「ひーくん、お祭り行こっっ」

 

「・・・お祭り? ・・・って、こんなやり取り前もしなかったか?」

 

夏休み直前の7月半ば。
いつぞやの如く、洲矢がニコニコ笑顔で仁絵を誘う。

 

「そうそう、八幡神社の夏祭り! 今週の3連休にあるやつ! 

この辺じゃかなり大きくて有名なんだよっ 花火大会もあるしっ」

 

「いや、それは俺も知ってるけど・・・」

 

この辺りで生まれ育てば、

街が1年の内1,2を争う程盛り上がる夏祭りはいやでも認識する。

 

「僕と惣一は毎年行ってるんだけど、皆で行ったことないじゃん、だからっ」

 

そう言ってつばめも飛びついてくる。

重い、引っつくな、とつばめをいなしながら、仁絵はつばめの背後を見やった。

 

「はぁ・・・ 夜須斗も・・・って、その顔は説得済みか。」

 

盛り上がる洲矢・つばめ・惣一の背後で、

やれやれ、といった表情の夜須斗を見て、仁絵は苦笑する。

 

「・・・分かったよ。行く。」

 

「やったぁぁぁっ!!!」

「つばめうるさい・・・」

 

仁絵の返事に飛び上がって喜ぶつばめの大声に、夜須斗が顔をしかめる。
洲矢も更にニコニコ笑顔になって、はしゃいで仁絵に話す。

 

「一緒に浴衣着てこーねっ ひーくんっ」

 

「は? 俺、浴衣なんて持ってねーけど・・・ 実家じゃねーし・・・」
 

戸惑う仁絵に構わず、洲矢は自信満々の様子で言った。

 

「大丈夫大丈夫! 待ち合わせ、僕の家にしよっ ちょっと早めの時間にっ」

 

「・・・え?」

 

 

 

 

 

「お、おぉぉ~~~」
「うっわぁ、すっごい・・・」

 

「・・・何だよ、そのリアクション・・・」

 

夏祭り当日。
 

待ち合わせ場所に洲矢と共に現れた仁絵の姿に、惣一とつばめは息を呑んだ。

紺地に控えめに白の蝶と紫の朝顔があしらわれた浴衣に身を包んだ仁絵は、

さながら・・・

 

「マジで女みてぇ・・・」

「あ゛あ゛?」

 

しみじみ呟いた惣一の一言を聞き逃さず、仁絵が睨むと、慌てて惣一が弁解した。

 

「怒んなって! どっちかってゆーと褒めてんだよ!」

 

「どっちかって言うと、って惣一・・・(苦笑)」

 

夜須斗に苦笑いされ、惣一がだってよ、と続ける。

 

「その辺にいる女子より美人に見えるのがいけない! 浴衣だって女物だし!」

 

惣一の発言に、仁絵は「はぁ?」と呆れ気味に言う。

 

「これは男物だ、女物とは作りがちげーよ!」

 

え?そーなの?と惣一に聞かれ、洲矢がうん、と苦笑気味に答える。
 

「元々はばあやが若い頃に着てた浴衣だから、柄がちょっと可愛い感じだけどね。
仕立て直したから、形は男の人用になってるよ。」

 

今日の昼、洲矢の家に呼び出された仁絵はそのまま家に連れ込まれ、
洲矢の祖母の手であれよあれよという間に採寸され、

気づけば自分用の浴衣が仕立て上がっていた。

 

「っていうか、それはしょうがないとして、トドメはどう考えてもその髪型でしょ。」

 

夜須斗が苦笑して仁絵の髪を指さす。

 

「しゃーねぇだろ、浴衣でいつもみたいに下ろしてたらそれこそ変だし何より暑ぃ・・・」

 

仁絵の長い金髪はいつものようにサラサラなびいてはおらず、

ねじり上げて簪で留められたアップスタイルになっていた。
簪はジャラジャラと飾りのついたものではないシンプルなものだったが、

通常女性がするような髪型であり、浴衣の柄と相まって女性っぽさに拍車を掛けている。

 

「簪もばあやの持ってる中で一番地味なの選んだんだけどね・・・」

 

ひーくん美人さんだから・・・と洲矢にまで言われ、

仁絵はため息をつくが、惣一が更に言う。

 

「いやぁ、マジで別人みてぇだわ、普段も顔だけはキレーだけどよ・・・」

 

「もういいだろ、しつこい。・・・まぁ、別人に見える方が好都合だしな。」

 

「え、どゆこと?」

 

惣一をあしらいながら放った仁絵の言葉につばめが首をかしげると、

仁絵はうんざりしたように言った。

 

「こーゆー祭とか、不良の大好物だからな。

一方的に俺の顔知ってる奴結構いるかもしんねぇの。」

 

仁絵の言葉に、惣一があー、確かにと頷く。

 

「去年も祭りの終わりがけに不良同士の乱闘騒ぎとかあったもんなー」

 

仁絵はそれを聞いてそこに巻き込まれる自分を想像したのか、不機嫌そうに舌打ちした。

 

「こんな人目多いところで絡まれたら、

いつもみたいに適当に失神させて離れるって方法も使えねぇし、
だったら女でも何でも別人に見える方がマシだ。」

 

「そ、そっか・・・」

 

いくら見た目が絶世の美女でも、中身はいつも通りの仁絵だった。

 

 

 

「で、とりあえずどこ回るの? 花火まではまだだいぶあるけど・・・」

 

神社の鳥居をくぐり、屋台列の始まり辺りに差し掛かって夜須斗が問いかける。
 

現在時刻は夕方5時を回ったところ。
花火大会は夜の8時からで、まだ3時間近くある。

 

「とりあえず飯食おうぜ! 俺焼きそば!」

「僕たこ焼き!」

 

はいはい、と手を挙げて食べたいものを宣言する惣一とつばめに、夜須斗がため息をつく。

 

「お前ら好き勝手言い過ぎ・・・」

 

はぁ、と呆れた様子ながらも、夜須斗はそれじゃ、と気を取り直して指揮をとる。

 

「とりあえず役割分担しよう。

惣一、5人座れるようなテーブル席とっといて。今の時間ならまだとれるはずだから。
場所とれたら俺らにLINEで連絡よろしく。」

 

「ラジャ!」

 

「残り4人は分担していろいろ買おう。

とりあえず俺が焼きそば。つばめはたこ焼き?」

 

「うんっ」

 

夜須斗に問われ、つばめは笑顔で大きくうなずく。

 

「仁絵と洲矢はそれ以外でなんか適当に見繕って買っといて。お金は後で割り勘で。」

 

「りょーかい。行こう、洲矢。」

「あ、うんっ」

 

こうして、5人は分担ごとに散り散りになっていった。

 

 

 

15分後、惣一がとった席に広げられたのは・・・

 

「お前ら買いすぎ・・・(呆)」

 

話に出ていた焼きそば、たこ焼きのほかに、

イカ焼き、フランクフルト、焼きトウモロコシ、じゃがバター、唐揚げ、チョコバナナ、リンゴ飴と

定番の屋台の食べ物は全制覇の勢いのラインナップだった。

 

「食い切れんの、これ・・・

っていうか俺焼きそばしか買ってないのに、残り3人でどんだけ買ったんだよ。」

 

夜須斗が疑いのまなざしをつばめに向けると、つばめはえー、違うよ、と反論する。

 

「僕だってたこ焼きとイカ焼きとじゃがバターしか買ってないよ!」

 

「いや、1人でそんだけの種類5人分買ってれば大概でしょ。でも、ってことは・・・」

 

夜須斗の視線の先には、洲矢と仁絵。

夜須斗と目が合った洲矢は、恥ずかしそうに照れ笑いする。

 

「・・・えへへ、ちょっと買い過ぎちゃった。」

 

「洲矢が迷って決められねぇって言うからしょうがねぇだろ。」

 

「ハハハ・・・」

 

気持ちいいくらい開き直る仁絵に、夜須斗は乾いた笑いを漏らした。

 

「ま、食べ始めりゃ意外と食えるって! 食うぞー!」

 

惣一のこの言葉が号令になって、5人は一斉に食べ物に手をつけ始めた。
机の上はさながらフードファイトのようだったが、

中学生男子の食欲とはすごいもので、

惣一の言葉通り、ものの30分ちょっとで机の上の食べ物は大体平らげられていた。

 

「ふーっ、食った食った! よっし、腹ごしらえにゲームに行くぞーっ」

「おーっ!」

 

「元気だねぇ、今食べたばっかりだってのに。」

「ひーくん、夜須斗っ 行こっ」

「わかったわかった。」

 

あっという間に駆けていってしまう惣一とつばめを追うため、

洲矢に急かされた夜須斗と仁絵は漸く立ち上がり、また屋台の波に突入していった。

 

 

 

まず5人が訪れたのは金魚すくい。
 

ここは夜須斗の独壇場だった。

 

「だーっ 破れた!」
「僕も・・・一匹もすくえなかっ・・・って夜須斗!?」

 

肩を落とす2人の横でまだすくい続けていた夜須斗の手に持った器の中には・・・

 

「1,2,3,4,5,6・・・7!? もう7匹!?」

 

そんなことを言っている間にもう1匹すくい取り、合計8匹の金魚が器の中を泳いでいる。

 

「すごいすごい! 夜須斗上手だね!」

「さっすが、無駄に器用だな。」

 

ここでは背後からの見物に回っていた洲矢と仁絵にそう評され、

夜須斗は「無駄に、は余計」と言いつつ、
まだ破れていないポイと金魚の入った器を屋台の店主に差し出す。

 

「おっちゃん、もういいよ。」

 

「おう、金魚もいいのかい?」

 

「いいよ。持って帰ったって育てらんないし・・・あ。」

 

夜須斗は、横目でちらっと

一生懸命とりやすそうな金魚を探して水槽とにらめっこしている小学校1年生ぐらいの子供たち3人を見る。
3人中2人のポイは既に破れていて、まだ金魚は1匹しかすくえていないようだ。

 

「よかったらそいつらにオマケしてやって。1人1匹はもらえるように。」

 

「いいのっ!?」
「おにーちゃんありがとうっ」

 

「・・・別に。じゃ。」

 

ヒーローを見るかのようなキラキラとした目で見つめられて、気恥ずかしくなったか、

夜須斗はそそくさと立ち上がり、その場を離れていった。

が、すかさず惣一に追いつかれ、からかわれるのだった。

 

「よっ、かっこつけっ」

 

「馬鹿、んなんじゃないし・・・っ」

 

「よーし、次行ってみよー!」

 

 

 

次に訪れたのはダーツ。
 

今度は活躍したのは仁絵だった。
 

与えられた5本の矢、全てが的に当たり、全てがほぼ中央寄り。

 

「俺のこと無駄に器用とか言ったのはどこの誰だっけ」

 

「ハハハ・・・」

 

「すごいすごい! 百発百中!」

 

「ひぇーっ、兄ちゃんうっまいねぇ! よっしゃ、商品選びな!」

 

店主が、おもちゃやお菓子が並んだ商品棚を指し示す。
いやー、俺は・・・と仁絵は一瞬遠慮がちになったが、

横ですごいね、さすがだね、とはしゃいでいるつばめと洲矢を一瞥して、声を掛けた。

 

「お前らなんか好きなの選んどいて。」

 

「えっ!?」
「いいのっ!?」

 

そして2人が嬉々として選んだのが・・・

 

「つばめのスナック菓子は分かるとして、洲矢、そんなんでいいのかよ。」

 

「えへへ、わざわざちっちゃい子たちに混ざって並んで買うのはちょっと恥ずかしくって。」

 

洲矢は某有名猫キャラクターのお面をもらっていた。
まさかのチョイスに仁絵は驚いたが、まぁ、似合ってるからいいか、と1人で納得した。

 

「よっし、次は射的ーっ 早速並ぼ・・・ってあれ?」

 

「全然並んでないね、毎年大行列なのに・・・」

 

屋台ゲームの花形、射的の屋台には例年たくさんの人の列が出来ているのだが、

今年は何故だか列が出来ていない。
遠目から見える様子では、

惣一たちと同い年ぐらいの少年5人程が騒々しいくらいわいわい言いながら射的をしているだけだ。

 

「ほんとだー、なんで・・・」

 

「お兄ちゃんたちも射的やりたいの?」

 

不思議がる惣一たちに話しかけてきたのは、

先ほど金魚すくいの屋台で出会った子供たちだった。

 

「僕たちもやりたくて、さっきまで並んでたんだけど、

あのお兄ちゃんたちがいつまで経ってもどいてくれないんだ。
もう一回、もう一回、ってずーっとやってて。」

 

悔しそうにうつむく子供たちの言葉を聞いて、つばめは憤慨する。

 

「えーっ、何それっ ふつー最初にお金払った回数やったら後ろ並び直すでしょっ
っていうか回数上限あるんじゃないのっ」

 

夜須斗は屋台の少年たちの顔を伺い、何かを悟った様子でため息をつく。

 

「大方店主がびびって文句言えないんでしょ。もしくは言おうとして一蹴されたか・・・」

 

「は?」

 

首をかしげる惣一に、夜須斗は少年たちの方へ顎をしゃくる。

 

「あいつらの制服見なよ、天開(てんかい)中。」

 

「天開中・・・? あー!! 

去年、この祭りの終わりに神社で乱闘騒ぎ起こした主犯校の1つ!」

 

「あの事件で祭関係者に天開中の話は知れ渡っただろうし、

なのにこれ見よがしに制服なんて着て祭に来てるあたり・・・」

 

「確信犯、だろうな。

店主のおっさんテキ屋に珍しく気弱そうだし、あいつらのあの態度見てても。」

 

困った様子の店主の顔と、

ギャハハと下品に騒ぎ、ノロノロと射的を続ける少年たちの様子は遠目でも分かる。
仁絵が表情を険しくすると、惣一も、何だよそれ!と怒り出す。

つばめは一番に怒り出してからずっと怒っている。

 

「ちょっと待って、まさかケンカ売ったりしに・・・」

 

不穏な空気を感じ取り、ちょっと落ち着け、と夜須斗が

中でも今すぐに飛び出して行きそうな惣一とつばめに釘を刺そうとした時だった。

 

「やっぱり・・・」

 

「え?」

 

「やっぱりずるいよ! 僕言ってくる!」

 

「あ、待ってよマサシ!」

 

小学生の男の子のうちの1人が射的の屋台に向かって飛び出して行った。

続いて他の2人も行ってしまう。
突然のことに反応の遅れた5人は、我に返って顔を見合わせる。

 

「や、やばくねぇ?」
「惣一行こっ!」
 

「あ、おい、あんまり騒ぎ大きくすんなっ・・・」

 

子供たちを追うように行ってしまった惣一とつばめの背に、夜須斗は慌てて声を掛ける。

 

「ひーくんは、行かないの?」

「あの程度の奴らなら、惣一とつばめがいりゃ大丈夫だろ。まぁ・・・」

 

洲矢に尋ねられ、仁絵は不機嫌そうな顔のまま、ボソッとそう答えた。

 

「夜須斗の助け船はいるだろーけど。」

 

「そーいうの全部俺なのやめてほしーんだけど・・・」

 

仁絵に視線を投げられ、夜須斗はため息をつくのだった。

 

 

 

屋台の方では、駆け寄った小学生たちが威勢よく少年たちに話しかけた。

 

「お兄ちゃんたちっ 僕たちもやりたいんだからそろそろ終わりにしてよっ」
「そうだよっ 僕たちさっきずーっと並んで待ってたのにっ」

 

「あ、君たちよしなさ・・・「あ゛ぁ? んだよこのガキ共・・・」

 

店主が制止しようとしたが一歩遅く、射的をしていた少年のうちの1人が小学生たちの方を向く。

 

「だからっ さっきからずっとやってるじゃんっ もう替わって・・・」

 

「はーぁ? 俺たちは、ちゃんと金払ってやってんだよ!」
「ちょっとしかお小遣い持ってねー小学生のお子様はすっこんでろよっ」

 

「っ・・・!!」
 

「あ、あんたたちっ・・・」

「あ゛ぁ? なんか文句あんの? おっさん。」

「っ・・・」

 

酷い言葉を言い放たれ、泣きそうになっている小学生を見て、

さすがに店主が口を挟もうとしたが、5人の中でリーダー格っぽい少年に凄まれ、

また何も言えなくなってしまう。
重い空気が流れる中、その空気を断ち切ったのは・・・

 

「文句・・・おおありだぁぁぁぁっ」

 

ドゴッ

 

「「「「「「!!!!」」」」」」

 

「うぐっっっ」

 

「ツヨシ!! てめぇぇぇっ 何しやがるっ!!」

 

「お前らこそちっちゃい子に何してんだ・・・よっっっ!!」

 

「ってぇぇっ」

 

飛び込んできた惣一とつばめによって、

5人の内2人の腹と臑にそれぞれ惣一のパンチとつばめのキックが入る。
そして突然のことに混乱したか、一瞬生まれた相手の隙に、

すかさず駆けつけた夜須斗が割って入った。

 

「はい、とりあえずストップ。」

 

「夜須斗っ・・・」

 

夜須斗に手で制止の合図をされ、

長年の付き合いですり込まれた条件反射で惣一が構えていた拳を下ろす。
しかし、相手方はこの間に我に返り、すぐに夜須斗に殴りかかんとした。

 

「てめーら、マジでふざけんな・・・今すぐここで・・・」

 

しかし、夜須斗は余裕さえ感じさせる態度で冷静に言った。

 

「乱闘? 出来るの? 

こんな祭のメインストリートで、しかもこれからどんどん人が増えてく最中に。
やってもいいけど、俺らよりまず先に関係ない人たちに被害が出ると思うけど。」

 

「っ・・・」

 

「あんたら天開中でしょ。さすがに2年連続乱闘騒ぎはまずいんじゃないの? 
去年のことを受けて、警察の補導部隊も増員されてるって噂だって、耳に入ってるはずだし。」

 

「てんめぇ・・・」

 

相手のリーダー格っぽい少年が悔しそうに歯ぎしりをしている。
夜須斗に図星を突かれたようだ。

 

「分かったら、この射的、もう終わりにしてくんない?」

 

「・・・チッ!! てめーら行くぞっ」

 

リーダー格の少年がそう言うと、他の4人も各々舌打ちをしながらその場を去って行く。
しかし、一番最後に付き従っていた1人が

 

「じろじろ見てんじゃねぇよ このガキがっ」

 

「いっ・・・たぁぁぁぃっ ふぇぇぇっ」

 

「ククッ」
「ッハー」

 

「ちょっとお前ら・・・っ」
 

「おいつばめよせっ・・・」

 

小学生の内の1人をもの凄い力で突き飛ばし、

その子は後ろにすっころんで強かに尻餅をついた。同時に肘もついて、肘からは少し血がにじんでいる。
それを見て突き飛ばした本人はニヤニヤ笑みを浮かべ、

リーダー格の少年他もいい気味だと言わんばかりに笑った。

その様子につばめがたまらず再び向かって行こうとするのを、夜須斗が止めようとした時だった。

 

「・・・あぁ? 何だよお前・・・」
 

5人の不良の前に立ちはだかったのは、不機嫌そうにその5人を睨む仁絵だった。

 

「ひーくっ・・・」

 

嫌な予感がして、最後まで少し離れたところにいた洲矢が駆け寄ろうとしたが、

しかし、その前に事件は起きてしまった。

 

「何睨んでんだこの女!!!」

 

「あっ・・・」

 

不良の言葉に、思わず洲矢が立ち止まって怯む。

そしてこの瞬間、4人は一斉に同じことを考えた。

 

((((あ、地雷踏んだ・・・))))

 

「・・・あ゛あ゛? だーれが『女』だってぇ・・・?」

 

次の瞬間には、あの恐ろしい「女王」の笑みを浮かべた仁絵の足下に、不良が1人転がっていたのだった。
 

先ほどはツイキャスご視聴いただきまして、ありがとうございました!

配信用に喋ったところまでは履歴として残しますので、

時間が合わなかった方もよろしければご視聴くださいカナヘイうさぎ

本日・明日あたりには公開します!

パスはキャス開催時と同じ「spa」です。。

 

さて、今回のツイキャスで背景に使っていた画像はこちらです↓

 

こちらは、白瀬の今年の抱負を即席書き初めしたものです(笑)

普通のコピー用紙に筆ペンで一発勝負書きしたものなので、

字が下手だったりバランスめちゃくちゃだったりするのは

目をつぶってください←

 

一応これに関してはブログでも解説しておこうと思いまして。。

 

まず1つめ「月一更新」

これは、スパ小説を何かしら月一で更新します、という目標ですビックリマーク

一本とは言い切れないところが申し訳ないですが←

最近長編化しつつあるので、更新、というところでお許しくださいあせる

 

2つめは「週一更新」

これは、スパ小説に限らず、何らかの形でブログを週一で更新します、

という目標ですビックリマーク

大体のパターンだと、小説を更新した後、後書きも兼ねて白瀬の近況を

ブログで更新する、って感じだったのですが、

それだと小説を更新しないと「最近更新無いですが大丈夫ですか?」みたいな

ご心配のコメントをよく頂いてしまうのであせる

後書きに限らず、週一くらいで何かしらの更新をしたいと思います。

 

3つめは「月一配信」

これは、代表的なものがツイキャスだったので、「配信」という言い方を

しましたが、何かしら交流する機会を持ちたい、という目標ですビックリマーク

ツイキャスの他にはチャットですかねー、

あとはスカイプにも興味があるのですが、白瀬はコミュ障なのと、

スカイプ初心者なので・・・(リードしてくださる方いらっしゃいましたら

是非お声かけください←)

年内に一回ぐらいやってみたいな、というこれは薄い願望です 笑

 

最後は「年内発行」

これは、言わずもがな同人誌のことです。

さすがに年内くらいに出したいな、という目標です。。

 

さて、こんな目標を掲げましたが、どれくらい達成できるのか・・・←え

とりあえず年頭ですので、全て完遂するつもりでがんばりますよビックリマーク

 

今年もこんな白瀬ですが、どうぞよろしくお願いいたしますとびだすうさぎ2

 

 

結局こんな時間になってしまいました・・・あせる

 

皆様、明けましておめでとうございますカナヘイきらきら

本年もよろしくお願いいたしますカナヘイうさぎ

 

さてさて、早速ですが、ツイッターでアンケートをとらせていただいたところ、

ツイキャスのご要望を多く頂いたので、

新年一発目のツイキャスを開催したいと思います音譜

 

「ツイキャス本放送 第5回」(引き続きタイトル募集中 笑)
放送日時:1月8日 日曜日 
       22:00~(翌日白瀬暇なので、終わりは特に決めません 笑)

主な放送内容:「白瀬の新年の抱負」

          「二次創作について(黒執事スパ小説アップ記念)」

          「質問コーナー」

URL : http://twitcasting.tv/tsubameshirase
閲覧パスワード:
spa

         

 また、今回、新規の試みとして質問募集を何度か使用しているGoogleのアンケートを使ってみようと思います。

回答くださる方は以下のURLからお願いします!

https://docs.google.com/forms/d/10FjuVbyEvYMlv0_MKOvXiie8HwG3l9x1TYsIBuWxmr0/edit

 

おそらく毎度の通りぐだぐだ長々まったりやると思いますので、

お時間ありましたらチラッとのぞいて頂けるだけでもとっても喜びますカナヘイハート

どうぞよろしくお願いしますカナヘイきらきら

こんばんは、ご無沙汰しております、白瀬ですカナヘイうさぎ

 

さてさて、昨晩アップしましたのは、

久々の二次創作、『黒執事』より、セバスチャン/シエルでしたカナヘイきらきら

 

今回この題材を選んだのはいくつか理由があります。

(以下、裏話と言いつつオタ話です←)

 

一つ目は、先日から置いているスパ二次創作アンケートで、

この組み合わせが複数票を獲得していること。

 

二つ目は、最近黒執事界隈が盛り上がってきており、

元々作品のファンであった白瀬の黒執事熱が再燃してきていること。

 

三つ目は、二つ目とかぶるのですが・・・ミュージカル『黒執事』、

通称生執事の存在ですビックリマークビックリマーク(これが結構な割合を占めてたりあせる

先月から上演されているこの舞台、白瀬、既に3回通い、

明日ライブビューイングにも参戦予定です(笑)

 

で、白瀬がなぜこの舞台にこんなにも通っているかと言うと、

もちろん、黒執事が好きなのも理由なのですが、

もう一つの理由は主演の方・・・古川雄大さんラブ

白瀬はこの古川さんの昔からのファンで、

具体的に言うと

(確か)デビュー前に某夢の国でダンサーしてらした古川さんを見て、

一目惚れしたくらい昔です(笑)

そこまでは私自身は覚えてないんですが、

母親曰く「あの人王子様みたい」と言って

ネズミたちそっちのけで踊る古川さん見てたらしいですあせる

・・・まぁそのころ私は確か小6~中1くらいなので、

もうがっつりスパ小説書いてるんですけどね!!爆弾

 

まぁそんなわけでそんな古川さんが主演なものだから

普段ほとんどやらないリピートまでしたわけですが。

古川さんの作られるセバスチャン像がまぁ何ともすてきにドSなのです!←え

これはいいカーになる・・・ビックリマークという何とも不謹慎な妄想を働かせていました。

まぁこれは前回の生執事も古川さんが主演を務めてらしたので、

そのときも散々妄想したことなのですが、これが再燃したわけです。

 

ところで、このミュージカル黒執事、これまで脚本としては4本製作されているわけですが、

その2本目の「千の魂と堕ちた死神」という作品の再演で、

スパ未遂シーンが出てくるのですビックリマーク(しかも原作者書き下ろしシーン)

しかもわりとガッツリ! 今回小説に出した「お尻百叩き」という台詞もありますし、

セバスは坊ちゃん片膝に乗せて平手振り上げるところまでやります。

このときのセバスチャン役は古川さんではなく、

その前にセバスチャンを務めていた松下優也さんでした。

松下さんのセバスは(主観ですが)古川さんより人間味が感じられて、

この未遂シーンも、まぁ冗談でからかってるんだろうな、って感じられます。

それでも十分ドキドキするわけですが。

 

で、古川さんがセバスチャン役になられてから、

私は(絶対あり得ないけど)古川さんが演じられたらどうなるだろう、という

お得意の爆発的な妄想力を働かせました(笑)

結論。本当に数発は叩きそう←

古川さんのセバス、本当に悪魔感・ドS感が強くて、からかうにしても数発叩くところまで

いきそうだし、

何なら本当に躾直します、とか言って実行しそうなのです。

 

で、この舞台のシーンはオリジナルなので原作には出てきませんが、

原作で「駒鳥」と呼ばれる(笑)女装姿のシエルがスパ未遂されるので、

今回は原作の駒鳥シエルの場面にスパシーンを入れ込んで書いてみました。

駒鳥シエルのエピソードは古川さんも舞台で演じられてるのもあって。

 

・・・説明無駄に長かったあせるあせる

 

原作は、ながーい事件の一コマとしてこのエピソードが出てくるので、

どうしてもスパ関係ない前半が長くなってしまったり、

原作全く知らない方には分かりづらい展開ができてしまったりしまして、

申し訳ありませんショボーン

でもどうしても書きたくて・・・ビックリマーク 自己満足です、お許しください←

 

もう一つ、今回のサーカス編の舞台を見ていて

スパ入れ込みたい衝動に駆られたシーンがあるのですが、

まぁあんまり黒執事に偏ってしまってもあれなので、作品化するかは不明です。

(でも明日ライビュ見に行くしな・・・ 笑)

黒執事、世界観的にもスパはまりそうなのにあんまり見かけないんですよね。。

イラストは、まぁ・・・衣装めんどくさいからですかね(汗)

でも見たいなぁ・・・どなたか描いてくれないかなぁ・・・(絵は描けないから他力本願)

小説は、需要があればこれからも書ければなぁと思いました。

書いてて悩みつつもすっごい楽しかったので音譜

(セバス/シエル以外にも書いてみたいので組み合わせ模索中。。)

 

それから、冒頭に触れました、二次創作のアンケート、

たくさんの方にお答えいただいています、ありがとうございますビックリマーク

黒執事だけでなく、いろんな作品で、書けないか思案してますドキドキ

(とりあえずいい加減ユーリを見ます・・・! 

今期ほぼ一話完結のほほんの刀剣花丸しか見てなくて。。 

でも刀剣の二次もできないか考えてたり・・・)

 

さて、長々とりとめもなく書きすぎたのでいい加減終わりますねあせる

次回はおそらくメガネ教師の新作冒頭アップですカナヘイきらきら

亀ペースの同人誌もあるし、年内は厳しいかな・・・。でも頑張りますカナヘイうさぎ

 

これからもよろしくお願いしますとびだすうさぎ2

ビックリマーク注意ビックリマーク
※こちらの作品は、「黒執事」二次創作のスパ小説となっております。
 原作中のシーンを利用したストーリーのため、
 原作をご存じない方には少しわかりにくい部分があるかと思います。
 恐れ入りますがあらかじめご了承ください。
 また、二次創作が苦手な方、原作のイメージを壊したくない方はバックお願いします。
 
 
 
 

「フフッ・・・よくお似合いですよ、『お嬢様』。」

 

「セバスチャン、黙れ・・・。」

 

ファントムハイヴ家の若き当主、シエル・ファントムハイヴは絶賛不機嫌であった。
普段からニコニコ笑うようなことはなく、常に仏頂面と言われているのだが、

今はいつにも増して虫の居所が悪そうな顔をして、眉間の皺は深い。

 

「僕はまだ納得していないぞ・・・」

 

その原因は。

 

「どうしてこの僕が女装してこんなドレスなど着なければならないんだ!」

 

シエルが今身にまとっているのは、モスリンたっぷりのピンクのドレス。
ドレープが豊かに入り、きめ細やかに編まれたレースもふんだんに使われている、

いかにも「女の子らしい」ドレスである。
更に髪型はいつものショートカットではなく、ツインテールのウィッグがつけられ、

更にドレスのデザインとお揃いのヘッドドレスとしてミニハットもついている。

 

セバスチャンにあっという間に着付けられ(コルセットで時に苦しい思いもしながら)、

至った完成形を鏡で見て固まるシエル。
それを見てセバスチャンが吹き出したのが冒頭の場面。

 

この案を聞かされ、あれよあれよと進む準備に最初は当然抵抗したが、

有無を言わさず着付けられ始めてしまった時に一旦は諦めの感情が生まれていた。
しかし、からかい口調で「お嬢様」等と言われておとなしくこの状況を受け入れるなど

出来るはずがなく、なりを潜めていた不満が再燃する。

 

「ファントムハイヴだとバレずに潜入するには、

その格好が一番だと何度もご説明差し上げたはずですが。」

 

これからシエルたちが向かおうとしているのは

ロンドンを騒がせている連続殺人鬼の犯人と思しき人物が主催しているパーティー会場。
パーティーに潜入して犯人である決定的な証拠を掴もうという算段だ。

 

しかし、社交界で「ファントムハイヴ」と言えば名の知れた存在。
更に多少裏社会にも通じるような貴族であれば、

ファントムハイヴ家が裏社会の秩序を守る番犬であることも知っている者は多い。
そこで、変装が必要だろうという話は満場一致であった。
だが、なぜかいつの間にやら「変装」が「女装」にすり替わり、

仕立屋を呼ばれ、気づけばあっという間に衣装が用意されてしまったのだ。

 

「ただ変装すればいい話だろう! 女になる必要がどこに・・・」

 

シエルが改めてセバスチャンに噛みついていると、

突然一人の女性が部屋に飛び込んできた。

 

「きゃーっ シエル!! 思った通り! 可愛いっっ」

 

「は、離せマダムっ」

 

いきなりシエルに抱きついたこの女性は、

通称マダム・レッドと呼ばれるシエルの母方の叔母にあたる女性。
社交界に顔が利く彼女が今夜のパーティーの招待をもぎ取ったのである。

 

「私姪っ子が欲しかったのよねー♪ もうほんっとに可愛い!!」

 

「そんな理由で僕にこんな格好を・・・!!」

 

「あら、似合ってるんだからいいでしょう?

それに、主催者のドルイット子爵、守備範囲バーーーーーリ広の女好きらしいから、

その方がお近づきになれるチャンスが広がって都合いいわよ☆」

 

「なっ・・・!?」

 

まさかの提案にまた固まるシエル。

その背後から、セバスチャンがシエルの耳元で囁くように声を掛けた。

 

「仰っていたではありませんか。どんな手段も使うんでしょう?
フフッ・・・さぁ、それでは皆様、参りましょう。」

 

「貴様・・・っせ、セバスチャンなんだその格好は・・・」

 

からかうような物言いに文句を言ってやろうとシエルが振り向いた先にいたセバスチャンは、いつの間にやら着替えを済ませていた。
意表を突かれて文句も引っ込んでしまった。
いつもの燕尾服とは少し異なった出で立ちで、

一番目を引くのは、普段かけていないチェーン付きのメガネだ。

 

「本日、私はお嬢様の家庭教師、という役でございますので。
今この瞬間から、任務を完了してお屋敷に戻るまで、私はお嬢様の『家庭教師』です。
よろしくお願いいたします、『お嬢様』。」

 

「なんなんだ全く・・・」

 

意外にも形から入る我が執事に、シエルはため息をつくのだった。

 

 

 

「全く・・・ 連日連夜パーティー三昧・・・ 貴族の連中は揃いも揃って脳天気な暇人ばかりだな。
こんなに無駄に集まって、一体何が楽しいんだ。」

 

パーティー会場に着くやいなや、うんざりする、と吐き捨てるシエルに、

セバスチャンは苦笑いする。

 

「お嬢様だって貴族でしょう。お嬢様のような方の方が、社交界では珍しいのでは?」

 

まぁ、お嬢様がパーティーをお嫌いなのは人が多い、だけではないようですが、と

含みを持って笑うセバスチャンを、シエルは睨み付ける。

 

「うるさい黙れ。とっととドルイット子爵に接触して、仕事を終わらせて帰るぞ!」

 

「張り切るのは結構ですが」

 

一刻も早くこの場から立ち去りたい、と意気込むシエルに、セバスチャンが言った。

 

「無鉄砲に行動を起こして、あっさり捕まる・・・なんてことなさらないでくださいね。
毎回私の足手纏いばかりで・・・」

 

嫌みったらしく言ってくるセバスチャンに、シエルの眉間の皺が深くなる。

 

「貴様・・・誰に向かって口を利いている。」

 

「クスッ 私は事実を言ったまでですよ。

まぁ、お嬢様がお気をつけて行動してくださればそれでよいのですが。」

 

「そんなこと・・・言われずとも分かっている。」

 

馬鹿にするな、と言い放つシエルに、セバスチャンも応戦する。

 

「おや、そうですか。ではお約束ですよ、敵の前では用心して行動する、と・・・」

 

「家庭教師気取りも大概にしろ。そんな当然のことを僕に説教するな。」

 

「クスクス・・・当然、ですか・・・では当然のことなのですからしっかりお守りくださいね。」

 

「・・・フンッ・・・!」

 

そのとき、シエルの表情が一変した。
嫌みな微笑みを浮かべるセバスチャンからシエルがそっぽを向いたとき、

その視線の先にターゲットの姿が映ったのだ。

 

「・・・いらっしゃいましたね。」

 

セバスチャンも表情を変える。

 

しかし、それと同時にパーティーフロアに生オーケストラの音楽が鳴り響き始める。
そして、今まで談笑していた貴族たちが各々男女のペアを組んで踊り始めてしまった。

 

「チッ・・・広間がダンスフロアに・・・」

 

先ほどまで視界に捉えていたドルイット子爵も、すぐさまダンスの群れの中に入ってしまった。
人一倍煌びやかな衣装を着ているので見失うことはないが、

動き回っていて迂闊に近づけない。

 

「仕方ありませんね。とりあえずダンスに紛れて、子爵の側まで行きましょう。さぁ、お嬢様。」

 

そう言ってセバスチャンから差し出された手を見て、

シエルはまさか、という目でセバスチャンを見つめる。

 

「公の場で僕に踊れと言うのか? お前と?」

 

シエルの疑問に、セバスチャンは涼しい顔で返す。

 

「おや、お忘れですか。今私はお嬢様の家庭教師、ですから。

今宵限りは公の場で、お嬢様とのダンスを許される身分なのです。」

 

「うっ・・・そうだった・・・」

 

「さぁ、参りますよ、お嬢様。」

 

「うわっ・・・!!」

 

半ば強引にセバスチャンに腕をとられ、シエルとセバスチャンもダンスを始めた。
といっても、ダンスが苦手なシエルはほぼセバスチャンに振り回されるがままだ。

 

そう、シエルのパーティー嫌いのもう一つの理由、

それはパーティーに付きもののダンスの腕前が壊滅的、だからだった。

 

今日も、この時のために、とここに来る前に付け焼き刃で女性役の社交ダンスを教えられたが、

男性役でさえままならないのに、女性役なんてハードルが高すぎた。
セバスチャンに振り回され続け、曲が終わる頃にはシエルは疲れ果てぐったりしていた。

 

「全く・・・だらしがないですね、これくらいで。」

 

「ハァハァ・・・」

 

肩で息をするシエルを、セバスチャンが抱き起こす。

 

「さぁ、お嬢様。いよいよ本題ですよ。」

 

セバスチャンにトンと肩を押され、一歩進み出たシエルの先には、一人の男性がいた。

 

「駒鳥のように可愛らしいダンスでしたよ、お嬢さん。」

 

「!」

 

それは今回のターゲット、ドルイット子爵その人だった。

 

周りの様子を伺いながらシエルをエスコート(振り回)してダンスをしていたセバスチャンのおかげで、
子爵にしっかりシエルをアピールでき、また側にいくことが出来たのである。

 

「お嬢様、私は何かお飲み物をお持ちします。・・・しっかり子爵を誘惑してくださいね。
くれぐれも、先ほどの・・・」

 

「分かっている。早く行け。」

 

意外としつこいセバスチャンに、シエルは追い払うように指示を出す。

 

「・・・御意。」

 

セバスチャンはそう言って恭しく頭を下げると、二人の側から離れていった。

 

「どうだい? 今夜のパーティーは。楽しんでいただけているかな?」

 

そう言って、子爵はシエルの手を取ってレースの手袋をしたシエルの手の甲に軽くキスを落とす。

顔も急接近。
なるほど、確かに女性たちを虜にする美青年と言われて納得する整った顔立ちだが、
そんなことに興味がない、しかも同性のシエルにとっては顔を近づけられることはもちろん、

ましてやキスなんてされても気色悪いだけである。
シエルは子爵にバレないように、キスをされた方の手を後ろ手に回し、手の甲をドレスで拭った。

 

「すてきなパーティーに、感動しています。でも・・・私、ずっと子爵とお話したかったの。」

 

「ほぅ?」

 

「ダンスもお食事も、もう飽き飽き。」

 

「我が儘なお姫様だねぇ・・・もっと・・・楽しいことをご所望かな?」

 

(!! こいつっ・・・)

 

子爵が体を接近させ、腰に手を回してくる。
シエルは鳥肌を立てないように、無意識に振り払わないように、全神経を集中させた。

 

「(全てが終わったらすぐに始末してやるこの男・・・っ!!)
え、えぇ、子爵はご存知? もっと・・・楽しいこと。」

 

「ふふっ、もちろん。」

 

含みを持たせたシエルの言い方に、優美に微笑んで返す子爵。
その返答から、どうやら子爵にもその「含み」が伝わっているようだ。

 

「ほんとうですか? 是非、私にも教えてください。」

 

「本当に・・・知りたいのかい?」

 

両手を握られ、また顔を近づけられ、のぞき込むようにして問いかけられる。

 

「えっ・・・えぇ、本当に!」

 

これ以上過度なスキンシップが来ようものなら耐えられる気がしない。
仕掛けられる前に仕掛けてやる、とシエルはかなり積極的に子爵にねだった。

 

「君には・・・少し早いかもしれないよ?」

 

「(チッ・・・粘るな・・・そう簡単に案内できないということか。)

私、もう一人前の『淑女』ですのよ? 子爵・・・ね?」

 

精一杯の微笑みに、小首をかしげる仕草も加える。
シエルの駄目押しは、果たして子爵にしっかり効いたようで、

子爵は「わかったよ、私の駒鳥。」とシエルの手を取った。

 

「それでは・・・奥へどうぞ。」

 

そして、重々しいベルベットのカーテンを少し開き、

薄暗い奥の部屋へとシエルをエスコートしていった。

 

(ふぅ・・・とりあえず第一段階完了、ですね。)

 

セバスチャンは、その様子を少し離れたところから伺っていた。

 

(さて、では、次の指示を待ちますか。)

 

お約束を守っていただけるとよいのですが・・・、と、

肝心な所で抜けている主人に思いを馳せていた。

 

 

 

「これから、行くところは、ものすごくいいところだよ。」

 

シエルの手をしっかり握って、ドルイットは薄暗い通路を進んでいた。

 

「いいところ・・・それって、どんな・・・」

 

腕を引かれていたシエルが、可愛い子ぶってドルイットにそう問いかけようと近づいた時だった。
顔に白いものが近づいてきて、口元と鼻を覆われる。

 

「しまっ・・・!!」

 

しまった、と気づいたときにはもう遅く、意識が遠のいていく。

 

気を失ったシエルを横たえ、腕の中に抱きながら、

ドルイットは不敵な笑みを浮かべ、もう聞こえていないであろうシエルに優しく囁いた。

 

「そう・・・とてもいいところだよ・・・」

 

 

 

「・・・!!」

 

どれぐらい気を失っていたのか。
気がついたシエルが目を覚ましたのは、檻の中だった。

 

「うぅ・・・」

 

まだ少し頭がクラクラする。
手首と足首をそれぞれひとまとまりに縄で縛られ、思うように身動きが出来ない体を何とか起こす。
目の前には、とても頑丈そうな鉄の檻の格子。

 

「妙な薬を飲まされて、気を失ったところを、捉えられたというわけか・・・」

 

「おぉ、駒鳥が目を覚ましたようです! お集まりの皆さん!」

 

ドルイットの声がする。

見ると、檻の外で数十人の仮面をした観客を前に、

自分も同様に仮面をしたドルイットが口上を述べていた。

 

「次はお待ちかね、今宵の目玉商品でございます!

観賞用として楽しむもよし、愛玩するもよし、儀式用にも映えるでしょう。
ばら売りするのもお客様次第!」

 

「闇オークション・・・

ドルイットの奴、殺した奴らのパーツを、ここで売りさばいていたというわけか・・・」

 

これで証拠も掴んだな・・・と、シエルが右目を隠している眼帯に手を掛ける。

 

「スタートは1000から!」

 

眼帯を外し、右目を見開くと、そこに映るのは悪魔・・・セバスチャンとの契約の印。

 

「セバスチャン。僕はここだ。」

 

シエルが静かにそう口にした瞬間。

 

「!!?? なんだっ!?・・・うっ・・・!」

 

会場を照らしていた数多の蝋燭の灯が一瞬で消え、会場が闇に包まれる。
ざわめくドルイットや会場の声も、一瞬上がって即座に消えた。

 

そして、数秒後、再び蝋燭の灯がともって会場が照らされると、
ドルイットをはじめとした闇オークションの参加者たちが一様に倒れて気を失い、
シエルは檻から救い出されているという、灯りが消える前とは全く違う光景が広がっていた。

 

「やれやれ・・・本当に捕まるしか能がありませんね、貴方は・・・」

 

倒した者たちの傍らに跪いていたセバスチャンが立ち上がり、呆れ顔でシエルに近づく。

 

「呼べば私が来ると思って不用心が過ぎるのでは?」

 

そう言うセバスチャンに、シエルはフン、と言い放つ。

 

「僕が契約書を持つ限り、僕が喚ばずともお前はどこまでも追ってくるだろう。」

 

「・・・ええ。もちろん。どこまでもお供しますよ。最期まで・・・ね。

私は嘘はつきません。人間のようにね。」

 

そう言って、セバスチャンはニヤリと笑う。
その不適な笑みに、シエルは面白くなさそうな顔をしながらも、

不遜な態度のまま、それでいい、と頷く。

 

「お前だけは俺に嘘をつくな。・・・絶対に。」

 

「・・・イエス、マイロード。」

 

シエルの言葉に、セバスチャンが跪いて答える。

それを見届けると、シエルは、とにかく、と話を変えた。

 

「この件はこれで終了だ。呆気なかったな。」

 

「えぇ。既にヤードにも連絡してあります。じきに到着するでしょう。」

 

「なら、長居は無用だな。おい、セバスチャン。早くこの縄を解け。」

 

檻からは出されたものの、なぜか手首と足首をそれぞれまとめられた縄は解かれていなかった。
これでは歩くどころか、身動きを取れば倒れてしまう。

何でこんな中途半端に、とシエルが抗議の目線をセバスチャンに投げると、

セバスチャンは、ええ、ですがその前に、と突然切り出した。

 

「坊ちゃんはパーティー会場で私とどんな約束をなさいましたか?」

 

「・・・はぁ? 何を突然・・・」

 

突然の問いに顔をしかめるシエルを余所に、セバスチャンは続ける。

 

「『敵の前では用心する』、そう約束しませんでしたか?

坊ちゃんは『そんな当然のことを説教するな』等と仰っていたかと思いますが。」

 

まだそれを言うか。しつこい・・・と、シエルがうんざりした様子で投げやりに返事をする。

 

「またそれか。それが・・・なんだ。」

 

「その結果がこれですか?」

 

「っ・・・」

 

痛いところを突かれ、シエルが少し顔を歪める。

 

「用心した結果、裏に連れてこられて、情報を引き出すどころか一瞬で薬を嗅がされ捕まって、

後は私を喚んで、ただそれを見ているだけ・・・と。」

 

つらつらと淀みなくシエルの不甲斐なさを詰るような言葉を並べ立てるセバスチャンに、

シエルはイラッとして吠えた。

 

「・・・何が言いたい。証拠の現場は押さえられたんだから何も問題ないだろう!」

 

「それはそれ、これはこれ、ですよ。坊ちゃん。」

 

しかしそんなシエルの抗議もセバスチャンは取り合わず、更に言い募る。

 

「あれだけ大見得を切っておきながら、あっさり敵の手に落ちるとは・・・

私、呆れを通り越して感心してきてしまいました。」

 

「貴様っ・・・」

 

「そんなお約束を守れない坊ちゃんには、

どんなお仕置きが有効かと私なりに考えたのですが・・・」

 

「はぁ? お前何を・・・」

 

更に近づいてくるセバスチャンの行動や言葉の真意を掴みかねて、シエルが訝しむと、

セバスチャンがニヤリと笑った。

 

「やはりこれ、ですかね。」

 

「おい・・・うわぁっ」

 

ドサッ

 

近づいてきたセバスチャンに軽く足を払われ、

足首を縛られたままで不安定だったシエルは体勢を崩した。
突然のことに、かばう間もなく、転ぶ・・・! そう思ったが、転んだ痛みはやって来ず、
その代わりに気がつくとシエルは不可思議な体勢にされていた。

 

「セバスチャン! 何の真似だ!」

 

跪いた、片足を立てた体勢のセバスチャンの膝の上に横たわるような体勢で、

腰の辺りはセバスチャンに押さえられている。
屈辱的な格好にシエルが声を上げると、

セバスチャンはクスッと笑って、シエルが凍り付くようなことを言い放った。

 

「お約束を守れなかった坊ちゃんに効くお仕置きですよ。お尻百叩きです。」

 

「おっ・・・はぁぁっ!? 冗談じゃない、家庭教師ごっこはもう終わりだ!」

 

シエルがふざけるな、と膝から下りようとするが、

手も足も縛られたままで、しかも押さえつけているのはセバスチャンだ。
抵抗らしい抵抗になるはずもなく、無様にバタバタと藻掻くだけになってしまった。

 

「家庭教師『ごっこ』? 冗談? まさか。」

 

シエルの叫びは一笑に付され、そして、それは始まってしまった。

 

バシィィィンッ

 

「いっ・・・!! おい、セバスチャン!!」

 

シエルのお尻に、セバスチャンの平手が振り下ろされた。

 

平手はドレスの上からだったが、布をたっぷり使い、バッスルまで入っているはずなのに、

それを者ともせずにしっかり痛みを与えてくる。
さすが悪魔、といったところだが、そんな悠長に感心している場合ではない。

 

「言ったでしょう。私は嘘はつきません、と。

お約束を守れなかったお仕置きとしてお尻百叩き、しっかり受けて頂きますよ。坊ちゃん。」

 

バシィィィンッ

 

「痛いっ!! セバスチャン、下ろせ! 命令だ!」

 

バシィィンッ

 

「っあぁ!」

 

「お仕置きが終わったら下ろして差し上げます。」

 

バシィィンッ

 

「ふざけるな今すぐ下ろせ! 主人の命令が聞けないのか!」

 

バシィィンッ

 

「おや、お忘れですか。

私は本日、お屋敷に戻るまで『お嬢様の家庭教師』という役割だと申し上げたはずですが。
家庭教師が生徒の躾をするのは至極当然のことですよ。」

 

バシィィンッ

 

「うぅっ・・・もうさっきから僕のことを『坊ちゃん』と呼んでいるくせに白々しい・・・っ」

 

恨みがましくセバスチャンを睨み付けるシエルに、セバスチャンはからかい口調で答えた。

 

「おや、私は気を遣って差し上げたつもりだったのですが・・・

ただでさえ恥ずかしい格好をしている上に、
こんな恥ずかしい体勢で恥ずかしいお仕置きをされて、

更には『お嬢様』呼びでは坊ちゃんがあまりにもお可哀想かと思いまして。
ですが・・・ご希望なら戻して差し上げましょうか? 『お嬢様』。」

 

「っ・・・いい! やめろ!」

 

「かしこまりました。『坊ちゃん』。」

 

バシィィンッ

 

「くぅっ・・・」

 

あえて「恥ずかしい」を連呼して、羞恥心を煽ってくるセバスチャンに、

のせられては駄目だと分かっていても反応してしまう。

シエルは悔しさに唇を噛んだ。

 

バシィィンッ バシィィンッ バッシィィンッ

 

「うぅっ…くっ…あぁっ…!」

 

バシィンッ バシィンッ バシィィンッ

 

「いっ…っく…いたぃぃっ」

 

もう何を言っても、百叩きが終わるまで解放されない、
そう悟ったシエルは、己のプライドにかけてこれ以上無様な姿は見せまい(もう十分屈辱的なのだが)と

必死に耐えようとするものの、何にしたって痛すぎる。

 

当然手加減はしているのだろうが、

先ほどから平手が打ち下ろされる度にお尻がジンジン痛み、

徐々に熱を持ってきているのがわかる。
だがしかし、痛いながらも、むやみやたらに痛みを与える拷問のような暴力的な痛みではなく、
状況を冷静に考えられる理性を留められる程度の痛みなのだ。

 

シエルにとって「お仕置き」になる絶妙な痛さを与えてくる辺り、

自分の限界点まで見透かされているようで余計に腹が立つ。

 

バッシィィンッ

 

「うぁぁぁっ!」

 

そんなことを考えていた罰だと言わんばかりに、このタイミングでさらに強い平手が降ってきた。
咄嗟にシエルは背を反らし、縛られた足を跳ね上げる。
しかし、それを咎めるようにセバスチャンは同じ痛さの平手を連続で降らせてきた。

 

「ほら、あまり暴れない。」

 

バッシィィンッ バッシィィンッ バッシィィンッ バッシィィンッ バッシィィンッ

 

「っあぁっ…いっ…いたいっいたいいたい!

そんなこと言うなら手加減しろこの馬鹿力ぁっ!」

 

痛みが治まる前に次の痛みが降ってくる連打はかなり堪える。
セバスチャンに暴言を吐いて睨み付けたシエルの目は涙目だ。
しかし、セバスチャンは全く調子を変えない。

 

「おやおや、この期に及んでその口の悪さ… 感服いたします。

反省が微塵も感じられませんね。」

 

「っ…そんなことっ…」

 

普段の完全執事モードの時とは少し違う、

悪魔を感じさせるような目で見つめられてシエルが一瞬怯む。
その隙に、セバスチャンは畳み掛ける。

 

「大体、暴れない、というのは坊ちゃんのための忠告ですよ。」

 

「忠告…だと?」

 

「お忘れですか、この状況を。今ここにいるのは私と坊ちゃん二人きりではありませんよ。」

 

「!!! や、やめろセバスチャンっ…」

 

あまりに想定外の事態すぎて周囲の状況をすっかり忘れていたシエルは、

突然現実を突きつけられて顔を真っ赤にする。
そう、今この空間はシエルとセバスチャン二人きりではない。

 

「いくら失神させたのがこの私とはいえ、殺していませんからね。
坊ちゃんがあまり大声を上げて暴れると、皆さん目を覚まされてしまうかもしれませんねぇ。」

 

「や、やめろっ…」

 

バシィィィンッ

 

「いたぁぁっ」

 

「それに…」

 

セバスチャンは、更に追い打ちをかける。

 

「私が匿名でヤードに通報を入れてからもうすぐ10分経ちます。」

 

「っ!!!」

 

息をのむシエルの耳元で、セバスチャンは意地悪気に囁いた。

 

「あんまり坊ちゃんが駄々を捏ねてお仕置きを長引かせたら、

ヤードの皆さんに見られてしまいますねぇ。
あのファントムハイヴ伯爵が女装をして、

執事の膝に乗せられてお尻叩きのお仕置きをされているところを…」

 

そんなことになれば、もうヤードに今までのように偉そうな顔はできませんねぇ、と

愉快そうに言われ、
羞恥心を煽られ我慢ならなかったシエルは声を荒げた。

 

「か、からかうのも大概にしろ!!

ここにいる奴らを目覚めさせないことも、ヤードにここに立ち入らせないことも、

お前の力を使えば容易いことだろう!」

 

「それは確かにそうですが。しかしどうしましょうかねぇ…
坊ちゃんは反省する気も、素直にお仕置きを受ける気も全くないようですし…」

 

「なっ…」

 

「お仕置きの効果を高めるためにも、ここはもう少し…」

 

「や、やめろセバスチャン…」

 

いつもならふざけるなと一喝して済むところだが、
だが、今のセバスチャンは、本当にやってしまいそうで、

怖くなったシエルが嘆願の感を込めて言うが、セバスチャンは取り合ってくれない。

 

「いえ、やはり懲りていただくためにも…」

 

もう、しょうがない、そうするしかない、愚図愚図していたら余計悪い方向に転がってしまうかもしれない。
決心したシエルは口を開いた。

 

「わかったセバスチャン! わかったから!」

 

必死のシエルの叫びに、セバスチャンはフッと表情を緩めて問う。

 

「おや、何がお分かりになったのですか。」

 

「…今日は、用心が足りなかった。反省している…」

 

バシィィンッ

 

「くぅぅっ…」

 

「ええ。そうですね。それで、どうするんですか?」

 

「え…」

 

問いの意味がいまいち掴めず焦るシエルに、

セバスチャンは幼子を相手にするように言葉を区切って尋ねる。

 

「…お仕置きを、素直に、…?」

 

「…う、受ける…」

 

完全な子供扱いにもう羞恥心が限界で顔を伏せるシエルに、

セバスチャンはフフッと少し笑って、よくできました、と呟くと、また平手を振り上げた。

 

バシィィンッ

 

「うぅっ…ちょ、ちょっと待てセバスチャンっ…」

 

一発で涙交じりのうめき声をあげたシエルは、

既に次の平手を振り上げていたセバスチャンに制止の声を上げた。

 

「…何ですか、坊ちゃん。素直にお仕置きを受けるのでは?

もしもうダメだなどと言うならやはり…」

 

「違う、受ける、受けるからっ…」

 

眉を顰めてみせるセバスチャンに、シエルは必死で言った。

 

「あ、あまり…痛くするな…」

 

そんなお願いをしている自分が恥ずかしいのか、言葉尻は消え入るようである。
しかし、そんなシエルの決死のお願いだったが…

 

「却下です。坊ちゃん。」

 

「なっ…」

 

きっぱり否定され、シエルは絶望に目を見開く。

 

「坊ちゃんのリクエストを聞いてしまったらそれは『お仕置き』になりません。
坊ちゃんは『お仕置き』を素直に受けると仰いましたよ?」

 

「なっ・・・こっ・・・このっ・・・」

 

その声音は冷徹で、でもどこか面白がっている節も感じられて。
悔しさと痛みにシエルは震えながら吐き捨てた。

 

「このっ…悪魔めっ…!!!」

 

 

 

 

結局、それからシエルは先ほどまでの痛みと全く変わらない痛みの平手で

百叩きの残りをきっちり叩かれてから
ようやくセバスチャンによって縄を解かれ、部屋から脱出した。

 

叩かれたお尻はしばらく痛み続け、

その間シエルはいつもよりも少し用心深くなり、

傍若無人振りは多少なりを秘めていたとか、いないとか…。