恥辱とカタルシス -7ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

おお……地元やった……。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

さあ新しいお話を書き始めておりますよー。狗神憑きのホラー的ミステリー。全15章のうちの1章めの半分って感じですかねー。でもなかなかてこずっております。なんせ方言が飛び交うものでねー、三人称で書き始めたら、慣れてなくて視点のおき方がおかしくなっちゃう。

 

ここ最近、一人称でばっかりお話を書いていたんですね。久しぶりで三人称単一視点で書いてみたら、なんか原則からずれているという。1章めは色々と説明文が並ぶんですが、これの視点がぶれるぶれる。私という作者の視点で書かなければならないのに、1章めの主人公の視点にすり替わってしまうんですよね。まあある程度の憑依はありなのかなと思いはしますが、新人賞では視点のブレは減点対象になるそうで。あれこれ考えてたらなかなか筆が進まーん。パソコンで書いてますけど。ま、三人称で書いた経験もありますので、慣れたらどうにかなるのでしょうが。

 

本当は一人称でいろんな人の視点で書き進めていきたかったんですが、方言がきつくてね。色んな方言が出てくるんですが、中でも多くの登場人物が土佐弁をしゃべるんですよ。年寄りもいるので、かなり濃い目の土佐弁です。地の文が土佐弁ってめちゃめちゃ読みづらいでしょー。そうなると三人称かなーと思うんですが、どうかな。しっくりこないと思ったら、一人称で書き直すかも。

 

まあ、とにかく書いていかなきゃ判断がつきません。頑張ろう。というわけで、読んだ本の話。

 

坂東眞砂子大先生の、「狗神」を読みましたよー。……これ、多分めっちゃうちの村が舞台だと思われる。なんと申しますか、激熱で濃厚な世界観でございました……。

 

 

 

主人公は41歳の独身女性、美希ちゃん。……同世代やん。断崖絶壁に家が張り付いた集落で、兄一家と共に住み紙漉きをして生計を立てています。ご存知ですか土佐和紙。高知は紙が有名なんです。うちの実家も祖父母の代にはミツマタを育ててましたねー。和紙の原料です。今書いてる話にもその辺りを出すつもりです。あとお蚕さんとかね。養蚕。私が子供の頃にも祖父母宅にはお蚕さんたちがいたものでした。

 

桑の葉を食べる音が、「わしゃわしゃわしゃ……」と響いたものです。白くて重みがあって、しっとりと湿り気を持ったお蚕さん。大好きでねー。蚕小屋に忍び込んでは手にお蚕さんをのっけて陶酔の時間に浸っていたものです。

 

実際、モデルになったと思われるその斜面に家がへばりついた地区では、今でも紙漉きの伝統が残っています。そんな集落で暮らす美希ちゃんは、坊ノ宮家というおうちの血を引いています。大きな旧家であるその坊ノ宮家は、「狗神筋」の家系だというのですが……。

 

 

 

うん、もうね、どろっどろの怪奇小説です。ただの怪奇じゃなくて、結構エグイです。近親相姦、出生の秘密、子供のすり替え、そして「狗神筋」の坊ノ宮家と地域住民との対立。40過ぎの美希ちゃんは、地元の中学に赴任してきた16歳年下のイケメン先生と肉体関係に陥ってしまいます。けれど美希ちゃんは、かつて知らずに愛し合った兄との間の子を生み落としてしまった暗い過去を抱えています。

 

すごいのは、田舎だからその兄ってのも家の近所にフツーに住んでるのよね。田舎ってそうなんです。過去があろうが揉めようが殺し合いが起きようが、なぜかその土地を離れようって気を起こさないんですよね。私みたいに15で土地を出る人間もいますが、出ない人間は何があっても絶対に出ない。まるで土地に縛られるかのようにして、一生をそこで終えていきます。ご先祖様が離してくれないのでしょうか。

 

逆に早々に土地を捨てた私は、実家に帰ると必ず雨が降り夏には100%ムカデが出ます。そして、尾籠な話ですが必ず生理になる。……なんかあるんでしょうかねえ。土地を捨てた女として、土地神様に嫌われちゃったんでしょうか。父は「歓迎されてるんだよ」と言いますが、……そう? 歓迎でムカデ出されても……困るんですけど。

 

とにかく、田舎というところにはそういう「なんかよく分かんないけど、間違いなくいる何か」が否定されずに残っている場所なんです。「狗神筋」という血筋もそう。この令和の世にもこの血筋は間違いなく残っていることでしょう。こういう因習は人の口に立たない。立たないからこそ、廃れることなく連綿と続いていく。怖いですが、こういうのって都市伝説を超えて日本中に残っているんじゃないかと思う。逆に、廃れさせると何が起こるか分からん怖さもあるしねえ。

 

 

 

……なんか、全然この作品の話が進みませんね。とにかく美希ちゃんは、都会からやって来た晃さんというこの先生と恋仲になって、子を宿してしまいます。16歳差。でも晃さんは結婚しようと言ってくれました。晃さんが赴任してきてから、集落には寝苦しい夜が続いています。村民みんなが眠れないんだって。それを地域の古老は「狗神が目覚めたんじゃないか」なんて言う。信じていなかった美希ちゃんですが、彼女が誰かを羨むたび、その人がまるで狐憑きのように狂っていく……。

 

ラストには、狗神筋である坊ノ宮家の根絶やしを企んで、地域住民が山に火を放ちます。山中で先祖祭りをしていた坊ノ宮家は火に巻かれ、全滅してしまう。その中で、晃が美希の16歳の時に産んだ子供だと判明するんですね。……もう。なかなかにエグイ。兄妹の近親相姦の果てに出来た子と、母親が近親相姦。ここまでくるとさすがの近親相姦好きの私もげっそりよ。

 

狗神筋の血を濃くした晃先生の登場で、狗神様は活性化して悪さを始めたようです。しかし山の三方から火を放って、回るのが早すぎるっちゅーねん。これは生木を焼いたことのない人には分かんないんだろうなあ、山なんて、そんなに簡単に燃えませんから。根っこがついてる木なんか、水分の塊ですから燻るだけでそう簡単には燃えませんから。

 

まあ、物語を終わらせるためには、坊ノ宮家の皆さんに死んでもらわなくちゃいけなかったのかと思いますけど。これはここにも書いた、別の話でも思ったんだよなあ。「山はそう簡単には燃えない」。テレビで見る外国の山火事とかは干ばつの末ですからね。実際私は山火事をまじかで見たことがありますが(父の工場が燃えかけた)、舐めるようにゆっくりと火が進んでいくものです。最後の最後でこのオチはちょっとがっかりでした。晃先生が狗神筋の本丸だった、っていうのはなかなかのどんでん返しでしたが、どうにも、エグさばかりが残る読後感でした……。

 

 

 

あー、結構文字数書いてるな。このお話にはかなり思い入れを持って読んだので、なんだかだらだらと色々書いてしまいました。結局、「狗神とは何なのか」というところを、このお話の中では「鵺の一部」として扱っていました。伝承の中の一つですが、京都に出てた妖怪ですね。鵺。しっぽが蛇で頭がサルで胴体がトラで……でしたっけ。とにかくなんか、色んな動物の集合体の妖怪が鵺。安倍晴明だかが退治して、バラバラになった欠片が高知に流れ着いた、なんて伝承があります。それが狗神の起源だと。

 

まあ「諸説あり」ですね。私は「土中に埋めて首を切って……」の「人間が作り出した呪いの道具」の方が現実的かなと考えています。現実的って。めちゃめちゃ、非現実的な話をしているのは分かってるんですが。でもねえ、「晴らさでおけない」恨みを作り出したのも人間なんだよ。人を恨んだ時、どうにかして復讐を遂げたいと思うのが人間です。でも自分にはまったく現実的な力がない。どうにかして、どんな力を得てでも恨みを晴らしたい……そんな思いから狗神は生まれたのではないか。そう思うんだよねえ。まあ、そういう感じで今取り掛かってる話も書いていきたいと思います。

 

差別って、罪なものだね。今の日韓関係を考えても思います。宇宙人からしたら、地球なんて小さなひとつの惑星です。そこで似たような民族が争ってるなんて。蟻の喧嘩みたいなもんやな。赤い蟻と黒い蟻の喧嘩。同じ蟻なのに、どうして相いれることができないのか。

 

おお……書きすぎた。もう寝よう。明日からは貴志祐介さんを読みます。ミステリー×ホラーと言えばこの人かと。楽しみ。というわけで。

 

おやすみなさい!

さあープロットができましたよ。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

新しい話のプロットが組めましたよ。ホラー。かつミステリー。登場人物19人。さあ、500枚以内で仕上がるんでしょうか。

 

なんかね、書く前から怖くてビビりまくり。最後まで話の流れを作ってみて、すごいメンドーな話になりそうなのが自分で分かってるから。これがプロット通りに進んでくれるんなら、何の反故もない話として仕上がるはずなんです。だって、今のプロット時点ではちゃんとひとつのお話になってるから。でも、書いてたら絶対話が違う方向に進みだすんだ。「こっちに進まなきゃおかしい」みたいになって捩じりだす。そうなったら、本当にちゃんと本筋に戻すことができるんだろうか。

 

それを500枚以内に収めれるのか……どうか。まあ、書いてみなきゃ分からないので、とにかく書くのみです。自分に書く力があるのかどうかとかはもう考えません。あると思えばあるし、ないと思えばないです。人間の目に見えてる現実なんか、この世のほんのちょびっとだからね。私の能力を私が限定するのはとてもおこがましいことです。私にはできる、と思って書きたいと思います。

 

明日から始動。その前に、大正から昭和初期の民族史を知りたくて一冊資料として読みました。

 

宮本常一さんの「女の民俗誌」。これが……もうあかん。面白くて、私こういう世界がホント好きなんやなあ……。

 

 

 

今回私が書く話には、高知のアンタッチャブルな民俗話、「狗神」をモチーフにするつもりです。憑き物筋の謂わばオカルトものなんですが、これがちょっと触るのが難しいモチーフで。狗神憑き、っていうのは、ちょっと前にはいわゆる被差別民だったんですね。これは、狗神という憑き物を作り出す方式にもちょっと怖いものがあるからなのかなと思うんですが。

 

怖い話をしますよー。よろしければお聞きください。動物虐待の話になりますので、お嫌な方はどうぞ回れ右を。

 

狗神っていうのお狐様と違って、人間が作り出す憑き物なんです。関東にはオサキ狐とかオコジョなんて伝承もありますが、似たような「使役する呪いの道具」が狗神。狗神は人間が作り出す恨みの念です。まずワンちゃんを首だけ出して土に埋めちゃう。お腹空いたワンちゃんはわんわん吼えて助けを呼びます。でもほっとくんですね。で、死にかけたワンちゃんの顔の前にエサをおいて、目を輝かせた瞬間に首を切る。……するとワンちゃんの首だけが飛んでエサに飛びつく。その首を呪いの道具にするのがいわゆる狗神。……嫌な話ですね、ごめんなさい。でも、実際西日本には、こういう呪いを使わなければ日々の鬱屈を晴らすことができない人たちがいたんですね。これは間違いなく、人間が作った身分制度の副次的な犠牲です。

 

このワンちゃんの怨念を使って、霊的な力を得るのが狗神憑きというやつです。私の周りに実際あったものではありません。大人になってから、高知の風俗を調べる上で分かったことです。狗神憑きの家系は、狗神憑きの家系同士でしか婚姻することが難しかったんです。血に狗神がのってるので。まあ嫌な言葉ですが、「血が汚れる」というやつですね。

 

だからまあ、これをモチーフにするなら、生半可な気持ちじゃいかんぞと。ちゃんと書かなきゃいかんし、逆にファンタジーとしてある程度はぼかさんと本当にエグイ話になっちゃう。だからその辺りの風俗、民俗史もちゃんと調べないかんねということで、とりあえず有名な民俗学者のこの方の「女」に関してまとめた本を読んでみました。話の中で、「狗神」は女にしか継承されない設定なので、この本がぴったりかなって。

 

この他にも高知の民俗史や、祭り、狗神伝説をまとめた本なども入手しましたが、これらはもうこちらには明記しません。全体ではなく、狗神近辺しか使わないので。この本は全体が面白かったので記録として残しておきます。うん、私、民俗学って好きなんかも知れん……。

 

 

 

宮本常一さんという方は、柳田國男さんの次ぐらいに有名な民俗学者さんなんだそうです。私は知りませんでした。この方は足でフィールドワークをなさった方で、「宮本常一の靴に赤いインクをつければ、日本地図は真っ赤に染まっただろう」と言われるぐらいに日本中を旅し、地域地域で人々に話を聞いて研究をなさっていた方なんだそうです。

 

私が読んだこの本は、昭和12年から昭和46年までのレポートをまとめたものです。日本各地の様々な「女」の生きざま、生活、結婚農業奉公風俗老い、一生が克明に描かれていました。私の地元の高知の山奥だったり、今現在住んでいる松山市の明治、大正期の記録もあった。怖いのがさ、「愛媛から高知の県境にあった『奉公分の嫁』と言われる制度」。

 

嫁はとりあえず、奉公人として婚家に預けられるんだって。で、向こうの家が「使い物になんねえなあ(奉公人として)」と思ったら、給金を渡され返されちゃう。もちろん夜の営みは致した後よ。やられ損。返されなくても待ってるのは「奉公人扱い」の生活ですよ。こっええー。うちのご先祖様にもこうやって嫁いできた人がいたのかしら。ああ、私、現代に生まれて良かったわ。

 

怖い話はまだまだ続きます。愛媛の山中のある地域では、女の子が生まれたら「姫が生まれたー!」って大喜びしたんだって。12歳ぐらいになったら売り飛ばせるから。道後あたりですかねー。花街が昔からありましたから。売ること前提。おっそろしい話やわあ。

 

それだけでなく、希望ももちろんあります。男尊女卑は武家社会のもので、江戸から戦前の農村や漁村の女たちにはちゃんと自己主張できる土壌があったんだそうです。儒教文化、武家社会の常識、戦争による洗脳によって女は弱くなっちゃった。いや、弱いものだとされてしまった。しかし原始、女性は太陽だったんですよね。農村や漁村には長くその文化が残っていたのだそうです。「姉家督」と言って、長女が家を継ぐ文化とか。未婚の女たちがグループを作ってお伊勢参りに出かけてみたり。旅は女の修養だったって。いいね。今の女の子たちの海外旅行みたいなもんやわな。田舎へ行けば行くほど、女は強かったようです。

 

そういう、「華やかな歴史書に載っていない市井の人々の小さな暮らし」が詰まっている本です。もちろん日本全国の逸話が散りばめられています。面白いです。「ポツンと一軒家」が好きなひとは絶対好きだと思う。「その土地の歴史」とか、「連綿と続いて来た人々の歴史」とかが琴線に触れる人は、きっとこういう世界に惹かれるんじゃないかな。

 

 

 

私こういうのが好きなんだって、はっきりと自覚することができた読書時間でした。……尊い。やっぱ読書っていいねえ。こんな昔のことを、文字にして残してくれる人がいて、それを読んでロマンに浸れるこの時間。プライスレスやな。

 

私、ばーさんになったら郷土史家みたいになっとるかも知れません。いや、その前に作家にならなきゃ。と、いうわけで明日からホラーを書きます。私にはできーる。出来る出来る。やってやれないことはない。やらずにできるわけがない。

 

さて、次は件の坂東眞砂子大先生の「狗神」だ!……避けて通るわけにはいくまい……読みます。パクリにならぬよう片目だけ開けて読みます。

 

というわけで今日はもう寝ます。

 

おやすみなさい!

昨日はこんなところへ。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
 
プールですね。
 
これはあんまり人がいない瞬間に撮ったんですが、もうさすがは夏休み。
 
芋洗いですわ。芋。流れるプールで子が水を飲んでしまい一瞬怖いことになったんですが、後から後から人が押し寄せて救助するのも一苦労。はしゃぎ盛りの小学生男子の波から我が子を救出しましたよー。いやー焦った焦った。
 
「邪魔だから脱ぐ」とラッシュガードを脱ぎ捨てた子はもう1日で真っ黒に焼けるしねー。私も日焼け対策はしまくりましたが足が焼けてしもた。まあ、子供孝行ですからしょーがないか。楽しそうでよかったよかった。 
 
さあ、平日です。小説書きたいけど……頭が追い付かない。子供がいる横でなかなか進まない。でも、どーにか頑張りたいと思います。で、読んだ本の話。
 
 
 
増島拓哉さんという方の、去年の小説すばる新人賞を読みましたよ。「闇夜の底で眠れ」、うん、これ、めっちゃ面白かった!
 
小説すばる新人賞、私も去年出したんですよね。……あれ?ちがった?すばるじゃなかったっけなあ……。なんせ、一次を通ってないのでもう記憶に残ってません。まあ、私がその時書いたものなんか、この「闇夜の底で眠れ」に比べたらはなくそみたいなもんです。よー応募しようって気になったなあ私、などと、珍しく我が身を振り返って恥ずかしくなってしまったりもします。だってさー、この増島拓哉さん、この賞を受賞した時19歳なんだぜ?19歳。しかも、この作品青春ラブコメディとかじゃないのよ。ハードボイルド。もうごりっごりのハードボイルド。
 
異世界に転生しないし、ハーレムで俺モテちゃってでもないし、素っ頓狂なかわいこちゃんに振り回されて僕ちゃんもう大変でもないし、ほんまのハードボイルド。19歳、大学生がこれを書くって、どういう人生を歩んできたんだ、と思ってネットで調べたらこれがまたフツーの子なのよー。「ちゃんとお勉強してきた普通の子」。「いいおうちに生まれて家族みんなに愛されてきた普通の子」。黒川博行さんとかのハードボイルド小説が好きなんだって。実際には明るい道しか歩いてなさそうなお坊ちゃんぽいのに(あくまで印象です)これを書いちゃうなんて、読書の力はすごい。そして、読書で得た世界観をここまでリアルに再現できる増島さんはほんとにすごいなあ……。
 
 
 
主人公は伊達くんという元極道のお兄ちゃんです。日雇いでたまーに仕事をしながらパチンコ屋に通うパチンカス。背中には龍の絵があって少年院から刑務所までしっかり経験を踏んでいるクズ。うん、います。パチンコ屋に平日の昼間っから詰めてるお兄ちゃんって、こういう人普通にいます。私も過去パチンコ屋に昼間っから入り浸っていたので、たまにこういう人にコーヒーをおごってもらったりしていました。話すといい人なんだよね。フツーに楽しいお兄ちゃんなんですが、深入りをしては絶対にいけません。
 
伊達くんも楽しく軽口を叩く、大阪弁のお兄ちゃんです。傍から見ると。けれど中身は未消化の過去を燻らせ、凶暴な魂を隠し持っています。そんな伊達くんが企てたのが「闇金狩り」。偽造免許証でヤクザがバックについていない闇金を回り、一気に金を引き出してとんずらしようという計画です。だって伊達くんはお金がいるのです。90分5万円の高級ソープ嬢、詩織ちゃんに恋をしてしまったのですから。
 
あほですね。あほ。でも、なんか伊達くん憎めないんだよなあ。結局計画は失敗、伊達くんの正体を掴んだ闇金に追い込みをかけられることになるんですが、そこを救って(?)くれたのが極道時代の兄貴分の山本さん。債権を買い取り、伊達くんに出し子や美人局みたいな非合法のバイトを紹介して、そこから返済をする形をとってくれたんですね。とりあえず首の皮一枚つながった伊達くん。けれどこれが、彼の運命を闇夜の底まで引きずり落とすきっかけになるんです……。
 
 
 
あー、面白かった!元々伊達くん、クズなんですけどね。でもなんか、人間的にはまっすぐで好感が持てるキャラなんですよ。まっすぐなクズって嫌いじゃありません。でもその伊達くんが、闇に翻弄され、まっすぐゆえに奈落の底まで落ちていく。いいですねー。人間って誰しも破滅願望みたいなのを抱えているものなんじゃないかと思うんですが、そういう欲をきっちりと満たしてくれる作品です。
 
希望に満ちた物語ももちろん面白いんですが、たまにはこういうめちゃくちゃなのが読みたくなる。書く方でもたまに書きたくなる。でもここまでの完成度で書く自信はないなー。増島さん、次作も楽しみだなあ。きっと今書いてる最中なんだろうな。読んでみたい。面白い作家さんだなと思います。
 
この小説すばる新人賞、このいっこ前の「天龍院亜希子の日記」も読みましたが、あれとはだいぶ毛色が違う作品の受賞になったんですね。あの「天龍院~」はちょっと私には遠いところにあったんですが、今回の受賞作は本当に良かった。さあ、私も負けずに頑張りましょう。
 
というわけで、頭を使いたいと思います。
 
ではでは、またー。
本日二回目の更新ですー。

こんにちは、渋谷です。



暑いから自然家にいます。本を開いたら思わず没頭しちゃう。そしてあっという間に読み終わっちゃう。

町屋良平さんの「1R1分34秒」です。芥川賞受賞作。上田岳弘さんの「ニムロッド」と同時受賞した作品ですね。上田岳弘さんのキャラがかなり立ってたから、あまり注目されなかった方の人、という認識しか私ありませんでした。しかし、しかーし、読んでみると一気に夢中。これ、すっごく面白いお話でした!



主人公は「ぼく」、21歳。プロボクサーです。実家とは絶縁しており、パチンコ屋でバイトしながらジムに通い、ストイックに生活しています。プロとしてはすでに試合を経験していますが、デビュー戦はKO勝ちを収めたものの、その後の戦績は芳しくありません。ボクサーとして、すっかり自信をなくしてしまっています。

人付き合いを嫌うタイプで、友だちはひとりだけ。彼は主人公「ぼく」がボクサーとしてあがく姿をiPhoneで撮影し、iPhoneで編集して映画を作っています。だからたまーに会うだけ。あとは、次の試合の対戦相手を研究し尽くす性格から、対戦相手が親友になっちゃう夢を見るぐらい。人と馴れ合うことを良しとしません。そんな孤独な「ぼく」が、ボクシングと向き合い続けるだけのお話なんです。



ちょっと、哲学的な作品です。題材はボクシングですが、スポ根ものではまったくありません。元々孤独を愛する青年が、肉体的にも精神的にも辛いボクシングという競技に向き合う中で、欲(性欲、食欲、勝利欲、生存欲)から離れ、生きる意味を失ってしまうんですね。でもそこで新たなトレーナー、ウメキチに出会う。ウメキチも「ぼく」と種類は違えど、変わらないぐらいの変人です。

「ぼく」はウメキチに反発を覚え、反抗することで少しづつ自分を取り戻していきます。……なんて、言葉にするとなんでもない話の運びになってしまうんですが、ふたりの関係性はちょっと簡単には表現できない。そして、「ぼく」というこの変わった精神の持ち主もとても興味深い。

「人間ってなんのために生きてるんだっけ」という怖い怖いエアーポケットに、誰しもふとした瞬間に陥ることがあるんじゃないでしょうか。「ぼく」もボクシングに絡めとられ、その疑問から抜け出せなくなってしまう。強い相手に脳を破壊してもらいたい、なんて。でも彼にはひとつだけ信じられるものがありました。それもまたボクシング。ひたすらに練習を重ね、自分を追い込んで、ラスト、背水の陣である試合の結果は……。



最後の3行で、苦悩を全部ひっくり返すあざやかなラストでした。うう、面白かった!私、基本的に「自分の存在を肯定しきれない人がうじうじ悩む話」が好きなんですね。「人生とは」とか「存在意義とは」とか。

私自身もそういうのをよく考えるから。「ぼく」もひりつくような命の遣り取りであるボクシングの向こうに、自分という生き物の存在意義を見出そうとしている。でも、最近負けてばっか。ぼく、生きてる価値ある?みたいに拗ねちゃってる主人公。

愛おしいなあ。誰しもにあるわよ、そういうこと。スマホゲームとバラエティ番組に毒されると、そんな事を考える心の隙間も塗り潰されてしまうんでしょうがね。この素直で真摯な主人公の苦しみが、すごく胸を突きました。面白かった。いい作品を読んだなあ、と思います。

ああー、目が疲れた。お昼寝します。

次は、去年の小説すばる新人賞受賞作。なんと著者は19歳だったんだって受賞時!19て……子供でもおかしくないんですけど。

というわけで、おやすみなさい!

話題作を読んでみた。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
話題作ったってもうだいぶ昔の作品なんですが。2017年に鮎川哲也賞、その翌年に本格ミステリ大賞を受賞した、今村昌弘さんの「屍人荘の殺人」。
 
今村さんのデビュー作ですね。めっちゃくちゃ話題になって、神木隆之介君で映画化もされるんだとか。どんなもんかなーと思ってはいたんですが、私本格ミステリーってあんまりね……。海外もの、島田荘司さん、綾辻行人さん辺りは昔読みましたが、もう今はしんどいのよ。あのたくさんの登場人物を把握したり、館の構造を頭の中で再現したりするのが。
 
ですが、今村さんのインタビューをこないだどっかで読んだのよね……。この方、小説を書き始めたの、つい最近なんですって。「あ、小説書こう。ミステリー書こう」と思い至って、まず古今東西のミステリーを100冊読んだんだって。……うん、なんと素直な人でしょう。分かります。私もそういう頭の人間なので。素人は玄人から技を盗んでなんぼやわな。
 
で、読んでみたこの「屍人荘の殺人」……いや、まさかこう来るとは。読者の裏の裏をかく、非常に興味深い作品でした。
 
 
 
今日のはミステリーなので、思いっきりネタバレになります。犯人は伏せますが、あまりにも特徴的な舞台設定なのでねー、触れんわけにはいかん。なので、これから驚きを持って読みたい方は回れ右をしていただければ。言うよーさあ言うよー。
 
舞台は夏のペンション。大学生たちの夏合宿です。ありがちですねー。これで嵐が来て、館から出られなくなって、電話が繋がらなくなって
、助けが呼べずに一人ずつ殺されていく……というのが定石ですが、もうこのパターンって再現するのがかなり難しいですよね。今はケータイですから「電話線が切ってあるわ!」なんて展開はあり得ませんし。嵐ったって一晩もすれば止む。陸の孤島なんて作り出すことはもう不可能に近いですよね。そこで今村さんは考えた。なんと、館の近くでパンデミックを起こしちゃうのです。
 
パンデミック、と言ったら感染爆発なんて訳されますが、まあ新型インフルとか鳥インフルエンザとかそういうのに使われるイメージじゃない。違うのよ。このお話で爆発的に発生したのはなんとゾンビ。ゾンビに館を取り囲まれ、館は周囲から孤立します。この機に乗じて連続殺人に手を染める犯人。大学生、OBたちは、ひとり、またひとりと無残な死体となって発見されていくことになるのです……。
 
 
 
ゾンビて。まさか、ミステリーにゾンビが絡むとは思いもよらなかった。しかも、最初に出てきた名探偵役の男子大学生が、初期、早々にゾンビに捕まっちゃうんですよね。「いや……まさか。ホームズ役がゾンビになるなんてそんなはずない。そのうち何事もなかったかのように戻ってくるはずだ」と思いながら読み進めるんですが、全然戻ってこない。別の女の子が名探偵役にとって代わっている。
 
そんな馬鹿な……。ホームズ役が入れ替わるなんて斬新過ぎません?ていうか、ホームズ死ぬの?読み始めてすぐに?こんな作品って過去にあったんですかねえ。私が知らないだけでしょうか。だからかねえ、綾辻さんだったか、花村萬月さんだったか、大沢在昌さんだったか、とにかく偉い人が言ってたんですよね。「ミステリー書くなら死ぬほどミステリーを読まなければいけない。でなければ、使い古されたトリックを使って悦に入ることになる」みたいな。そうよねー、ミステリーって過去作への挑戦だもんね。そりゃまず100冊も読まんとな。実際、100冊程度じゃとっかかりにしかならないんでしょう。
 
続編として、「魔眼の匣の殺人」という作品も発売になっています。これも読んでみよ。おそらく、この「屍人荘の殺人」は、失礼ながら素人だからこその突飛な発想が功を奏した作品だと思うんです。トリック自体は、細かなものを重ねた感じで、言うほど奇想天外って感じではない。犯人の動機も弱いし。でも、うまくまとめる筆力、キャラの立たせ方にすごく力のある人だなあと思いました。ノンストップで一晩で読んじゃったもん。
 
面白かったです。発想って大事なんだね。私の頭からもこういう突飛な考えが浮かんでくれんかなあ。ほんと。頼むよ私の頭。
 
というわけで、次は芥川賞。と言っても一期前。
 
ではでは、暑いですがよい週末を!