前回は蝶と蛾のお話でしたが、今回は、雪の種類のお話をさせていただきたいと思います
◇プロローグ
皆さんは、「雪の種類は?」と言われて、どのくらい思い浮かびますか?
粉雪は、レミオロメンの『粉雪』、椎名へきるの『粉雪』、石原裕次郎の『粉雪の子守歌』、中島みゆきの『粉雪は忘れ薬』など、多くの歌手に歌われているので、比較的思い出しやすい名前かもしれません。
その他でメジャーなところだと、ぼた雪(べた雪、ぼたん雪)などがすぐに浮かびやすいでしょうか?
実は、日本語では、雪の状態に基づく分類として、慣習上7つの種類が存在します
◇雪の種類(形状に基づく降雪の分類)
①玉雪
球形の雪のこと。雪のシーズン到来当初や終盤時期、雪雲のでき始めている先端部分などで見られる。
②粉雪
さらさらした粉末状で、乾燥した雪のこと。寒冷地域に多く見られる。
③灰雪
空中をすらっと降ってくるのではなく、灰のようにひらひらと舞いながら降ってくる雪のこと。やや厚みがあり、日光に当たると印影が出来て灰色の影ができる。
④綿雪
手でちぎった綿のように大きな雪片からなるもので、水分を含み、重みのある雪のこと。降雪地帯の中でも、温暖・多湿な地域に多い。
⑤餅雪
融解が始まっており、水分を多く含む雪のこと。雪の塊は餅のように柔らかく、自由に形状を変えられるので、雪玉や雪だるまなどを作るのに適した雪とされている。
⑥ぼた雪(別名:べた雪、ぼたん雪)
餅雪よりも水分が多く、べちゃっとした雪のこと。団子状に固まっていることもある。
⑦水雪
ぼた雪よりもさらに融解が進み、水気の多い雪のこと。霙(みぞれ)と同じ。
以上の7つは、慣習的に分類されているもので、明確な定義・区別基準があるわけではありません。
したがって、正確性が要求される気象用語としては用いられていません。
◇その他の雪の名称
この他に、細雪、淡雪、薄雪などの単語を思い浮かべた方もいらっしゃるかもしれません。
❶細雪(ささめゆき)
(『細雪』(谷崎潤一郎/新潮文庫))
細雪は、谷崎潤一郎の小説『細雪』でも有名になった言葉ですが、意味は粉雪と同じで、粉雪の文章語とされています。
❷淡雪(あわゆき)
また、淡雪は、遊佐未森のCDアルバム『淡雪』のタイトルにもなっていますが、うっすらと積もって消えやすい雪を意味し、綿雪の別称とされています。また、上記のとおり、明確な定義・区別基準があるわけではないので、ぼた雪のことを淡雪と呼んでいる場合もあるようです。
したがって、分類という観点でいうと、淡雪は8つめの雪の種類とはいえないと思います。
❸薄雪(うすゆき)
(ウスユキソウ)
上記の写真は、エーデルワイスの親戚であるウスユキソウ(薄雪草)ですが、この花をご存じの方は、薄雪という単語を思い浮かべたかもしれません。
しかし、薄雪は、薄く積もった雪のことで、雪の形状の違いに基づく降雪の分類ではないので、やはり8つめの雪の種類とはいえないと思います。
◇積雪の分類
これまでお話ししてきた雪の形状に基づく降雪の分類以外に、雪質に基づく積雪の状態の分類があるので、それもご紹介しておきます
(※分類は日本氷雪学会によるものです。)
①新雪(しんせつ)
降雪時の結晶の形がほぼ完全に残っているもの。
②小締まり雪(こしまりゆき)
樹枝形などの結晶が若干残る程度で、ほとんど丸みを帯びた氷の粒の状態の積雪。
③締まり雪(しまりゆき)
圧縮や焼結により丸みを帯びた氷の粒。粒子同士が網目状の組織で緩やかにつながっている状態の積雪。
④粗目雪(ざらめゆき)
水の作用により粗大化した氷の粒の状態の積雪。内部・表面に水を含むものと再凍結したものとがある。
⑤小霜粗目雪(こしもざらめゆき)
新設が融解・霜の付着んどによって、平らな形状とんった小さな氷の粒の積雪。
⑥霜粗目雪(しもざらめゆき)
新雪を核として成長した霜が肥大化し、骸晶状の氷の粒と化した状態の積雪。
⑦氷板
板状・層状の氷。
⑧表面霜
積雪層の表面に発達する霜。
⑨クラスト
積雪層表面にできる再凍結によってできた固い層。
積雪の状態の分類って、こんなにあるんですね
私は、①新雪と⑨クラスト以外知りませんでした
◇外国の言語での分類
ところで、「イヌイットには、雪を表わす単語が、多数ある」という話を、聞いたことがある人は、けっこう多いのではないでしょうか
ネット上でそれについて触れているブログなどをいくつか拝見させていただいたところ、その数はまちまちで、人によっては、20種類以上、200種類以上、400種類以上という人までいます。
他方、実際は3~4種類しかないと書いている人もいました。
これは、サピア・ウォーフという学者が唱えた言語相対性仮説が一人歩きした結果であり、また、その後にかかる仮説を否定する学説も出てきたことも影響しているものと思われます。
では、実際のところは、どうでしょうか?
イヌイットの言語(イヌクティトゥット語)では、一部抜粋すると、以下のような雪の分類があります。
①カニック
降っている雪、雪片のこと。
②アニユ
飲料水を作るための雪のこと。
③アプット
積もっている雪のこと。
④プカック
きめ細かな雪のこと。
⑤ベシュトック
吹雪のこと
⑥アウベック
イグルーと呼ばれる雪の家を作るための切り出した雪のこと。
以上の単語を見て、お気づきになった方もいらっしゃるのではないでしょうか
日本では、雪の種類を表わす言葉は、〇〇雪として、雪が必ず入っています。
これは、雪という総称があるためです。
英語にも、snow(スノウ)という総称があります。
これに対して、イヌクティトゥット語では、それぞれの言葉に一部重なっている部分が存在しません。
つまり、雪の総称が存在しないのです。
以上に加えて、イヌクティトゥット語では、指示代名詞(こそあど言葉)の種類が多く存在します。
また、日本では、白やクリーム色に分類される色の種類が、イヌクティトゥット語ではより細かく分類されています。
そのような単語を組み合わせていくと、雪の種類はかなりの数になってくるので、イヌイットでは、雪を表わす言葉が多いというのは、あながち間違ってはいないのかもしれません
また、②アニユや⑥アウベックのように、何に用いるための雪かを分類していることも、イヌクティトゥット語の雪を表わす言葉の特徴として、興味深い事実だと思います。
それだけ、イヌイットの生活は、雪と切っても切り離せないものだということでしょう
◇次回予告
前回は、蝶と蛾の違いをご紹介し、両者を区別する言語と区別しない言語があるというお話をさせていただきました。
そして、今回は、雪の分類が、言語によって異なるというお話をさせていただきました。
次回は、このような言語間の比較を通して得られる、言語とは何かという核心に迫っていきたいと思います
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