人生って難しゅうございますね。
こんにちは、渋谷です。
昨日は一日子供サービスの日でございました。クライミングの施設に行ったり。科学博物館でリニアモーターカーの原理を学んでみたり。
外食して買い物して遊ばせて。うちの子はひとりっ子なので、親に果てしなく大事にされて育っております。母33、父46の時の子なので、そりゃもう猫っかわいがりです。子供の喜ぶ顔を見るのは親の最上の喜びです。……と、気付いたのは子を育ててみたからで、自分が子供の頃には親なんか自分のことしか考えてない、と思っていたものでしたが。でも親ってのはどんな親でも、やっぱり自分の子供には幸せになってもらいたいって思っているものなんですよね。
もし自分の子供が、運命にもまれ苦難の人生を送ることになったら……。考えるだに辛い。そんな辛い思いが、この一冊の本からはびっしびしに迸っておりました。宮尾登美子さんの「鬼龍院花子の生涯」です。時代、運命、色々と理由をつけようと思えば付けられますが、人間を不幸にするもののって、結局はやっぱり同じ人間の非道なのだろうなと実感させられてしましました。
この本、既読だと思ってたんですが、開いてみれば全然読んだことありませんでした。映画……かドラマで見たんだろうか。なんせ昔のことなので覚えてないのですが、何度も映像化された作品だそうです。
鬼龍院花子が主役なのかと思いきや、実は松恵ちゃんという鬼龍院家の養女が主人公で、映画ではこの役を夏目雅子さんがなさっていたようです。この作品は、鬼龍院を名乗るヤクザの一家に12歳でもらわれてきた松恵ちゃんの苦難の人生を描いたものなんですね。
近所の食堂の娘だった松恵ちゃんを、挨拶がてら訪れた鬼政が乞うて養女とします。この鬼政というのが高知に鳴らした鬼龍院一家の親分で、松恵ちゃんの人生を長きにわたり支配していくことになるんですね。ちなみに花子は鬼政が30歳以上年下の妾に産ませた初の実子です。だから松恵ちゃんと花子は一応姉妹ということになるんですが、そこに姉妹の情と言ったものは一切ありません。
とにかく、松恵ちゃんがかわいそうな物語です。鬼政には歌という本妻と、〆太、笑若、つるという三人の妾がいます。これが全部一つの屋敷に住んでるんだから居心地悪いわな。松恵ちゃんは表向きは養女ですが、実際はただの使用人扱いで虐げられて日々を過ごしています。けれど通わせてもらえた学校で勉学に励み、鬼政や歌にも一生懸命仕える松恵ちゃん。
鬼政は男気ばかりが先行して中身はからっぽのヤクザもの。口先と勢いだけで高知の地に根を張りますが、この頃(大正から昭和初期)にはすでにヤクザって食えない職業だったんだってね。見栄で外面ばかりを整えますが、実際には鬼龍院一家の台所事情は常にひっ迫しています。それでも侠客としての誇りを胸に、高知の政財界で気炎を吐く鬼政の姿はそれはそれで興味深かったです。「実録・山口組」みたいな側面もあって、ヤクザもの好きな人も面白いかもな。でも、主人公の松恵ちゃんの目から見たヤクザの世界は、任侠道だの義侠心だのとは程遠い世界だったのです。
ヤクザになるものは、女に不自由しないのが唯一の利点なんだって。どこからか巻き上げてくる金と、いつでも抱ける女がそばにいる生活。鬼政も妾の一人が子を孕み、本妻以外を整理しなくちゃならなくなった時、「家に小便桶も一つはいるだろう」とか言いやがったんですよ。本妻を抱く気はない、妾の一人は妊婦だからやれない、だけど性欲解消の相手は必要だから、もう一人妾を家においとこうって言うんです。
しかしねえ、「小便桶」って。まああれね。肉便器ね。このエピソードは鬼政の性質、ヤクザの本質をうまく描き出しているなあと思いました。囲った女を便器扱いしてなんの男気か。こやつは「女の目は泣くためについとるんじゃろうが」とも言いよった。許せん。しまいにゃ松恵ちゃんを襲おうとしたり。松恵ちゃんを嫁にくれって申し込んできた人の指詰めちゃったりするし。
まあとにかくひどい男なんですよ。でも、松恵ちゃんには鬼政から逃げるすべはありません。女には人権なんかなかったんですね。特に相手は鬼政ですしね。
しかも実子、花子が生まれると、そりゃもう猫かわいがりで育てるもんで、ものすごいものぐさの、鬼政に輪をかけて頭からっぽの、しかもひたすら性格がひね切った子になっちゃうんですよ。この花子がまた松恵ちゃんを終生苦しめる。この作品ね、「鬼龍院花子の生涯」っていうより、「鬼龍院家に呪われた松恵ちゃんの脱☆艱難辛苦物語」とでもしてあげなくてはかわいそうですよ。最後の最後、松恵ちゃんに平穏が訪れた時には彼女、もう60歳も近くなってしまっているんですから……。
宮尾さんという方は独特の文体を書かれる方で、小説というより、ちょっと説明文読んでるみたいな感じなんですよね。説明文というか、シナリオみたいというか。
だから、この作品も1冊で終わる話になってるんですが、内容はものすごく濃いんです。もっと場面立てて進行していったら、きっと10巻近くの大長編になるんじゃないかなあ。朝の連ドラにしても半年で終わらんのじゃないだろうか。というか、こんなえげつないの朝やるのは無理だろうけど。2時間映画で収まったというのも驚きです。大河ぐらいの期間いりそうな、大変な物語でした。
今書いてるお話、登場人物がわんさか出てくるんです。だからひとりひとりの説明はさらっと飛ばそうと思ってたんですね。いちいち書いてたら500枚じゃ収まりそうになかったんで。でも、この文体を真似れば、少ない文字数で情報を詰め込めるなと学びました。メモメモメモ、ございます。
いやー、古い本って学ぶこと多いわ。面白い。ますます明治から昭和初期に興味が湧いてきました。まあ、ここにばっかり浸っててもいかんので、ほかの本も読まなくちゃいかんのですが。
さー今日は夫に子供を任せて一人でお出かけしよ。まだまだ長い夏休み、一人時間をもらってもばちは当たるまい。
というわけで出かけてきます。それではまた!