10月。

とある日の放課後。

 

「読書の秋」というものの、多くの学生にとってそんなことはどうでも良いことで、

校舎の北棟3階丸々ワンフロアを贅沢に使った図書室にいる面々は、

結局常連の生徒ばかり、いつもの顔ぶれだった。

 

(眠…。)

 

そんな静かな空間で、カウンターに一人座る仁絵は何とか声を押し殺した。

 

学校司書を務める霧山に、

中学2年の下半期から半ば強引に図書委員に引きずり込まれて以来、

仁絵は結局抜け出すことができずにずっと図書委員だった。

しかも、仁絵たちが高校に上がったタイミングで

司書教諭の資格を持っていた高校の教員が異動となり、

霧山が非常勤から常勤司書となるという人事が発生した。

これにより正に図書室は霧山の城となり、

仁絵は図書当番のシフト以外にも週に2日は昼休みか放課後のどちらか、

霧山と共に図書室にいる羽目になってしまっている現状。

 

その結果、貸出はもちろん、新規の本を貸出用に処理したり、傷んだ本を修理したり、

はたまた簡単なレファレンスをしたりと、

仁絵は不本意ながら、おかげさまで一通りの図書業務を一人でやれるようになっていた。

しかしそれによって、更に霧山に都合の良いように使われるようになるという悪循環も生まれている。

 

今日もそのせいで、こんなことになったのだ。

 

 

 

通常、図書委員がカウンター番をするのは、昼休み。

図書室のすぐ下は職員室なので、何かあったらすぐ霧山を呼ぶことになっている。

そして放課後は、基本的に霧山が常駐してカウンター業務を担い、

図書委員は霧山の指示の下、種々の雑務を行う、という感じだった。

したがって、基本的に図書委員の業務は霧山がいることを前提にシフトが組まれている。

 

しかし、今日の夜から明後日まで、珍しく霧山に泊りがけの出張が入った。行き先はまさかの北海道で、司書関係の研修らしい。

先週、その話を聞いて仁絵が(やった、休めんじゃん)と思ったのも束の間、

霧山は仁絵にこう言い放ったのだ。

 

「それじゃあ仁絵君、私が不在の二日間、図書室、よろしくお願いしますね。」

 

「…は?」

 

ポカンとする仁絵に、霧山は何不思議そうな顔をしているんですか、と

何故か呆れ顔で続ける。

 

「貴方なら1人でもある程度イレギュラーなものも含めて

一通りのカウンター業務こなせるでしょう。」

 

あぁ、そういうことか、と一瞬納得しつつも、聞き逃せない言葉があった。

 

「え、何、二日間、昼休みも放課後も俺に一人で番させる気?」

 

「…おや、貴方誰かと一緒に出来るんですか?」

 

しかし仁絵の問いに、わざとらしく驚いたように霧山に返され、何も言えなくなる。

 

「それは…嫌だけど…。」

 

「2日目の放課後は私が帰って来られますから。実質3コマですよ。

それじゃ、しっかりお願いしますね。サボらないように。」

 

「ちょ、ちょっとオイ!」

 

 

 

こうして決定事項、と言わんばかりに決められた図書当番。

一応、その後の当番のシフトを調整してはくれたようだが、仁絵は当番がなくても度々霧山に当番以外の業務を手伝わされるのであまり意味はない。

 

昼休みは無難にこなし、続いて今、放課後なのだが、これが酷かった。

 

カウンター業務以外は、新着本を貸出できるように処理する業務を与えられていたのだが、

今日の放課後は利用者が少なく、

しかも皆が皆その場で読むばかりで誰もカウンターに来なかった。

更に今日は授業が5限で終わりの日だったので放課後が長い。

暇すぎて本の処理が捗ってしまい、

最終下校まで1時間半を残すところで全て終えてしまった。

そして追い打ちをかけるように、図書室に誰もいなくなってしまったのだ。

 

「いやマジ暇すぎだろ…」

 

こんな静かな空間でただ座ってるだけなんてきつ過ぎる。

襲ってきた睡魔に、仁絵が身を委ねてしまおうかと考えた時だった。

 

「すみませーん、返却お願いしまーす」

 

中学の制服を着た生徒が、5冊本を抱えて入ってきた。彼も常連だ。

 

「おー、期限内?」

 

「はい! 今日までで! 何とか読み終えましたっ」

 

「そ。…ん? 返却だけ?」

 

珍しく返却図書だけ置いて出て行こうとする少年に、

仁絵が思わず声をかけると、少年ははにかんで答えた。

 

「はい。もうすぐテスト期間なので… 

テスト期間中に借りると、最後勉強で忙しくなって返すの忘れちゃうから。」

 

「あぁ、中間テストね…。」

 

テスト勉強という概念がほぼほぼない仁絵には思いつかない理由だった。

失礼します、と少年が出て行って、また仁絵は1人になった。

彼がしばらく居座ると思っていたのが拍子抜けして、また眠気がやってくる。

たった5冊の返却処理なら、あとでやろう、と

仁絵はカウンターの椅子に座って、ほんの数分のつもりで意識を手放した。

 

 

 

~~~~♪♪~~♪♪♪~~~~

 

「っ…やばっ…!」

 

次に仁絵の意識が覚醒したのは、

あろうことか最終下校15分前を告げる放送の音楽だった。

そして、まずいことを瞬時に理解した。

この音楽は、同時に図書室の閉室を告げるものでもあるからだ。

そしてこの時間で、自動で貸出システムは締め切られ、

各種記録集計のためにシステムには入れなくなる。

 

仁絵は、先ほどの少年から受け取り、

まだ返却処理していなかった5冊の本を見てため息をつく。

 

「今日までだって言ってたよな…。延滞記録つくじゃん、最悪…。」

 

そもそもたった5冊の返却処理なんてものの数十秒で終わる処理を

何故後回しにしたのか、まさに後悔先に立たずの状況で、

仁絵はもう一度ため息をついてとりあえずその本をカウンター下に仕舞い、

図書室を閉めたのだった。

 

 

 

翌日の昼休み。

 

昼食そっちのけで、仁絵はすぐに図書室に向かった。

図書室は飲食禁止のため、昼休みの開室時間は昼休み開始後15分後なのだが、

仁絵は昼休み開始から5分後には図書の貸出システムを開いていた。

 

「あー…やっぱついてるよな…。」

 

取り急ぎ返却処理はしたものの、

昨日の少年の貸出記録にはしっかり延滞記録がついてしまっている。

延滞を3回すると貸出停止がかかる。

しかも少年は既に1回延滞していた。

今年の6月末、ちょうど期末テストの時期だ。

「返すの忘れちゃうから今回は借りない」という行動は

この反省を生かしてのものだったのだろう。

しかし、となるとこの1回は重い。何としても消さないといけない。

仁絵は、やりたくねー…、と独り言ちながら、一旦システムをログアウトした。

そして、先ほど自分が入ったアカウントと別のアカウント名を入力する。

ログインした後にユーザー名欄に表示されたのは「Kiriyama」の文字だった。

 

「返却日を操作し、延滞記録を消す」なんて特殊な処理は、

仁絵たち図書委員のアカウントでは権限が付与されていなくて出来ない。

やるためには、権限を持っている霧山のアカウントでなければならない。

一般の図書委員なら知る由もないだろうが、仁絵は霧山のアカウントを知っていた。

霧山の権限でしかできない処理も多少任されていたからだ。

しかし、それでも今回のような返却日の操作はやったことがない。

ボタンの名称からやれそうなことは知っていたものの、実際したことはなかった。

 

「これか…? で、こうして…。」

 

そして多少苦戦しながらも、何とか返却日を1日前に変更することに成功した。

もう一度ログアウトし、

今度は自分のアカウントから件の少年を検索し、貸出記録を見る。

すると、延滞記録は6月の1回だけに変わっていた。

 

「はー、何とかなった…。」

 

無事直せたことに安堵の息をついて、仁絵は返却処理した本を棚に戻しに行った。

仁絵としては、これで大丈夫、と言い聞かせていたのだが…。

 

 

 

現実は甘くなかった。

仁絵も、薄々この可能性は大いにあると気付いていたのだが。

 

 

 

「さぁ、では包み隠さず告白してもらいましょうか。」

 

 

 

その日の放課後。

 

出張から帰ってきた霧山は、

自分で「放課後は帰って来て自分が開ける」と言っていたくせに、

高校生の授業が終わった瞬間に、

「急遽図書室は今日の放課後は閉室します」と放送を流したかと思ったら、

帰宅準備をする仁絵を捕まえて図書室に連行した。

 

そして、自分はカウンター内の椅子に座り、目の前の床を指示して一言、

「そこに正座なさい。」と仁絵に言った。

仁絵が黙って示された床を見つめて動かないでいると、

霧山は呆れたようにふぅっと息をついて更に続けた。

 

「それは得策ではないと思いますけどね。

もっと言ってあげないと従えませんか。…貴方、私のアカウントで何をしました?」

 

それを聞いて、仁絵はあぁ、もう終わっていた、と全てを悟った。

 

「私のアカウントの最終ログイン日時が今日の昼休みになっていました。

私に心当たりがない以上、仁絵君以外あり得ない。

でも、そのことについて昼休みの業務日誌には何も申し送りが書かれていない。」

 

仁絵は観念して、今度こそ示された床に正座する。

ログイン日時のことは分かってはいたが、すごく小さい表示だし、

そんなところまで律儀に見ないだろうという望みに賭けたのだが、

その賭けに見事敗北したらしい。

 

そして、正座した仁絵に投げかけられたのがこの霧山の一言。

 

「さぁ、では包み隠さず告白してもらいましょうか。」

 

「えっと…ちょっと、俺の権限じゃできない処理をしたかったから…。」

 

「へぇ。それはどんな処理です?」

 

「えーっと…」

 

一か八か、取り繕ってみるか。

霧山のアカウントでしか出来ない処理を頭の中で並べ立てる。

だが、どれもすぐに調べられれば噓がばれるのは明白で、

そもそもこの尋問も既に全部分かっていてすっ呆けて聞いてきている可能性が高い以上、再びそんな賭けに打って出る勇気はなかった。

 

「返却日の修正と…延滞の…取り消し。」

 

「なるほど? 確かにそれは私の権限でないと出来ませんね。

 では、何故そんな処理が必要になったんですか? 日誌に申し送りもなく。」

 

「そ、れは…。」

 

居眠りしていたらその日の内に処理できなかったからです、

なんて口が裂けても言えない。

仁絵はその部分を誤魔化して言った。

 

「返却処理、なんか上手くいってなくて…やったと思ったんだけど。」

 

「…そうですか。では…」

 

しかし当然、こんな言い逃れが通じる相手ではなかった。

 

「返却処理をしたと思った本の貸出記録を、

どうしてわざわざ翌日に改めて調べたんですか?」

 

「え゛っ」

 

「だってそうでしょう? 

返却処理のオペレーションは、システムで返却処理をかけてから、

本棚に戻すまでが1セット。

処理をしたと思ったなら、そのまま棚に戻して終わりのはずですが。」

 

「あー…えー…」

 

あまりにも正論で、何も返せない。

言い淀む仁絵を、霧山は容赦なく追い詰める。

 

「そんな中途半端で何も理由になっていない説明で私が納得するだなんて、

思われているのなら心外ですし、

一か八かでそんな手を打っているのなら

珍しく最悪手を選択した仁絵君に驚きを隠せませんね。」

 

「っ…」

 

「まぁ、このまま押し問答を続けるほど私も気が長くはないので。」

 

そう言って立ち上がった霧山は、胸ポケットに挿していた指示棒を取り出し伸ばす。

その光景を見た仁絵はサッと青ざめた。

 

「ちょ、ちょっと…」

 

中学時代に一度、どうにも面倒で図書委員の仕事をサボった時、

風丘に告げ口されて終わりと思っていたのに実際は霧山に直々にお仕置きされた。

(ちなみに当然その後風丘にも報告されたが、

霧山が指導済みということも含めて報告したので追加のお仕置きは免れた。)

 

霧山曰く「図書委員は私の管轄ですから、監督・指導は私がします」とのことで。

そしてその時も、今霧山が手に持つ指示棒できっちり指導されたのだ。

 

図書室は防音ではない。霧山は風丘と違って個室を持っていないので、

指示棒を使うのは、音がなるべく出ないように、という配慮の結果らしいが、

風丘はあまりこういう細い系統の道具を使わないこともあってか、

ピンポイントに鋭く響く痛みが、仁絵は嫌いだった。

 

図書委員絡みできっちりお仕置きされたのはその一度きりだったものの、

普段の図書委員業務でもタラタラやっていると容赦なく指示棒がとんでくるので、

霧山が指示棒を手にしたら、反射的に仁絵は飛びのいて霧山から距離を取った。

 

「おや。誰が正座を崩して良いと言いましたかね。」

 

「いや、だって…。」

 

まだはっきり口にしない仁絵に、霧山は、今日はほんとにダメですね、と一刀両断した。

 

「まぁ、貴方がそんなに言いたがらない理由なら相当な悪事なのでしょうね。

だとすれば、早く罪状を明かした方が身のためですけれど?」

 

霧山は静かに最後通牒を突きつけた。

 

「分かってるでしょうけど、罪状が確定する前のお仕置きはノーカウントですから。

まぁ、とりあえず、勝手に正座を崩したことと、

理由はどうあれ勝手に貸出記録をいじったお仕置きから先にしましょうか。

その間に理由を説明してくれることを期待しますよ。」

 

そう言って、サッと間合いを詰めて仁絵の腕を取り、カウンターの机に手をつかせる。

この図書室のカウンターは、座って事務処理をするように造られていて、

天板は低い位置にある。手をつくと、自然とお尻を突き出すような姿勢になった。

仁絵が狼狽えていると、そこに霧山は更に追い打ちをかけてきた。

 

「やっ…おいっ」

 

いきなりズボンのバックルに手をかけてきたのだ。

仁絵が抵抗すると、すかさず霧山は指示棒を打ち下ろす。

 

ビシィィィンッ

 

「う゛っっ」

 

なんとか悲鳴は堪えたものの、やはり嫌すぎる痛みに仁絵はぎゅっと眉を寄せる。

 

「口が悪いですよ。

ちゃんとした説明も出来ないくせにそんな余計な言葉を吐くならいっそ黙りますか? 

そこに養生テープありますけど。」

 

「なっ…」

 

脅し文句だろうが、あまりの内容に仁絵が振り返って霧山を見つめて絶句している間に、

器用にもベルトを外され、制服のズボンのホックも外され、

ズボンはストンと床に落ちた。

もうこうなったら諦めるしかなくて、仁絵はカウンターに向き直ってぎゅっと目を瞑る。

 

「さて、ではまず正座を崩した分、5回。」

 

ヒュッと指示棒がしなる音が聞こえ、仁絵が痛みに備えて更に身を固くする。

が、守る布がたった1枚のお尻に炸裂したその痛みは、想像以上だった。

 

ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィィンッ

 

「あ゛あ゛っ!? いっ…っあっ…い゛い゛っ…」

 

息をつめても、漏れ出る悲鳴は完全に抑えきれなくて、

何とか姿勢だけは維持して息を乱し必死な仁絵だったが、

霧山はそんな仁絵にお構いなく次の罰を告げる。

 

「次に、貸出記録をいじった分、10回。」

 

「待っ…っ…」

 

待った、と言ったところで聞いてくれる相手ではないし、

むしろ言ったことで本当に口を塞がれるかもしれない。

仁絵はすんでのところで踏みとどまったが、

そんな仁絵の葛藤なんて知ったこっちゃない、と言わんばかりに

再びその痛みは仁絵を襲った。

 

ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ

 

「あ゛っ…いっ…くぅっ…ゔぅぅっ…っあぅっ…」

 

ビシィィンッ ビシィィンッ ビシィィンッ 

ビシィィィンッ ビシィィィンッ

 

「ぐっ…くぅっ…っぁ…あ゛っ! い゛ぁっ…」

 

最後の二発は足の付け根、下着に守られてないところに炸裂し、

さしもの仁絵も声を上げ、崩れ落ちかけたのを何とか気力で持ちこたえた。

肩で息をする仁絵だったが、霧山は淡々と告げる。

 

「さて。では次は、

いつまで経っても強情で理由を隠し続けている分、でしょうかね。20回。」

 

「やっ…ちょっとストップ!」

 

この状態に今の倍やられたら到底耐えられない。

しかも、どうせその後理由を告白させられて更に罪状が追加されるし、

倍々に回数が増えている今の状況を鑑みると、20回終えたら次は40回、と

この冷徹な悪魔なら本当に言う。

仁絵はついに陥落し、

返却日をいじられなければいけなくなった顛末を正直に全て話したのだった。

 

 

 

「…というわけで…。」

 

「なるほど。つまり返却処理のオペレーションを守らず後回しにしただけでなく、

業務中にも関わらず居眠りをした結果、

返却日当日に処理が出来ずに延滞記録もついてしまったために修正した、と。」

 

「…そんな…ところ…。」

 

改めて言い直されると言い訳しようがない理由に、仁絵も視線を落とす。

ふぅ、と霧山は息をついた。

 

「まぁ、筋は通っていますね。納得しました。

そして貴方が頑なに言いたがらなかった理由も。

これだけの罪状を積み重ねたら、ただじゃすみませんものねぇ。」

 

「っ…」

 

「ではオペレーション無視で20回、居眠りで30回…」

 

「!?」

 

あまりにもな回数に仁絵が目を見開くと、

霧山はフッと恐ろしい微笑みを浮かべて続けた。

 

「といきたいところですが、そんなに打ったら私も疲れるので、

ちょっと道具を変えましょう。こんなにすぐ出番があると思いませんでしたが…。」

 

そう言って、仁絵の背後からガサゴソと霧山が何かを取り出した音がした。

 

「北海道って、乗馬が盛んなんですよね。」

 

「っ…!? や、お前まさかっ…」

 

瞬時に思い立った結論に思わず仁絵が声を荒げて抵抗しようとしたが、

それも織り込み済みだったのか背中を押さえつけられ、

カウンターに腹ばいになるような体勢で固定されてしまった。

 

「また口が悪いですねぇ。暴れたら私が打ち損じて余計に痛いですよ。」

 

「やっ…やだっ…」

 

「5発で許してあげます。反省なさい。」

 

その霧山の声の後に、ヒュゥンッと

指示棒では聞いたことがないような風を切る音が聞こえた。その刹那。

 

ピシィィン ピシィィン ピシィィンッ ピシィィンッ ピシィィィンッ

 

「あ゛あ゛っ…いった…いあ゛っ…ゔぁぁっ…ああああっ」

 

体験したことのない痛みに、仁絵は悲鳴を抑えるのも忘れて悶えることになった。

 

「はい、おしまいです。まぁ、言わずもがなでしょうけど、反省できましたか?」

 

5発打ち終わると、霧山はあっさり仁絵を解放した。

カウンターに腹ばいの姿勢のまま、崩れるように床に蹲った仁絵は、

半ば放心状態でこくこくと頷く。

 

「反省、しました…。」

 

「はい、よろしい。じゃあちょっとそっちのソファに寝ててください。

タオル濡らしてきます。

さすがにこれでケアしなかったら私が葉月に大目玉食らうので。」

 

そう言って、霧山が図書室を後にする。

ここでやるのか、と思ったものの、ほかに行く場所もないししょうがない。

臨時閉室の放送は流れたし、

もう放課後も終盤だから生徒が間違って来ることはそうないだろうが…

そんなことを考えながら一旦ズボンだけ戻し、ソファに横になっていると、

早々に霧山が帰ってきたので、ねぇ、と声をかける。

 

「鍵かけて。」

 

「はいはい、仰せのままに。」

 

そう言って、1つしかない図書室の出入り口の戸の鍵をきっちりかけて、

霧山は濡れタオルを手に仁絵の寝転ぶソファに腰掛けた。

 

「ほら、とっととお尻出してください。なんでわざわざしまったんですか。」

 

お仕置きはもう終わったはずなのに容赦ない指示が飛び、

仁絵は少しむくれながらもぞもぞと一度戻したズボンを再び下す。

ベルトは締め直してなかったのですぐに下せたものの、

下着を下すのにためらっていると、

待ちきれなかったのか霧山が容赦なくずり下ろしてきた。

 

「ゔあ゛っ! ちょっと!」

 

配慮なく下ろされたので腫れたお尻と下着が擦れた痛みに仁絵が抗議の声を上げるが、

霧山は意に介さず持っていたタオルを仁絵のお尻に乗せた。

 

ずいぶん優しさを感じないケアに内心不満に思っていると、

ふとカウンターの上に置かれたあのとんでもない代物が目に入った。

 

「…酷すぎじゃん? 俺馬じゃないんだけど。」

 

黒光りする乗馬鞭を見つめながら、仁絵が霧山を詰るが、

霧山はどこ吹く風、といった様子で、しかも衝撃の事実を告げてきた。

 

「良いじゃないですか。乗馬鞭って言ったって

正確には『乗馬鞭風の人間用』ですし。」

 

「…え?」

 

「…え? 当たり前でしょう、

本物の馬用の鞭なんて使ったら布一枚隔てた程度じゃ出血しますよ。」

 

「え、いや、じゃ、あれは…。」

 

「ちゃんと北海道で買いましたよ。

乗馬が盛んな北海道故のジョークグッズ扱いみたいでしたけど。

何故か普通の土産物屋の片隅にあったんですよね~」

 

「なっ…なっ…」

 

乗馬鞭をわざわざ人間に使う状況なんて基本的には1つ。

つまりこの鞭は、「その筋」の方々用のものということで…。

 

「あんたマジ最低! あり得ないんだけど!! 

結局あんたの趣味に付き合わされたんじゃねーか!!!」

 

「失礼ですねぇ。そういう趣味のために買ったわけじゃありませんよ。

ちゃんとこれはあなた達の躾用にいずれ使う時が来るかも、と思って買いました。

だから言ったじゃないですか。

『こんなにすぐ出番が来るなんて思わなかった』って。」

 

「この鞭見て俺ら引っ叩くことすぐに思いついたなら、

それも余計に気色悪ぃわ!」

 

吐き捨てる仁絵に、霧山はわざとらしく肩をすくめておやおや、と呟く。

 

「仁絵君。口が悪いと今日何度も指摘しているのに治りませんね。

少し躾が足りませんでしたかね。」

 

そう言って、霧山が徐に立ち上がり、凶器が放置されたカウンターに向かって歩き出す。

そして、仁絵は今お尻を出した状態。

仁絵の脳内にたちまち警鐘が鳴り響き、慌てて叫んだ。

 

「やだ、待って、言葉が悪かったです、すみません、だからそれはもういいっ…」

 

「…」

 

仁絵の言葉を聞いた瞬間、霧山はピタリと足を止め、フフッと噴き出した。

 

「さすが乗馬鞭。躾の効果は絶大ですね。」

 

そう言って、カウンター上の鞭を手に取ると、弄びながら霧山は笑った。

 

「心配しなくても、こんなもの、よほどのことがなければ使いませんよ。

仁絵君が素直で、真面目に、図書委員の仕事を全うしてくれれば。」

 

「うっ…」

 

「昨日今日とお疲れさまでした。またよろしくお願いしますね。」

 

パシンッと鞭を掌に打ち付けた音と共に微笑んでそう告げた霧山。

その鞭を携える姿があまりにも様になりすぎていて、

仁絵は(絶対趣味もあるだろ…)と

絶対口にはできないツッコミを心の中で吐きつつ、

このドS悪魔に捕まってしまっている自分の身の上を一人憂うのだった。

こんばんは半月

相変わらず夜中に失礼いたします、白瀬ですにっこり

 

さてさて、久々の番外編となりました、

葉月&花月兄妹の第3話…というか、

初めてのお仕置き編(笑)

 

元々ネタ帳の中に

初めてのスパのネタはあって、

「無理する」「とりあえず何でも大丈夫って言う」

「警告⇒アウトで初スパ」

程度のメモ書きから書いていたお話です。

 

一方で、スパのワンドロ・ワンライを

企画・運営してくださっている方がいるビックリマークというのは

当初からXで流れてきていたのを知っていて、

面白そうだなー、でも私は遅筆だし波があるし無理だなー

なんて横から眺めていたら、

「お? 今回のこのネタ、いけそう…!?」と思い、

このお話に雨の要素を足し、

「甘やかしすぎたかな」のセリフを葉月に言わせ←

(普段セリフは結構キャラが頭の中で勝手に喋るんですけど、

今回はセリフありきで意図的に言わせました笑

とはいえ、無理矢理ではなく、自然な流れで、

葉月が言いそうなところで言わせてます!!)

完成させました音譜

いつもよりは軽い小話風味ですが、

本当はダラダラ長くなるくらいなら

これくらいですっぱり完結させたい、といつも思ってます笑

 

そしてせっかくの企画参加なので鍵を外したら、

普段ならありえない数のインプレが来て

ビビっている私あせる

いつも鍵垢で引き籠っているので絶望

たくさんの方に反応していただけて嬉しかったですラブラブ

また鍵かけちゃいましたけど、

また企画に参加できそうだったらやりたいなぁと思える

素敵な体験でしたうさぎのぬいぐるみ

 

さーて、企画で気分転換を図ったのは

本編が煮詰まっているのと

思わぬお友達からのリクエストが

期限迫ってるのに全く進んでない焦りからなのですが←

とりあえず本編頑張りたい…

霧山/仁絵 です。

そんなに接点がないせいでシチュエーションから

スパに繋がってくれないのです…笑い泣き

え、そこから?ってツッコミはなしで 笑

書いては消し、を繰り返してます…。

霧山が仁絵をスパしそうな理由募集中です←

白瀬がしっくりくるのがあれば採用されるかも←(オイパンチ!)

 

プライベートでは少し前に思い立って、

超久々に女王様にスパしてもらいました昇天

大学時代に何回かお世話になっていた女王様は引退されてしまったので、

初めましての方。

(初対面だからかもですが)すっごく優しくしていただいて、

でも平手はかなり厳しくて←

久々の感覚にあぁ、やっぱり私はキーだなぁと実感するなど笑

ディシスパというよりプレイの一環のスパでしたので

純粋なリアルではないですが、ドキドキしましたラブラブ

 

それでは次は本編の後書きが書けますようにスター

これからもよろしくお願いします音譜

これは、葉月が17歳、花月が14歳の時の話。

 

季節は6月。梅雨の季節。

 

 

 

「あぁ…頭痛い…。」

 

早朝、花月は洗濯物を部屋に干しながら、

窓から見えるどんよりとした雲と

朝から早速しとしと降り続ける雨にため息をついて額に手を当てた。

 

闘病の末に1年前に亡くなった父を献身的に看病し続けた母が、

一気に気が抜けたからか疲れが蓄積していたのか、

今度は体調を崩しがちになり、家を空けることが多くなった。

 

その分、葉月と花月で日頃の家事を分担するようになったのだが、

兄の葉月は受験生。花月は率先して多くの家事を引き受けている。

 

家事自体は得意ではないが嫌いでもないので、別にそれ自体は苦ではない。

花月が悩んでいるのは、ここ最近続く雨の日の頭痛だった。

 

元々気圧の変化に敏感な花月は、

雨の日や台風シーズンはよく頭痛を感じる体質だった。

慣れているつもりだったが、この年の梅雨は本格的に長雨で、

毎日のように続く頭痛にさすがの花月も参っていた。

 

「花月ー 終わりそう? 朝ごはん準備できたよー」

 

「はーい、今いきまーす」

 

ダイニングの方から朝食を準備している葉月に呼ばれ、

我に返った花月は残っていたハンカチや靴下といった小物類をパパっと干すと

ダイニングに向かった。

 

 

 

「んー、今日は特に辛そうだね。少しは食べたら、無理しなくてもいいよ?」

 

スープとサラダを中心に少しずつ口に運ぶ顔色の優れない妹を見て、葉月が労わる。

 

「大丈夫。食べないと、薬飲めないし。

…でもパンとこのベーコンはやめとこうかな。

ごめんね、お兄ちゃん。」

 

ロールパンの乗ったお皿を脇によけ、

スプーンですくったスクランブルエッグの横にいるベーコンを見やって

花月が申し訳なさそうに言うと、

それはいいんだけど、と葉月が花月の皿からベーコンを自分の皿に移しながら

心配そうに眉を寄せる。

 

「本当にそろそろ病院行ったら? 市販薬、ずーっと飲んでても良くないよ。」

 

花月の傍らに置かれた常備している市販薬に目を向けながら葉月が言う。

 

「先週末に行くってお約束はどこに行っちゃったのかなー?」

 

花月がうっ、と言葉に詰まると、葉月は続けて揶揄い交じりの口調で言う。

 

「そんなにずっと駄々っ子してると、

お兄ちゃんが無理矢理一緒に連れてっちゃうよー?」

 

「だ、大丈夫! 本当に、酷くなったらちゃんと自分で行くから!」

 

必死な花月に、葉月は困ったように笑って、

自分の食べ終わった食器を持って立ち上がりざまに花月の頭を撫でた。

葉月は花月が恥ずかしがって嫌がっていると思っているようだが、

花月としては何より葉月の手を煩わせたくなかった。

 

「フフッ、そんなに嫌がるなら今週中にちゃんと行きなさい。

酷くなったら、って今がその時だと思うけど?」

 

「それは…っていうか今日もう金曜日…」

 

「だから今日明日で行きなさい。」

 

「そんな…」

 

しかし、気圧のせいと分かり切っているのに、

病院に行くほどのことなのかという思いもあって、

花月の足を病院から遠のかせていた。

渋る花月に、葉月はもう、と少し呆れた表情で言う。

 

「あんまり心配かけるようなことばっかりしてるとお兄ちゃんも怒りますよー。

とにかく、無理はしないで、何かあったらすぐ連絡。

病院は今週中。今度こそ約束。分かった?」

 

「…はーい。」

 

花月の食べ終わった食事を片付けに寄ってきた葉月にダメ押しでそう言われ、

花月は渋々返事をすると、

葉月が替わりに置いてくれたグラスに入った水を含んでいつもの市販薬を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「顔色真っ青だし…。さすがに今日は帰りましょう。

というか、よくそんなまで我慢したね…。」

 

養護教諭は昼休みに保健室に連れて来られた花月の顔を見るなりそう言った。

 

結局学校に登校しても症状は回復しなかった花月だが、

保健室に行くのも自らの意志ではなく、

給食をろくに食べていない花月を見て、

あと五時間目だけなのに、と抵抗する花月をものともしない友人たちに

強制連行されたのだった。

 

「一応早退になるから家族のどなたかに連絡しようか。

お迎えに呼べそうな人いる?」

 

「い、いえ! 大丈夫です、自分で帰れます!」

 

養護教諭の問いに、花月は間髪入れずにそう答えた。

 

「そう? じゃあ早退することだけ、一報入れとくから…」

 

「それも自分でするので! 大丈夫です!」

 

じゃあ、という更なる提案も即座に否定する花月に、

養護教諭は一瞬間をおいて分かった、と頷いて、メモ書きを手渡した。

 

「じゃあ本当に、気を付けて帰りなさい。

何かあったら、それが学校の電話番号だから、

家の人か学校にすぐ連絡すること。」

 

「分かりました。」

 

「はい。じゃあね。本当に気を付けて。お大事に。」

 

「ありがとうございました。」

 

ここまで言われてしまっては、さすがに帰るほかない。

教室に戻ると、予想していたかのように友人たちが帰り支度の世話を焼いてくれて、

玄関でお見送りまでしてくれた。

とっとと帰らせるためなのだろうが。

 

 

 

具合が悪いのは本当だったので、花月はとぼとぼと帰宅の道を歩く。

 

帰ったら洗濯物を取り込んで畳んだら寝るか…、

そんなことを思いながら家への最後の角を曲がった時だった。

 

「…え?」

 

家の前にタクシーが停まっている。

そして、その横に立っているのは葉月だった。

 

「お…お兄ちゃん…なんでっ…」

 

「おかえりー。保健室の先生から連絡もらったよ。

もう…結局ここまで無理して。」

 

「な、なんで、だって大丈夫って…」

 

養護教諭には連絡は大丈夫と言ったのに、と目を丸くする花月の問いには答えず、

葉月は花月の肩を叩いてタクシーに乗るように促す。

 

「ほら、とにかく病院行くよ。」

 

「え、で、でも私だいじょ…」

 

まだ言おうとする花月に、葉月はついにしびれを切らして低い声で花月、と呼んだ。

 

「朝言ったとおり、俺怒ってるけど?」

 

「っ…はい…。」

 

さすがにその兄の迫力には逆らえず、

花月はついに降参してタクシーで病院に向かったのだった。

 

 

 

 

 

処方薬とはすごいもので、病院から帰宅後、

軽く夕飯を食べて薬を飲んで寝ると、花月はみるみる回復した。

一度夜中に目を覚ましたが、頭痛がおさまった状態は久しぶりで、

軽く水分補給をした後そこから朝までぐっすり眠った。

 

すると、翌日土曜日は、まだ雨が降っているものの嘘みたいに頭痛はなくなっていて、

久方ぶりのすっきりした目覚めだった。

心配そうに部屋を覗いてきた葉月にそれを伝えると嬉しそうに笑ってくれて、

朝食・昼食、と胃に優しめの、でもとっても美味しそうな食事を出してくれた。

 

だから、忘れてしまっていた。

昨日の朝の葉月との約束のことも、

養護教諭とのやり取りも、

病院に向かう前の葉月の言葉も。

 

 

 

 

 

その日の夜。相変わらずリビングで部屋干ししていた洗濯物を畳み終えた花月を、

葉月が呼んだ。

 

「花月ちゃん。ちょっとこっちでお話ししよっか。」

 

「え…あ…えっと…」

 

その兄の顔を見て、花月は唐突に思い出した。

「怒っている」という葉月の言葉を。

 

「あの、お兄ちゃん…」

 

固まる花月を、葉月は再度呼んだ。

 

「こっちにおいで。」

 

「…はい…。」

 

険しい顔つきの葉月に続けざまに呼ばれ、

花月は葉月が腰掛けるソファの隣に座った。

 

「俺、昨日花月ちゃんとなんて約束した?」

 

「今週中に病院に行く…」

 

「うん。あともう一つ。」

 

「そ…れは…」

 

目をそらす花月だが、葉月はそれを許さず両手を花月の両頬に添えて向き直させる。

 

「もう一つ。花月ちゃんなら覚えてるでしょ。」

 

元来良い子の花月は言い逃れが下手だった。

誤魔化せない、諦めて、花月は正直に答えた。

 

「な…何かあったら…連絡する…」

 

「そう。でも、早退するって連絡は保健室の先生からしか来なかったなー。」

 

「うっ…」

 

痛いところを突かれ、花月が口ごもる。

 

「そもそも、その前の先週末に病院行くってお約束も破ってるし、

昨日も病院行くの最後の最後まで抵抗するし。病院行くっていうのもお約束でしょ?」

 

「ご…ごめんなさい…。」

 

自分の罪を並べ立てられ、

さすがに気まずくなった花月が目線だけそらして謝罪を口にすると、

葉月から花月の予想していなかった言葉が返ってきた。

 

「ダメ。」

 

「えっ…?」

 

「思ったんだよね。今回のこと、俺、花月ちゃんのことちょっと甘やかしすぎたかなって。」

 

「え…」

 

「母さん普段あんまり家にいなくなって、

花月ちゃんいつもはとっても良い子だから俺が叱るようなことなんてなかったけど、

今回はちゃんとお仕置きしよう、って決めた。

本当は最初の病院のお約束破りの時にちゃんと叱らなきゃだったなぁ、って

それは俺の反省。」

 

「お、おしおきって…?」

 

聞きなれない不穏な言葉に花月が恐る恐る聞き返すと、葉月はサラッと答えた。

 

「花月ちゃん自身はあんまりされたことないかもだけど、

学校じゃまだ残ってるでしょ?

お尻ペンペンのお仕置き。」

 

「えっ…/// や、やだ待って」

 

ストレートに言われたお仕置きの内容に花月が赤面して狼狽えるが、

もう心を決めていた葉月は早かった。

 

「待ちません。」

 

「やぁっ」

 

花月の頬に添えていた手を離すや否や今度は花月の腕を掴み、

葉月の膝の上に引き倒した。

 

「や、や…」

 

風丘家では、幼少期も含めてお尻を叩くお仕置きは一般的ではなかった。

もしかしたら遠い昔にそんなことがあったかもしれないが、記憶の限りではない。

 

学校では日常的にあった。が、葉月の言う通り、花月自身には遠い存在だった。

花月の時代は教室で皆の前で叩かれる、ということはなくなっていたので、

目にしたこともほとんどなく、

あっけらかんとしたクラスメイトたちが、生徒指導室に呼ばれて叩かれた、

なんて話をしているのを聞いた程度だ。

花月の友人にも一人常連がいて、その子から膝の上は子供みたいで恥ずかしいー、

なんて話を聞いて、

マンガみたいに膝の上で叩かれることも本当にあるんだ、と思ったくらいだった。

 

だから、お尻を叩かれる、この状況も初めてだし、

友人の言った通り確かに恥ずかしい、膝の上に乗せられるこの体勢も

もちろん初めてだし、

何なら葉月にこんなにしっかり叱られるのも初めてだし、

初めて尽くしに花月はろくに声も出せずに固まってしまった。

 

しかし、次の葉月のアクションにさすがの花月も焦ることになる。

 

「! お、お兄ちゃんっ!!」

 

葉月が花月の着ていたルームウエアのワンピースのスカート部分をまくり上げ、

お尻を覆うものが下着一枚になってしまった。

あまりの恥ずかしさに花月が叫ぶが、葉月は動じない。

 

「別に、辱めようってわけじゃないから。

ほとんど初めてだろうから手加減はするけど、

ちゃんと痛い思いして反省してもらわなきゃだからね。痛くするため。」

 

「で、でもっ…」

 

「恥ずかしいなんて思ってられないくらい痛いからね。覚悟しなさい。」

 

「えっ…」

 

そんな怖いことを言われた瞬間、振り上げられた平手が花月のお尻に落とされた。

 

バシィィンッ

 

「っいたぁぃっ」

 

痛い。

初めて受ける痛みは確かに、想像以上に痛かった。

そして、その痛みは立て続けにやってくる。

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「あぁっ…いっ…いたぁぃぃ…あぁぁっ」

 

一定で間髪なく与えられる痛みに、花月の頭は真っ白だった。

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「ぅぅっ…っあっ…いぃっ…たぁぃっ…」

 

痛みに抵抗したいと思っても、

腰に添えられた葉月の手が重石のように感じられ、

花月の上半身は固まってしまっている。

無意識に爪先がパタパタと床を打つ程度だった。

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「やぁぁっ…おにぃ…ちゃん…いたぃぃっ」

 

「痛いねぇ。こんなに痛いお仕置きされなきゃいけなくなっちゃった今回のことは

ちゃーんと反省するんだよ?」

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「いたぁぁぃ…はんせいっ…あぁっ…します、ぁぁっ…するぅっ」

 

「うん。」

 

バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ

 

「あぁぁ…っ もう…いやぁっ…ごめんなさいっ…」

 

「うん、いい子。」

 

涙声の花月の「ごめんなさい」を聞き届け、葉月は花月の頭を優しく撫でながら、

しかし同時に放った言葉は花月にとって絶望的な容赦のないものだった。

 

「そしたらあと何回痛いの我慢したら

これからお兄ちゃんとのお約束守ってもらえるかなぁー。」

 

「!? やっ、もうちゃんと守りますっ」

 

葉月の非情な言葉に花月が慌てて口を開くが、葉月は厳しかった。

 

「でも今回3回もお約束破られたからなー。ついでに先生との約束も破ってるし。」

 

「もうしません…。しないからっ…」

 

「それを忘れないようにするお仕置きだからね。

今まで甘やかしすぎた分、今日は甘やかさないって決めたし、

最初が肝心だし…あと30かな。」

 

「ふぇ…」

 

賢い花月は痛みに泣きながらも今までの回数を何となく数えていた。

そして宣告された回数は今まで受けた分よりも多い回数。

 

涙を零して葉月に縋るが、宣言通り今日の葉月は甘やかしてくれなかった。

それどころかさっきよりも心なしか強い平手が降ってきて、

あんなに優しい兄が本気で「怒っている」と宣言するなんてよっぽどだったのだと、

いたーい平手に泣きながら本気で反省する花月なのだった。

 

 

 

「ふぇっ…っく…ふぇぇぇぇぇ…」

 

「あぁ…そんなに泣いたら目が溶けちゃうよ?笑」

 

「だって…だってぇぇぇ…」

 

30発何とか耐えきった花月は、葉月に抱き着いて大泣きしていた。

 

よく頑張りました、と葉月に抱き起され、その葉月の笑顔を見た瞬間にもうダメだった。

中学生になって、家のこともするようになって、

兄に甘えることも小学生の時よりだいぶ少なくなっていたが、

この日はもうタガが外れてしまった。

 

「まぁ、こんなちゃんとしたお仕置き初めてだろうしねぇ、しょうがないか。

フフッ、痛かった?」

 

「いたかったぁぁぁっ」

 

「まぁ、でもまだスカート捲っただけだからね。次オイタが過ぎたら今度はお尻出してもっといたーいお仕置きかな。」

 

泣きじゃくる妹をよしよしとあやしながら、

しかし今日の葉月は厳しくしっかり釘をさす。

 

「やっ…そんなの無理ぃっ…」

 

「…なら、俺との約束はちゃんと守ること。

俺が約束してって言ったことだけはちゃんと守ってほしいな。

普段はいい子過ぎるくらいだから多少のわがままやオイタはむしろ歓迎なんだけど。」

 

分かった?と頭を撫でながら泣き腫らして真っ赤になった顔を覗き込まれ、

花月は恥ずかしそうに顔をそらす。

すると、葉月はすかさずまた両頬に手を添えて目を合わせる。

 

「分かったー?」

 

「…はい。」

 

花月は小さく返事をして、頷いた。

その様子を見て、葉月はニコッと笑う。

 

「よし、これで初めてのお仕置き、全部終了!」

 

葉月に揶揄い交じりにそう言われ、花月は恥ずかしさを紛らわせるかのようにまた葉月に抱き着くのだった。

 

 

 

 

 

これが、花月が葉月からお仕置きされるようになったきっかけだった。

 

以来、高校生になっても大学生になっても相変わらず残り続ける兄からのお仕置きに、

それを受ける回数はそう多くないものの、

この時のことを時折思い出しては一人赤面しつつ、

「あの時約束を破らなければ…」と後悔する花月だった。

 

年度末でバタバタしてしまい

変な時間に更新で申し訳ありません泣くうさぎ

日程アンケートご協力ありがとうございましたビックリマーク

 

●ツイキャス
予定日時:3月29日 金曜日 22:00頃~(終了時間未定)←残業の様子により前後するかもです💦

主な内容:・フリートーク(最近アップしたお話やマシュマロやお題箱に来た質問等)

・話すネタ用に用意したいくつかの100の質問回答しながらだらだらおしゃべり

URL : http://twitcasting.tv/tsubameshirase
閲覧パスワード:spa

 

バックナンバーは残すかは毎度のことですが未定です💦

 

質問はいつも使っているお題箱や

匿名メッセージサービス「マシュマロ」で受付中です音譜

個人情報に関わることを除いて(笑)

基本全てにお答えしようと思ってますので、

よろしければ下記からご質問くださいニコニコ

キャス中リアルタイムでも大丈夫ですビックリマーク

https://marshmallow-qa.com/tsubameshirase

 

マシュマロ&お題箱がうまく使えない場合は、ブログのコメントでもOKです。

(白瀬が承認しなければ公開されないのでご安心くださいー)

それでは、ご都合つく方、是非流し聴きしてやってください(笑)

コメント・マシュマロ等で参加していただけると更に喜びますほっこり

こんばんは半月

夜中に失礼いたします、白瀬ですにっこり

 

さてさて、遅くなってしまいましたが、

メガネ教師後書き!

実は6話も書いてなかったので

ちょっとだけ6話についても汗うさぎ

 

定期的に入るスパシーンマンネリ&スランプ脱却のために

ただただスパシーンメインで書いたお話。

悪さも割とド定番だし、組み合わせも風丘/惣一・つばめ で

ほんとにシンプル。

話数カウントするか迷ったくらい 笑

でも何だかんだ楽しく書けたし、

それなりに出来たかなっと思ったのでアップしましたにやり

 

そしてその後の7話。

これは正直言うと若干不完全燃焼…泣くうさぎ

まだ若干マンネリ&スランプ続いてる中での

夜須斗スパシーンは難関でした…絶望

夜須斗キーはかなり待ち望まれていて、

喜んでいただいた感想たくさん頂いていて

とてもとても感謝なのです!!

でもだからこそ、もっと書けたかなー、とちょっと個人的には…←

もちろん、現時点でのベストは尽くしているつもりですがビックリマーク

やっばり夜須斗のスパは難しい。。。

せっかくスパ欲高めの時に書いたのに悔しい…。

 

テーマは原点回帰。6話に引き続き、

ベタなネタでベタにスパされる高校生の夜須斗を書きたかった。

私の脳内ストーリーの中で夜須斗は仁絵以上に成長が早くて、

もう中々日常的なスパされるような

かわいい悪さをしなくなってきてしまっているのですが、、、

そんな夜須斗の精神年齢を引き戻す雲居先生ニヤ

 

ちなみに、惣一と夜須斗の取引がバレたのは、

雲居が今日の掃除当番、夜須斗いたはずだからからかって遊ぼうと

意気揚々待っていたら惣一が来て、あれ?となって

風丘に告げ口したのがきっかけです笑

風丘は言うとさらに夜須斗が雲居に対してへそを曲げるのを分かってるから

感付かれてるだろうなと思いつつ黙ってます。

どうでもいい裏設定 笑

風丘と雲居のお話場面差し挟もうかと思ったけどカットしちゃいました。。

 

それから1本番外編。可哀そうな須王さん笑

ひたすら会話文のみなので、誰の発言かわからないセリフもあるかもしれませんあせる

普段はわりとプロットできた後は

こうやって脳内で喋るキャラの言葉をつらつら書いて、

間を状況説明や心情描写の文章で埋めるという感じで作っていますので、

これは第二段階出来上がったくらいのいわば書きかけ←

ただまとまる気配がなかったのと、

ここまで書いたからお蔵は勿体ないかなぁというしょうもない気持ちが顔を出し、

アップしてしまいましたほっこり

いつかはこの当時のお話を書いてみたいけど、

今のところ書ける気がしないので、思い出話でお許しください 笑

 

さて、次回本編ですが、6話・7話とわりとシンプルな定番スパが続いたので

少し捻ったエピソード書きたいなぁ、カーも風丘以外かなぁ、とか考えてますが

まだ何にも決まってません!!!!!!

個人的願望は霧山/仁絵 そろそろ書きたい。

でも霧山がなかなか絡んでこない… 雲居も今回名前だけだったし…悩み中です。

 

あとエックスでも散々喚いてましたが←

stさんのを1つ形にしようかな、と画策中。

今日またネタが投下されたのでね。

キャスも1回どこかでやりたいですね!! 今回はキャスの予定。

こんな年度末に出来るかどうかは、来週の人事異動で決まります笑

…っていうか人事異動出る前にst書かなきゃ

また長期雲隠れしてしまうかもなので。。

 

プライベートでは、これもちょくちょくエックスで呟いてますが

ストの合間にK-POPを差し挟むようになった結果

K-POPにも少し推しが出来ました笑 YouTubeで動画見るだけの推し笑

…ファンの方には殺されそうな超にわかですが

イケメンはやっぱりいいですね、心の栄養になりますうさぎのぬいぐるみ

 

ここ最近立て続けに友人が彼氏とお別れしていて、

その話を聞く度、私には無理だなぁとなっている

悲しい独身アラサーでした←

(画面越しにイケメン見てかっこいいなぁと思っているくらいがちょうどいい。

私生活に入ってきてほしくない。

このままじゃ一生結婚どころかもう二度とお付き合いも無理だな←)

 

なんか最後悲しげな終わり方になってますが、

白瀬は今充実してるので元気ですよラブラブ

スパ欲も高めです!!

それではまたお会いしましょう音譜