が全額免除になる特待生なら通える、
そんな純粋な思いで和歌葉は特待生入試を受験し、唯一の合格者となった。

しかし、そんな特殊な入学方法であったが故に、和歌葉も入学して1ヶ月経った頃には完全にクラスから浮いていた。
一人だけの特待生ということはあっという間に知れ渡った上、家庭の生活水準が全く違う。
更に和歌葉の大人しく言い返したりしない性格も手伝って、
クラスメイトたちは、和歌葉を完全に見下し除け者扱いした。

勉強は抜群に出来たが、努力では埋められないもので和歌葉は虐められてしまった。

中でも特に馬鹿にされたのはお弁当だった。

天凰学園は給食がなく、昼食は学食か持参のお弁当。
煌びやかな学食はランチでも1000円近い値段がして手が出ない。
必然的に和歌葉はお弁当なのだが、自分で作った弁当を持参していた。
父も料理は出来なくはないが、少しでも長く睡眠をとって欲しかった。
心配した父がたまにはコンビニ弁当でも、と言ってくれたが、そんなお金はもったいない、と断った。

和歌葉は器用な方ではあったが、中学1年生が自力で作れるお弁当などたかがしれている。
結果、不格好な卵焼きやウインナーを詰め、

昨日の夕食の残り物とスーパーの特売冷凍食品を駆使して毎日何とか作り上げたお弁当。

しかしそれはクラスメイトたちの嘲笑の的にはもってこいだった。
和歌葉は昼食は当然一人で、クラスメイトに遠巻きに笑われる日々。
そしてある日、お弁当を盗られ、和歌葉がついに心折れそうになった時。

「…なぁ、気分悪いんだけど。」

お弁当を探して困り果ててる和歌葉を尻目に、

盗った男子生徒の机を蹴って低い声で詰め寄ったのが仁絵だった。

「りゅ、柳宮寺には関係ないだろ…」

同じ浮いた存在でも、仁絵はクラスメイトから恐れられ、ほとんど触れられない存在となっていた。
仁絵には迷惑をかけていない、と言い張りたいのだろうが、その一言がかえって仁絵の機嫌を損ねた。

「関係あるな。てめーらがクズなのはわかりきってることだけど、
人が作ったもんを見下して踏みにじんの見せつけられるのは俺が気分悪ぃって言ってんだよ。」

「っ…」

「盗った弁当渡せ。」

「…」

「渡せっつってんだろ!!」

仁絵の剣幕に気圧された男子生徒が、自分の鞄の中から慌てて弁当の包みを仁絵に手渡すと、

仁絵はそれを和歌葉に返した。

「あ…あ、ありっ…がとっ…ござっ…」

「…いや、泣くなよ…ちょっとこっち来い。」

今にも泣き出して収拾がつかなくなりそうな和歌葉を連れて、仁絵は立ち入り禁止とされている屋上に出た。
簡単な立て看板バリケードと、ピンで簡単に開く南京錠じゃ立ち入り禁止してるとは言えない、
というのが和歌葉が後日聞いた仁絵の滅茶苦茶な言い分だった。

それから、和歌葉は仁絵が学校に来ているときは仁絵の庇護の元、昼食を食べる日々が続いた。
仁絵はあまり昼食を食べなかったので、和歌葉が食べている横で寝ていることがほとんどだったのだが。

仁絵は二学期頭に転校してしまったが、

仁絵と和歌葉が昼休み連れだって昼食を食べている、という事実は学年中に知れ渡った。
実際、本当にただそれだけの関係だったのだが、
そこから二人は仲が良い、しまいには付き合っているなんていう尾ひれのついた噂まで広まっていた。
和歌葉は訂正しようとしたが、

仁絵にほっとけ、むしろ都合が悪くなきゃ利用しろと言われ、訂正を止められた。
振り返ってみると、仁絵が転校後、和歌葉の立場が逆戻りしないようにするための気遣いだったのだろう。

そして思惑通り、仁絵を恐れる同級生たちは仁絵転校後も和歌葉に必要以上に関わらなくなり、
和歌葉は落ち着いた学校生活を送れるようになったのだった。



しかし仁絵のおかげでいじめから抜け出せた和歌葉だったが、

やはり浮いた存在であることに変わりはなく、
受験のタイミングで公立転校を志望し、この星ヶ原高に入学したというわけだ。
いくつかの高校の候補から星ヶ原を選んだのは、

天凰から仁絵が転校したのが星ヶ原だったことも1つある…と日山たちに話してしまったのが運の尽き。
あれよあれよとあの教室の場面に繋がったのだった。



一方、これによって仁絵もある程度話さざるを得なくなり、

帰り道、仕方なくかいつまんで

和歌葉との関係を惣一たちに話した(付き合ってたとか噂を立てられたところはもちろん伏せた)。

「えー、すごい! 運命の再会じゃん!」
「え、あの子仁絵追いかけてこの高校受けたんかなっ…」

話を聞き終わって盛り上がるつばめと惣一に、仁絵はそんなわけあるかと呆れ顔だ。

「何でだよー、あの子せっかく可愛いから、このまま仲良くなって彼女ゲット!とかなったら最高だろーっ」

尚も興奮冷めやらぬ惣一に、仁絵はそれはねーだろ、と即否定する。

「分かんないよ? 向こうの気持ち、探りくらい入れてみたら? 仁絵だって悪印象はないんでしょ。」

あからさまにからかってくる夜須斗に、仁絵は渋い顔をした。

「余計な詮索すんなって言ったろ夜須斗。おら、この話はこれで終わり。
これ以上その話題引っ張るなら俺は別の道で帰る。ったくどいつもこいつも…」

一人愚痴る仁絵と、ケチーっと絡む惣一やつばめ、やれやれと肩をすくめる夜須斗。

そんな4人を見ていた洲矢が時たま笑い声を漏らしつつ、5人は帰路についたのだった。
 

おはようございます晴れ

日程アンケートご協力ありがとうございましたビックリマーク

結果当日朝の告知になってしまいました…すみませんあせる

 

「ようやくメガネ教師中学生編完結したので振り返りながらツイキャスします」
放送予定日時:7月21日 水曜日 21:30頃~(2時間程度予定)

主な放送内容:メガネ教師各話振り返り・フリートーク(マシュマロに来た質問等)

URL : http://twitcasting.tv/tsubameshirase
閲覧パスワード:spa

 

日程調査、結構票割れてしまったこともあり、

今回はバックナンバー残します。

また今回、キャスを配信する場所の問題でパソコンを運べないため、

タブレットからの配信になります。

いつもと音質等違うかもしれませんがご了承くださいあせる

 

そして、質問は匿名メッセージサービス「マシュマロ」で受付中です音譜

個人情報に関わることを除いて(笑)

基本全てにお答えしようと思ってますので、

よろしければ下記からご質問くださいニコニコ

キャス中リアルタイムでも大丈夫ですビックリマーク

https://marshmallow-qa.com/tsubameshirase

 

マシュマロがうまく使えない場合は、ブログのコメントでもOKです。

(白瀬が承認しなければ公開されないのでご安心くださいー)

それでは、ご都合つく方、是非流し聴きしてやってください(笑)

コメント・マシュマロ等で参加していただけると更に喜びますほっこり