12月。

 

凍てつく冬の廊下を、歩夢はある場所へ向かって必死で走っていた。

「廊下を走るな」なんて小学生でも知っているルールで、

学級委員長も務める「普段は」品行方正な歩夢らしからぬ振舞だが、

今、歩夢にはそうせざるを得ない理由があった。

 

 

 

 

 

事の発端は4月まで遡る。

 

高等部に上がっても、結局引き続き学級委員長を務めることになった歩夢は、

風丘からの頼まれごとで職員室を訪れていた。

しかし、風丘は取り込み中のようで、教頭たちと話している。

どうしようかな…と逡巡していると、

その様子に気付いた風丘がそこからそのまま声をかけてきた。

 

「歩夢君ごめんね、あと2~3分待っててくれる?」

 

「あ、はい!」

 

言われてそう返事したものの、職員室で一人というのはとても手持無沙汰だ。

今の時間、たまたま職員室内にいる教師陣も少なくて、

話し相手になってくれそうな他の教師もいない。

 

「んー…あれ?」

 

何とはなしに目線を彷徨わせていた歩夢の目に、ふとある1枚のプリントが飛び込んできた。

それは、生徒たちには抜き打ちで行われる、今年度の持ち物検査の予定表だった。

何なら重要機密とも言うべき書類だ。

 

(水池先生…もう、不用心だなぁ…)

 

プリントが置かれていたのは水池のデスクで、デスクと透明なデスクマットの間に挟まれている。

とりあえず失くさないようにそこに挟んだのか、

ならせめて裏返しにすればいいのに…などと思いながらその日付を眺めていると、風丘に呼ばれた。

風丘との話の内容は次のホームルームの、結構がっつりした頼まれごとだったので、

話を終えた頃には、見かけた予定表のことは歩夢の頭からすっかり消えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

しかし、その次の週。

 

歩夢はふとした時に、その予定表の存在を思い出した。

 

「はーい、今日は持ち物検査するわよー」

 

「「「「「「「えぇぇぇぇぇ」」」」」」」

 

朝のホームルームで、唐突に教室に入ってきたのは金橋だった。

風丘のクラスは、持ち物検査は担任ではなく、地田や金橋といった生徒指導担当がやることが多い。

風丘自身が持ち物検査を嫌っているのと、

風丘だと甘くする、と地田たちに思われているのがその理由で、

生徒たちも何となく感付いているものの、

持ち物検査については中1の時のトラウマ級の検査のこともあるので、

好き好んでこの話題に触れようとする生徒はいなかった。

 

(うわ、当たってる…)

 

金橋の宣言を聞いて、歩夢はふとあの時見た予定表の日付を思い出した。

そう、初回はまさに今日の日付だった。

 

かくして、高等部に上がって初めての持ち物検査。

 

教室から不満の声が上がるものの、覆ることはないわけで、

生徒たちは渋々カバンを机の上に出す。

 

高等部になってから、中等部のあの厳しい校則は何だったんだ、というくらい

だいぶ校則は緩くなったこともあり、持ち物検査でアウトになる物品も多少減っていた。

最たるものは携帯電話だが、部活の時間も伸びるからか、お菓子類も咎められない。

女子がメイクポーチを調べられ、多少メイク道具が出てきたが、

大量の持ち込みではなかったので口頭注意で済まされた。

こうして、皆不満を口にはしたものの、引っかかるクラスメイトはほぼいなかったのだが…

 

「新堂君。これはダメね。没収。」

 

「チェッ…サイアク。」

 

惣一のカバンからマンガが出てきて、金橋が勝ち誇ったような表情で取り上げていった。

 

風丘は中学時代から持ち物検査に寛大なので、引っかかっても風丘からお仕置きされることはないが、

あの中1最初の持ち物検査で地田たちから返された没収物を

風丘が1週間程度で惣一たちに返してしまったことから

以降風丘のクラスの没収物は風丘に返されることがなくなってしまい、

風丘も取られたものは自分で取り返しなさい、というスタンスになってしまった。

 

惣一はマンガを取り返したければ金橋、すなわち生徒指導部にお願いに行くしかない。

初回だから反省文が濃厚だが、今後続けば指し棒でのお仕置きもついてくることは否定できない。

 

結局、今回引っかかったのは惣一のみで、

金橋が出て行ったあと、惣一が特大のため息をついた。

 

「あー、もう!!! せっかく昼休み読もうと思ってたのに!!!」

 

「ご愁傷様―」

 

「ってか仁絵! お前金橋とか地田に諦められてるのずるくね!?」

 

「いや、服装と髪だけだろ。持ち物は、今日はたまたまなかったんだよ。

ってか、俺に注意しないの、向こうが勝手に俺にビビッてるからで俺のせいじゃなくね?

そもそも、一発アウトの物持ち込むなら少なくとも馬鹿正直にカバンに入れっぱにしねーよ普通…」

 

「グッ…」

 

「フフッ、正論返されてんじゃん。」

 

「うるせぇ夜須斗!!」

 

(うーん…)

 

言い合う惣一たちを横目に、歩夢は一気に信憑性が高まってしまったあの予定表の存在を、一人思案していた。

歩夢も別に、持ち物検査に引っかかるようなことはほぼほぼないのだが、

違反物が出てきた時の地田や金橋の満足そうな顔にはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ムカついていた。

 

水池があの予定表をあのままにしている可能性は高くはないが、もしあれば利用できるかもしれない。

そう思った歩夢は、昼休み直後、いつも通り屋上に向かおうとする仁絵にそっと話しかけた。

 

「ねぇ、仁絵。お昼前にちょっといい?」

 

「ん? なんだよ委員長。」

 

「ちょっと内緒の話。」

 

歩夢はニコッと微笑んで、仁絵を廊下に連れ出した。

 

 

 

 

 

校舎の外れの廊下まで来て、歩夢はその予定表の存在を仁絵に伝えた。

 

仁絵もまず水池の不用心さに呆れていたが、

続いて湧いてくるのはなぜ自分にだけこっそり伝えてきたのか、という疑問だ。

 

「今日の日直俺だから、放課後日誌を置きにもう一回職員室行くんだよね。

で、今日放課後職員会議があるから日誌は机に置いといてって風丘先生に言われてる。」

 

だから…と、歩夢が続けた意外な言葉に仁絵が目を見開いた。

 

「もう一回水池先生の机見て、プリントが残ってたらこっそり写真撮ってくるから、

万が一の時のためにちょっと職員室近くで見張っててくれない?」

 

「は…? どうした委員長、そんな…」

 

頭でも打ったか…?と心配する仁絵を余所に、歩夢はだめ?と小首をかしげ、

仁絵はダメじゃないけど…と狼狽える。

 

「そんな写真撮ってどうすんだよ。委員長、別にいつも検査引っかかんねぇしメリットないじゃん。」

 

仁絵の至極真っ当な疑問に、歩夢はうーん、まぁ、そうなんだけど、と言いつつ、笑う。

 

「クラスメイトが生徒指導の先生たちに目の敵にされてるの、正直あんまり気分良くないんだよね。

いくら普段の素行がよろしくないって言ってもさ。

担任の先生差し置いて口出してくるのおかしいってずっと思ってたし。

まぁ単純に言っちゃえば、たまには空振りしてもらったって良くない? 

中学の時から、いっつもうちのクラスだけターゲットにされてるんだから。」

 

突き詰めれば仁絵たち5人だけど、と歩夢は笑いながら言う。

そんな歩夢を見て、仁絵は意外な一面を見た、と驚きつつも、つられて笑ってしまった。

 

 

 

 

 

「ヘマしたらいくら委員長でも売るからな。」

 

「えー、助けてくれないのー みんなのためにやるのにー」

 

「嘘つけ。半分楽しんでるだろ。」

 

「フフッ、いいじゃない、少し引っ掻き回すくらい。

元々抜き打ちで俺らの方だって引っ掻き回されてるんだし。」

 

「委員長からそんな屁理屈みたいな言い分聞く日が来るとはな…」

 

「クス…それに、なんかミッションみたいでちょっとドキドキしない?」

 

放課後の教室に残るのは、日誌を書く歩夢とそれを待つ仁絵の二人だけだった。

惣一たちは仁絵が何かと理由をつけて体よく追っ払っていた。

二人して軽口の応酬をしながら、歩夢はよし書けた、と日誌を閉じる。

 

「じゃー、とりあえず先行くね。二人で一緒に行く方が怪しまれるだろうから。」

 

「おー、適当に後から行くわ。」

 

教室を出ていく歩夢を見送りながら、委員長、変わったな…と、内心昼休みに引き続き驚くとともに、

持ち物検査を引っ掻き回してやろうなど、だいぶ発想が自分たち寄りになっている気がして、多少の罪悪感も感じる仁絵なのだった。

 

 

 

 

 

職員室に入った歩夢だったが、やはり職員会議中で部屋の中に教員は誰もいなかった。

 

日誌を手に持ったまま、先に水池の机を確認すると、そこにはまだあのプリントが挟まれていた。

どうやらプリントが配られてとりあえずそこに挟んだのではなく、自分の確認用に意図してそこに挟んでいるらしい。

職員室なんて生徒も好き好んでやってくる場所ではないし、

歩夢のように目ざとく見つけるような生徒はそういないだろうと油断しているのかもしれない。

 

歩夢はポケットの中のスマホを取り出し、シャッター音が鳴らないカメラ機能のあるアプリを起動させた。

そして最後にもう一度周囲を確認して、手元を反対の手で持った日誌で隠しながら、

そのプリントをこっそり写真に収める。

その後はすぐにスマホをポケットに戻し、何食わぬ顔で風丘の机に日誌を置いて職員室を後にした。

 

 

 

職員室を出てすぐに、トークアプリの仁絵との個人トーク画面を開き、そこにあの写真を投下すると、

すぐに既読がついて、一拍置いて仁絵から、[お疲れ][了解]と2つのメッセージが返ってきた。

その画面を見て歩夢がふぅ、と息をついたのも束の間、

更に数拍おいて、再び画面を見ると、その2つのメッセージが即座に送信取り消しされていたことに気付く。

仁絵の意図をくみ取って、歩夢も廊下を歩きながら、送った写真を送信取り消しした。

 

 

 

その後歩夢がスマホから顔を上げると、廊下の向かいから歩いてきた仁絵と鉢合わせた。

二人は目が合うと、仁絵はニヤリと不敵な美しい笑みを見せ、歩夢も微笑を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

その後二人は話し合い、画像を大人数で共有すると漏れるリスクが高くなるし、

万が一漏れた時にすぐに盗撮だ、となって出所はどこだとか騒ぎになってしまう、それは避けたい…であれば、

出所は内緒ということにし、日程が近づいたらその都度クラスのグループトークに投下することにしよう、

という方針で固まった。

 

ところでこの時仁絵は、自然とグループトークに情報を投稿する役割を請け負っていた。表面上、「風丘と同居していると知られている自分が投稿した方が、

直接的に出所を明かさなくてもみんな勝手に関連付けてくれるから信用が高まる」

「惣一やつばめに恩を売っておきたい」なんて言っていたが、

実は全く別の意図があったことに、歩夢はまだ気づいていなかった。

 

 

 

 

 

持ち物検査は、大体1ヶ月に1回のペースで行われた。

 

結局あの予定表通りで、クラスは毎月順調に検査を切り抜けていた。

 

ただ単に全員突破が続くと怪しまれると、

仁絵は実はもう読み終わった雑誌やほぼ使い終わっているヘアワックスなど、

口頭注意はされても没収までいかない、もしくは没収されたとて別に取り返す必要のない物を、

自分や内々で頼んだ夜須斗たちの持ち物に忍ばせた。

「違反者0」をカムフラージュする作戦で、これが功を奏したのか先週末実施された12月の持ち物検査まで無事到達できたのだ。

 

ただ、あまりにも上手くいきすぎてしまったのかもしれない。

惣一たちをはじめ、持ち物検査はグループトークに事前に知らせが来る、と、

本来抜き打ちで多少心のどこかで身構える、いつ検査されるか分からないという警戒心がクラス全体薄れてきてしまっていた。

 

 

 

 

 

そして、12月の持ち物検査が終わったばかりの週明け月曜日。

朝のホームルームで事件は起きた。

 

「持ち物検査するから荷物出せー」

 

「「「「「「「「「「えぇ!!!???」」」」」」」」」」」

 

地田がいきなりやってきて、持ち物検査の実施を告げる。

今日の実施は“あの”予定表にはなく、グループトークにも共有されていない。

想定外の事態に、クラス内が騒然となる。

 

「どうした? 早く荷物を出せ。」

 

地田に再度尊大な態度でそう言われ、夜須斗が眉間に皺を寄せながら言う。

 

「持ち物検査、この前の金曜にやったばっかなんだけど。」

 

しかし、それが何の意味もない反論であることは夜須斗自身が分かっていた。

そう言いながら、ため息をついてカバンを机の上に上げる。

 

「それがどうした。持ち物検査は抜き打ち。別に登校日2日連続でやらないなんてルールはどこにもない。

それとも、“今日”、やられたらマズい理由でも何かあるのか?」

 

「チッ…」

 

夜須斗が舌打ちして無言で地田を睨む。

図星だから何も言い返せない。

そして恐らく、どこまでかは分からないが持ち物検査の日程が漏れていることを地田たちは掴んでいる。

 

「みんな…。」

 

歩夢が力ない声で皆に声をかけ、それを合図に固まっていたクラスメイトたちもカバンを机にのせて広げ、検査が始まったのだった。

 

 

 

 

 

今日に限って、持ち物検査は異様にしつこかった。

 

いつも見られるカバンの中、机の中だけではなく、

廊下に並んだ鍵付きのロッカーの中まで調べられ、

さすがに惣一たち以外のクラスメイトも没収品や口頭注意を受ける物品がいくつか見つかってしまった。

惣一たちも、つばめのマンガと、夜須斗の音楽プレーヤー、

そして一番の大物は惣一の携帯ゲーム機。これらは即刻没収された。

さすがに検査翌日だったので、皆油断していた。

日程が分かっていたいつもなら夜須斗は自宅に置いているし、惣一もさすがにゲーム機は少なくとも部室に避難させている。

 

そしてこれに勢いづいたのか。

なんと地田は仁絵のアクセサリー類にまで目を付けた。

 

「柳宮寺。そのジャラジャラしたのは全部外せ。校則違反。こっちで預かる。」

 

「……はぁ?」

 

しかしその瞬間、あからさまに声音が低くなって殺気立った仁絵に、教室全体が息をのむ。

絶対零度の視線で地田を蔑むように睨みつけ、吐き捨てる。

 

「俺、今まで隠しもせずにずっとつけてたんだけど。

そっちが勝手にスルーしてたくせに、今日は没収品たくさん出てきて勢いづいてるからついでに注意するとか

方針ブレブレのテメーの言うことなんざ聞きたくない。」

 

「フフッ、言えてる。」

 

仁絵のストレートな物言いに夜須斗が笑う。

するとそれに触発されたか地田が顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

「柳宮寺!!! いつもいつも教師馬鹿にするのも大概にしろ!!!」

 

「そっちこそ生徒馬鹿にすんのいい加減にしろや。

その日の気分で注意したりしなかったり。だったら最初から態度一貫しろよ。」

 

まぁ、だとしても俺はつけるけど、と仁絵は嘲笑を浮かべながら立ち上がった。

 

「そんなに没収したきゃ強制的に外せば? 

ピアスとか、引っ張れば耳が千切れて取れるんじゃない?」

 

想像してしまった女子生徒たちがヒッと悲鳴を上げ、さしもの地田も絶句する。

 

「なっ…お前っ…」

 

しかし、仁絵は薄笑いを浮かべたまま畳みかける。

 

「ビビってんの? じゃあ、ネックレスにする? 

あぁ、でも、これはピアスよりも大事なやつだから手出されたら無意識に抵抗しちゃうかもだけど。」

 

「ひ、仁絵!」

 

まさか仁絵が本気で手を出すことはないだろうが、これは立派な脅しだ。

さすがに歩夢が慌てて間に入る。

 

「それは言い過ぎ…ストップストップっ」

 

そして、その時、朝のホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

 

異様な空気の教室にチャイムが響き渡り、歩夢はハッと我に返り、振り返って地田に向き直る。

 

「あ、ほ、ほらチャイム! 

地田先生、あの、チャイム鳴りましたし、1時間目始まっちゃいますからっ

仁絵のアクセサリーの件は、とりあえず保留ってことで、どうでしょうか!?」

 

生徒側から持ち物検査保留だなんて通常だったら無茶苦茶な言い分であることは百も承知だが、

スイッチが入ってしまっている仁絵を背後にしてこの場をとりあえずおさめるには一旦無茶苦茶を押し通さないと終わらない。

地田も地田で、引き際を見失っていたところがあり、歩夢の提案に、あぁ…と、頷き仁絵から離れた。

 

「…検査はこれで終わり。没収品は、生徒指導部で預かる。」

 

地田はそれだけ言うと、先に没収していた物品を持って、教室から出ていく。

 

そして、それと入れ替わりに1時間目の英語を受け持つ若い男性講師が教室に入ってきた。

 

「はい、みんなおはよー…ってど、どうしたの、このお通夜みたいな空気!?」

 

正規の教員ではない雇われの講師だから、持ち物検査の事情なんて知らないのだろう。

いつもフワフワしている講師の素っ頓狂な声を皮切りに、徐々にいつもの空気を取り戻す教室なのだった。

 

 

 

 

 

昼休み。

 

あの日とは逆に、今度は仁絵が歩夢を呼び出した。

朝のことを詰られるんだろうと身構えていた歩夢だが、予想に反し、仁絵はたった一言歩夢に告げた。

 

「朝のこと、何聞かれても委員長はしらばっくれて黙ってろ。」

 

「…え?」

 

きょとんとする歩夢にお構いなく、仁絵は続ける。

 

「もうクラス全体に検査の日程が流れてたのは十中八九バレてる。

だとしたら、最初に事情聴かれるのは委員長だろ。」

 

「それは、たぶんそうだけど…。」

 

「とりあえず今は黙ってろ。いいな。」

 

仁絵の有無を言わさない雰囲気に、歩夢は怪訝そうに問いかける。

 

「仁絵…何するつもり?」

 

「…ま、立ち行かなくなったら委員長のこと売るから、その時の覚悟はしとけよ。」

 

しかし歩夢の問いには答えず、仁絵はそう言って笑うと、歩夢の肩をポンと叩き、

その場を立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 

いつ風丘に持ち物検査の件を突っ込まれるかとハラハラしていた5人(と密かに歩夢)だったが、

今日の風丘は中等部と高等部を授業で行ったり来たりで忙しいらしく、クラスの世界史の授業もないので放課後まで全くクラスに顔を見せなかった。

帰りのホームルームも何らかの事情で間に合わなかったのか、

ほとんど顔を合わせたことのない、冴えない副担任が珍しくやってきて特に大した連絡事項もなく締めていった。

 

 

そしてその直後。

ホームルームを終え、皆が部活やら下校やらの支度を始めている時。

 

「宮倉君。ちょっと生徒指導室まで来てくれる?」

 

金橋が突如教室にやってきて、歩夢を呼んだ。

名前を呼ばれた歩夢は咄嗟に仁絵を見そうになり、慌てて思いとどまる。

 

「…はい。」

 

歩夢は返事をして席を立ち、金橋の後に着いて教室を後にした。

 

 

 

「なんで委員長なんだよ?」

 

歩夢が去った教室で、惣一が夜須斗に尋ねる。

 

「クラスぐるみって疑われてんでしょ、あんだけ極端だったから。」

 

「委員長、叱られちゃうの…?」

 

不安そうな洲矢の声に、夜須斗はいやー…と否定する。

 

「事情聞かれるだけだと思うけど。さすがに何もなくゲロったりはしないだろうし…ね?」

 

夜須斗が視線を仁絵に送るが、仁絵はさーな、と興味なさげな相槌を打つだけ。

夜須斗がふぅ、と呆れたようにため息をつきつつ、

目線を教室の外の廊下に向けると、視界の端に一人の人物が映った。

しかし、それを伝えるのは間に合わず、気付いていない惣一が、大声で空気の読まない発言を投下してしまう。

 

「ったく…仁絵、なーんで今日の情報掴んでなかったんだよ! 

それで俺のゲーム機がっ…「バカ惣一黙れっ」

 

慌てて夜須斗が制止をかけるも、惣一のよく通る声と相手の地獄耳を誤魔化すことはできなかった。

 

「今の…どういう意味かなー? 惣一君。」

 

「ゲッ、風丘っ…」

 

夜須斗が気付いたのは、教室に向かってくる風丘の姿だった。

まさかこんな最悪のタイミングで惣一が名前付きで暴露してしまうとは、と夜須斗は頭を抱えるが、当の本人は落ち着いていた。

 

「持ち物検査の日程。俺がクラスのグループトークに流してたから。

今日のは元々の予定になかったんだろ? 

俺が流せなかったから今日皆引っかかりまくった。

そのあたりはそこのクソババアからもう風丘も聞いてんだろうけど。」

 

「柳宮寺っ…」

 

仁絵は、風丘に続いてやって来て、廊下に控えていた地田に視線を向ける。

しかし風丘は、仁絵の暴言を咎めることなく、いつもと変わらぬ調子で続けた。

 

「そっかー。…どうやって日程分かったの?」

 

「たまたま職員室行った時、日程のプリント見つけたから写真撮った。」

 

「その写真残ってるの?」

 

「消したに決まってんじゃん。そんな証拠。」

 

「グループトークは?」

 

「日程文字で流してるだけだし、送信取り消ししてる。」

 

「随分用意周到だねぇ。」

 

「……、まぁでも、持ち物検査の何日か前に決まって俺が何かをトークに投げて、

その後送信取り消ししてる記録だけで、十分なんじゃねーの?」

 

そこのババアには、と仁絵が地田に水を向けると、地田は仁絵に近付いてくる。

 

「久々にやってくれたな柳宮寺。お前がやったことは盗撮に脅迫だぞ?」

 

「えぇぇぇ!?」

 

刺激の強い言葉に、つばめが声を上げ、残って息をひそめていた他のクラスメイトたちもざわつく。

 

「盗撮ったってその撮った証拠もうないじゃん。」

 

夜須斗が反論すると、地田はジロリと睨み、切り捨てた。

 

「証拠も何も、今柳宮寺が自分で白状しただろう。柳宮寺は風丘にはまともに話すからな。」

 

「えー、お褒めにあずかり光栄ですー。」

 

「風丘もふざけてないで…」

 

地田の言葉に、茶化すような返事をした風丘だったが、二言目にボソッと呟いた。

 

「でも…ほんとにそうかなぁ…」

「っ…」

 

「ん? 何だって?」

 

地田も他の生徒たちも聞き取れなかったようだが、一番近くにいた仁絵は何となく聞き取れてしまい、思わず息をのむ。

しかし、風丘は次にはケロッとしてまたいつもの調子に戻り、地田にニコッと微笑みかけた。

 

「地田先生。今回のことは、あとは俺にお任せください!

ほら、俺にはまともに話してくれるって地田先生も言ってくれたことですし!

地田先生とは相性悪いんで、俺と二人きりにしてもらえるとっ」

 

「な、何だいきなり…いや、だけどお前は、持ち物検査に関しては甘やかしすぎ…」

 

「いつもはそうですが…“今回は”、キツーーーーーーくお灸据えますからっ ねっ?」

 

風丘に詰め寄られ、地田も気圧されてまぁ、分かった、と頷く。

 

「…仕方ない。後で生徒指導部にちゃんと報告しろよ。足りないと判断したら生徒指導部から追加の罰もあるからな。」

 

「はいはーい。」

 

そう言って教室を後にする地田に、風丘は手をひらひら振って見送ると、さて、と仁絵に向き直る。

 

「お部屋行こっか。柳宮寺。」

 

「…。」

 

 

 

 

 

所変わって生徒指導室。

 

歩夢は、大方の予想通り、金橋に事情を知らないか聞かれていた。

 

「何か知ってるでしょう? 

クラス全体で持ち物検査の日取りを共有していたんじゃないの?」

 

「いやー…特に何も…」

 

「情報の出所はどこなの?」

 

「情報なんて…」

 

何とかのらりくらりと躱していた歩夢だが、ここへ来て金橋が揺さぶりをかけてきた。

 

「今日の検査は、確かに予定になかったの。

…委員長の宮倉君にだから言うけど、貴方のクラスには持ち物検査引っかかる常習犯たちがいるでしょう。」

 

「…何をおっしゃりたいのか…。」

 

「それがここ最近、何も引っかからない。正確に言えば、大したもので引っかからない。

初日に引っかかった新堂君を筆頭に誰も。

抜き打ちなのに…ね。生徒指導部でおかしい、って話になったの。」

 

疑われたあまりの理由に、いくら日々の積み重ねで自業自得とはいえ、歩夢は眉間に皺を寄せる。

 

「そんな言い方…惣一たちに失礼だと思いますが。」

 

不快さが顔に出る歩夢に、金橋は感心して笑う。

 

「フフッ、さすが風丘先生のクラスの学級委員長ね。風丘先生も同じことを言ったわ。」

 

「えっ…」

 

「それで『さすがにあの子たちも学んでくれたんじゃないですか』って言ってたわ。

とはいえ、生徒指導部としても一回確かめたい、ってなってね。

だからじゃあ一度、全く突然に、予想されにくいタイミングでやってみましょう、ってことになったの。

それが今朝。そして…この結果だったの。」

 

「っ…」

 

「風丘先生もさぞ残念だったことと思うわ。皆の成長だと期待してたのに。

貴方も学級委員長としてどう思ってる? 

もちろん宮倉君が積極的に関与してるなんて思ってないわ。

知ってることを教えてほしいの。」

 

その言葉に、歩夢は拳をぎゅっと握った。

金橋に悪気があるのかないのか、

一番的外れな方向で証言を引き出そうとしているのがひどく滑稽でもあり、

しかし一方で歩夢に罪悪感を与えた。

正に首謀者は歩夢であり、仁絵は歩夢に巻きこまれてくれただけだ。

それに、金橋の言葉がもし全て本当だとしたら、今回のことをきっかけに風丘も傷つけてしまったのではないか、と歩夢が一抹の不安を覚えた時だった。

 

「宮倉。お前今朝もだけどなんでそんなに柳宮寺のことを庇うんだ。」

 

「えっ…」

 

生徒指導室の扉が開き、地田が入ってきた。聞き捨てならない言葉と共に。

 

「それは…」

 

「あら、やっぱり柳宮寺くんだったんですか?」

 

「えぇ。職員室で日程表を盗撮して、クラスのグループトークに流していたと。

風丘に聞かれて自白して…、おい、宮倉!?」

 

地田の説明を聞いて、歩夢は生徒指導室を飛び出した。

助けてくれとはふざけつつも確かに言ったが、

脳裏によぎったとある展開、それは全く望んでいない。

 

 

 

生徒指導室と風丘の部屋の間に教室がある。

立ち寄ったが、当然、仁絵の姿も風丘の姿ももうなかった。

 

「委員長! 大丈夫!? 金橋に詰められたり…「仁絵は?」

 

心配してつばめが駆け寄ってくれたが、申し訳ないがそれどころではない。

遮るように問いかけると、つばめは目を丸くして、しかしその後へにゃりと口を曲げて言った。

 

「風丘に…持ち物検査の情報源、自分だってバラしちゃって二人で部屋に…」

 

つばめの言葉に、歩夢は一瞬顔をゆがめ、更に聞く。

 

「俺の、ことは…?」

 

「え?」

 

「俺のこと、何か言ってなかった?」

 

歩夢の問いかけに、つばめと横で聞いていた惣一が二人して首を傾げる。

 

「と、特に…」「委員長、別に関係なくね?」

 

「っ…」

 

「あ、委員長!」

 

二人の言葉が言い終わらないうちに、歩夢は教室を後にし、駆け出した。

廊下を全力疾走する歩夢の肺に廊下の冷たい空気が満ちる。

走っているのに、全身が冷えていくようだった。

間に合いますように。歩夢はその一心で、メイン教室群から外れた風丘の部屋を目指した。

お久しぶりでございます、白瀬ですうさぎのぬいぐるみ

 

さてさて、メガネ教師 高校編8話後書き。

ようやく出来上がった霧山/仁絵 編です!!

 

スパのきっかけから悩ましかった今回あせる

2人の絡みはやっぱり図書委員だよなーということで、

まとめていったら結構シンプルになりました笑

 

きっかけは単純な居眠りというニヤリ

仁絵は中学編でも結構複雑なストーリーになりがちなので、

今回みたいな「ザ・スパ小説」な王道ストーリーは

意外とそんなにない(と思う)のでなかなか新鮮でした。

 

質問箱でもお答えしましたが、

最近読んでくださる方々の中で

仁絵がどんどん優等生化(笑)してきているので、

まぁ良い子になりつつもまだまだやらかしてるよ、というのを

今回書いてみました笑ううさぎ

 

そして衝撃(?)の笑、霧山の乗馬鞭(人間用)←

鞭はちょいちょいリクエスト頂いていたんですが、

出し所と使い手が難しすぎてずーーーーっと保留にしてました。

でも、似合うのは…霧山だよね…ともずっと思っていて、

今回満を持しての登場。

スパまでの展開がかなりスタンダードなので、

お話のアクセントになったかな、とは思いつつ、

スパの理由のわりに乗馬鞭は厳しすぎないか??と

作者本人も思ってしまいましたが、

そこは仁絵に犠牲になっていただきましたにっこり

仁絵も言ってますがほぼほぼこれは霧山の趣味だと思ってます笑

クールビューティーが黒光りする乗馬鞭持ってる、という

絵を想像したいがためのラストシーンですにやり

 

乗馬鞭、白瀬が数回やっている、

唐突なスパ衝動を発散してもらうために女王様にスパしてもらう、の時に←

数回使ってもらったことがあるんですが、

加減によっては耐えられなくもない…痛さだったので

(あくまでその女王様が私にしてくださった時の場合だけですがあせる)

まぁ、これなら…いけるか…?って感じで出してみました。

道具としてはだいぶ異色ですが、笑って読んでいただけたら嬉しいですほっこり

 

さぁ、そしてちょくちょくポストしている

某K-POP系アイドルモデルのスパ小説は、

何故かプレゼントした友人にお褒めの言葉を頂き、

許可も頂いたので、

ある程度全く知らない方でも読めるような手直しをしたら

ベッターにひっそりと上げようかなと思ってます。

界隈が全く違うので、ご興味のない方はスルー推奨です。

 

メガネ教師の次は珍しくまだ全く決まってない白紙なのですが笑

どんなのがいいですかね…。

中途半端なネタのメモ書きばかりがたまっていくので、

なんやかんや書けそうなものを探す作業にまた入りたいと思いますにっこり

 

あと、今週末辺りゆるーーーくXのスペースやろうかなと考えています。

スパを緩く話しつつ、

来週諸事情によりプライベートで三泊四日するのでパッキングしたい笑

ツイキャスみたいにずっと喋ってる、って感じではないと思いますが、

何となくやろうかなと思い立ったので。。。

特別大々的に告知はしませんが、たぶん土曜夜。

ひっそりなんか始まったらお時間ある方覗いてやってください。

ただただ独り言を垂れ流してると思います笑

 

それではまたお会いしましょう音譜

夜に後書き上げるって言ったのにパソコンの前で寝落ち、

つい先ほど目覚めて実は朝から絶望気味の白瀬でした昇天

 

10月。

とある日の放課後。

 

「読書の秋」というものの、多くの学生にとってそんなことはどうでも良いことで、

校舎の北棟3階丸々ワンフロアを贅沢に使った図書室にいる面々は、

結局常連の生徒ばかり、いつもの顔ぶれだった。

 

(眠…。)

 

そんな静かな空間で、カウンターに一人座る仁絵は何とか声を押し殺した。

 

学校司書を務める霧山に、

中学2年の下半期から半ば強引に図書委員に引きずり込まれて以来、

仁絵は結局抜け出すことができずにずっと図書委員だった。

しかも、仁絵たちが高校に上がったタイミングで

司書教諭の資格を持っていた高校の教員が異動となり、

霧山が非常勤から常勤司書となるという人事が発生した。

これにより正に図書室は霧山の城となり、

仁絵は図書当番のシフト以外にも週に2日は昼休みか放課後のどちらか、

霧山と共に図書室にいる羽目になってしまっている現状。

 

その結果、貸出はもちろん、新規の本を貸出用に処理したり、傷んだ本を修理したり、

はたまた簡単なレファレンスをしたりと、

仁絵は不本意ながら、おかげさまで一通りの図書業務を一人でやれるようになっていた。

しかしそれによって、更に霧山に都合の良いように使われるようになるという悪循環も生まれている。

 

今日もそのせいで、こんなことになったのだ。

 

 

 

通常、図書委員がカウンター番をするのは、昼休み。

図書室のすぐ下は職員室なので、何かあったらすぐ霧山を呼ぶことになっている。

そして放課後は、基本的に霧山が常駐してカウンター業務を担い、

図書委員は霧山の指示の下、種々の雑務を行う、という感じだった。

したがって、基本的に図書委員の業務は霧山がいることを前提にシフトが組まれている。

 

しかし、今日の夜から明後日まで、珍しく霧山に泊りがけの出張が入った。行き先はまさかの北海道で、司書関係の研修らしい。

先週、その話を聞いて仁絵が(やった、休めんじゃん)と思ったのも束の間、

霧山は仁絵にこう言い放ったのだ。

 

「それじゃあ仁絵君、私が不在の二日間、図書室、よろしくお願いしますね。」

 

「…は?」

 

ポカンとする仁絵に、霧山は何不思議そうな顔をしているんですか、と

何故か呆れ顔で続ける。

 

「貴方なら1人でもある程度イレギュラーなものも含めて

一通りのカウンター業務こなせるでしょう。」

 

あぁ、そういうことか、と一瞬納得しつつも、聞き逃せない言葉があった。

 

「え、何、二日間、昼休みも放課後も俺に一人で番させる気?」

 

「…おや、貴方誰かと一緒に出来るんですか?」

 

しかし仁絵の問いに、わざとらしく驚いたように霧山に返され、何も言えなくなる。

 

「それは…嫌だけど…。」

 

「2日目の放課後は私が帰って来られますから。実質3コマですよ。

それじゃ、しっかりお願いしますね。サボらないように。」

 

「ちょ、ちょっとオイ!」

 

 

 

こうして決定事項、と言わんばかりに決められた図書当番。

一応、その後の当番のシフトを調整してはくれたようだが、仁絵は当番がなくても度々霧山に当番以外の業務を手伝わされるのであまり意味はない。

 

昼休みは無難にこなし、続いて今、放課後なのだが、これが酷かった。

 

カウンター業務以外は、新着本を貸出できるように処理する業務を与えられていたのだが、

今日の放課後は利用者が少なく、

しかも皆が皆その場で読むばかりで誰もカウンターに来なかった。

更に今日は授業が5限で終わりの日だったので放課後が長い。

暇すぎて本の処理が捗ってしまい、

最終下校まで1時間半を残すところで全て終えてしまった。

そして追い打ちをかけるように、図書室に誰もいなくなってしまったのだ。

 

「いやマジ暇すぎだろ…」

 

こんな静かな空間でただ座ってるだけなんてきつ過ぎる。

襲ってきた睡魔に、仁絵が身を委ねてしまおうかと考えた時だった。

 

「すみませーん、返却お願いしまーす」

 

中学の制服を着た生徒が、5冊本を抱えて入ってきた。彼も常連だ。

 

「おー、期限内?」

 

「はい! 今日までで! 何とか読み終えましたっ」

 

「そ。…ん? 返却だけ?」

 

珍しく返却図書だけ置いて出て行こうとする少年に、

仁絵が思わず声をかけると、少年ははにかんで答えた。

 

「はい。もうすぐテスト期間なので… 

テスト期間中に借りると、最後勉強で忙しくなって返すの忘れちゃうから。」

 

「あぁ、中間テストね…。」

 

テスト勉強という概念がほぼほぼない仁絵には思いつかない理由だった。

失礼します、と少年が出て行って、また仁絵は1人になった。

彼がしばらく居座ると思っていたのが拍子抜けして、また眠気がやってくる。

たった5冊の返却処理なら、あとでやろう、と

仁絵はカウンターの椅子に座って、ほんの数分のつもりで意識を手放した。

 

 

 

~~~~♪♪~~♪♪♪~~~~

 

「っ…やばっ…!」

 

次に仁絵の意識が覚醒したのは、

あろうことか最終下校15分前を告げる放送の音楽だった。

そして、まずいことを瞬時に理解した。

この音楽は、同時に図書室の閉室を告げるものでもあるからだ。

そしてこの時間で、自動で貸出システムは締め切られ、

各種記録集計のためにシステムには入れなくなる。

 

仁絵は、先ほどの少年から受け取り、

まだ返却処理していなかった5冊の本を見てため息をつく。

 

「今日までだって言ってたよな…。延滞記録つくじゃん、最悪…。」

 

そもそもたった5冊の返却処理なんてものの数十秒で終わる処理を

何故後回しにしたのか、まさに後悔先に立たずの状況で、

仁絵はもう一度ため息をついてとりあえずその本をカウンター下に仕舞い、

図書室を閉めたのだった。

 

 

 

翌日の昼休み。

 

昼食そっちのけで、仁絵はすぐに図書室に向かった。

図書室は飲食禁止のため、昼休みの開室時間は昼休み開始後15分後なのだが、

仁絵は昼休み開始から5分後には図書の貸出システムを開いていた。

 

「あー…やっぱついてるよな…。」

 

取り急ぎ返却処理はしたものの、

昨日の少年の貸出記録にはしっかり延滞記録がついてしまっている。

延滞を3回すると貸出停止がかかる。

しかも少年は既に1回延滞していた。

今年の6月末、ちょうど期末テストの時期だ。

「返すの忘れちゃうから今回は借りない」という行動は

この反省を生かしてのものだったのだろう。

しかし、となるとこの1回は重い。何としても消さないといけない。

仁絵は、やりたくねー…、と独り言ちながら、一旦システムをログアウトした。

そして、先ほど自分が入ったアカウントと別のアカウント名を入力する。

ログインした後にユーザー名欄に表示されたのは「Kiriyama」の文字だった。

 

「返却日を操作し、延滞記録を消す」なんて特殊な処理は、

仁絵たち図書委員のアカウントでは権限が付与されていなくて出来ない。

やるためには、権限を持っている霧山のアカウントでなければならない。

一般の図書委員なら知る由もないだろうが、仁絵は霧山のアカウントを知っていた。

霧山の権限でしかできない処理も多少任されていたからだ。

しかし、それでも今回のような返却日の操作はやったことがない。

ボタンの名称からやれそうなことは知っていたものの、実際したことはなかった。

 

「これか…? で、こうして…。」

 

そして多少苦戦しながらも、何とか返却日を1日前に変更することに成功した。

もう一度ログアウトし、

今度は自分のアカウントから件の少年を検索し、貸出記録を見る。

すると、延滞記録は6月の1回だけに変わっていた。

 

「はー、何とかなった…。」

 

無事直せたことに安堵の息をついて、仁絵は返却処理した本を棚に戻しに行った。

仁絵としては、これで大丈夫、と言い聞かせていたのだが…。

 

 

 

現実は甘くなかった。

仁絵も、薄々この可能性は大いにあると気付いていたのだが。

 

 

 

「さぁ、では包み隠さず告白してもらいましょうか。」

 

 

 

その日の放課後。

 

出張から帰ってきた霧山は、

自分で「放課後は帰って来て自分が開ける」と言っていたくせに、

高校生の授業が終わった瞬間に、

「急遽図書室は今日の放課後は閉室します」と放送を流したかと思ったら、

帰宅準備をする仁絵を捕まえて図書室に連行した。

 

そして、自分はカウンター内の椅子に座り、目の前の床を指示して一言、

「そこに正座なさい。」と仁絵に言った。

仁絵が黙って示された床を見つめて動かないでいると、

霧山は呆れたようにふぅっと息をついて更に続けた。

 

「それは得策ではないと思いますけどね。

もっと言ってあげないと従えませんか。…貴方、私のアカウントで何をしました?」

 

それを聞いて、仁絵はあぁ、もう終わっていた、と全てを悟った。

 

「私のアカウントの最終ログイン日時が今日の昼休みになっていました。

私に心当たりがない以上、仁絵君以外あり得ない。

でも、そのことについて昼休みの業務日誌には何も申し送りが書かれていない。」

 

仁絵は観念して、今度こそ示された床に正座する。

ログイン日時のことは分かってはいたが、すごく小さい表示だし、

そんなところまで律儀に見ないだろうという望みに賭けたのだが、

その賭けに見事敗北したらしい。

 

そして、正座した仁絵に投げかけられたのがこの霧山の一言。

 

「さぁ、では包み隠さず告白してもらいましょうか。」

 

「えっと…ちょっと、俺の権限じゃできない処理をしたかったから…。」

 

「へぇ。それはどんな処理です?」

 

「えーっと…」

 

一か八か、取り繕ってみるか。

霧山のアカウントでしか出来ない処理を頭の中で並べ立てる。

だが、どれもすぐに調べられれば噓がばれるのは明白で、

そもそもこの尋問も既に全部分かっていてすっ呆けて聞いてきている可能性が高い以上、再びそんな賭けに打って出る勇気はなかった。

 

「返却日の修正と…延滞の…取り消し。」

 

「なるほど? 確かにそれは私の権限でないと出来ませんね。

 では、何故そんな処理が必要になったんですか? 日誌に申し送りもなく。」

 

「そ、れは…。」

 

居眠りしていたらその日の内に処理できなかったからです、

なんて口が裂けても言えない。

仁絵はその部分を誤魔化して言った。

 

「返却処理、なんか上手くいってなくて…やったと思ったんだけど。」

 

「…そうですか。では…」

 

しかし当然、こんな言い逃れが通じる相手ではなかった。

 

「返却処理をしたと思った本の貸出記録を、

どうしてわざわざ翌日に改めて調べたんですか?」

 

「え゛っ」

 

「だってそうでしょう? 

返却処理のオペレーションは、システムで返却処理をかけてから、

本棚に戻すまでが1セット。

処理をしたと思ったなら、そのまま棚に戻して終わりのはずですが。」

 

「あー…えー…」

 

あまりにも正論で、何も返せない。

言い淀む仁絵を、霧山は容赦なく追い詰める。

 

「そんな中途半端で何も理由になっていない説明で私が納得するだなんて、

思われているのなら心外ですし、

一か八かでそんな手を打っているのなら

珍しく最悪手を選択した仁絵君に驚きを隠せませんね。」

 

「っ…」

 

「まぁ、このまま押し問答を続けるほど私も気が長くはないので。」

 

そう言って立ち上がった霧山は、胸ポケットに挿していた指示棒を取り出し伸ばす。

その光景を見た仁絵はサッと青ざめた。

 

「ちょ、ちょっと…」

 

中学時代に一度、どうにも面倒で図書委員の仕事をサボった時、

風丘に告げ口されて終わりと思っていたのに実際は霧山に直々にお仕置きされた。

(ちなみに当然その後風丘にも報告されたが、

霧山が指導済みということも含めて報告したので追加のお仕置きは免れた。)

 

霧山曰く「図書委員は私の管轄ですから、監督・指導は私がします」とのことで。

そしてその時も、今霧山が手に持つ指示棒できっちり指導されたのだ。

 

図書室は防音ではない。霧山は風丘と違って個室を持っていないので、

指示棒を使うのは、音がなるべく出ないように、という配慮の結果らしいが、

風丘はあまりこういう細い系統の道具を使わないこともあってか、

ピンポイントに鋭く響く痛みが、仁絵は嫌いだった。

 

図書委員絡みできっちりお仕置きされたのはその一度きりだったものの、

普段の図書委員業務でもタラタラやっていると容赦なく指示棒がとんでくるので、

霧山が指示棒を手にしたら、反射的に仁絵は飛びのいて霧山から距離を取った。

 

「おや。誰が正座を崩して良いと言いましたかね。」

 

「いや、だって…。」

 

まだはっきり口にしない仁絵に、霧山は、今日はほんとにダメですね、と一刀両断した。

 

「まぁ、貴方がそんなに言いたがらない理由なら相当な悪事なのでしょうね。

だとすれば、早く罪状を明かした方が身のためですけれど?」

 

霧山は静かに最後通牒を突きつけた。

 

「分かってるでしょうけど、罪状が確定する前のお仕置きはノーカウントですから。

まぁ、とりあえず、勝手に正座を崩したことと、

理由はどうあれ勝手に貸出記録をいじったお仕置きから先にしましょうか。

その間に理由を説明してくれることを期待しますよ。」

 

そう言って、サッと間合いを詰めて仁絵の腕を取り、カウンターの机に手をつかせる。

この図書室のカウンターは、座って事務処理をするように造られていて、

天板は低い位置にある。手をつくと、自然とお尻を突き出すような姿勢になった。

仁絵が狼狽えていると、そこに霧山は更に追い打ちをかけてきた。

 

「やっ…おいっ」

 

いきなりズボンのバックルに手をかけてきたのだ。

仁絵が抵抗すると、すかさず霧山は指示棒を打ち下ろす。

 

ビシィィィンッ

 

「う゛っっ」

 

なんとか悲鳴は堪えたものの、やはり嫌すぎる痛みに仁絵はぎゅっと眉を寄せる。

 

「口が悪いですよ。

ちゃんとした説明も出来ないくせにそんな余計な言葉を吐くならいっそ黙りますか? 

そこに養生テープありますけど。」

 

「なっ…」

 

脅し文句だろうが、あまりの内容に仁絵が振り返って霧山を見つめて絶句している間に、

器用にもベルトを外され、制服のズボンのホックも外され、

ズボンはストンと床に落ちた。

もうこうなったら諦めるしかなくて、仁絵はカウンターに向き直ってぎゅっと目を瞑る。

 

「さて、ではまず正座を崩した分、5回。」

 

ヒュッと指示棒がしなる音が聞こえ、仁絵が痛みに備えて更に身を固くする。

が、守る布がたった1枚のお尻に炸裂したその痛みは、想像以上だった。

 

ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィィンッ

 

「あ゛あ゛っ!? いっ…っあっ…い゛い゛っ…」

 

息をつめても、漏れ出る悲鳴は完全に抑えきれなくて、

何とか姿勢だけは維持して息を乱し必死な仁絵だったが、

霧山はそんな仁絵にお構いなく次の罰を告げる。

 

「次に、貸出記録をいじった分、10回。」

 

「待っ…っ…」

 

待った、と言ったところで聞いてくれる相手ではないし、

むしろ言ったことで本当に口を塞がれるかもしれない。

仁絵はすんでのところで踏みとどまったが、

そんな仁絵の葛藤なんて知ったこっちゃない、と言わんばかりに

再びその痛みは仁絵を襲った。

 

ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ

 

「あ゛っ…いっ…くぅっ…ゔぅぅっ…っあぅっ…」

 

ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ 

ビシィィィンッ ビシィィィンッ

 

「ぐっ…くぅっ…っぁ…あ゛っ! い゛ぁっ…」

 

最後の二発は足の付け根、下着に守られてないところに炸裂し、

さしもの仁絵も声を上げ、崩れ落ちかけたのを何とか気力で持ちこたえた。

肩で息をする仁絵だったが、霧山は淡々と告げる。

 

「さて。では次は、

いつまで経っても強情で理由を隠し続けている分、でしょうかね。20回。」

 

「やっ…ちょっとストップ!」

 

この状態に今の倍やられたら到底耐えられない。

しかも、どうせその後理由を告白させられて更に罪状が追加されるし、

倍々に回数が増えている今の状況を鑑みると、20回終えたら次は40回、と

この冷徹な悪魔なら本当に言う。

仁絵はついに陥落し、

返却日をいじられなければいけなくなった顛末を正直に全て話したのだった。

 

 

 

「…というわけで…。」

 

「なるほど。つまり返却処理のオペレーションを守らず後回しにしただけでなく、

業務中にも関わらず居眠りをした結果、

返却日当日に処理が出来ずに延滞記録もついてしまったために修正した、と。」

 

「…そんな…ところ…。」

 

改めて言い直されると言い訳しようがない理由に、仁絵も視線を落とす。

ふぅ、と霧山は息をついた。

 

「まぁ、筋は通っていますね。納得しました。

そして貴方が頑なに言いたがらなかった理由も。

これだけの罪状を積み重ねたら、ただじゃすみませんものねぇ。」

 

「っ…」

 

「ではオペレーション無視で20回、居眠りで30回…」

 

「!?」

 

あまりにもな回数に仁絵が目を見開くと、

霧山はフッと恐ろしい微笑みを浮かべて続けた。

 

「といきたいところですが、そんなに打ったら私も疲れるので、

ちょっと道具を変えましょう。こんなにすぐ出番があると思いませんでしたが…。」

 

そう言って、仁絵の背後からガサゴソと霧山が何かを取り出した音がした。

 

「北海道って、乗馬が盛んなんですよね。」

 

「っ…!? や、お前まさかっ…」

 

瞬時に思い立った結論に思わず仁絵が声を荒げて抵抗しようとしたが、

それも織り込み済みだったのか背中を押さえつけられ、

カウンターに腹ばいになるような体勢で固定されてしまった。

 

「また口が悪いですねぇ。暴れたら私が打ち損じて余計に痛いですよ。」

 

「やっ…やだっ…」

 

「5発で許してあげます。反省なさい。」

 

その霧山の声の後に、ヒュゥンッと

指示棒では聞いたことがないような風を切る音が聞こえた。その刹那。

 

ピシィィン ピシィィン ピシィィンッ ピシィィンッ ピシィィィンッ

 

「あ゛あ゛っ…いった…いあ゛っ…ゔぁぁっ…ああああっ」

 

体験したことのない痛みに、仁絵は悲鳴を抑えるのも忘れて悶えることになった。

 

「はい、おしまいです。まぁ、言わずもがなでしょうけど、反省できましたか?」

 

5発打ち終わると、霧山はあっさり仁絵を解放した。

カウンターに腹ばいの姿勢のまま、崩れるように床に蹲った仁絵は、

半ば放心状態でこくこくと頷く。

 

「反省、しました…。」

 

「はい、よろしい。じゃあちょっとそっちのソファに寝ててください。

タオル濡らしてきます。

さすがにこれでケアしなかったら私が葉月に大目玉食らうので。」

 

そう言って、霧山が図書室を後にする。

ここでやるのか、と思ったものの、ほかに行く場所もないししょうがない。

臨時閉室の放送は流れたし、

もう放課後も終盤だから生徒が間違って来ることはそうないだろうが…

そんなことを考えながら一旦ズボンだけ戻し、ソファに横になっていると、

早々に霧山が帰ってきたので、ねぇ、と声をかける。

 

「鍵かけて。」

 

「はいはい、仰せのままに。」

 

そう言って、1つしかない図書室の出入り口の戸の鍵をきっちりかけて、

霧山は濡れタオルを手に仁絵の寝転ぶソファに腰掛けた。

 

「ほら、とっととお尻出してください。なんでわざわざしまったんですか。」

 

お仕置きはもう終わったはずなのに容赦ない指示が飛び、

仁絵は少しむくれながらもぞもぞと一度戻したズボンを再び下す。

ベルトは締め直してなかったのですぐに下せたものの、

下着を下すのにためらっていると、

待ちきれなかったのか霧山が容赦なくずり下ろしてきた。

 

「ゔあ゛っ! ちょっと!」

 

配慮なく下ろされたので腫れたお尻と下着が擦れた痛みに仁絵が抗議の声を上げるが、

霧山は意に介さず持っていたタオルを仁絵のお尻に乗せた。

 

ずいぶん優しさを感じないケアに内心不満に思っていると、

ふとカウンターの上に置かれたあのとんでもない代物が目に入った。

 

「…酷すぎじゃん? 俺馬じゃないんだけど。」

 

黒光りする乗馬鞭を見つめながら、仁絵が霧山を詰るが、

霧山はどこ吹く風、といった様子で、しかも衝撃の事実を告げてきた。

 

「良いじゃないですか。乗馬鞭って言ったって

正確には『乗馬鞭風の人間用』ですし。」

 

「…え?」

 

「…え? 当たり前でしょう、

本物の馬用の鞭なんて使ったら布一枚隔てた程度じゃ出血しますよ。」

 

「え、いや、じゃ、あれは…。」

 

「ちゃんと北海道で買いましたよ。

乗馬が盛んな北海道故のジョークグッズ扱いみたいでしたけど。

何故か普通の土産物屋の片隅にあったんですよね~」

 

「なっ…なっ…」

 

乗馬鞭をわざわざ人間に使う状況なんて基本的には1つ。

つまりこの鞭は、「その筋」の方々用のものということで…。

 

「あんたマジ最低! あり得ないんだけど!! 

結局あんたの趣味に付き合わされたんじゃねーか!!!」

 

「失礼ですねぇ。そういう趣味のために買ったわけじゃありませんよ。

ちゃんとこれはあなた達の躾用にいずれ使う時が来るかも、と思って買いました。

だから言ったじゃないですか。

『こんなにすぐ出番が来るなんて思わなかった』って。」

 

「この鞭見て俺ら引っ叩くことすぐに思いついたなら、

それも余計に気色悪ぃわ!」

 

吐き捨てる仁絵に、霧山はわざとらしく肩をすくめておやおや、と呟く。

 

「仁絵君。口が悪いと今日何度も指摘しているのに治りませんね。

少し躾が足りませんでしたかね。」

 

そう言って、霧山が徐に立ち上がり、凶器が放置されたカウンターに向かって歩き出す。

そして、仁絵は今お尻を出した状態。

仁絵の脳内にたちまち警鐘が鳴り響き、慌てて叫んだ。

 

「やだ、待って、言葉が悪かったです、すみません、だからそれはもういいっ…」

 

「…」

 

仁絵の言葉を聞いた瞬間、霧山はピタリと足を止め、フフッと噴き出した。

 

「さすが乗馬鞭。躾の効果は絶大ですね。」

 

そう言って、カウンター上の鞭を手に取ると、弄びながら霧山は笑った。

 

「心配しなくても、こんなもの、よほどのことがなければ使いませんよ。

仁絵君が素直で、真面目に、図書委員の仕事を全うしてくれれば。」

 

「うっ…」

 

「昨日今日とお疲れさまでした。またよろしくお願いしますね。」

 

パシンッと鞭を掌に打ち付けた音と共に微笑んでそう告げた霧山。

その鞭を携える姿があまりにも様になりすぎていて、

仁絵は(絶対趣味もあるだろ…)と

絶対口にはできないツッコミを心の中で吐きつつ、

このドS悪魔に捕まってしまっている自分の身の上を一人憂うのだった。

こんばんは半月

相変わらず夜中に失礼いたします、白瀬ですにっこり

 

さてさて、久々の番外編となりました、

葉月&花月兄妹の第3話…というか、

初めてのお仕置き編(笑)

 

元々ネタ帳の中に

初めてのスパのネタはあって、

「無理する」「とりあえず何でも大丈夫って言う」

「警告⇒アウトで初スパ」

程度のメモ書きから書いていたお話です。

 

一方で、スパのワンドロ・ワンライを

企画・運営してくださっている方がいるビックリマークというのは

当初からXで流れてきていたのを知っていて、

面白そうだなー、でも私は遅筆だし波があるし無理だなー

なんて横から眺めていたら、

「お? 今回のこのネタ、いけそう…!?」と思い、

このお話に雨の要素を足し、

「甘やかしすぎたかな」のセリフを葉月に言わせ←

(普段セリフは結構キャラが頭の中で勝手に喋るんですけど、

今回はセリフありきで意図的に言わせました笑

とはいえ、無理矢理ではなく、自然な流れで、

葉月が言いそうなところで言わせてます!!)

完成させました音譜

いつもよりは軽い小話風味ですが、

本当はダラダラ長くなるくらいなら

これくらいですっぱり完結させたい、といつも思ってます笑

 

そしてせっかくの企画参加なので鍵を外したら、

普段ならありえない数のインプレが来て

ビビっている私あせる

いつも鍵垢で引き籠っているので絶望

たくさんの方に反応していただけて嬉しかったですラブラブ

また鍵かけちゃいましたけど、

また企画に参加できそうだったらやりたいなぁと思える

素敵な体験でしたうさぎのぬいぐるみ

 

さーて、企画で気分転換を図ったのは

本編が煮詰まっているのと

思わぬお友達からのリクエストが

期限迫ってるのに全く進んでない焦りからなのですが←

とりあえず本編頑張りたい…

霧山/仁絵 です。

そんなに接点がないせいでシチュエーションから

スパに繋がってくれないのです…笑い泣き

え、そこから?ってツッコミはなしで 笑

書いては消し、を繰り返してます…。

霧山が仁絵をスパしそうな理由募集中です←

白瀬がしっくりくるのがあれば採用されるかも←(オイパンチ!)

 

プライベートでは少し前に思い立って、

超久々に女王様にスパしてもらいました昇天

大学時代に何回かお世話になっていた女王様は引退されてしまったので、

初めましての方。

(初対面だからかもですが)すっごく優しくしていただいて、

でも平手はかなり厳しくて←

久々の感覚にあぁ、やっぱり私はキーだなぁと実感するなど笑

ディシスパというよりプレイの一環のスパでしたので

純粋なリアルではないですが、ドキドキしましたラブラブ

 

それでは次は本編の後書きが書けますようにスター

これからもよろしくお願いします音譜

これは、葉月が17歳、花月が14歳の時の話。

 

季節は6月。梅雨の季節。

 

 

 

「あぁ…頭痛い…。」

 

早朝、花月は洗濯物を部屋に干しながら、

窓から見えるどんよりとした雲と

朝から早速しとしと降り続ける雨にため息をついて額に手を当てた。

 

闘病の末に1年前に亡くなった父を献身的に看病し続けた母が、

一気に気が抜けたからか疲れが蓄積していたのか、

今度は体調を崩しがちになり、家を空けることが多くなった。

 

その分、葉月と花月で日頃の家事を分担するようになったのだが、

兄の葉月は受験生。花月は率先して多くの家事を引き受けている。

 

家事自体は得意ではないが嫌いでもないので、別にそれ自体は苦ではない。

花月が悩んでいるのは、ここ最近続く雨の日の頭痛だった。

 

元々気圧の変化に敏感な花月は、

雨の日や台風シーズンはよく頭痛を感じる体質だった。

慣れているつもりだったが、この年の梅雨は本格的に長雨で、

毎日のように続く頭痛にさすがの花月も参っていた。

 

「花月ー 終わりそう? 朝ごはん準備できたよー」

 

「はーい、今いきまーす」

 

ダイニングの方から朝食を準備している葉月に呼ばれ、

我に返った花月は残っていたハンカチや靴下といった小物類をパパっと干すと

ダイニングに向かった。

 

 

 

「んー、今日は特に辛そうだね。少しは食べたら、無理しなくてもいいよ?」

 

スープとサラダを中心に少しずつ口に運ぶ顔色の優れない妹を見て、葉月が労わる。

 

「大丈夫。食べないと、薬飲めないし。

…でもパンとこのベーコンはやめとこうかな。

ごめんね、お兄ちゃん。」

 

ロールパンの乗ったお皿を脇によけ、

スプーンですくったスクランブルエッグの横にいるベーコンを見やって

花月が申し訳なさそうに言うと、

それはいいんだけど、と葉月が花月の皿からベーコンを自分の皿に移しながら

心配そうに眉を寄せる。

 

「本当にそろそろ病院行ったら? 市販薬、ずーっと飲んでても良くないよ。」

 

花月の傍らに置かれた常備している市販薬に目を向けながら葉月が言う。

 

「先週末に行くってお約束はどこに行っちゃったのかなー?」

 

花月がうっ、と言葉に詰まると、葉月は続けて揶揄い交じりの口調で言う。

 

「そんなにずっと駄々っ子してると、

お兄ちゃんが無理矢理一緒に連れてっちゃうよー?」

 

「だ、大丈夫! 本当に、酷くなったらちゃんと自分で行くから!」

 

必死な花月に、葉月は困ったように笑って、

自分の食べ終わった食器を持って立ち上がりざまに花月の頭を撫でた。

葉月は花月が恥ずかしがって嫌がっていると思っているようだが、

花月としては何より葉月の手を煩わせたくなかった。

 

「フフッ、そんなに嫌がるなら今週中にちゃんと行きなさい。

酷くなったら、って今がその時だと思うけど?」

 

「それは…っていうか今日もう金曜日…」

 

「だから今日明日で行きなさい。」

 

「そんな…」

 

しかし、気圧のせいと分かり切っているのに、

病院に行くほどのことなのかという思いもあって、

花月の足を病院から遠のかせていた。

渋る花月に、葉月はもう、と少し呆れた表情で言う。

 

「あんまり心配かけるようなことばっかりしてるとお兄ちゃんも怒りますよー。

とにかく、無理はしないで、何かあったらすぐ連絡。

病院は今週中。今度こそ約束。分かった?」

 

「…はーい。」

 

花月の食べ終わった食事を片付けに寄ってきた葉月にダメ押しでそう言われ、

花月は渋々返事をすると、

葉月が替わりに置いてくれたグラスに入った水を含んでいつもの市販薬を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「顔色真っ青だし…。さすがに今日は帰りましょう。

というか、よくそんなまで我慢したね…。」

 

養護教諭は昼休みに保健室に連れて来られた花月の顔を見るなりそう言った。

 

結局学校に登校しても症状は回復しなかった花月だが、

保健室に行くのも自らの意志ではなく、

給食をろくに食べていない花月を見て、

あと五時間目だけなのに、と抵抗する花月をものともしない友人たちに

強制連行されたのだった。

 

「一応早退になるから家族のどなたかに連絡しようか。

お迎えに呼べそうな人いる?」

 

「い、いえ! 大丈夫です、自分で帰れます!」

 

養護教諭の問いに、花月は間髪入れずにそう答えた。

 

「そう? じゃあ早退することだけ、一報入れとくから…」

 

「それも自分でするので! 大丈夫です!」

 

じゃあ、という更なる提案も即座に否定する花月に、

養護教諭は一瞬間をおいて分かった、と頷いて、メモ書きを手渡した。

 

「じゃあ本当に、気を付けて帰りなさい。

何かあったら、それが学校の電話番号だから、

家の人か学校にすぐ連絡すること。」

 

「分かりました。」

 

「はい。じゃあね。本当に気を付けて。お大事に。」

 

「ありがとうございました。」

 

ここまで言われてしまっては、さすがに帰るほかない。

教室に戻ると、予想していたかのように友人たちが帰り支度の世話を焼いてくれて、

玄関でお見送りまでしてくれた。

とっとと帰らせるためなのだろうが。

 

 

 

具合が悪いのは本当だったので、花月はとぼとぼと帰宅の道を歩く。

 

帰ったら洗濯物を取り込んで畳んだら寝るか…、

そんなことを思いながら家への最後の角を曲がった時だった。

 

「…え?」

 

家の前にタクシーが停まっている。

そして、その横に立っているのは葉月だった。

 

「お…お兄ちゃん…なんでっ…」

 

「おかえりー。保健室の先生から連絡もらったよ。

もう…結局ここまで無理して。」

 

「な、なんで、だって大丈夫って…」

 

養護教諭には連絡は大丈夫と言ったのに、と目を丸くする花月の問いには答えず、

葉月は花月の肩を叩いてタクシーに乗るように促す。

 

「ほら、とにかく病院行くよ。」

 

「え、で、でも私だいじょ…」

 

まだ言おうとする花月に、葉月はついにしびれを切らして低い声で花月、と呼んだ。

 

「朝言ったとおり、俺怒ってるけど?」

 

「っ…はい…。」

 

さすがにその兄の迫力には逆らえず、

花月はついに降参してタクシーで病院に向かったのだった。

 

 

 

 

 

処方薬とはすごいもので、病院から帰宅後、

軽く夕飯を食べて薬を飲んで寝ると、花月はみるみる回復した。

一度夜中に目を覚ましたが、頭痛がおさまった状態は久しぶりで、

軽く水分補給をした後そこから朝までぐっすり眠った。

 

すると、翌日土曜日は、まだ雨が降っているものの嘘みたいに頭痛はなくなっていて、

久方ぶりのすっきりした目覚めだった。

心配そうに部屋を覗いてきた葉月にそれを伝えると嬉しそうに笑ってくれて、

朝食・昼食、と胃に優しめの、でもとっても美味しそうな食事を出してくれた。

 

だから、忘れてしまっていた。

昨日の朝の葉月との約束のことも、

養護教諭とのやり取りも、

病院に向かう前の葉月の言葉も。

 

 

 

 

 

その日の夜。相変わらずリビングで部屋干ししていた洗濯物を畳み終えた花月を、

葉月が呼んだ。

 

「花月ちゃん。ちょっとこっちでお話ししよっか。」

 

「え…あ…えっと…」

 

その兄の顔を見て、花月は唐突に思い出した。

「怒っている」という葉月の言葉を。

 

「あの、お兄ちゃん…」

 

固まる花月を、葉月は再度呼んだ。

 

「こっちにおいで。」

 

「…はい…。」

 

険しい顔つきの葉月に続けざまに呼ばれ、

花月は葉月が腰掛けるソファの隣に座った。

 

「俺、昨日花月ちゃんとなんて約束した?」

 

「今週中に病院に行く…」

 

「うん。あともう一つ。」

 

「そ…れは…」

 

目をそらす花月だが、葉月はそれを許さず両手を花月の両頬に添えて向き直させる。

 

「もう一つ。花月ちゃんなら覚えてるでしょ。」

 

元来良い子の花月は言い逃れが下手だった。

誤魔化せない、諦めて、花月は正直に答えた。

 

「な…何かあったら…連絡する…」

 

「そう。でも、早退するって連絡は保健室の先生からしか来なかったなー。」

 

「うっ…」

 

痛いところを突かれ、花月が口ごもる。

 

「そもそも、その前の先週末に病院行くってお約束も破ってるし、

昨日も病院行くの最後の最後まで抵抗するし。病院行くっていうのもお約束でしょ?」

 

「ご…ごめんなさい…。」

 

自分の罪を並べ立てられ、

さすがに気まずくなった花月が目線だけそらして謝罪を口にすると、

葉月から花月の予想していなかった言葉が返ってきた。

 

「ダメ。」

 

「えっ…?」

 

「思ったんだよね。今回のこと、俺、花月ちゃんのことちょっと甘やかしすぎたかなって。」

 

「え…」

 

「母さん普段あんまり家にいなくなって、

花月ちゃんいつもはとっても良い子だから俺が叱るようなことなんてなかったけど、

今回はちゃんとお仕置きしよう、って決めた。

本当は最初の病院のお約束破りの時にちゃんと叱らなきゃだったなぁ、って

それは俺の反省。」

 

「お、おしおきって…?」

 

聞きなれない不穏な言葉に花月が恐る恐る聞き返すと、葉月はサラッと答えた。

 

「花月ちゃん自身はあんまりされたことないかもだけど、

学校じゃまだ残ってるでしょ?

お尻ペンペンのお仕置き。」

 

「えっ…/// や、やだ待って」

 

ストレートに言われたお仕置きの内容に花月が赤面して狼狽えるが、

もう心を決めていた葉月は早かった。

 

「待ちません。」

 

「やぁっ」

 

花月の頬に添えていた手を離すや否や今度は花月の腕を掴み、

葉月の膝の上に引き倒した。

 

「や、や…」

 

風丘家では、幼少期も含めてお尻を叩くお仕置きは一般的ではなかった。

もしかしたら遠い昔にそんなことがあったかもしれないが、記憶の限りではない。

 

学校では日常的にあった。が、葉月の言う通り、花月自身には遠い存在だった。

花月の時代は教室で皆の前で叩かれる、ということはなくなっていたので、

目にしたこともほとんどなく、

あっけらかんとしたクラスメイトたちが、生徒指導室に呼ばれて叩かれた、

なんて話をしているのを聞いた程度だ。

花月の友人にも一人常連がいて、その子から膝の上は子供みたいで恥ずかしいー、

なんて話を聞いて、

マンガみたいに膝の上で叩かれることも本当にあるんだ、と思ったくらいだった。

 

だから、お尻を叩かれる、この状況も初めてだし、

友人の言った通り確かに恥ずかしい、膝の上に乗せられるこの体勢も

もちろん初めてだし、

何なら葉月にこんなにしっかり叱られるのも初めてだし、

初めて尽くしに花月はろくに声も出せずに固まってしまった。

 

しかし、次の葉月のアクションにさすがの花月も焦ることになる。

 

「! お、お兄ちゃんっ!!」

 

葉月が花月の着ていたルームウエアのワンピースのスカート部分をまくり上げ、

お尻を覆うものが下着一枚になってしまった。

あまりの恥ずかしさに花月が叫ぶが、葉月は動じない。

 

「別に、辱めようってわけじゃないから。

ほとんど初めてだろうから手加減はするけど、

ちゃんと痛い思いして反省してもらわなきゃだからね。痛くするため。」

 

「で、でもっ…」

 

「恥ずかしいなんて思ってられないくらい痛いからね。覚悟しなさい。」

 

「えっ…」

 

そんな怖いことを言われた瞬間、振り上げられた平手が花月のお尻に落とされた。

 

バシィィンッ

 

「っいたぁぃっ」

 

痛い。

初めて受ける痛みは確かに、想像以上に痛かった。

そして、その痛みは立て続けにやってくる。

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「あぁっ…いっ…いたぁぃぃ…あぁぁっ」

 

一定で間髪なく与えられる痛みに、花月の頭は真っ白だった。

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「ぅぅっ…っあっ…いぃっ…たぁぃっ…」

 

痛みに抵抗したいと思っても、

腰に添えられた葉月の手が重石のように感じられ、

花月の上半身は固まってしまっている。

無意識に爪先がパタパタと床を打つ程度だった。

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「やぁぁっ…おにぃ…ちゃん…いたぃぃっ」

 

「痛いねぇ。こんなに痛いお仕置きされなきゃいけなくなっちゃった今回のことは

ちゃーんと反省するんだよ?」

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「いたぁぁぃ…はんせいっ…あぁっ…します、ぁぁっ…するぅっ」

 

「うん。」

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「あぁぁ…っ もう…いやぁっ…ごめんなさいっ…」

 

「うん、いい子。」

 

涙声の花月の「ごめんなさい」を聞き届け、葉月は花月の頭を優しく撫でながら、

しかし同時に放った言葉は花月にとって絶望的な容赦のないものだった。

 

「そしたらあと何回痛いの我慢したら

これからお兄ちゃんとのお約束守ってもらえるかなぁー。」

 

「!? やっ、もうちゃんと守りますっ」

 

葉月の非情な言葉に花月が慌てて口を開くが、葉月は厳しかった。

 

「でも今回3回もお約束破られたからなー。ついでに先生との約束も破ってるし。」

 

「もうしません…。しないからっ…」

 

「それを忘れないようにするお仕置きだからね。

今まで甘やかしすぎた分、今日は甘やかさないって決めたし、

最初が肝心だし…あと30かな。」

 

「ふぇ…」

 

賢い花月は痛みに泣きながらも今までの回数を何となく数えていた。

そして宣告された回数は今まで受けた分よりも多い回数。

 

涙を零して葉月に縋るが、宣言通り今日の葉月は甘やかしてくれなかった。

それどころかさっきよりも心なしか強い平手が降ってきて、

あんなに優しい兄が本気で「怒っている」と宣言するなんてよっぽどだったのだと、

いたーい平手に泣きながら本気で反省する花月なのだった。

 

 

 

「ふぇっ…っく…ふぇぇぇぇぇ…」

 

「あぁ…そんなに泣いたら目が溶けちゃうよ?笑」

 

「だって…だってぇぇぇ…」

 

30発何とか耐えきった花月は、葉月に抱き着いて大泣きしていた。

 

よく頑張りました、と葉月に抱き起され、その葉月の笑顔を見た瞬間にもうダメだった。

中学生になって、家のこともするようになって、

兄に甘えることも小学生の時よりだいぶ少なくなっていたが、

この日はもうタガが外れてしまった。

 

「まぁ、こんなちゃんとしたお仕置き初めてだろうしねぇ、しょうがないか。

フフッ、痛かった?」

 

「いたかったぁぁぁっ」

 

「まぁ、でもまだスカート捲っただけだからね。次オイタが過ぎたら今度はお尻出してもっといたーいお仕置きかな。」

 

泣きじゃくる妹をよしよしとあやしながら、

しかし今日の葉月は厳しくしっかり釘をさす。

 

「やっ…そんなの無理ぃっ…」

 

「…なら、俺との約束はちゃんと守ること。

俺が約束してって言ったことだけはちゃんと守ってほしいな。

普段はいい子過ぎるくらいだから多少のわがままやオイタはむしろ歓迎なんだけど。」

 

分かった?と頭を撫でながら泣き腫らして真っ赤になった顔を覗き込まれ、

花月は恥ずかしそうに顔をそらす。

すると、葉月はすかさずまた両頬に手を添えて目を合わせる。

 

「分かったー?」

 

「…はい。」

 

花月は小さく返事をして、頷いた。

その様子を見て、葉月はニコッと笑う。

 

「よし、これで初めてのお仕置き、全部終了!」

 

葉月に揶揄い交じりにそう言われ、花月は恥ずかしさを紛らわせるかのようにまた葉月に抱き着くのだった。

 

 

 

 

 

これが、花月が葉月からお仕置きされるようになったきっかけだった。

 

以来、高校生になっても大学生になっても相変わらず残り続ける兄からのお仕置きに、

それを受ける回数はそう多くないものの、

この時のことを時折思い出しては一人赤面しつつ、

「あの時約束を破らなければ…」と後悔する花月だった。