本との気持ち48 | コラムなタイム

本との気持ち48

マイ・ギャラリートーク「美術の森の散歩道」井出洋一郎 著
(小学館ライブラリー・840円)

 森にはいろいろな謎が秘められている。森羅万象という言葉があるくらいだ。この本のタイトルの森にも美術の謎が散りばめられ、著者はそれらを解き明かそうと自由気ままな散歩を楽しんでいる。主に19章にわたり泰西絵画を取り上げ、時に定説を軸に自論を展開したりもする。
 また、絵の巨人のベストナインを決めたり、架空座談会で絵画オークションの裏話を話し合ったり、さらには画家と音楽家を対比させたりと、ただ単に画家と絵を紹介されているだけでない楽しみ方をこの本では味わうことができる。散歩道のタイトルにふさわしい編集と言えるだろう。

 印象派の画家ゴッホには12枚の「ひまわり」の絵がある。美術評論家の高階秀爾氏は『ゴッホの眼』という本の中でその12という数字について、キリストの十二使徒をイメージしてゴッホ自身もアルルで12人の画家仲間を作ろうとしていたと言っている。これに対し著者は、ゴッホは12ヶ月すべてを向日葵の花で部屋を飾りたかった。仲間としてやってくるゴーギャンと一年中一緒にいたかった。そんな願望ではなかったのかとゴッホの思い入れの程を語っている。
 また、パリのルーブル美術館にある「ミロのビーナス」の欠けた両腕は左手にはリンゴかヘアバンドを手にしていた、右手は腰の布をつかんでいたとか古今東西諸説あり、かえって両腕がなかったことが謎を生んでビーナスの美を一層永遠なるものにしたのではと、著者は話を結んでいる。
 さらに、ゴヤの「着衣のマハ」と「裸のマハ」はどちらが先に描かれたか、スペインのプラド美術館では左右はどちらかなど、名画の謎に挑むように諸説を展開、著者独特な結論を導き出している。

 しかし一つだけ気がついたことがある。それは本書の33ページで第2章のミレーの「種をまく人」の2作品(ボストン美術館と山梨県立美術館)に対して、右後方に見えるのが写真ネームで「積み藁」となっていることだ。『山梨県立美術館蔵品抄』の8ページを見ると、説明文には「右奥では夕日を浴びた二頭の牛が大地を耕す。」とある。他の説ではどうなのだろうか。

美術の森の散歩道―マイ・ギャラリートーク (小学館ライブラリー)/井出 洋一郎

¥840
Amazon.co.jp