恥辱とカタルシス -6ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

人生って難しゅうございますね。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

昨日は一日子供サービスの日でございました。クライミングの施設に行ったり。科学博物館でリニアモーターカーの原理を学んでみたり。

 

外食して買い物して遊ばせて。うちの子はひとりっ子なので、親に果てしなく大事にされて育っております。母33、父46の時の子なので、そりゃもう猫っかわいがりです。子供の喜ぶ顔を見るのは親の最上の喜びです。……と、気付いたのは子を育ててみたからで、自分が子供の頃には親なんか自分のことしか考えてない、と思っていたものでしたが。でも親ってのはどんな親でも、やっぱり自分の子供には幸せになってもらいたいって思っているものなんですよね。

 

もし自分の子供が、運命にもまれ苦難の人生を送ることになったら……。考えるだに辛い。そんな辛い思いが、この一冊の本からはびっしびしに迸っておりました。宮尾登美子さんの「鬼龍院花子の生涯」です。時代、運命、色々と理由をつけようと思えば付けられますが、人間を不幸にするもののって、結局はやっぱり同じ人間の非道なのだろうなと実感させられてしましました。

 

 

 

この本、既読だと思ってたんですが、開いてみれば全然読んだことありませんでした。映画……かドラマで見たんだろうか。なんせ昔のことなので覚えてないのですが、何度も映像化された作品だそうです。

 

鬼龍院花子が主役なのかと思いきや、実は松恵ちゃんという鬼龍院家の養女が主人公で、映画ではこの役を夏目雅子さんがなさっていたようです。この作品は、鬼龍院を名乗るヤクザの一家に12歳でもらわれてきた松恵ちゃんの苦難の人生を描いたものなんですね。

 

近所の食堂の娘だった松恵ちゃんを、挨拶がてら訪れた鬼政が乞うて養女とします。この鬼政というのが高知に鳴らした鬼龍院一家の親分で、松恵ちゃんの人生を長きにわたり支配していくことになるんですね。ちなみに花子は鬼政が30歳以上年下の妾に産ませた初の実子です。だから松恵ちゃんと花子は一応姉妹ということになるんですが、そこに姉妹の情と言ったものは一切ありません。

 

とにかく、松恵ちゃんがかわいそうな物語です。鬼政には歌という本妻と、〆太、笑若、つるという三人の妾がいます。これが全部一つの屋敷に住んでるんだから居心地悪いわな。松恵ちゃんは表向きは養女ですが、実際はただの使用人扱いで虐げられて日々を過ごしています。けれど通わせてもらえた学校で勉学に励み、鬼政や歌にも一生懸命仕える松恵ちゃん。

 

鬼政は男気ばかりが先行して中身はからっぽのヤクザもの。口先と勢いだけで高知の地に根を張りますが、この頃(大正から昭和初期)にはすでにヤクザって食えない職業だったんだってね。見栄で外面ばかりを整えますが、実際には鬼龍院一家の台所事情は常にひっ迫しています。それでも侠客としての誇りを胸に、高知の政財界で気炎を吐く鬼政の姿はそれはそれで興味深かったです。「実録・山口組」みたいな側面もあって、ヤクザもの好きな人も面白いかもな。でも、主人公の松恵ちゃんの目から見たヤクザの世界は、任侠道だの義侠心だのとは程遠い世界だったのです。

 

 

 

ヤクザになるものは、女に不自由しないのが唯一の利点なんだって。どこからか巻き上げてくる金と、いつでも抱ける女がそばにいる生活。鬼政も妾の一人が子を孕み、本妻以外を整理しなくちゃならなくなった時、「家に小便桶も一つはいるだろう」とか言いやがったんですよ。本妻を抱く気はない、妾の一人は妊婦だからやれない、だけど性欲解消の相手は必要だから、もう一人妾を家においとこうって言うんです。

 

しかしねえ、「小便桶」って。まああれね。肉便器ね。このエピソードは鬼政の性質、ヤクザの本質をうまく描き出しているなあと思いました。囲った女を便器扱いしてなんの男気か。こやつは「女の目は泣くためについとるんじゃろうが」とも言いよった。許せん。しまいにゃ松恵ちゃんを襲おうとしたり。松恵ちゃんを嫁にくれって申し込んできた人の指詰めちゃったりするし。

 

まあとにかくひどい男なんですよ。でも、松恵ちゃんには鬼政から逃げるすべはありません。女には人権なんかなかったんですね。特に相手は鬼政ですしね。

 

しかも実子、花子が生まれると、そりゃもう猫かわいがりで育てるもんで、ものすごいものぐさの、鬼政に輪をかけて頭からっぽの、しかもひたすら性格がひね切った子になっちゃうんですよ。この花子がまた松恵ちゃんを終生苦しめる。この作品ね、「鬼龍院花子の生涯」っていうより、「鬼龍院家に呪われた松恵ちゃんの脱☆艱難辛苦物語」とでもしてあげなくてはかわいそうですよ。最後の最後、松恵ちゃんに平穏が訪れた時には彼女、もう60歳も近くなってしまっているんですから……。

 

 

 

宮尾さんという方は独特の文体を書かれる方で、小説というより、ちょっと説明文読んでるみたいな感じなんですよね。説明文というか、シナリオみたいというか。

 

だから、この作品も1冊で終わる話になってるんですが、内容はものすごく濃いんです。もっと場面立てて進行していったら、きっと10巻近くの大長編になるんじゃないかなあ。朝の連ドラにしても半年で終わらんのじゃないだろうか。というか、こんなえげつないの朝やるのは無理だろうけど。2時間映画で収まったというのも驚きです。大河ぐらいの期間いりそうな、大変な物語でした。

 

今書いてるお話、登場人物がわんさか出てくるんです。だからひとりひとりの説明はさらっと飛ばそうと思ってたんですね。いちいち書いてたら500枚じゃ収まりそうになかったんで。でも、この文体を真似れば、少ない文字数で情報を詰め込めるなと学びました。メモメモメモ、ございます。

 

いやー、古い本って学ぶこと多いわ。面白い。ますます明治から昭和初期に興味が湧いてきました。まあ、ここにばっかり浸っててもいかんので、ほかの本も読まなくちゃいかんのですが。

 

さー今日は夫に子供を任せて一人でお出かけしよ。まだまだ長い夏休み、一人時間をもらってもばちは当たるまい。

 

というわけで出かけてきます。それではまた!

はい、一気読みでした!

こんばんは、渋谷です。

 
 
 
台風はまったく何も存在を示さなかったのですが、とりあえず今日は家から出ませんでした。そのつもりで昨日のうちに買い物もしておりましたので、特に出る用事もなく。で、本を読んだ。うん、その前に少々思うところがあったのでそれを書いておく。非常にどうでもいいことではあるんですが。
 
あの「台風中継」って、なんでああもいちいち大げさにやるんかね。うちの周りだったら桂浜がよく出てきますが、「桂浜はー!横殴りの雨がー!吹き付けておりましてー!立っているのも非常に危ない状態でー!」
 
やったらアナウンサーを立たせるのも止めるべきでっしゃろが。いちいち危険なところにアナウンサーを立たせて報道をする。今回の台風なんか想定より被害が少なくて済んだはずなんです。わざわざ一番の局地にアナウンサーを立たせて、大したこともない場所で大仰な演技をさせる必要がどこにあるのかしら。
 
もちろん、怪我をなさった方もおられますし、おひとり亡くなった方もおられます。でも、あの報道の仕方って、台風を「エンタメ化」してない?あった事実をあったままに淡々と伝えてくれればそれでいいのよ。わざわざ大波が来るかもしれないところにアナウンサーを立たせるなんて馬鹿なことをする必要はないのよ。やっぱり「事件」が起きた方が視聴率が稼げるの?馬鹿馬鹿しいなあ。これだからテレビを信用することができなくなる。実際、もうテレビから何か情報を得ようとすることが最近はすっかりなくなってしまいました。
 
情報は自分から知りたいものを探しに行って知る。それでいいんじゃないかしら。商業的な利権や作り出された時代の風に翻弄されるのなんかまっぴらごめんです。そんなことをまた強く思った、荒天の一日でした。
 
で、まあ中村文則さんの「掏摸」を読みましたよ。これは「スリ」と読むのだそうで、ずばり他人の財布をかすめ取る、スリの男の子のお話でした。
 
しかし、人間の根源に迫った何とも深いお話。私、この中村文則さん、惚れてもーたかも知れんわあ……。
 
 
 
 
この方の作品は、海外で翻訳されて発行されているものが非常に多いのだそうです。「土の中の子供」という作品で芥川賞も獲られている作家さんです。新潮新人賞でデビューされ、野間文芸新人賞、この「掏摸」で大江健三郎賞、海外の賞もいくつか受賞されているそうで。読んでみたいなと思っていた作家さんなんですね。今回初中村文則。で、ハマった。
 
「掏摸」ですよ。そのまんま、アウトローな男の生きざまを描いた作品です。主人公は西村くんという男の子。年齢は書かれていませんが……30代初めってところでしょうかね。「西村」という本名は隠し、偽名で生きてきたような男の子です。おそらくクズな両親に育てられ、幼い頃からスリをすることで命を長らえてきたような少年。彼は長じてプロのスリになり、それで薄い人生を削るようにして生きてきました。でも、クズは群衆にいてもすぐに同じクズには見つかってしまうもので。ほんまもんの悪人である木崎という男に弱味をに握られ、危ない仕事を強要されます。この時に語られる世界観が、本当に面白かった!
 
木崎はおそらく、かなりIQの高い男なのでしょう。木崎と西村くんの関係性をこう例えて迫ります。
 
「あるところに貴族がいた。その男が使用人としてある少年を手に入れた。男は現実に飽きて退屈しきっていて、ある時考え付いてノートにある物語を書きつけた。使用人の少年のそれからの人生を予言するような物語。実際、男はその書付通りに少年の人生をコントロールしていく。初恋も、両親との再会も、その両親のむごたらしい死も。少年を翻弄するすべてはその男によって物語通りに進められた。少年のすべてを男はコントロールしていた。少年が30歳になったある日、男は少年を呼び出すとそのノートを目の前に晒した。自分の今までの人生が書きつけられたそのノート。……驚愕の表情を浮かべる少年のその背中を、兵士が串刺しにする。少年が死に絶えるまでの間、男は快感に震えていたのだという。人生から得られるすべてを、余すことなく」
 
……人間一人の人生を掌握すること。そこには大きな快楽が伴うものだというたとえ話です。西村くんの薄っぺらい命など、俺が握っているのだよと木崎氏は言いたかったのでしょう。金も地位も名誉も女も手に入れたのち、人間はこういう欲をかくようになるのかも知れません。「誰かの生殺与奪権」。うん、これはわかるわあ。確かに気持ちよかろう。自分と同じ種族である人間を、完璧にコントロールする。神に近づいたような快感が、そこにはあるのかも知れません。
 
実際、毒母とかそういうことやしね。人間の根本やね。で、コントロールされた西村くんは、実現不可能とも思われる仕事に向かっていくわけです。手に汗握るっ!やっぱり私、こういうアウトローな主人公が頑張る話、大好きです。天才的な手腕を持つスリである西村くんは、無事に仕事を終え、明るい空を再び拝むことはできるのでしょうか……!
 
 
 
なんとなくね、古い因習にまみれた話を書くので、そういうのばかりを読んでいたのですが、新しいのも読みたいなと思って間に挟んだこの作品。大当たりでした。面白かった。どきどきもするけどただ単に面白い大衆小説でなく、これはなかなかに純文学。難解さはちっともありませんが、人の在り方について深く考えさせられました。
 
中村文則さん、いい男やね。私は好きですよこういう男が。他のも読みますよ。いい作品に出会いました。面白かったです。
 
と、いうわけで次はまたもや宮尾登美子さん。「鬼龍院花子の生涯」。多分昔読んだ……と思うんだけど、もう記憶にないので再び。ううう、こちらも楽しみです。
 
さて、明日は平常営業。やっと小説書けるかな?頑張ろう。では。
 
おやすみなさい!

台風でございますね。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

台風がやってきておりますよー。どうやらただいま愛媛県に上陸している模様。しかし松山はそよりとも風が吹いておりません。雨もしとしと降ってるだけ。

 

高知は昨日結構は風だったんですけどねー。昨日のうちにこっちに帰って来たら、もう全然台風の影すらありません。

 

松山、中予地方というんですが、この辺りは石鎚山に守られてまったく台風の被害が及ばないんですね。私は高知から嫁に来たんですが、何にびっくりしたって松山の家って雨戸がないんだよ。雨戸ないと台風の時どーするん?ときくと、夫は「台風なんか来んもん」とのこと。

 

うそー、台風は来るって。だって高知に来るんやから隣の愛媛にも来るやろ、と思っていたんですが、本当に来ないんですわ。いや、来るのは来るんだけど、雨も風も大したことない。南予なんかに行くとその限りではありませんが、とにかく今日も平穏な一日が過ぎていきます。

 

この後も勢力は衰えずゆっくり進んでいくようですので、どうぞ進路に当たる先の皆様はお気をつけてお過ごしください。交通機関も止まってるようですし、家から出んのが一番ですね。うちの親戚も帰省してきていましたが、もうお盆明けるまで帰るのあきらめるって。うん、正しい選択だ。

 

と、いうわけで私はめんどい親戚関連の行事も終了し、松山の自宅で読書読書。宮尾登美子さんの「仁淀川」を読みました。

 

今書いてる話が高知が舞台なので読んでみたんですが、うーん、やっぱり、古い作品って持ってる重厚さが違うわあ……。

 

 

 

 

私は知らなかったのですが、この「仁淀川」は「櫂」「春燈」「朱夏」に続く、四部作の最終巻だったんだってね。「仁淀川」で主人公の綾子ちゃんという女の子が宮尾さん自身で、ご自身のご両親からの一族の日々を、自伝的に書き連ねたものがこの四部作なんだそうです。

 

じゃあもうその三冊も読まなあかんやん……。うん、読む。図書館で借りてきて読む。まあ他にも読みたい本が詰まっているので、すぐにというわけにはいかないかも知れませんが。

 

綾子ちゃんは高知のお城下の生まれ。お父さんの岩伍さんはいわゆるヤクザ上がり……とでも言いましょうか、女衒に近いようなお仕事をされている方です。身を売らなきゃ生きて行けない女の子に、色町でのお仕事を斡旋する紹介人。このお父さんと喜和さんというお母さんに育てられたのが綾子ちゃん。喜和さんは実は岩伍さんの後妻さんで綾子ちゃんの生みのお母さんではありません。でも綾子ちゃんは喜和さんに大変に懐いていました。

 

やがて岩伍さんと喜和さんが離縁するにあたり、大好きな喜和さんと離れ離れになってしまう綾子ちゃん。やけっぱちになった綾子ちゃんは17歳で職場の同僚要くんと結婚を決めてしまいます。要くんは大変な山の中の農家の長男なんですが、さあ、都会育ちのお嬢様である綾子ちゃんに、田舎の嫁が本当に務まるのでしょうか……。

 

 

 

ざっくり言うと、破天荒な都会の嫁綾子ちゃんが、田舎に嫁ぎ慣習の違いに苦しむ話です。また、わだかまりを捨てきれなかった父との関係、義理の母でありながら誰より愛した喜和との関係、相容れぬものがありながら仕えると決めた姑いちとの関係などに、もまれながら強くなっていく綾子の姿が描かれています。一大ホームドラマですな。「おしん」とかあのあたりに近いものがありますね。で、これがほぼ自伝なのだというから真実味がありより引き込まれる。いやー、田舎の嫁ってホントに大変やったんやな。

 

特に要くんのおうちは小作農だったので、田畑はもちろんのこと、養蚕や養鶏やサトウキビ育てて精糖までしなくちゃならなくて、朝から晩まで大忙しです。嫁ももちろん働き手ですので、のんびり子育てだけしたりなんてしてられません。朝は4時に起きて裸足で土間に飛び降り、夜9時にやっと晩御飯で座敷に上がるまで、ずっとどろんこの足で田畑を駆けまわるんだって。……あーやだ。無理無理。私、現代に生まれてほんと良かったああ。

 

特に綾子ちゃんのお姑さんのいちさんは、早くに旦那さんを亡くして、農業で三人の子を育てながら、自身の舅の面倒まで見ちゃう女傑です。綾子ちゃんは高知市内の色町で、お茶やお華を習いながら育ったお嬢様。けどまあ色々と苦しみながらも、綾子ちゃんもやっと一人前の母親になって来たなあと思った終盤。

 

いきなり話は終わってしまうんですね。ドラマの「――それから15年後」みたいになって。しかも綾子ちゃんたらいきなり借金もつれになってるわ、離婚してるわ、子供連れて夜逃げするわで、そこに至る原因も全く書かれてなーい!どうした綾子ちゃん、君の人生に一体何があったんだ!

 

で、結局この夜逃げの先は東京で、綾子ちゃんは文筆家として身を立てていくことになるんだそうです。それで書いたのが「櫂」。この作品は太宰治賞を受賞します。なるほど、ほんとに私小説なわけだ。しかし、よっぽどドラマがありそうな離婚の原因とか借金の原因とか、その辺を教えて欲しかったよ……。気になるわあ……。

 

 

 

とにかく、この「仁淀川」のまえの三冊を読まんことには、この作品のすべては語れないな、と思いました。一冊ずつ独立してるお話にはなってるようですが、一連の流れがあって初めて得られる感慨、みたいなものを私、すっ飛ばしちゃってる感じなので。

 

読もうと思います。昭和初期の高知の世相を知れたのはとても勉強になりました。自分の作品に生かしていきたいと思います。と、いうわけで。

 

どうぞ台風にお気を付けくださいねー!

聞いてくださいよ……。

こんにちは、渋谷です。



昨日は「色々面倒くさくていやんなっちゃってるんですよ」という話をしたじゃないですか。盆で親戚付き合いがやだやだやだっつって。……そしたら。

なーんと子供が熱出した!夏風邪です!こりゃどこにも行けません!えらいこっちゃ、面倒くさいこと全部スルー!

……こないだ、「雨ん中キャンプなんかしてらんねーよ」と呟いた私の目の前で、テントのポールが折れたしさ。もうこうなるとなんかすごいわ私。すごいっちゅーか怖いわ。

昔から、よくあるんだよねこーいうの。……呪い?いやいやいや、普段の行いがいいから神様が特別のご配慮を下さっているのです。子供も熱はあるけどぴんぴんしてるし、「そっか。嫌か。じゃあ行かなくていいよ。うん、もう行くな行くな」と神様が采配を振るって下さったに違いないのです。

と、いうことにしておきましょう。ありがたやありがたや。ま、実家には日帰りぐらいで帰ることになりそうですが、とりあえず難関は乗り越えた。良かった良かった。なので心安らかに本を読みました。岩井志麻子さんの「ぼっけえ、きょうてえ」です。



岩井志麻子さんと言えば、豹の格好してる変わったおばちゃんですよ。見た目もアレですが、発言もなかなかにアレな人ですね。……アレ。アレですわ。正直、若干引き気味に見ておりました。だって……あまりにアレが過ぎるんですもん。

でも、ホラーを書こうとするならこの人の作品は読んでおくべきだろうなあと思って、手に取ったこの「ぼっけえ、きょうてえ」。岩井さんのデビュー作である「ぼっけえ、きょうてえ」を含む、短編集となっております。

収録作が、

ぼっけえ、きょうてえ
密告函
あまぞわい
依って件の如し

の四篇です。

岩井さんという方は、この「ぼっけえ、きょうてえ」で日本ホラー小説大賞を受賞する以前は、別名義でなんと少女小説家として活躍されてたんだそうです。女豹が……少女小説。コバルトで書いてたんだって。それが、大賞をとって一般小説を書かれるようになったんですね。そして今のようにタレントさんもなさるようになって。

「ぼっけえ、きょうてえ」というのは岡山弁(……というのかどうか分かりませんが)で「すっごく、怖い」という意味なのだそう。

うん、実際、怖いというか、超ぞわぞわした!



表題作は、女のひとり語りで展開していく短編です。時代は明治中期。岡山の女郎屋の一室で、寝物語に女郎が話す身の上話。独特の柔らかい方言で語られるのは、女のあまりにも悲惨な半生。

母親は子供を間引くのが専業の子潰し婆。父親は知能が低く動物的で、女を夜な夜な犯します。家は貧しく村八分で、しかも父親と母親は、元を正せば血が繋がった兄妹。……うーん、またエグい方の近親相姦だ。なんとも嫌な話ですねえ。

父親が不慮の死を遂げ、母親は女を郭に売り飛ばします。実の兄である父親に抱かれる娘に、嫉妬心を抱いていたんですね。……もうねえ、なにがなんだか。でも、昔の貧しい寒村ではこんな話は結構あったのかもねえ。だって、他に楽しいことなんかなんにもないしさ。

そして売られてきた女は、唯一心を開いてくれた同僚の女郎に、大変な罪を着せて口封じに殺してしまいます。実は父親を背後から殴り付け、川に突き落としたのもこの女。ふたりもの人間を殺したこの遊女の結い上げた髪の中には、彼女を殺人へと追い立てた、恐ろしい恐ろしいもうひとつの人格が隠されているのです……!



楳図かずおの世界です。昔読んだなあ。結論を言えば、女の頭皮には人面瘡ちゃんが生息してるんですね。時代がかった岡山弁で散々悲惨な人生を聞かされた後に、人面瘡が出てくるとさすがにぎょっとするよー。

ちょっとミステリー色もあってね、女がひとりしゃべってるだけの話なのに、まるで一本の映画を観たようでした。これがたった60枚の短編だというのだから、すごいなあ。




他の作品も貧しい岡山の各地を舞台にした、明治期のお話でしたが、どれもぞわぞわする恐ろしさがあった。この人が書くホラーは、お化けが怖いって言うより、「人間が怖い」。いいね。今私が書きたいやつです。いいお手本を読んだと思います。

面白かったです。岩井さんの他の作品も読んでみたいと思います。さて。子の具合でも見てきましょうか。

ではでは、またっ!



気分が落ちまくってますよー。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

連休に入りましたねー。昨日は松山祭りにも行ってみたりもしましたが、とにかく暑い。ほんとに暑い。死ぬほど暑い。

 

それが関係しているのか何なのかは分かりませんが、とにかく気分が落ちまくっています。自分でも結構自覚のある不安定女なんですが、本日気分的に地の底を這っています。だからって人に当たったりしないもんだから、周りは私の気分が落ちてることにも気付かないんですが。

 

ま、あれですわ。盆だもんで親戚付き合いが活発になるのでね。それが嫌で気分が落ちている。理由はすでに分かってるんですがね。

 

今回は夫方面の付き合いもあって。夫の実家っていうのがすごく変わった家でねー。普段はほとんど付き合いないんだけど、結構根深くマイナスの感情に引っ張られることが過去に色々あったもんで、どうしてもカラっといけない。

 

まーそんなこと言ったって卒なくこなすのがわたくしです。心の中の葛藤なんて誰にも見せてなんてやりません。そのかわり、これが終わったら一日自由時間を頂こう。夫も子供も放りだして一日一人で出かけてやる。金だって遣いまくってやる。決めた。私にはそうする権利があるはずだ。

 

今日だってお昼ご飯なんか作んなかったもんねー。夫がラーメン作って娘と食べていた。ちょっとずつ自分を大切にすることが出来始めているようで、とても良いことです。私は誰かの犠牲になって生きて行くのなんてまっぴらごめんです。

 

さて、言いたい放題書いて、ちょっと気が楽になった。本を読んだ話。貴志祐介さんの「天使の囀り」を読みました。

 

昔読んだ、篠原千絵さんのサスペンスホラーみたいな風味でしたよ。ちょっとエグイですが、めちゃめちゃ面白かったです!

 

 

 

主人公は早苗ちゃんという精神科医の女医さんです。年齢ははっきりと書かれてないんだけど……三十代半ばって感じでしょうか。美人で聡明。ホスピスで主にエイズの患者さんの終末期をケアすることをお仕事にされています。

 

この早苗ちゃんの彼氏が作家の高梨さん。昔は人気作家だったのですが、すっかり書けなくなって最近では投資家として財を築いています。そんな彼が紀行文を書く仕事を受けて向かった先がアマゾンの奥地。そこでカメラマンさんや生物学の教授など、総勢5人で取材や研究に没頭していたのですが、ある日道に迷って遭難してしまいます。

 

お腹を空かせた5人の日本人。彼らはキャンプに迷い込んだウアカリという種類の猿を殺し、肉を焼きむしゃむしゃ食べてしまったのですが……。 

 

「海の闇 月の影」ってマンガが昔あったんですよね。篠原千絵さんの。その中では、古墳で雨宿りかなんかをしてた女子高生たちが、古代のウイルスに感染してしまうんです。

 

その女子高生たちは大体の子が死んでしまうんですが、ひとりだけ生き残っていたのが流水ちゃんという女の子。この子の身体の中でウイルスは変容を遂げ、優しかった彼女は残酷な性格になり、空に浮き、物をすり抜ける能力を手にしてしまうのです。

 

しかも彼女の血にはウイルスが含まれていて、血液感染した人間をゾンビ的な奴隷にすることができるんです。流風ちゃんという双子の妹に憧れの先輩をとられてしまった流水ちゃんは、流風ちゃんを殺し、先輩を自分のものにしようと周囲の人間をその毒牙に掛けるのですが……。

 

……という、とても面白いマンガです。「天は赤い河のほとり」の人です。あれも面白かったですが、私内では篠原さんの作品で一番好きなのは「海の闇 月の影」だなあ。

 

とにかく、この「海の闇 月の影」を彷彿とさせる「天使の囀り」でした。ウアカリという猿が媒介する線虫に感染した人間が、次々と考えられない方法で自殺を遂げてしまうんですね。サファリパークに行って自ら車を降りてヒョウのご飯になったり。自分の子供をホームから突き落としてついでに自分も電車に飛び込んじゃったり。

 

早苗ちゃんの彼氏も、躁状態のようになって食欲が暴走し、120キロまで太ったかと思うと睡眠薬を大量に飲んで自殺してしまいました。高梨と共にアマゾンに向かった者たちの謎の死に、早苗ちゃんはその真相を暴くべく動き始めるのです。

 

 

 

うーん、ストーリーをなぞるとただのホラーなんですが、吸引力がすごい作品でした。モチーフがいくつも散りばめられていて、(宗教だったり精神疾患だったりエロゲーだったり寄生虫だったり)それについての考察がものすごく深いんですよ。かなりな時間をかけて綿密な取材を進め、書かれた作品なのだということがよく分かりました。

 

貴志さんは京大卒なのですが、もともと頭の良い人が専門家に話を聞きまくって調べまくって、それを噛み砕いて説明してくれてるから、こっちがあほでも全然戸惑わない。謎の撒き方と細かな回収の仕方が適切だから、次がどうなるのか気になって仕方ない。「この線虫が日本中にバラまかれたら……」とぞくぞくしながら読みました。荒唐無稽と言えば荒唐無稽な話なんですが、「まあ所詮は、小説だし」と思わせないリアリティがあった。ううむ。これが本当のプロの作品なんですね。

 

そう言えば、このお話の中にも「憑き物筋」の話が出てきたのよ。人間をおかしくしちゃう原因の一つとして。そうそう、「普通だった人間を突如ホラーな人にしてしまう憑き物」、を私も書きたいのよね。そういう意味で、この作品はすごく勉強になりました。「人がおかしくなっていく様」を如実に見せて頂きました。

 

 

 

というわけで、しばらくは波風を起こさぬよう、心して過ごしたいと思います。にこにこしとこ。にこにこ。それに限るわ。

 

で、めんどくなったら本に逃避します。読んだらまた書くー。

 

では、良い連休を!ー