本との気持ち50
「メトロポリタン」阿刀田高 著
(文春文庫・540円)
メトロポリタン・大都市に生きる平凡な人々の日常に潜むちょっぴり怖い物語を元旦からジングルベルまで15の掌編に込めた短編集。
「母を愛す」
新婚の息子夫婦に触発されてか、嫁に対するライバル意識が嫉妬をかき立てた。思いがけず女を取り戻したような感激が女主人の未亡人を襲って生理がよみがえったかのようなラストなのだが、今ひとつだったかな。
「友だち」★★★
自分の方は恋心だったのに、彼女はそうではなかったという求婚の結末がいい。少年時代の時の友情のようでしかなかったのだが、主人公の純な気持ちが通ったストーリーの流れ方も悪くなかった。でも彼が少しかわいそう。
「花の乱れ」
チューリップやひまわり、水仙、たんぽぽと、花の名前はそんなのしか知らない。不覚なものでご勘弁下さい。こんな思いは、花が女とすれば女に対しても不覚で、見破られる別れ方しかできない為体(ていたらく)。所詮、軽く思われがちな存在なのだ。要は意気地無し。花は枯れても、野のどこかで又咲いてくれる。それでいいじゃないか、という気持ちになる当たり前のようにもてなかった男の話。
「置き去り」★
仲睦まじい老後の二人。しかし旅先やちょっとした出掛け先で、夫人はよく置いてけぼりをくっていた。どうしてだろう。夢にもそんなことが出てきて悩んでいたら、ほんとに夫に先立たれ置いてけぼりに。その後はもうそんな心配もないはずなのに、葬儀のあとに旅を思いついて今度は自分が夫の顔になって仏壇の彼を置いてけぼりをする側に、というわけなのだが、彼女の旅先は想い出の地なのかどうか。
「悪筆」
悪筆の女が研修費に200万円必要と書いたメモを見て、女からその200万円を奪った石井。刑事は女の書いたメモの「研修」の文字を「石井修」と読んで、それで犯人逮捕になってしまう。字が汚くてバカにした女に、してやられたというわけだが、まぁいいか。
「赤い靴」★
離婚して別れた息子を思う自分。バーで耳にした「赤い靴」の歌詞には怖い話が秘められている。隣席の逢髪の男の「大陸に子供を残して引き揚げて来た」という話でその恐怖はいっそう増幅した。すると、自分の息子も「赤い靴」の異人さんに連れられて行っちゃった少女のように思えてきた。あぁ、家族の縁をまったく失った自分が恨めしくてならない。心の闇をかいま見た思いはすぐには拭い切れないものなのだろう。
「マネー・ゲーム」
ゲームや株に興味があれば面白く読めるだろう。ゲームにはまって現実と見境がつかなくなって殺人事件を起こしてしまったというゲームや賭け事の恐ろしさを綴ったストーリー。
「闇の気配」★
こちらから反論した友人がそれを苦にしてかどうか、苦しい経営状態の中、自殺した。後悔の念に悩む陰に潜む亡霊の気配につきまとわれた。自分の一言で傷つけ悩んでいる者がどこかにいるかもしれない。そんな不安をかき立てられる一編だ。
「真鱈」★★
何度も思い出して繰り返せばそれもまだら惚けのうち。老害の第一歩は誰しもやってくるが、身近にそれを見るにつけ、先行きが案じられてならない。鍋の底にそんな不安が張り付いて見えたというラストは、してやったりといった程ではないが、滋味のような深い味わいが感じられた。
「墨の跡」★★★★
父の親友との母の不倫は事実だった。それを耐えた父も死んだ。今、息子の自分は会社が不安定でも、その父の親友の会社の世話になるわけにはいかない。達磨の片方の目に描かれた母の真実の願い事を塗りつぶして両の目に墨を入れた。でも、そんな両親の過去が呼び覚まされぬようにいずれ焼却しよう。真っ黒に塗りつぶして自分も再出発しかないだろう。苦い思い出にいつまでも捕われてはいられない。ラストの決意が潔い。
「猫の贈り物」
ワクワクとはしながら読んだが平板なストーリーで、なるほどとしか思えないエンディング。悪い想像が現実となってしまうまで心のトラウマは永遠に消えない。そんなテーマで、誰にでもあることだから面白いと言えば言えるかもしれない。
他4編。
メトロポリタン (文春文庫)/阿刀田 高

¥540
Amazon.co.jp
(文春文庫・540円)
メトロポリタン・大都市に生きる平凡な人々の日常に潜むちょっぴり怖い物語を元旦からジングルベルまで15の掌編に込めた短編集。
「母を愛す」
新婚の息子夫婦に触発されてか、嫁に対するライバル意識が嫉妬をかき立てた。思いがけず女を取り戻したような感激が女主人の未亡人を襲って生理がよみがえったかのようなラストなのだが、今ひとつだったかな。
「友だち」★★★
自分の方は恋心だったのに、彼女はそうではなかったという求婚の結末がいい。少年時代の時の友情のようでしかなかったのだが、主人公の純な気持ちが通ったストーリーの流れ方も悪くなかった。でも彼が少しかわいそう。
「花の乱れ」
チューリップやひまわり、水仙、たんぽぽと、花の名前はそんなのしか知らない。不覚なものでご勘弁下さい。こんな思いは、花が女とすれば女に対しても不覚で、見破られる別れ方しかできない為体(ていたらく)。所詮、軽く思われがちな存在なのだ。要は意気地無し。花は枯れても、野のどこかで又咲いてくれる。それでいいじゃないか、という気持ちになる当たり前のようにもてなかった男の話。
「置き去り」★
仲睦まじい老後の二人。しかし旅先やちょっとした出掛け先で、夫人はよく置いてけぼりをくっていた。どうしてだろう。夢にもそんなことが出てきて悩んでいたら、ほんとに夫に先立たれ置いてけぼりに。その後はもうそんな心配もないはずなのに、葬儀のあとに旅を思いついて今度は自分が夫の顔になって仏壇の彼を置いてけぼりをする側に、というわけなのだが、彼女の旅先は想い出の地なのかどうか。
「悪筆」
悪筆の女が研修費に200万円必要と書いたメモを見て、女からその200万円を奪った石井。刑事は女の書いたメモの「研修」の文字を「石井修」と読んで、それで犯人逮捕になってしまう。字が汚くてバカにした女に、してやられたというわけだが、まぁいいか。
「赤い靴」★
離婚して別れた息子を思う自分。バーで耳にした「赤い靴」の歌詞には怖い話が秘められている。隣席の逢髪の男の「大陸に子供を残して引き揚げて来た」という話でその恐怖はいっそう増幅した。すると、自分の息子も「赤い靴」の異人さんに連れられて行っちゃった少女のように思えてきた。あぁ、家族の縁をまったく失った自分が恨めしくてならない。心の闇をかいま見た思いはすぐには拭い切れないものなのだろう。
「マネー・ゲーム」
ゲームや株に興味があれば面白く読めるだろう。ゲームにはまって現実と見境がつかなくなって殺人事件を起こしてしまったというゲームや賭け事の恐ろしさを綴ったストーリー。
「闇の気配」★
こちらから反論した友人がそれを苦にしてかどうか、苦しい経営状態の中、自殺した。後悔の念に悩む陰に潜む亡霊の気配につきまとわれた。自分の一言で傷つけ悩んでいる者がどこかにいるかもしれない。そんな不安をかき立てられる一編だ。
「真鱈」★★
何度も思い出して繰り返せばそれもまだら惚けのうち。老害の第一歩は誰しもやってくるが、身近にそれを見るにつけ、先行きが案じられてならない。鍋の底にそんな不安が張り付いて見えたというラストは、してやったりといった程ではないが、滋味のような深い味わいが感じられた。
「墨の跡」★★★★
父の親友との母の不倫は事実だった。それを耐えた父も死んだ。今、息子の自分は会社が不安定でも、その父の親友の会社の世話になるわけにはいかない。達磨の片方の目に描かれた母の真実の願い事を塗りつぶして両の目に墨を入れた。でも、そんな両親の過去が呼び覚まされぬようにいずれ焼却しよう。真っ黒に塗りつぶして自分も再出発しかないだろう。苦い思い出にいつまでも捕われてはいられない。ラストの決意が潔い。
「猫の贈り物」
ワクワクとはしながら読んだが平板なストーリーで、なるほどとしか思えないエンディング。悪い想像が現実となってしまうまで心のトラウマは永遠に消えない。そんなテーマで、誰にでもあることだから面白いと言えば言えるかもしれない。
他4編。
メトロポリタン (文春文庫)/阿刀田 高

¥540
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本との気持ち49
「100文字でわかる『名画』の秘密」佐藤晃子 監修
(KKベストセラーズ・ベスト新書、770円)
ベスト新書の100文字シリーズの一冊。『名画』はルネッサンスから19世紀末までの西洋絵画と日本絵画で、大半は前者で構成されている。紹介されている『名画』や画家の自画像などはすべてイラストで掲載。100文字の簡単な紹介記事に補足する文章が並んでいて、読むと言うよりもビジュアル感覚で読んでページをめくっていけるのが特長だ。美術史を改めて勉強してみるのには手頃な新書判と言える。
しかし、初め『名画』を略画のイラストで見ることには多少の抵抗があった。もちろんイラストにした狙いには、読者が絵を鑑賞することよりも『名画』に込められたメッセージを読み取ることに主眼が置かれているからで、それは「まえがき」でも触れて述べられている。抵抗を感じたのは、原画を想像しながら読んではたしてその想像がどれだけ原画に近いかを絶えず意識して読まなければならないからだ。でも、かえってそれがいいのかも知れない。メッセージを読み取るには原画とのある程度の間隙があって、読者は自然とそこを埋めていかなければならない。その作業がメッセージを読み取ることに通じるという、この本を編集した狙いはまさしくそこにあるのだろう。
絵の鑑賞とは見ている先を読み取ることだ。その想像は自由だが、解説のある鑑賞はより鑑賞の楽しみを増幅させてくれる。本書は美術鑑賞の初歩的な手引きとしてうってつけだ。検索サイトで原画を確認しながら読み進む楽しみも湧いてくる。
100文字でわかる「名画」の秘密 (ベスト新書)/著者不明

¥770
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本との気持ち48
マイ・ギャラリートーク「美術の森の散歩道」井出洋一郎 著
(小学館ライブラリー・840円)
森にはいろいろな謎が秘められている。森羅万象という言葉があるくらいだ。この本のタイトルの森にも美術の謎が散りばめられ、著者はそれらを解き明かそうと自由気ままな散歩を楽しんでいる。主に19章にわたり泰西絵画を取り上げ、時に定説を軸に自論を展開したりもする。
また、絵の巨人のベストナインを決めたり、架空座談会で絵画オークションの裏話を話し合ったり、さらには画家と音楽家を対比させたりと、ただ単に画家と絵を紹介されているだけでない楽しみ方をこの本では味わうことができる。散歩道のタイトルにふさわしい編集と言えるだろう。
印象派の画家ゴッホには12枚の「ひまわり」の絵がある。美術評論家の高階秀爾氏は『ゴッホの眼』という本の中でその12という数字について、キリストの十二使徒をイメージしてゴッホ自身もアルルで12人の画家仲間を作ろうとしていたと言っている。これに対し著者は、ゴッホは12ヶ月すべてを向日葵の花で部屋を飾りたかった。仲間としてやってくるゴーギャンと一年中一緒にいたかった。そんな願望ではなかったのかとゴッホの思い入れの程を語っている。
また、パリのルーブル美術館にある「ミロのビーナス」の欠けた両腕は左手にはリンゴかヘアバンドを手にしていた、右手は腰の布をつかんでいたとか古今東西諸説あり、かえって両腕がなかったことが謎を生んでビーナスの美を一層永遠なるものにしたのではと、著者は話を結んでいる。
さらに、ゴヤの「着衣のマハ」と「裸のマハ」はどちらが先に描かれたか、スペインのプラド美術館では左右はどちらかなど、名画の謎に挑むように諸説を展開、著者独特な結論を導き出している。
しかし一つだけ気がついたことがある。それは本書の33ページで第2章のミレーの「種をまく人」の2作品(ボストン美術館と山梨県立美術館)に対して、右後方に見えるのが写真ネームで「積み藁」となっていることだ。『山梨県立美術館蔵品抄』の8ページを見ると、説明文には「右奥では夕日を浴びた二頭の牛が大地を耕す。」とある。他の説ではどうなのだろうか。
美術の森の散歩道―マイ・ギャラリートーク (小学館ライブラリー)/井出 洋一郎

¥840
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(小学館ライブラリー・840円)
森にはいろいろな謎が秘められている。森羅万象という言葉があるくらいだ。この本のタイトルの森にも美術の謎が散りばめられ、著者はそれらを解き明かそうと自由気ままな散歩を楽しんでいる。主に19章にわたり泰西絵画を取り上げ、時に定説を軸に自論を展開したりもする。
また、絵の巨人のベストナインを決めたり、架空座談会で絵画オークションの裏話を話し合ったり、さらには画家と音楽家を対比させたりと、ただ単に画家と絵を紹介されているだけでない楽しみ方をこの本では味わうことができる。散歩道のタイトルにふさわしい編集と言えるだろう。
印象派の画家ゴッホには12枚の「ひまわり」の絵がある。美術評論家の高階秀爾氏は『ゴッホの眼』という本の中でその12という数字について、キリストの十二使徒をイメージしてゴッホ自身もアルルで12人の画家仲間を作ろうとしていたと言っている。これに対し著者は、ゴッホは12ヶ月すべてを向日葵の花で部屋を飾りたかった。仲間としてやってくるゴーギャンと一年中一緒にいたかった。そんな願望ではなかったのかとゴッホの思い入れの程を語っている。
また、パリのルーブル美術館にある「ミロのビーナス」の欠けた両腕は左手にはリンゴかヘアバンドを手にしていた、右手は腰の布をつかんでいたとか古今東西諸説あり、かえって両腕がなかったことが謎を生んでビーナスの美を一層永遠なるものにしたのではと、著者は話を結んでいる。
さらに、ゴヤの「着衣のマハ」と「裸のマハ」はどちらが先に描かれたか、スペインのプラド美術館では左右はどちらかなど、名画の謎に挑むように諸説を展開、著者独特な結論を導き出している。
しかし一つだけ気がついたことがある。それは本書の33ページで第2章のミレーの「種をまく人」の2作品(ボストン美術館と山梨県立美術館)に対して、右後方に見えるのが写真ネームで「積み藁」となっていることだ。『山梨県立美術館蔵品抄』の8ページを見ると、説明文には「右奥では夕日を浴びた二頭の牛が大地を耕す。」とある。他の説ではどうなのだろうか。
美術の森の散歩道―マイ・ギャラリートーク (小学館ライブラリー)/井出 洋一郎

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