● 香港から。
昨年、大きなうねりを見せた香港の民主化デモ。その後のCOVID19の世界規模の感染拡大の混乱の陰に隠れて、着実に進む中国共産党による香港自治への侵食。中国側は断固とした姿勢をみせ、その強権発動による市民弾圧は映像として世界に拡散され、欧米メディアを皮切りに国際的な非難が巻き起こった。
対して、中国側の視点から見れば、返還された領土を自システムに併呑するプロセスに過ぎず、むしろ、米国または英国による政治工作が強まって対立が先鋭化したと見て新華社などは批判を強めている。実際に中国側報道ではCIAは関与を辞めよと声高に声明も出した。批判合戦は止まることはなく、混乱は収束の兆しを見せてはいない。
しかし、そうした騒乱は香港だけにとどまらない。
タイでは同様に騒乱状態が続いており、政権交代を促す深刻な社会麻痺を引き起こしている。そうした社会混乱は南米、中東、東南アジアなどの広範な地域で発生しているのが今日の姿だ。
同様にこうした国々や地域の政情不安には、大国の思惑が蠢動し、実際に情報供与や組織的支援、資材の供与や場合によって武器供与や戦闘訓練にまで進み、破壊工作活動や暗殺まで引き起こされる場合もある。
地政学的に続く”The Great Game”にまつわり、大国間の代理戦争や力学均衡という意味において、こうした世界各国の地域や特に大国の覇権力学上の均衡点における衝突は、現地の衝突と矛盾を拡大させ対立をより先鋭化させる方向へと事態を進める傾向をもつ。
時にお互いに傀儡を打ち立て、代理戦争に火花を散らす。そして勝者側は沈黙する。「お前たちは傀儡か?」と聞かれて、そうだと答える傀儡はいない。
今回の大統領選は二つの異なったベクトルで、こうした地域利害衝突や地域対立に対して、中長期的により深刻な影響を与える構造性を持っている。トランプの実質敗北と勝利宣言が出ればその構造的影響性は最悪のレベルとなる。
その構造性を見ていこう。
● 白地図の意味
世界最大の覇権国アメリカの意思決定中枢に致命的な混乱が生じることは、事実上、その覇権影響圏に野心及び敵意を持つグループにとって、自らの覇権構造を増大させる為の機会としては好機である。
まして、国際規模での覇権競争で主導権を争うチャレンジャーの意味を持つ「大きな」プレイヤーにとって、現実的な覇権力学の変質をともなう挑戦的な野心が実現する可能性を秘めている好機なのだと、この事態は映るだろう。
特に米中対立は経済分野の物流や技術における規格の分断というレベルから、既に冷戦状態に突入しており両国の誹謗中傷を伴った批判合戦は、多くの国際会議で他国の出席者をうんざりとさせるほどに慢性化している。
その背景の上にパンデミックの大混乱があり、COVID-19は特に欧米で秋頃から大流行の兆しを見せ始めている。各国は国庫が空になるほどの緊急の財政出動を行い財政状況を極端に悪化させているだけでなく、各種法令の緩和処置や、物流等の禁輸や出入国禁止などの非常態の処置を余儀なくされている。
こうして常態の国際社会環境とは全く異なったレベルで状況が推移している以上、ここで万一、最大覇権国内の意思決定機関で混乱や麻痺を伴う空走状態が惹起した場合、何が起こるだろうか。
そもそも、覇権競合国からすれば、米国の政治的混乱や対立を煽れば、より自国に有利な既存覇権力学の大幅な空白を作り得るという部分での工作運動はこれまで続いてきたし、そもそもそれに気付かない競合国側の戦略家は席を後進に譲るべきだろう。もともとロシアや中国は世論誘導などの情報戦のレベルでは活発に米国内で活動している。
米国の覇権が短期どころか長期的な範囲と大きな規模で揺らぐことは、時宜的な意味で競合国にとって絶好の機会である。
雁金俊彦 情報技研
4に続く。
<本稿は2020年9月20日に執筆した調査情報の一部を基にリライトしたものですが、第4稿~第6稿につきましては一般公開でのネット投稿には誠に勝手ながら掲載致しません。活字投稿版をご参照ください。>